本日の体育は体育館で行われる。  
男子はバレー、女子はバスケだった。  
体育館を半分ずつにしての授業なので当然の如く男女の距離は近い。  
男は女子に良いところを見せようと張り切り、女子はお喋りに興じていた。  
 
「必殺! バナナサーブ!」  
「何がバナナだ、ただの緩いサーブじゃ…って曲がったぁ!?」  
「わはは、どーだ!」  
「すげーじゃん大輔!」  
バレーの試合中、大輔は念動力を使って八面六臂の大活躍を見せていた。  
レシーブではボールのスピードを緩めどんなサーブも拾い、トスでは正確無比な精度を。  
サーブやスパイクでは漫画でしかありえないような必殺技を打ちまくる。  
そんな彼を止めることは本職のバレー部でも無理だった。  
だが悲しいかな、いかんせん女子のほとんどはお喋りに興じている。  
つまり彼の活躍を見ていなかった。  
休憩中の男たちも女子に目を向けっぱなしなのでバレーの観客は実質的にほぼゼロだったのである。  
 
「なんかむなしい…」  
勝利に沸く味方とタッチをかわしながら大輔はぼやいた。  
目立つことは好きではないが、こういう時くらいは目立ちたい。  
そう意気込んでの活躍だったというのに、観客がいないとは…  
休憩に向かう大輔の背中は見事に煤けているのだった。  
 
「さて…」  
どっかと座り込んだ大輔は他の男に倣って女子のバスケへと目を向けた。  
観客側になればよくわかるが、確かに男がバレーをしているところなど見ても全く面白くない。  
やはり見るなら華を求めるのが人間というものなのだ。  
 
そしてバスケを見始めて、数分。  
大輔は周りの男と同じくバスケの試合に見とれていた。  
別に試合そのものはハイレベルな攻防というわけではない。  
バスケ部を除けば皆素人に過ぎないのだ。  
だが、観客の男は大輔を含め皆試合を注視していた。  
それは何故か?  
女子が体操服だからである!  
 
「パス!」  
「みーちゃん、止めて!」  
「シュートッ!」  
「ああん、外れた!」  
 
『おおっ…』  
コートを所狭しと駆け回るうら若き少女たちに男は皆感嘆した。  
今は七月、夏場真っ盛りである。  
そんな季節の中、体育館という密閉空間は野外を上回る気温をたたき出している。  
つまり、座っているだけでも汗をかくのだ。  
そんな状況でバスケという運動量の多いスポーツをすればどうなるか。  
答えは明白、汗はびっしょりと流れるに決まっている。  
そう…すなわちその結果、体操服が透けるのだ。  
 
「うわ、すっげぇ…」  
「ブラ線モロだぜ…」  
「うわっ、色見えたよ!?」  
少女たちの思わぬ艶姿に湧き上がる男ども。  
無論、大輔も例外ではない。  
むっつりである彼は騒ぎこそしないが、女子から目をはなすことはない。  
「大輔くんっ」  
と、背中に軽い衝撃が起こった。  
デジャビュに振り向いた大輔の視線の先にはやはり文乃の姿。  
 
「なんだよ、文乃」  
いいところを邪魔すんな!  
そう内心で叫ぶ大輔だったが、女である文乃は当然そんな大輔の気持ちには気づかない。  
「隣、座るね!」  
それどころか、大輔の許可すら取らずに隣に座ってくる始末だった。  
女子と密着するのは大輔としても望ましいことだが、相手は文乃である。  
別段密着しても嬉しい身体ではないし、正直暑苦しいだけだ。  
だが、だからといってあっち行けとまでは言えない。  
(…まあ、いいか)  
結局結論は容認の方向に傾いた。  
大輔は気づかれないように文乃へとチラリと視線をおろす。  
文乃は先程まで試合をしていたのか、その体操服はぐっしょりと濡れていた。  
当然、上はすけすけであり、汗で張り付いた上着はその下の身体のラインを浮かび上がらせている。  
 
(相変わらずちっちぇーなぁ)  
大輔は聞かれれば撲殺されること間違いなしなことを考えた。  
文乃の胸は平面といって良いレベルでぺったんである。  
見ても面白くもなんともない、と大輔は更に失礼なことを思う。  
(生意気にもブラまでしていやがるし)  
しかしその中でも目を引くものがあった。  
ブラジャーである。  
今朝見たパンツとおそろいのそれの色はやはり黒。  
小柄な身体を覆う白い体操着からハッキリと浮き出している黒は非常にアンバランスで艶かしかったのだ。  
(これで胸があれば勃つんだがなぁ)  
そう大輔が考えるほどに。  
 
「そういえば、さっきは大活躍だったね」  
「ん? ああ、まあな」  
大輔が考えていることなど露知らず、文乃は無邪気に大輔に話しかける。  
ほぼ観客はゼロだったはずのバレーだが、文乃は見ていたようだった。  
「いつの間にあんな上手くなったの?」  
「俺はやればできる男なんだよ」  
「じゃあいつもそうすればいいのに……その、格好よかったし…」  
「あ、なんだ?」  
「なんでもない」  
ごにょごにょと呟くように俯いた文乃に大輔はいぶかしむ。  
 
(おっと、試合試合)  
が、あっさりと無視することにした。  
今の大輔にとってはバスケ観戦のほうが大事なのだ。  
 
「お……」  
大輔の目がすっと細まった。  
コートの上に高見沢美香が立ったからである。  
(ついに出てきやがったな…)  
元々この体育の主目的は美香を辱めることにある。  
大輔はチャンスを見逃さないとばかりに目に力を込めた。  
なお、隣でそんな大輔の様子にむくれている文乃の姿はガン無視である。  
 
たぷんっ  
そんな擬音が脳裏に浮かぶほどその豊かな胸を弾ませて美香が走る。  
一人、二人とあっという間に守備が切り裂かれ、手から放たれたボールは綺麗な曲線を描き、ゴールネットにすぽりとおさまった。  
途端に沸く歓声。  
このときばかりはエロ根性全開の男どもも彼女の美技に感嘆する。  
(ちっ、相変わらずの運動神経だな)  
大輔はそんな中ムスッとした表情で美香を睨みつけていた。  
人間というものは気に入らない人間が活躍するのを見ると不愉快になるという一例である。  
 
「オフェンス!」  
ダムダムとボールをバウンドさせながら美香が指揮をとる。  
女子からはあまり好かれていない彼女だが、彼女の実力は折り紙であり、従わない手はない。  
不満の表情こそすれ指示に逆らう女子は誰一人としていなかった。  
だが、そんな彼女の前に一人の少女が立ちふさがる。  
「紫藤だっ!」  
歓声が沸く。  
紫藤由貴、現役の女子バスケット部キャプテンだった。  
 
「こりゃ見ものだな」  
大輔はぽつりと呟く。  
文乃はうんうんと頷きながら二人の対決から目を離さない。  
運動神経抜群の素人VS現役バスケット部のキャプテン。  
体育の授業にしては豪華すぎるカードだった。  
 
「いきますわよ!」  
「…!」  
美香がドリブル突破を仕掛けた。  
だが、由貴もそう簡単には抜かせない。  
前後左右に二人の少女が激しく動く。  
 
「すごい…!」  
「ああ、すごいな」  
目を輝かせて二人の攻防に見入る文乃と大輔。  
だが、そのすごいの意味は二人の間では異なる。  
文乃は純粋に二人の技術に感嘆し、大輔は二人の動きによって発生するお色気シーンに興奮していたのだ。  
 
(すっげぇ揺れ…)  
二人が動くたびに彼女たちの胸が勢いよく弾む。  
右に左にとぼよんぼよん弾けるおっぱいはそれだけで壮観だ。  
更に、美香も由貴も巨乳である。  
その迫力は男にとっては金を払ってでも拝みたい破壊力を秘めていた。  
(高見沢はレースの白、紫藤はピンクか…)  
激しい動きに二人の少女は当然汗まみれだった。  
自然、体操着は透け、その下の下着が露になっていく。  
しかし二人は気づかない、いや気づく余裕すらない様子で一進一退の攻防を繰り広げる。  
観客は男も女子もそれぞれの理由でヒートアップし始めていた。  
 
(おっと、見とれている場合じゃないな)  
大輔は集中していつでも念動力を発動できるように身構える。  
その瞬間、一際大きい歓声が大輔の耳に届いた。  
美香がついに由貴を抜き去ったのだ。  
「っ!」  
由貴もバスケ部の意地からなのか必死にくらいつく。  
しかし既に由貴をかわし終えた美香のボールに彼女の手は届かない。  
むなしく伸ばされる手。  
しかし…  
 
(今だっ!)  
その瞬間こそが大輔にとってのチャンスだった。  
念動力によって由貴の足が見えない何かにつまずく。  
といってもコートには汗が多量に滴り落ちているのでそれ事態は不幸なアクシデントにしか見えない。  
だが、どちらにせよ彼女はこのままだと転倒するのは間違いなかった。  
 
がしっ!  
 
だがその瞬間、由貴は脅威の反射神経で転倒を防いだ。  
目の前にある何かを掴んだのだ。  
 
「えっ?」  
ゴールへ一直線だったはずの身体ががくんと沈むのを高見沢美香は感じ取った。  
驚愕に思わず振り向く。  
そして愕然とした。  
なんと前のめりに倒れようとしている由貴が体操服の上着の間からショートパンツごと自分の下着を掴んでいるではないか!  
「なーっ!?」  
美香は焦った。  
自分も巻き添えを食らってコケるからではない。  
由貴の手の位置が非常にやばかったからだ。  
「ちょ、ちょっとぉ!?」  
ずるり、とショートパンツがその下のパンツごとずり下がり始めた。  
慌てて手を後に回そうとする美香。  
だが、ここで彼女は一瞬躊躇してしまう。  
手を後に回せば顔面から床に突っ込んでしまうと。  
 
「わ、わ、わ…」  
しかし現実は無常である。  
その迷いは致命的なロスだった。  
手がふらついた瞬間、由貴の狼狽した声と共にするんっと美香のショートパンツが軽やかに主の腰から離れていく。  
そして、状況は完成した。  
 
びたん!  
 
体育館に沈黙が訪れた。  
当事者を除く全ての人間の視線が一点に集まる。  
そこには、ショートパンツと下着を剥ぎ取られてお尻を丸出しにしてうつ伏せに倒れている美香と、  
呆然とした表情で布二枚を手に持って座り込んでいる由貴の姿があった。  
哀れなことに、美香は自らの顔も下半身も守ることができなかったのである。  
 
(な、なんというお宝映像! これは門外不出の家宝になるな!)  
大輔はあふれ出そうとする笑いと興奮を抑えるのに必死だった。  
隣であわあわと混乱している文乃など眼中にはない。  
何故ならば、彼は事故を起こす傍らでもう一つのミッションを遂行していたのだ。  
それは今の一連の流れをおさめること。  
大輔は、念動力を使うことによって物陰からこっそりと今の状況をカメラに保存していたのである。  
(くそっ、もっと近づくことができれば尻の穴まで見えるんだが)  
混乱の中、そんな不満まで持つことができる大輔は確かにこの瞬間大物だった。  
 
「あ、あの…」  
なんとも言えない沈黙の中、最初に動いたのは由貴だった。  
事故(実際は大輔による故意だが)とはいえ、級友のショートパンツと下着を脱がしてしまったのだ。  
どうやって謝ろう…そんな彼女の戸惑いが伝わってくるかのような小さな声だった。  
 
ぴくっ  
 
天井につきあがるように大公開されていたお尻が動く。  
ゆっくりと身体を起こしていく美香。  
ぶつけた額は真っ赤に充血し、目は涙目だった。  
女の子座りでキョロキョロと周囲を見回す。  
と、その視線が由貴の手の中の布二枚をとらえる。  
「……?」  
下半身から感じるひんやりとした感触に美香は目をおろす。  
そこには、何の柵もなく床と接触している自分のお尻があった。  
「ひっ……」  
そこで美香はようやく自分の状況を把握した―――下半身素っ裸。  
瞬時にお嬢様の顔が羞恥に沸騰する。  
 
「きゃっ、きゃあああああああああ!!」  
 
光の速さで由貴から自分のショートパンツとパンティを奪い取り、慌ててそれを穿こうと足を上げる美香。  
勿論周囲の視線は独占状態のままでだ。  
『おおーっ!?』  
おっぱいダンス→お尻丸出し→生着替え  
このコンボに男たちの興奮がMAXに達した。  
その視線を感じ取りつつも美香の動きは止まらない。  
勿論見られているのは恥ずかしい。  
だが、下半身すっぽんぽんのほうがより恥ずかしい。  
(は、早く動きなさい私の手……!)  
だが、混乱と羞恥に支配された状態では思うように手は動かない。  
しかも股間を片手で隠しながらの作業なのだ。  
それは美香にとって人生で一番長い十秒だった。  
自分の着替えを見られているなど良家の子女として生まれた彼女には想像外の出来事である。  
屈辱、羞恥、憤怒、その他諸々の感情をごちゃ混ぜにしながらも美香は手と足を動かし続けた。  
 
「ふぅっ…はぁっ…はぁっ…」  
キッカリ十秒後、美香のショートパンツとパンティは元の位置に収まっていた。  
おそるおそるそこに近づいていく由貴。  
体育館の中が修羅場の予感に緊張する。  
そして―――美香は気絶した。  
 

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