(なんといういつも通りでいつも通りではない光景…!)  
大輔は素で感動していた。  
見た限り、女子たちは一人を除いて全員が既に自分の状態に気がついている。  
ある者はスカートをぎゅっと押さえ俯き、またある者は落ち着きなく目をキョロキョロと忙しなく動かしていた。  
なお、前者は某背の高い少女で校舎は某お嬢様だったりする。  
(くっくっく、皆気づいていないんだろうなぁ。目に見えないところでこんなにも素晴らしい出来事が起きているなんて!)  
ここで言う皆とは首の痛みに顔を顰めている男子たちのことを指す。  
彼らからすれば今の女子たちはいつもと変わらないように見えるだろう。  
だが、大輔だけは違う。  
普段は同じ教室で授業を受けている異性全てが下着を穿いていないと知っているのだ。  
今、大輔はこれ以上ないほどの優越感に浸っていた。  
 
きーんこーんかーんこーん…  
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。  
村井が退室すると共に活気付く教室。  
だが、女子は誰一人として立ち上がらない。  
しきりに股のあたりに視線を走らせてはもじもじと俯くばかり。  
何故なら、彼女たちはそうするしかなかったのだ。  
本日は体育がない。  
つまり短パンを穿いて誤魔化すという選択肢は最初から存在しない。  
よって家に帰るまでは強制的にノーパン状態を続けるしかないのである。  
 
(さてっと…)  
大輔は見えないのに視えるものを楽しみながら立ち上がった。  
目線が隣の席に固定される。  
そこには、未だにノーパンにされたことに気がついてない幼馴染の少女がいた。  
 
「あれ、大輔くん何か用?」  
ニコニコと嬉しそうに自分を出迎える文乃に大輔は大きく溜息をついた。  
他の女子は全員状況に気がついているというのにこのチビ幼馴染だけは未だにパンツを床に落としたままなのだ。  
幸いにも誰にも気がつかれていない様だが、この鈍感さはどうなのか。  
自分がやったこととはいえ、大輔は目の前の少女の能天気さに呆れを抑えられなかった。  
 
「な、なにっ? いきなり溜息なんか…」  
が、そんな大輔の心中など知る由もない文乃は失礼極まりない幼馴染の態度に憤慨した。  
勿論ノーパンのままでだ。  
ぷんぷんと怒る少女を余所に、大輔は目を落とした。  
いつもと変わらない、でもその中身はいつも通りではないスカートがそこにはある。  
透視能力があれば、そう願ったことは一度や二度ではない。  
だが、大輔は今、得た能力が透視でないことに感謝していた。  
穿いていないとわかっているスカートを見る。  
そんな些細なことがこれほど素晴らしく、これほど興奮できるなんて思いもよらなかったのだから。  
 
「ゴクリ…」  
スカートの中身を想像してしまい、大輔は思わず唾を飲み込んでしまう。  
しかし、そんなあからさまな動作をして目の前の少女がそれに気がつかないはずがない。  
「…? 大輔くんどこ見て……!」  
大輔の視線を追った文乃がカッと頬を染めた。  
慌てたような動きでスカートに手をやると「う〜」と唸りながら上目遣いで大輔を睨む。  
「…えっち!」  
「い、いきなりなんだよ」  
「朝の…その、ボクのパンツを思い出してたんでしょ!」  
「いっ!? ち、違うぞ! 俺はお前のパンツになんて興味は…!」  
まさか中身を想像していたんだとはいえない大輔。  
だが、誤解を真実と認識した文乃の追及は止まらない。  
「嘘だッ!! あの時はっきりこっちのほうを見てたし、今だってスカート見てたじゃない!」  
「バ、バカ! 声が大きい!」  
大輔は咄嗟に文乃の口を手で押さえた。  
このまま喋らせ続ければ自分の評判が地に落ちかねない。  
それを一瞬で認識した彼の動きは素早かった。  
「むぐもが!」  
「とりあえずは小さい声で喋れ、な?」  
周囲を見回し、今の会話を聞いていたものがいないのを確認した大輔はなだめすかすように話しかける。  
こくん、と文乃が頷く。  
それを確認して、ようやく大輔は手を離した。  
なお、それなりにでかい声だったにも関わらずほとんどの人間が内容を聞いていなかったのは  
『ああ、またいつもの夫婦喧嘩か』  
と思われていたからこそなのだが、幸福にも大輔も文乃もそれを認識していなかった。  
ちなみに、余談ではあるが同時刻にある二人の女子生徒が何故かノーパンによる羞恥以外の理由で顔を赤くしていた。  
それは当事者である少女たち以外誰も知覚していない出来事だった。  
 
「む〜」  
「うなるな、犬かお前は」  
「ふんだ!」  
ぷくっと文乃は頬を膨らませる。  
それはまるでリスを思わせるかのような小動物な表情だった。  
(これで黒だの赤だのの下着をつけてるんだからなぁ…)  
子供の微笑ましい背伸びにしか見えないな、とまとめる大輔。  
だが文乃はそんな大輔の表情から考えを読み取ったのか、ますます頬を膨らませていく一方だった。  
 
「ねえ、大輔くん?」  
「なんだよ?」  
「その…本当に興味ない…の? ボクの下着」  
「ぶふぅっ!?」  
大輔は吹いた。  
それはもう盛大に吹いた。  
まさか幼馴染の少女の口からそんなファンタジーな言葉がでるとは夢にも思っていなかったからだった。  
どんなエロゲーだよ!? とフラグの神様に毒をはく大輔。  
だが文乃の目は言葉の調子とは裏腹にマジだった。  
二日続けて大輔の目にパンツを晒したせいなのか、彼女は今微妙にテンパっているらしい。  
「いやだから…」  
「そのあの…大輔くんが見たいっていうなら、特別に見せてあげても…」  
「いいっていいって!? ちょっ、おまっ!?」  
文乃はもじもじと俯くとスカートの裾をつまんだ。  
そして何を血迷ったのか、なんとそれをゆっくりと捲り始めたではないか。  
勿論、大輔にしか見えない角度での行動なのだが、見ている大輔からすれば幼馴染の暴挙に気が気でない。  
万が一にも自分たちに注意を向けるものがいたらその時点でアウト。  
大輔は変態とロリコンのレッテルを頂戴することは間違いない。  
しかし大輔は口以外では決して文乃を止めようとはしなかった。  
ぶっちゃけ、幼馴染の思わぬ行動にエロ魂がときめいてしまったのである。  
 
(ごっくん)  
息を呑む。  
大輔しか知らないことだが、文乃は今パンツを穿いていない。  
つまり、このまま行けばパンツではなくその下の素肌、しかも女の子にとって一番大切な場所を見ることになる。  
彼女いない歴=年齢の大輔は当然女の子のソコを生で見たことがない。  
一昨日妹である愛菜のそれを数瞬身体全体と共にチラ見したくらいなのだ。  
幼馴染で見た目幼女とはいえ、女は女。  
大輔は思わぬ展開に目をくわっと見開いた。  
 
(な、なんで止めないのっ?)  
文乃は焦っていた。  
すぐに大輔が止めてくれるだろうからとふざけ半分真剣半分の気持ちでやり始めたことだった。  
それなのに大輔は最初以降止める気配を見せない。  
つまり、状況がマジになってきたのである。  
(な、なんか大輔くんの目が怖いような…)  
既にスカートはかなりギリギリのところまで捲くられている。  
もうちょっと手に力を込めれば下着が露出するのは間違いない。  
 
「や、やっぱりダメ…っ!」  
が、そこが限界だった。  
文乃は流石の恥ずかしさに、大輔にからかわれることを承知で行動を中断することにした。  
スカートの裾を戻そうと手に力を込め  
「へ…?」  
そして次の瞬間。  
文乃は呆然と『自分の手によって引きあがったスカート』と『穿いてない自分の股間』を見つめた。  
 
(お、おさまれマイ・サン!)  
三時間目、大輔は一向に親の言うことを聞かない息子をなだめていた。  
原因は言うまでもなく先程の一件である。  
そのつもりはなかった。  
しかし文乃がスカートを元に戻そうと動いた瞬間、つい反射的に念動力を使ってしまったのだ。  
(くっ! 文乃で勃ってしまうとは…不覚っ!)  
猛省する大輔だったが、彼の勃起した暴れん坊将軍はおさまる気配を見せない。  
脳裏から文乃のオンナノコが消えないのだ。  
(…しかしまさかはえていたとは)  
少女の股間を思い出す。  
文乃のワレメの上には申し訳程度ではあるが、毛がはえていた。  
見た目の幼さ通り、てっきりあそこもつるつるだろうと失礼な予想をしていた大輔にとって、それは思わぬ不意打ちだった。  
幼馴染の身体が一応立派に大人への階段を上っていることが他ならぬ自分の目によって証明された。  
それは大輔が比内文乃という少女を女として認識したということだったのだ。  
 
無論、文乃からすればそんなことで認識して欲しくはなかったのだろうが。  
 
(…まだ睨んでやがるし)  
なんとか頭の上に浮かんでいる幼馴染の秘所を打ち消そうと頭を振る大輔。  
視線の端に文乃が映る。  
文乃は真っ赤な顔でスカートをぷるぷると震える手で握り締めながらじっと大輔を睨んでいた。  
 
まあ、それも当然である。  
気心の知れた幼馴染とはいえ、同年代の異性にスカートの中を見られたのだ。  
しかも穿いてない時に。  
そういう意味では念動力を使ってしまった後の大輔の行動は正に値千金だったといえる。  
悲鳴を上げようと大きく息を吸い込んだ文乃を瞬間的に身体をはって止めた。  
正確に言うと、文乃を胸に抱え込むようにして彼女の口を圧殺したのである。  
なお、この瞬間とある二つの席から燃えるような視線が二人に向けられたのだが、それは誰も気付かなかった。  
 
(頼むからそんな目で見るなよ…)  
だが、大輔にとってその文乃の表情は逆効果だった。  
恥ずかしげな顔が彼の被虐心をそそったのだ。  
大輔は別段Sというわけではないし、変な趣味が――そういう方向であるわけではない。  
しかし、小動物のような雰囲気を持つ文乃が恥ずかしそうに縮まって睨んでくるという光景。  
それは一人の健康男子である大輔にはクるものがあった。  
(…いかんいかん、このままだとやばい趣味に目覚めそうだ)  
芽生えかけた怪しげな衝動にあがらおうと大輔は文乃から目をそらし、視線を前に向けた。  
そこには、昨日の出来事など何もなかったかのように授業を進める東雲夏樹の姿があった。  
 
(わからん、あれはフェイクなのかそれとも素なのか?)  
いつも通りの冷静さで教壇に立つ女教師に大輔は首をひねった。  
原因の自分がいうことではないが、昨日東雲が晒した失態は彼女の普段のイメージからすれば被害甚大のはず。  
にも関わらず彼女は見た目には動揺の欠片すら見せずに黙々と教鞭を振るっている。  
(皆からの視線も気にしてる風には見えないし…)  
ノーパンでそれどころではない女子は別として、大半の男子が今東雲に向けている視線は好色さがふんだんに混じっている。  
目線はタイトのスカートに固定され、その中の下着を想像していることは難くない。  
つまり、余程鈍感でない限りは東雲は男子の視線を感じているはずなのだ。  
(なら、その鉄面皮を崩してやるさ。同じ教室にいるっていうのに一人だけ仲間はずれっていうのも可愛そうだしな)  
大輔はポケットをまさぐると、再びねずみを床へと解き放った。  
 
そして一分後、教室にいた生徒たちはミラクルを目撃した。  
 

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