1.  
 
 寝苦しさの原因は、と問われれば、多くの人が暑さを挙げるだろう。なのに、蒸し暑い午後の  
教室は、何故こうも眠気を誘うのか。  
 授業終わるよ、と級友に突付き起こされて、恭子の寝ぼけた頭に浮かんできたのは、そんな  
どうでもいいことだった。  
 
 顔を起こすと同時にチャイムが鳴って、教諭がさっと手を挙げる。日直の号令が今日の授業の  
終わりを告げると、その級友は恭子の方を向いてケタケタと笑った。  
 何となく予想はついたが、一応尋ねる。「あー、寝痕ついてる?」  
「まあ、それもあるけどさ。やばいのは、涎」  
 
 反射的に、恭子は顔を手の甲で拭った。しかし頬は勿論、口周りにも特に濡れた感じはない。  
ジト目で恭子が睨むと、彼女はひらひらと両手を振った。  
「引っ掛けじゃないって」  
「んじゃ、どこに涎があるのよ」  
「胸の辺り、見てみ」  
 
 言われるままに視線を下げて、恭子は思わずうげ、と呻いた。薄い夏服の右胸の辺りに、  
かなり大きな染みが出来ている。  
「一体どんな寝方したら、そんなとこに涎垂れんのよ」 級友は笑った。「特に胸の下なんてさ。  
最近妙に成長著しいコイツが、邪魔になるんでな・い・の・かい?」  
「ええい、やめいっ」  
 
 わきわきと伸びてくる友人の手を牽制しつつ、恭子は上からテッシュを当てる。見た感じしっかり  
染みてしまっているので、あまり効果はなさそうだが、このままでいるのは恥ずかしい。内側からも  
テッシュを当てようと、下から手を差し入れて、彼女は初めて違和感に気がついた。  
 内側どころか、下着までべっとり濡れている。汗でも、涎でもないもので。  
 
 え゛?と恭子が固まった隙に、級友の手が膨らみを捉える。そして、彼女のその行動が、恭子の  
疑念を決定的なものにした。  
「…っ……。い、痛っ!」  
 友人の無邪気なセクハラに、恭子はワンテンポ遅れて悲鳴を上げる。その大袈裟な反応に  
気圧されて、彼女は「え、あ、ごめん」とあっさり乳房を手放した。それから、自分の両手をじっと  
見つめて握り開きなどしながら、そんな力入れて無いけど、とぼそぼそ小声で言い訳をする。  
 
 だが、恭子はそんな級友に構っている余裕など無かった。ごめん、ちょっと、と何やら分からぬ  
返事をして、友人の脇をすり抜けると、鞄を引っつかんで教室を出る。机の上には先程の教材が  
出っ放しだが、向かう先は手洗いなので問題ない。  
 
 個室に飛び込み、制服の上を下着ごとそっとたくし上げる。ホックを外して、ブラのカップをそっと  
ずらすと、そこは恭子の想像通りの事態になっていた。  
 乳首から溢れ出た母乳が、膨らみ全体をじっとりと汚している。  
 
 カラカラとペーパーを巻き取りつつ、恭子は胎の中の体調管理責任者に対して絶叫した。  
“ミノリィィーーー!!起きろこのばかーー!”  
 
 
 
 子宮内に大脳組織を置くミノリの思考活動は、基本的に宿主からは独立している。しかし、  
使用している体内環境は同じだし、また脊髄を介して恭子の脳と直結していることもあって、  
要するに恭子が眠いときはミノリも眠い。勿論、その影響を低減する事は可能だったし、事実  
彼が恭子に寄生した当初はそうしていた。が、共同生活をするようになった今では、ただ  
その方が都合がいいからという理由で、ミノリは恭子とサーカディアンリズムを共有している。  
 
 そんなわけで、授業中から恭子と仲良くお昼寝していたミノリだったが、その安らかな眠りは、  
脊髄越しに叩きつけられた強力な脳波で中断された。  
 
 いかにも眠たげな様子で、彼は答えた。”なんだ。どうした”  
「どうしたじゃな……」と思わず声に出しかけて、恭子は慌てて口をつぐむ。“……じゃないわよ。  
目が覚めたらおっぱいが出てるとか、どうなってんのかこっちが聞きたい!”  
“……ふむ、しまったな。これで三回連続寝落ちしたか”  
“だーー、そっちじゃない!いつまで寝ぼけてんのよ!”  
 要領を得ないミノリを、恭子は下腹の上からデコピンした。実際は彼女が痛いだけなのだが、  
そうでもしないと彼女自身が心情的に収まらない。  
 
 ぶつくさ言いつつ、恭子は懸命に手を動かして、服と身体についた母乳を拭き取った。すると  
二分程して、ミノリが唐突にフムン、と呟く。  
“目、覚めた?”  
“うむ。事態は把握した。ああ、すまない、これは完全に私のミスだな。”  
“なんかちっとも謝られた気がしないけど” ペーパーを捨てて座り直し、恭子は言った。“まあ  
いいや。とにかく、わたしの身体は、一体どうなっちゃってるの?”  
 
 まず最初に、ミノリは現況が恭子の身体にとって特別問題のあるものではないことを説明した。  
“…いわゆる高プロラクチン血症だが、下垂体腺腫や甲状腺機能低下によるTRH高値等が原因  
ではない。私の脳機能を子宮内で維持するために、君の身体は擬似的な妊娠状態にあるのだが、  
その際の黄体維持に用いていたホルモン操作を……”  
“あーもういい、もういい” まだ寝ぼけてるやがると思いつつ、恭子は遮った。“よく分からんけど、  
ミノリが軽くトチっただけで、病気の類じゃないってことね”  
 
 パタパタと眼前で手を振る彼女に、ミノリは少しムッとしつつも、まあそうだと素直に答えた。  
今回は自分に非があるから、これは仕方が無い。  
“で、ともかくさ” 右の乳房を軽く押さえて、恭子は言った。“おっぱいがこうして溢れるのだけは、  
今すぐ止めて欲しいんだけど ”  
“今すぐは無理だ” ミノリは答えた。“すでに乳腺に分泌されてしまった分は、出すしかない。  
母乳の生産も、私が性腺と脳に強引に介入すれば即時停止は可能だが、はっきり言って  
お勧めは出来ないな。内分泌が予期せぬ形で撹乱される恐れがある”  
“それはしないでいい ” 恭子はぴしゃりと言った。ホルモンバランスの失調は、彼女だけの  
問題ではない。下手をすれば、月経──この場合は、流産と言うべきか──を誘発すること  
にもなりかねないのだ。  
 
“じゃあ、もう少し穏やかな方法はないの?”  
“勿論、通常の断乳手順で止まる。ホルモンによる介入もゆっくりとやれば問題ないから、  
そんなに時間はかからないだろう ”  
“……具体的には?”  
“そうだな、ニ三週間もあれば ”  
 
 ミノリの言葉に、恭子はしばし、うーんと唸った。しかし唸ったところで、お乳が止まるもの  
でもない。他に方法がないなら、グダグダ悩んでいても詮無き事だ。思い切りの良さが身上の  
彼女は、膝一つ、ポンと叩いて、「まあいいか」と呟いた。  
 
 
 その後、トイレの個室でなんとか母乳の始末をつけようとした恭子だったが、搾乳など当然  
初体験の彼女にとって、その作業は困難を極めた。さすがのミノリも、乳搾りの情報までは  
持ち合わせておらず、彼女の曖昧な知識を頼りに試行錯誤したのだが、これが如何して  
うまく行かない。  
 
 二人でああだこうだ言い合いながら、乳房を苛めている内に、恭子は酷く空しい気持ちに  
襲われた。女子トイレの個室で、一人便座に屈み込んで、胸は痛いし、足も辛いし、はっきり  
言って最悪である。これでミノリがいなかったら、訳も無く泣き出しそうな気さえする。  
 
 気丈な彼女もさすがに限界に達していた時、ミノリが唐突に言った。  
“……確かに、少し勿体無いな”  
“え?”  
“この母乳には、乳児の成長を十分に支えられるだけの栄養が詰まっている。全て君の身体  
から抜き取ったものだ。それを、こうして無為に捨てている事へ、君は本能的に空しさを感じず  
にはいられない”  
“何よ突然。心理分析を頼んだ覚えは無いわよ。”  
“原因が分かれば、少なくとも対処できる可能性は高くなる。”  
 
 一瞬、激しい怒りを感じて、彼女は声を上げかけた。だが、すんでのところで思いとどまった。  
居場所を思い出したというのもあるし、怒鳴るべき言葉が思いつけなかったこともある。ミノリが  
実体を持ってそこにいれば、ただ意味の無い唸りと共に殴る事が出来たのだが、胎の中では  
どうにもならない。  
 脊髄越しに罵りの思考を送りつけることも考えたが、恭子は急に馬鹿らしくなってやめた。  
はあ、とため息をついて、『勿体無い』という言葉を意味も無く頭で反芻する。  
 すると突然、ある考えがひらめいた。  
 
“ねえ、触手もおっぱいで育つかな”  
“いきなり何を言い出すんだ”  
“分類上は霊長類みたいなもんだって、前に言ってたじゃない。”  
“分類学上は近いと言っただけだ。それに霊長類を含む哺乳類の成体は、基本的に乳糖を…”  
“何でもいいけど、あの仔達おっぱい飲んでお腹を壊すってことは無いんでしょ?”  
“……確かに、ヒトと同様乳製品を消化できる。”  
 
 その言葉を聞くと、恭子はさっさと胸をしまって立ち上がった。制服の染みは完全には取れ  
なかったので、上から冷房避けのサマーセーターを重ねる。ちょっと暑いが、これで少々乳が  
漏れようが傍目には分からない。  
 
 身支度を整えて個室を出る頃には、先程までの陰鬱とした気持ちは、綺麗にどこかに行って  
しまっていた。触手への授乳がそんなに楽しみなのかと言われると、首を捻りたくもあるのだが、  
結局はそういうことなのだろう。少なくとも、便座を抱えて半泣きで下水に捨てているよりは  
何倍もマシな行いと思える。  
 教室へ戻って教材一式を回収し、帰りのバスへと急ぎながら、恭子はこれじゃ全くミノリの  
指摘通りだなと苦笑した。  
 
 
2.  
 
 そんなこんなで、およそ一時間後。恭子は平日には珍しく、触手の巣穴を訪れていた。明るい  
内の訪問は、先日の水遊びの時のように無いわけではないが、こうして制服で立ち寄るのは  
初めてだ。  
 事前の打ち合わせ無しだったので、うまく行くかは疑問だったが、例によって人気の無い場所  
から森に入って犬笛を吹くと、首尾よくトリデスと落ち合えた。  
 
 彼に抱えられて巣穴に入ると、中にいたのはノーナだけだった。デッカは恐らく、狩りに出ている  
のだろう。オクトルはデッカについて行ったか、或いは一人で採集に出たのかもしれない。最近、  
デッカの狩りの成功率が上がっているので、前者の可能性が高い気がするが、そうなると二体は  
朝までここへ戻らないだろう。  
 
 巣穴に入ると、二体の歓迎の抱擁を受けつつ、恭子はさっさと制服を脱いだ。今日は良識派の  
二人がいないので、万が一にも汚されないための予防線である。  
 裸になると、お許しが出たとばかりに、触手は早速彼女の身体を絡め取った。下半身にはノーナ  
が陣取り、腰を持ち上げていそいそと膝を割り始める。トリデスはいつものように、肩甲骨の下に  
体を差し込むと、好物の乳房に触手を回す。今日は二体しかいないこともあって、その動きは  
普段よりずっとスムーズだ。  
 
 彼らの動きに、恭子は特に抵抗しなかった。ただし、巻かれる際に器用に身体を捩って、右腕の  
自由にだけは確保しておく。  
 
 恭子の身体を固定し終えて、触手達はいつも通りに愛撫を始めたが、程なくトリデスが異変に  
気が付いた。少女の身体から嗅ぎ慣れない匂いを感じて、嗅覚に優れた感覚肢を、上半身へと  
寄せてくる。  
 
 「おー、早速気付いたな、このおっぱい星人め」  
楽しげに言って、恭子は右手でトリデスの口管を捕まえた。先端の花弁を開いて膨らみに  
押し付け、右の乳首を銜えさせる。  
 すると殆ど反射的に、トリデスは胸をちゅうちゅうと吸い上げた。いつもやっている事ではあるが、  
今日に限っては、やっぱりコイツは哺乳類だったのか、と改めて思ってしまう。  
 
 三度ほど強めに吸われた時、痛いような、うずくような感覚が湧き起こった。ついで、花弁が  
乳輪のギュっと掴むと、母乳が勢い良く飛び出してくる。  
「……んっ」  
 思ったより強い反応に驚いて、恭子は小さく声を漏らす。だが、それ以上に吃驚したのは触手の  
方のようだった。  
 
 上半身を捉えた触手が、ピクリと引き攣って動きを止める。それからトリデスは徐に頭をもたげる  
と、彼女の表情を覗き込んだ。  
 普段の唯我独尊ぶりが嘘のような、そのキョドキョドとした仕草に、恭子は思わず吹き出した。  
右手でゆっくりとその頭に手を回し、抱き寄せながら彼女は言う。  
「おいしい?……あはは、よかった。……ん、いいよ」  
 恭子が笑顔で応じていると、触手の吸い上げが再開する。口管の形状もあるだろうが、やはり  
ここは動物の本能というべきか、彼女の下手な搾乳に比べてトリデスは何倍もうまかった。  
 
 恭子とトリデスが二人してわいわいやっていると、下半身のノーナもなんだなんだと頭の方へ  
やってきた。そして彼女の授乳の様子を見て取ると、トリデスの触手を押し退けるようにして  
左胸にかぶり付く。  
「んっ……たたっ、奥の方噛んでも意味ないよ、ノーナ」  
 乳房を丸ごと飲み込もうとする彼を、恭子は慌てて制止した。右手をその口に突っ込むように  
して、膨らみの位置を調節する。  
「……そう先っぽの……ん、上手上手」  
 トリデスに比べるとややぎこちないながらも、恭子の誘導でノーナも無事に吸い付いた。こちら  
は口管と違って歯が生えているので、恭子はちょっと心配したが、そこは彼も心得ているのか、  
柔肌に牙を立てるようなことはしなかった。  
 
 膨らみの三分の一程を上手に含ませ、ちゅうちゅうと吸わせていると、一分もしないうちに  
こちらもツンとした催乳感が訪れた。乳首の鈍い痛みと共に、左胸からもじわりと母乳が沁み  
出してくる。  
 舌先で甘い汁を舐め取ると、ノーナは夢中になって吸い上げた。同時に、膨らみを支えている  
触手にも力が入る。少し、というか、かなり痛かったりするのだが、不思議と止めさせる気は  
興らなかった。酷く曖昧な幸福感が、制止の言葉を喉の手前で絡め取る。  
 
 それが母性かと問われれば、子を産んだこともない恭子には正直なところ分からなかった。  
ただ、無性に可笑しいような、それでいて穏やかな情動が、ゆったりと心を支配する。残して  
いた右手の自由も、絡み来る触手に一旦預けて、恭子はのんびりと目を閉じた。  
 
 
 
 七、八分かけて、二体の触手は恭子の母乳を飲み干した。もっとも、まともに出ていたのは  
最初の五分程であって、あとは乳首から沁み出す僅かばかりの乳汁を、二人がしつこく  
舐め取っていたという次第である。  
 
 しばらくは好きにさせていた恭子だったが、生まれて初めて体験した授乳後の胸の様子も  
気になるので、彼女は一旦、触手を外させることにした。  
 もうでないよ、と未練がましい二人を宥め、張り付いた触手をベリベリ剥す。身を起こして  
みると、体感的には半分くらいの重さになった気がして、恭子は「おおぅ」、と驚いた。  
 両手で下から掬い上げると、ここ数日の妙な張りが、綺麗さっぱり取れている。少し力を込めて  
みても、感じる痛みは最近と比べてずっと小さくなっていた。乳輪の周りは、さすがに赤くなっては  
いたが、こちらも恐れていたほどではない。  
 
 自分の身体の事とはいえ、何だか酷く不思議な気がして、恭子は暫く自分でもむにむにと  
揉んでみる。と、ふいに下半身の触手が蠢き出した。どうやら胸から追い出されたノーナが、  
初期位置に戻って愛撫を再開させたらしい。  
 
 するとトリデスの方も、「もう返してよ」 とばかりに、膨らみに触手を絡めてきた。  
「元々キミのじゃないんだけどなー」  
 苦笑しつつも、恭子は割にあっさりと明け渡す。今日は放課後に立ち寄った形なので、あまり  
ゆっくりは出来ないのだ。門限までには、まだ大分時間が残っているが、ギリギリに帰ってあらぬ  
疑いを掛けられるのは是非とも避けたい所である。特に、毎週夜中に脱走している身としては。  
 
 
 両足の筋肉を揉み解しつつ、ノーナが股座に割り込んでくる。触手で慎重に襞をめくると、  
残念ながら余り濡れてはいなかった。彼は一旦両足を大きく開かせて、細い触手がびっしりと  
生えた腹の部分を、秘部にぴったりと押し付ける。  
「はんっ……ん…ふ……」  
 柔らかな肉の群れが、外襞をゆっくりと回りこんだ。それらは一旦、泥濘に頭を入れて湿り気を  
補うと、前庭をねっとりと這い回る。そして一部は隠れたままの敏感な豆へと向かっていく。  
 
 トリデスは再び胸を覆うと、授乳後の乳房を労わるように、ゆっくりとしたマッサージを開始した。  
そこにちゃっかり生殖肢を巻き込んで、一緒にむにむにと捏ねている所が何とも彼らしい。  
が、気持ちいいことには変わりないので、恭子は大人しく身を任せた。性感とは別の意味で、  
凝りをほぐされる様なような感覚がある。  
 
 気分的に妙に和んでいるせいか、身体の反応は鈍かった。恭子の分では潤いが足りず、  
ノーナは舌を秘所に伸ばす。それでたっぷりと含んだ唾液を移し、ローション代わりに滑らせた。  
膣口には、既に何度か細めの触手が頭を入れだが、今のところ準備不足と皆引き下がっている。  
 トリデスも途中で気付いたのか、その動きを急に性的なものに変えて来た。腹をしっかりと巻き  
込んで温め、膨らみを下から撫でるように揉み上げる。乳首には口管を吸いつかせて、細い舌で  
もって弾くように刺激する。  
 
 しかしそれでも、反応が悪い。やっぱりこれは、母性本能なんだろーか、と恭子は少し可笑しく  
なったが、そこで例によってミノリが横槍を入れてくる。  
“プロラクチンの血漿濃度が高過ぎるせいだな。これには性欲減退の効果がある”  
「空気の読めない解説、誠に有難う。で、ちゃちゃを入れてきたって事は、何か提案があるの?」  
“ホルモンで性欲が落ちてるからな。時間を掛ければ彼らの愛撫のみで戻すことも可能だろうが、  
ここは手っ取り早く、触手の臭腺で活性化させるべきだと、私は思う。”  
 胎の中の人工知性は、今日も絶好調だった。恭子は、言葉のオブラートという概念を、きっちり  
教え込んでやると決意しつつも、 今は素直に「そうね」と返した。  
 
 触手達は皆、生殖肢の付け根の辺りに、催淫性のフェロモンを出す臭腺がついている。催淫と  
いっても、麻薬のような異常な性感を生み出す類のものではないが、それでも自然に身体が  
濡れる程度の効果はある。  
 ある意味で、便利な媚薬の様なものなのだが、けれど彼らはあまり進んで使おうとはしなかった。  
触手たるもの、クスリに頼らず自慢の腕でという哲学があるかは知らないが、ともあれ彼らは  
直接愛撫する方が好みのようである。  
 
 だが今回は、ミノリの意図を悟ったように、トリデスが体を下ろしてきた。そして袋状の柔らかい  
組織を、恭子の顔面に被せてくる。  
 息を吸うと、微かに酸っぱい蒸れた様な臭いが、少女の鼻腔に広がった。例えるなら、さほど  
不快でない脇の下といったところか。余り積極的に嗅ぎたいものではないが、二人の頑張りに  
応えない身体がちょっと気まずいのも事実であって、恭子は大人しく触手の臭気を吸い込んだ。  
 
 一分もすると、早速お腹にポカポカとした温もりが溜まり出す。媚薬というより、辛子か何かを  
食べた感じに近いのだが、身体の方はしっかりと開き始めていた。  
「あ……あう!…は…ん…」  
 摩擦が無くなり、秘部の触手の動きが格段に良くなってくる。愛液は襞の内一杯に溢れ、  
それを細めの触手が掬い上げては、股座全体に塗り拡げていた。別の触手が泥濘を探ると、  
そこは先程とは打って変わって、易々と侵入を受け入れる。  
 
 ノーナの動きが大きくなると、湿った水音がぴちゃぴちゃと響いた。それがやけに大きく  
聞こえて、恭子の羞恥心を深く刺激する。フェロモンで強引に高めたせいか、身体に比して  
妙に思考がクリアーなのだ。  
 こうなると、なまじ中途に愛撫されている方が恥ずかしい。時間もそんなに無いことだし、と  
頭を上げて、恭子は触手におねだりをした。  
「ノーナ、ね…っ…ん、もう、お願い」  
 
 ご指名付きで懇願されて、ノーナは機嫌よく求めに応じた。膣内を探っていた数本の触手を  
一気に引き抜き、空いた隙間を生殖肢で埋めていく。  
「はくっ…んんー……」  
 小さな呻きが漏れるものの、実際のところ抵抗は少ない。生殖肢は一息に奥まで達し、  
まだ少し柔らかい亀頭を、子宮口にみっちりと押し付ける。  
 
 今日はノーナに余裕があるのか、いきなり抽送を始めたりはしなかった。代わりに、彼は恭子の  
両脚を触手で一つに纏め上げると、何を思ったか屈伸運動をさせ始める。  
「ふぇ? 何を……んあっ!」  
 一瞬、意図を図りかねた恭子だったが、疑問の言葉は下腹の圧力で止められた。股関節の  
動きとともに、膣道の形もぐにゃりと変わって、中に収めた触手の圧を強く感じさせられたのだ。  
 
 どうやら、ノーナは恭子の身体を使って、生殖肢を『自分で』揉み上げるつもりらしい。単純な  
屈伸だけでなく、片足づつバラバラな動きも取り混ぜて、少女の胎を様々な形に変形させる。  
「ちょ、刺激足らないなら、わたしが…ぅ…あん!…」  
 堪らず恭子が提言するも、ノーナは耳を貸さなかった。自転車を漕ぐように動かして、膣壁で  
生殖肢を刷り上げる。或いは、体前屈測定のように彼女身体を折りたたんで、捻る刺激を  
胎越しに亀頭へ送り込む。  
 
 ギシュ、ギシュと擦れる肉壁が、両者に絶妙な快感をもたらした。さほど強い刺激ではないが、  
胎内に挿し込まれているという感覚が、普通の抽送よりもずっと強い。  
「もー、ほんっとに……んっ……妙な事ばっかり、…ぁ…頭回るんだから」  
 精一杯、呆れたような声を作って言ってやるが、それでへこたれる触手ではない。二体しか  
いない今日は、普段より身体を動かしやすいこともあって、ノーナはあの手この手で彼女の  
股を割り開く。  
 
 奇策を弄する彼に対して、今日のトリデスは珍しく大人しい絡みをしていた。恭子の背中を  
自分の腹の上に乗せ、そこに群れる無数の触手で抱きとめる。そして自分は背中を海老状に  
丸めて、彼女の上半身を包むように覆っていた。頭は無論、少女の膨らみの上である。  
 右には口腔、左には口管を押し当てて、両方の乳房を同時に吸い上げる。ノーナの吸い方が  
甘かったのか、左からはまだ僅かに乳汁が漏れ出るようで、それを一滴残らず啜り上げようと熱心だ。  
 
 代わりに、性感の授受への意識は薄いようだった。乳房を搾る触手の他は、特に目立った  
動きは無い。口には時折、細い触手が飛び込んでくるが、それも意図したものではないようで、  
恭子が舌を絡めてみても、応じる気配は感じなかった。  
 要するに、それだけ母乳に夢中になっているということで、彼女としてもそれ自体には悪い気は  
しない。だが、これから早速断乳する身としては、些か複雑な思いもある。  
“かといって、毎日授乳にやってくる訳にもいかんしなー。他人にバレたらもっと厄介だし…”  
 同年代の友人はともかく、教師や両親の耳に入れば、そのまま婦人科送りになることは間違い  
ない。そうなれば、子宮に巣食う居候についての言い訳は不可能だ。  
 
 幾分かの後ろめたさに押される形で、恭子はトリデスの生殖肢を探った。胸元で不自然に  
濡れた触手を見つけると、それを捕まえて自分から銜え込む。  
 
 普段よりやや献身的に奉仕をすることしばし、生殖肢がようやく固さを持ち始めた頃、今度は  
ノーナが動きを変えた。  
 再び大きく脚を開いて、股座に細い触手群を押し付ける。そして、いまや滾々と湧き出る恭子の  
愛液を十分に纏うと、大量の肉糸はその潤いをもって彼女の秘部を駆け抜けた。  
「ひぁっ!……あっ…ん…ちゅる…んぶっ…っぁ…」  
 様々な下準備の甲斐あって、局所への刺激に今度は体もしっかりと反応した。思わぬ快感の  
強さに、恭子は慌てて気を逸らそうと銜えた生殖肢に集中する。  
 
 「んじゅっ……ちゅる…やあっ!……あっ…っんぁあ!」  
が、そんな小手先の誤魔化しなど無駄だとばかりに、触手の束がクリトリスに巻き付いた。  
それらは自身の滑りをもって、包皮の内側に繊毛の先を侵入させると、外側の触手で丸ごと  
包んで、中の核ごと一緒くたに押し潰す。強い性感に全身の筋肉が引き攣って、彼女は思わず  
口から生殖肢を吐き出した。  
「あっ…ぅあっ、トリデス、ごめ……っ!はうぅ!」  
 触手を銜え直そうとして、慌てて身体を起こしかけるも、胎に出し抜けな突きを受けて倒される。  
とうとうノーナが、生殖肢の抽送を開始したのだ。  
   
 「んあっ…あ…はっ、はぁ、ふうぅぅんっ!」  
触手の出し入れのペースが、今日は序盤から随分と早い。恭子を感じさせようと、色々頑張って  
いるうちに、自分も限界に来ていたのだろう。だが、そんなノーナの勢いも、十分な準備を終えた  
牝の身体は、全部受け止めて快感へと変えていく。  
「んっ…くう……ひゃ、あうぅっ……」  
 両手は未だ、トリデスの生殖肢を探っていたが、その自由の大半は性感と突き上げの衝撃に  
奪われている。おまけに当のトリデスも、それを舐めさせることには余り関心が無いようだった。  
彼は自分で生殖肢をもたげると、それをぺちぺちと恭子の頬に当てた後、再び乳房を包む触手の  
群れの中へと差し戻す。  
 
 トリデスは膨らみを咥えた二つの口を器用に寄せると、谷間を作ってそこに生殖肢を挟み込んだ。  
要するに胸でしようと言う訳だが、それにしても、母乳を啜りながらパイズリする奴もあるまいて、  
と恭子は少し可笑しく思う。もっとも、そう言って触手をからかってやる余裕までは、今の彼女には  
無かったけれど。  
 
 と、そのちょっとした隙が、恭子にある事を思い出させた。  
「あっ!……と…トリデス、…待っ…やっ!…」  
 今日はこの後、直接家に帰るのだ。つまり、水場で軽く流す他は、身体を碌に洗わずに、  
母親と対面する事になる。もしこのまま上半身に触手の精をかけられてしまったら、臭いを  
誤魔化す手段は無い。週末、ベランダから帰ったときは、ちゃんと両親が起き出す前に、  
朝シャンと称してしっかり身体を洗っているのだ。  
「ね…っ!…トリデスっ、…今日はそとっ…っ!……に、出しちゃあっん…ダメ…」  
 胸の谷間でせっせと触手を滑らす彼に、恭子は必死で話しかけるが、まるでまともな言葉に  
ならない。これでオクトル・デッカなら、空気を読んで勢いを緩めるところなのだが、この二人に  
そんな気遣いなど期待できるはずもない。  
 
 ふらふらと揺れる上半身をしっかり固定し直すと、トリデスは胸での抽送に本腰を入れた。  
全身の触手で両脇から乳房を寄せ上げ、柔らかい肉筒を作り上げると、そこに下から生殖肢を  
挿し込んで、本物の性交のように出し入れを始める。その脂肪質の膣壁は、本物の様な肉襞  
こそ無いものの、周囲の触手が絶妙な力加減で圧迫し、牡を感じる少女の胎の蠢きまでもが、  
緻密に再現されていた。  
 
 「んっ……く、…ね、ホントにかけちゃダメ、中なら上でも、下でもいいから……はむぅぐっ!」  
 それでも続ける恭子の口に、胸から飛び出した生殖肢が出し抜けに突っ込んだ。そして必死に  
言葉を紡ぐ舌と唇を蹂躙すると、また膨らみの中へ舞い戻る。「もういい、分かった」という触手の  
の合図だったのか、単に興奮からすっぽ抜けただけなのか。いまいち判然としないものの、  
この段に来てさすがの恭子も諦めた。トリデスだって、別に言うことを聞かない訳じゃないんだし、  
と、霞の掛かってきた頭は都合のいい方へ流される。  
 
 「あっ……はうっ!…くっ…やっ…ぁ…」  
発話への意志が無くなると、少女の口は自然な喘ぎを漏らし始めた。それが自分の責めに  
同調していると悟ったノーナは、ますます攻勢をかけてくる。  
「やっ……んあっ…ぇあ!?」  
 太股を押さえていた触手がグニョリと蠢くと、挿し込んだ生殖肢はそのままに、彼女の膝を閉じ  
合わせたのだ。結果、締まりの強まった恭子の中を、ノーナの触手はペースを上げて蹂躙する。  
 
 激しくも複雑な触手の責めに、胎の内の快感の熱は急速に膨れ上がっていった。極細の触手  
が群がる秘部は、いまや潤沢な蜜で途切れなく淫靡な水音を立てている。僅かに体積を増した  
陰核を、お馴染みの繊毛触手が圧搾すると、閉じられた両足がバタバタと暴れた。  
「き、きつっ……っ!……かっは、ひゃううぅ!……」  
 反射的に体を捩ると、全身の関節が悲鳴を上げる。不自然な姿勢で縛られたせいだろう。  
それでも一向に冷めないほど、恭子の性感は高まっていたが、触手達は負担が掛からない様、  
改めて体を固定した。二体で300kgを超す肉手が本気で彼女を固めにかかれば、小柄な恭子は  
文字通り、指一本動かすことは出来なくなる。  
 
 そこへノーナが、終わりに向けての激しい動きを繰り出した。  
「んあっっ……ふぁっっ……あ゛くっ……!」  
 突き上げる慣性を逃がす余地がないので、一つ一つの抽送がずっと重い。奥を叩きつけるような  
衝撃は、件のホルモン無しでは性感どころではなかっただろう。それでも、女体は触手の絶頂と  
合わせるように、彼女を高みへと導いていく。  
 
 だが、興奮はノーナも同じだった。股間に出来た僅かな隙間で、のたくっている触手達の動きは、  
およそ統率のとれたものでは無い。技巧をこらして愛撫する余裕など、彼の方にも無くなっている。  
 と、出し抜けにその幾本かが、生殖肢の激しい動きに引きずられて、恭子の中に潜り込んだ。  
「あ゛んっ……っ…っはあ、うくっ!……なあ゛!?」  
 予想外の闖入者に、恭子は驚きの声を上げたが、ノーナの動きは止まらなかった。触手  
自身が意図した動きでは無かったものの、これ幸いにと少女の中で複数の触手を蠢かせ、  
その中を強引に生殖肢が前後する。絡み合う肉手と一緒に暴れる膣壁が、二人の性感に  
最後のダメ押しを突きつけた。  
 
「はぅっ……やっ…だめっ…くるっっ…んぁあああ!!」  
 ぎちぎち縛られた身体を震わせ、恭子の中が最後の収縮を開始する。全身が攣ったような  
痙攣に続いて、乳房からは止まっていた母乳が再びとっぷりと染み出してきた。思わぬ(?)  
幸運にトリデスは夢中になって吸引を再開し、ノーナは反対に恭子の体奥で歓喜の排出を  
開始する。  
「きゃんっ……ひゃううっっ……!」  
 下からは子作りの白濁を注ぎ込まれ、上から子育ての白濁を注ぎ出す少女。一分の隙も無く  
抱き合いながら、二体と一人は奇妙な体液交換を行った。普通ならまずあり得ない感覚の中で、  
恭子の体は絶頂の海を漂っていく。  
 
 そのさまを、逆ミルク飲み人形みたいだと思ったミノリは、勿論、思うだけで口に出すことは  
しなかった。  
 
 
3.  
 
 それから、およそ三十分後。今は上下の制服を身につけた恭子に対して、二体の触手は依然、  
絡み付いたままだった。  
「本当に…ん……スカート、気をつけてよー…ふっ……トリデス、ね?」  
 その上着は大きく捲りあげられていて、両の胸にはトリデスの口管とノーナの口が張り付いて  
いる。スカートもまた同様で、その股間から伸びる太めの触手は、トリデスの生殖肢だった。  
要するに、恭子が服を着た他は、先程と殆ど変っていない。  
 
 あの後、一度身仕度を整えて帰りかけた恭子だったが、その際の二人が余りに未練がましく  
しているので、最後に少しと妥協したのが敗因だった。ちょっとだけ吸わせてやろうと差し出した  
胸を、二体は二回目のお許しと判断したのである。次の瞬間、「待て」と制止の言葉をかける  
間もなく、恭子をあっという間に巣穴の宙に吊り上げた。  
 
 そのはしゃぎっぷりに呆れる形で、恭子は苦笑いで携帯を取った。そして、ミノリと二人でそれ  
らしい言い訳をでっち上げ、自宅に遅れる旨を連絡し終えた時には、もう制服も脱げないほどに、  
雁字搦めにされていたのである。そんなくせに、恭子が電話する最中だけは、彼女が声を我慢  
できる程度に触手の動きを自重していた。  
 
「最近妙に賢いというか……んっく……要領がいいというか……」  
“君の教育の賜物だろう。喜んで然るべきなんじゃないか”  
「まあ、気遣いとかしてくれる様になったのは嬉しんだけど……あん……どうも、誰かさんの、  
したたかさばかり似てくるような気が」  
“まあ、元は私の"体"だからな。独自の自我を持ち始めたとはいえ、似ているのは当然だろう”  
「そういう意味じゃっ…!…ひゃん……むぅ。まぁいいや」  
 
 ミノリに対して憎まれ口を叩きながらも、恭子は割に上機嫌だった。胎に収まった生殖肢は、  
時折蠢いて恭子の発話を邪魔する程度で、激しい抽送をする様子は見られない。それだけ、  
乳房に気を取られているということなのだろうか、このゆったりした交わりの方が、恭子好み  
でもあったりする。  
 
「にしても……こんだけ気に入られちゃうとなあ。ねえ、ミノリ」  
“なんだ”  
「胸の方だけど。んぅ…っ…その……少しの間、このままでもいいかな?」  
“私は別に構わない。しかし、不如意に母乳が漏れ出る様な事になれば、君が周りの人間に対して  
困る事にならないか?”  
「うん…」 やや尻すぼみになりながら、恭子は認めた。「そう、なんだよね」  
 
 そこで、ふむ、とミノリは唸る。彼個人としては、恭子が自分の"体"たる触手達の事を思いやって  
してくれることに、反対する理由など何も無い。寧ろ、その深い愛情には、はっきり言って感謝する  
ばかりだ。なかなか言語化して伝えづらいところではあるが。  
 しかし、その結果彼女の立場を悪くしては元も子もない。それは、究極的には自分たちの生命の  
安全にも関わることだ。  
 
「せめて学校にいる間だけでも、止め、られるといいんだけど」  
“……実は、出来ないことも無い”  
「え?」  
 その台詞よりも低い声色に驚いて、恭子は思わず彼の寄生する臍の辺りに目をやった。それに  
対して、胎の中の人工生命は、努めて事務的な口調で宿主に答える。  
“私の細胞機能を使って、君の乳房に一定の"改造"を施せば、君の身体の内分泌からある程度  
自由な形で、母乳の生産を制御することは可能だ ”  
 それから一拍、呼吸を置いて、勿論これは参考意見だが、と、後から小さく付け加えた。  
 
 これには、さすがの恭子も少しばかり沈黙した。触手と関係を持って半年を優に越えたとはいえ、  
それでも彼女は基本的に、一介の女子高生なのだ。あなたの身体を改造しますと言われて、ええ  
どうぞと即答できるほど、人生に達観出来てはいない。  
 だが、今更と言えば今更な話なのも事実だった。そもそもミノリが人の胎の中から、こうベラベラ  
と頭の中に話しかけてこれるのも、彼が子宮やら脊椎やらを大々的に弄り回したお蔭なのだ。  
 ただし、それは宿主の合意のもとの行いでは無い。今は蜜月な触手達との関係も、初めから  
平坦な道のりでやってきたわけでは無かった。  
 
 少しばかり考え込んで、恭子はふと、トリデスの動きが止まっていることに気が付いた。膣の中で  
硬さは保ったままだから、性欲が減退したというわけでもなさそうだ。  
「トリデス?」  
 疑問に思って呼びかけると、彼は触手全体をうねらせて返事した。しかし、相変わらず生殖肢は  
恭子の中で大人しくしたままである。そう言えば、胸に貼り付いた二つの口も、乳房を含んだまま  
で吸い上げる動きを止めている。  
 
「あっ……!」  
 そこで、ようやく彼女は理解した。彼らは恭子の様子を慮って、触手の動きを自重していたのだ。  
 これまでの二人では考えられないことだった。比較的繊細なオクトルやデッカならともかく、  
やんちゃ坊主と唯我独尊を触手で体現しているようなノーナ・トリデスが、こんな気遣いを見せた  
のは初めてだ。いつの間に、こんな丸い性格になったのか。  
 
 いや、変わったのは性格じゃない、と恭子は思う。その奔放な性格は、二人とも依然として  
変わってはいない。変わったのは、今恭子が抱えている問題が極めてセンシティブなものだと  
把握する、その人に対する理解力の方だ。  
 そんなものは、彼にとって、絶対に必要なものではなかった。以前のままでも、恭子は彼らと  
問題なくやっていたし、その事は彼らも解っている筈だった。大体、たった半年前、研究所の外に  
出た途端に飢え死にしかけた彼らには、他に身に付けるべきことがいくらでもあった。  
 では、なぜそんなものを身につけたのか。  
 
 
 つと、顔を上げて、恭子は言った。  
 
「ねえ、ミノリ君。君もやっぱり、おっぱいを飲んでみたいかい?」  
“いきなり何を言い出すんだ”  
「分類上は霊長類の君にもやっぱり母乳への執着があるんじゃないかと思って」  
“分類学上近いだけだと言ってるだろう。それに、母乳への執着というなら霊長類でなく哺乳…”  
「あーいい、いい。ただね、ちょっと考えるのも疲れたし、あんたの返事で決めようと思って」  
“……それは、飲みたいと言ったら、改造をやるということか?”  
 困ったようなミノリの口調に、恭子は実に楽しそうに応じた。「んふふー。内緒っ」  
 
 この時、ミノリに表情があったとしたら、とびきりの渋面を見せてくれたことだろう。こう言う時の  
彼女は、大抵もう答えを決めていて、ただ後押しが欲しくて聞いているのだ。  
 もちろん、彼は恭子の思考を覗いて、正解を知ることも出来なくは無い。しかし困ったことに、この  
六か月来の宿主は、彼が「知っていた答え」と「考えた答え」の差を、一瞬で見抜いてしまうのだ。  
 
 結局、恥を忍んで、胎の内の人造知性体は自らの本心を打ち明けた。  
“君の母乳に対する味蕾反応にも興味がある”  
「うんうん、飲みたいか。じゃーしゃあないね。ちょっと、胸を弄って貰おうかな」  
 そう言って、恭子は宜しくお願いしますと、お腹に向かって頭を下げる。  
 
「互いの生存と幸福のため、協力し合うのがミノリの共生の定義だったからね。しょうがない。  
でも、あんまり無茶なことして、乳首から触手が生えるとかは勘弁よ?」  
 
“心配するな ” 満面の笑みで茶化す恭子に、ミノリは真面目くさって言ってやる。“組織の改変  
はいつでも現状復帰出来る形で完璧に行う。母乳が分泌している間は多少のサイズアップは  
避けられないが、元に戻す時はミリ単位で原型を目指し、大きくなっても小さくなっても乱される  
であろう君の我儘な自尊心に最大限の配慮をしよう”  
「ほほう、正面から喧嘩売ってくるのは久しぶりじゃんか? 受けてたっ…!っひゃんっ!」  
 しかし恭子の応酬は、再開したトリデスの動きに阻まれた。  
 
 無理して中断していた分、彼らが焦れていたのは明らかだった。生殖肢は、先程とは打って  
変わってのハイペースで恭子の中を突き上げていき、足らない潤いを補ってやろうとクリトリス  
にも触手が伸びる。胸は胸で、貪欲な吸い上げが始まるとともに、沁み出た母乳を一刻も早く  
味わおうと伸ばされる舌が、両の乳首をころころと転がした。  
 
 性急な刺激でアップアップし始めた彼女に、ミノリは嫌味なくらいの平調で言う。  
“そんなわけで、綿密な計画を練る必要があるから、作業にかかるのは早くても明日からだ。  
今日のところは、途中で垂らしたりしないように、しっかりと絞り切ってもらいたまえよ”  
「ちょ、人をっ…ふぁ…っ…そんな雑巾みた……やんっ……いうなぁっ……!」  
 
 熟考を始めて押し黙るミノリに、恭子は無駄と知りつつも、そう叫ばずにはいられなかった。  
 
 
 
 

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