野々宮恭子も、それが一級の殺し文句である事は知っている。  
 
 およそ全ての少年たちが、女学生から一度は言われてみたい言葉の一つ。そして、言う側の  
娘達には、一般的にはまずあり得ない幸運、あるいは信頼が必要とされ、同時にあらゆる覚悟  
が要求される究極のカード。しかしそれは、この上ない誘い文句でありながら、尚、初々しさや  
清純さと言ったものを高めうる、魔法の言葉でもある。  
 
 ひるがえって、恭子も一女の子であるわけだから、それを使う未来について色々と妄想した  
ことが無いわけでは無い。いつ、どんなタイミングで、相手はいったい誰なのか。そういう、  
当ても無い物思いの記憶が、彼女の中に確かにある。  
 
 そんな、純情かりし過去の自分の全てを乗せて、恭子は思いっきり雰囲気を出して言ってみた。  
 
「あの、ね。実は、今夜、両親が家にいないんだ」  
“……それで触手に通じる訳ないだろ”  
「……だよねー」  
 
 何とも形容しがたい複雑な溜息をついてから、恭子はバッタリとオクトルの触手に顔を埋めた。  
 
 
1.  
 
 話は百時間ほど前にさかのぼる。  
 
 その日、期末考査という学生の本分をかなり満足な手応えで終えた彼女は、居間のソファー  
にひっくり返って、久しぶりの怠惰を満喫していた。  
 まだ結果は出ていないものの、今回はちょっとした自信がある。何しろこれだけ根をつめたのは、  
ひょっとすると受験以来かもしれないからだ。  
 
 勿論、それはミノリが宿主の勉強意欲を増進するよう脳ミソを弄った結果、ではなくて、恭子には  
ちゃんとした理由があった。食後に惰性で見始めたテレビを意味も無くザッピングしながら、彼女は  
ふと、手元の大学案内に目を落とす。その分厚い冊子の中で、端を折られたページ群には、幾つか  
の共通項が存在している。  
 
 例えば、"生物学科"とか。  
 
 実のところ、まだ決心がついたわけでは無かった。しかし、二年の夏ともなると、仮にも進学校  
たる恭子の周囲では、自然と進路の話が身近になってくる。そこで、彼女の生活を180度変えた  
事柄が、インセンティブにならないわけが無い。特に、それまでこれといって強い志望を持って  
いなかった彼女には、触手たちの存在は十分すぎる動機と言えた。  
 
 しかし当のミノリは、今のところ、進路について口を出すようなことはしていない。勿論、  
彼女の勉強には惜しみない協力をしてくれているし、その分野にかけて、絶大な助けにも  
なっている。だが、その将来の決定にはあくまで干渉すべきでないという考えのようで、  
彼女の要請に従って手伝うという態度を崩すことは無かった。  
 ただし、彼は随分前にふとした雑談で、“私の『体』の理解には、君はどちらかと言えば、まず  
物理と化学を専攻する必要がある” という趣旨のことを言った事もある。  
 
 そんなことを、つらつらと考えていると、流しの向こうから母親が声をかけてきた。  
「恭子、あんた試験休みいつまでだっけ?」  
「十七。それから、二日登校日があって、二十日から夏休み」  
「いいわねえー、学生さんはお暇で」  
 その皮肉に「はいはい」と素直に身を起こし、恭子は大人しく台所へと向かった。流しの横では、  
「あら、サンキュ」 と言いながら、既にしっかり両手の洗剤を洗い落した母親が待っている。  
 
 恭子が洗い物を引き継ぐと、冷蔵庫のカレンダーを見ながら、彼女は言った。  
「休み中の予定は?」  
「今のとこないよ」  
「夏休みからは?」  
「うーん、まだそれはちょっと」 と、そこで少し口調を改め、「あー、でも。今年はそろそろ、その、  
予備校の夏期講習とか、取ってみたい感じでは、あるんだけど」  
 それに、ふーんと、どちらにも取れそうな声で応じて、母親はカレンダーを見詰めている。  
 
 茶碗二つ分、洗う間待って、恭子は結局訊いた。「えと、いいの?」  
「何が?」  
「夏期講習の話」  
「ああ、それ。別にいいわよ。後で申込用紙見せなさい」  
「う、うん」  
 それから、再び押し黙る母。恭子は、何か腑に落ちないモノを感じつつも、言葉を繋げずに  
洗い物を続ける。  
 
 一通り洗い終わって、流しを片すと、母親はまだカレンダーと睨めっこしていた。さすがに不審に  
思った恭子が「何なの?」と尋ねる。すると野々宮家のドンは、しばし娘の顔を見詰めた後に、  
しみじみと言った。  
「いや、まったく色気のない予定だなぁと」  
「……あのね」  
 思わず半眼で恭子が呻く。しかし母親の方はそれに全く構わずに、何食わぬ顔で赤ペンを  
取ると、カレンダーに何やら書き込みを始めた。  
 
 さすがに馬鹿馬鹿しくなってきて、恭子はさっさとソファーに戻った。すると、すぐに母親の声が  
追いかけてくる。  
「まあ、安心ではあるんだけどね」  
「そうでしょうとも」 ソファーに顔を突っ伏しながら、恭子は返した。「娘が品行方正で、野々宮家の  
親御さんは全く幸せ者ですね」  
「いや、そうじゃなくてさ。母さんね、十五日からお父さんと出張が被るのよ」  
「へ?」  
「それで、四日ほど家を明けるんだけどさあ」 そこで一旦、言葉を切って 「夜中や朝方にゴソゴソ  
したり、最近、あんたどうも挙動不審じゃない。男の影があるような気もしないじゃないし、ちょい  
心配で、カマをかけてみたってわけ」  
 
 その時、恭子がソファーの死角に転がっていたのは、全くもって幸運だった。うつ伏せの姿勢の  
まま、彼女が棒のように固まっていると、母親は何気なく先を続ける。  
 
「まあでも、それにしちゃ色気無い格好はしてるし、最近勉強熱心なのも確かだし。娘を品行方正に  
育てたい親としては、色々と悩むわけですよ。わかる?」  
 勿論、分かる。これが、カマかけの本番だっていうことは。  
「うーん、それは多分疑心暗鬼ってやつじゃないですかね、野々宮の奥方」  
 敢えてわざとらしい演技で、恭子は言った。顔の方は、いまだ誤魔化しきれる自信がないので、  
ソファーのクッションに埋めたままだ。ボロを出すまいと背もたれの裏で、じっと固まることしばし。  
 
 いつの間にか台所を離れていた母が、テレビのリモコンを取りつつ言った。  
「そうねえ。ま、第一審査は合格かな」  
 
 
 六十秒後。自室のドアを後ろ手に閉めて、恭子はその場にぺたんとへたり込んだ。  
“絶 対 ば れ た ”  
“まあ、そうだな ”  
 さすがのミノリも、今回ばかりは一緒に苦笑するしかない。ヒトの母親の勘というものは、凡そ  
科学的常識の埒外にある。そんな話は、研究所時代にも何度か耳にしたことがあった。だが、  
現実にこう見せつけられると、その鋭さには全く舌を巻くばかりだ。  
“しかし、具体的に夜の脱出等が発覚したわけでは無いだろう”  
“うん。そこまでばれてたら、あんな感じで釘を刺すぐらいじゃ済まないよ。でも、今後しばらく、  
夜中に抜け出すのも自粛した方がよさそうね”  
“ちょうど長期休暇の迎えたのは不幸中の幸いだった。” そう言って、ミノリはしみじみとため息を  
吐く。“昼間にいくらでも会えるからな。まあ、この対策は一夏かけてゆっくり考えることにしよう ”  
 
 それからしばらく、二人は今後の方針について話し合った。今のところ、母親の疑念は漠然と  
したものに違いない。娘の隠し事に気付いた事は間違いないが、それをさほど問題視している  
様子は見られない。恐らく、言葉通りに男でも出来たかと当たりをつけているのだろう。それは、  
正解が余りに突飛なことを鑑みれば、かなり妥当な線だと言えなくもない。  
 ならば、今後はその方向で誤魔化してくのが順当だろう。つまり、巣穴への訪問は、その架空  
の恋人との逢引に偽装する方向で──  
 
“でもさ。でもさぁ、” 頭をゴリゴリ掻きつつ、恭子は言った。“相手、あの仔達だよ? そりゃあ、  
大好きなのは勿論だし、ぶっちゃけ、ヤルことだってヤっちゃってるけどさ。でも、いっつも面倒  
ばっかり見てて、最近じゃおっぱいまであげるようになって、わたし完璧にお母さんじゃん!”  
“この際、実態はどうでもよかろう。とにかく、これが母君に対して一番都合のいい説明だ ”  
“そうだけどさあ。わかってるけどさあ ” ベッドに身をどっさりと投げ出し、呻くように恭子は言う。  
“現実にはいもしない恋人を偽装とか、しかもそれが親相手とか、おまけに実態は触手とか、  
あ゛ーーう゛ーーもうっ!”  
“そう、私に言われてもな。君の葛藤は、理屈で理解できなくもない。が、この同情の仕方では、  
君は余計に怒るのだろう? ”  
“分かってるなら言うな!”  
 
 しまいに、んがー、と恭子は唸って、ベッドの枕をぼすぼすと虐待し始めた。恐らく、今日一日の  
色々な鬱積が、一気に爆発したのだろう。この場に連結した『体』があれば、その対象は間違い  
なく自分であったことを思って、ミノリは静かに哀れな枕へと黙祷を捧げた。  
 
 
 結局、それ以上の詮索は無しに、恭子の両親は愛娘を残して会社の命令に従った。見送りに  
立つ玄関で、母親は「ま、羽目外してもいいけど程々にね」というやや矛盾した日本語をのたまい、  
それに対して娘はきれいに引き攣った笑顔で手を振った。彼女の真の心内は別として、それは  
今後の偽装に望ましい影響を与えたと、ミノリは状況を評価した。  
 
 
2.  
 
 そして今、七月十六日午前〇時三十分現在。恭子は全ての腹いせに、大胆不敵な計画を  
実行に移そうとしていた。四体全ての触手を、自宅に招こうというのである。  
 
 発端は「折角の偽り間男疑惑、いっそ現実のことにしてやれ」という、恭子の完全なるヤケ  
だった。当然、ミノリはそれを宥める役割に回ったのだが、途中でふと、考えを改めた。  
 今後、二学期が始まれば、恭子が巣穴を目指す事は難しくなっていく。それでも触手と彼女の  
接触の機会を維持するには、どうすればいいだろう。その命題に、論理的に一番自然な回答は、  
こちらが行けないなら向こうに来させる、ということになる。その方策と実現可能性を検証するのに、  
今回はある意味最良の機会と言えるのではないか。  
 
 そんなわけで、話は冒頭に差し戻る。意地でも恋人っぽく迎えてみようという試みにさっそく  
玉砕した恭子は、気を取り直して次の手順にとりかかった。  
 まずは四体の触手達を、速やかに室内に入れなければならない。しかしながら、オクトルで  
すら入った事があるのはベランダまでで、他の三体はマンション近くに来ることすら初めてだ。  
そんな彼らを収容するべく、恭子とミノリとは、今日まで色々と計画を練ってきた。  
 
 ベランダの淵に立ち、例の犬笛を駆使して、恭子とミノリはまず、一体ずつ呼び寄せては、部屋  
に入れるという作業を繰り返した。ベランダには一体分しか隠れるスペースが無いため、人目の  
無いことを確認しつつ、三階分の建物の壁を登らせるには、この方法しかないのである。  
   
 ガラス戸を開けて、恭子はまず一番乗りのオクトルを自分の部屋へと導いた。なんといっても、  
彼はマンションに一番慣れている触手であり、ここが恭子の自室である事をよくよく知っている  
個体でもある。そのため、オクトルは彼女の誘導に従って、音も無くするりと室内へ体を入れ、  
そしてがさりという足音にビクンと一時停止した。  
 そんな触手のうちの一本を引っ張って、恭子は小さく耳打ちする。  
「あ、いいから、いいから。まずは、部屋の中に入っちゃお?」  
 
 触手の足音の正体は、床に敷き詰められたレジャーシートだった。森で生活する彼らの外肢は、  
基本的に土だらけなので、それを洗うまでの一時的な措置である。  
 彼を室内に押し込めて、そこで大人しくしているよう言ってから、恭子は再びベランダに戻った。  
そこから、例の犬笛を使って、残りの三体を自分の下に誘導する。  
 
 事前に、オクトルの進入を真似するよう言ってあったので、三体は皆、迷わずに彼女のベランダ  
へやってきた。だが、やはり建物は木々と勝手が違うのか、よじ登るのに少しもたつくものもあり、  
その度に彼女は冷や汗をかく。オクトルが初めての時は、"直結"の状態で前もって上り方を覚え  
こませておいたのだ。  
 
 だがとにかくも、五分後には四体ともに、無事室内に収まった。恐らく、誰にも見咎められては  
いないだろう。一番緊張する行程を終えて、恭子は一先ずため息を吐いた。  
 
 カーテンを閉めて電気をつけると、室内はそうそうたる状況だった。強引に押し込めた四体分の  
触手は、恭子の部屋を端から端まで、アマゾンの密林もかくやという密度で埋めている。それも  
そのはず、彼らは単純比較で恭子二十人分の質量なのだ。  
 
「すっごー。なんというか、窒息しちゃいそうだよね」  
“空気の循環量は巣穴より多い。マンションなど高級集合住宅における通風は、その密閉性の  
高さに起因する中毒事故が過去に多数起こったため、現在は格段に改善されている”  
「……時々思うんだけど、ミノリのその無駄知識っていったいどこから仕入れてるわけ?   
もはや物理も化学も関係ないよね」  
“一般教養”  
「んなわけあるかいっ!」  
 そんないつも通りの無駄話にしても、今日の恭子は少しばかりアップテンポだ。ここまで来ると、  
何となく小学生の頃の悪戯──例えば、親に内緒で部屋に猫を飼おうというような──のノリである。  
 
 それから彼女は、拾い猫同様に、触手をお風呂に入れようとしたのだが、これが中々に骨の  
折れる作業だった。まず第一に、ノーナ以外の個体はどうやったって浴室に入らない。そこで、  
ドアを開け放したまま半分ずつ、デッカに至っては三分の一づつ洗うのだが、当然浴室に続く  
洗面所は、気を抜けば一瞬で水浸しになる。  
 おまけに、びしょびしょに濡れた彼女と狭い所くんずほぐれつしておいて、彼らが大人しくして  
いる訳が無い。少なくとも、洗い終わるまではしないという意思表示のつもりで、恭子はぬれ鼠  
覚悟でTシャツと短パンを身に着けていた。が、それでも悪戯半分、情欲半分で襲いかかる  
触手達を完全にかわす事は、現実的には不可能である。  
 
 そんなこんなで、ミノリと二人で彼らを座敷犬ならぬ座敷触手に仕立て上げた頃には、もう  
三時を過ぎていた。キレイになった彼らを一旦リビングに集めておいて、恭子は一旦台所へ  
向かう。  
 
「う〜、小っ腹空いた。なんか無かったっけ」  
“流しの下の戸棚に即席麺・409kcal・三分。冷凍庫に焼きおにぎり・138kcal/個・二分。  
夕飯のマーボー茄子の残りの温め直し・200kcal程度・味直し含め十分”  
「……う゛〜む。聞いといてアレだけど、ミノリは時々物凄く勿体無い方向に便利デスネ。」  
“単に君が勿体無い使い方をしているだけだと、私は考える。”  
 
 精一杯、皮肉っぽい口調そういうミノリ。しかし冷蔵庫のメモ帳代わりされた知的寄生体の  
愚痴は、宿主の空腹の前に敢え無く流された。用意も片付けも簡単なおにぎりを選ぶと、  
恭子はいそいそとリビングへ戻る。  
 
 四体の触手は、部屋の中心でどこか所在無げに固まっていた。何分、初めての場所だから、  
どうしても緊張が取れないのだろう。彼らは基本的に、恭子以外の人間の匂いがする場所では  
警戒を解かない様、ミノリに刷り込みをされている。  
 しかしそんなことなどお構いなしに、恭子は指を差してくすくすと笑った。  
「初めて上がった彼氏の部屋で、座る場所がベッドしかない女の子みたい」  
“伝聞のみでしか知らない事例による当て推量は、適切とは言えない ”  
「……笑っちゃ可哀想って思うんだったら、素直にそうと言えばいいのに」  
 
 そこで恭子は、一番大きなデッカをひっくり返すと、それをソファー代わりにして寝転んだ。  
おにぎりの皿はそばの触手に適当に持たせて、仰向けのままむしゃむしゃと夜食を頬張り  
始める。こうして寛いだ態度を見せて、彼らにここが無害な場所である事を納得させる作戦  
である。  
 
 それは勿論うまくいった。が、やはり勿論と言うべきか、うまくいき過ぎて数瞬後には、少女の  
身体は肉製ソファーに縫いつけられる。  
「……おーいデッカ、わたしゃまだご飯の途中だぞー」  
 何となく予想は出来ていたものの、ついジト目になって恭子は言った。しかし最近は触手の方も  
慣れたもので、素早く皿のおにぎりを取ると、「ささ、お姫様」とばかりに、彼女の口元に差しだして  
くる。  
 
 それについ吹き出してしまって、恭子は大人しく負けを認めた。  
「はいはい、ありがと。"いいよ"。ただし、エッチはわたしが食べ終わってからだからね」  
 お許しを出すと、他の三体も一斉に少女の体に群がってきた。Tシャツは一瞬で捲くり上げられ、  
短パンと下着は呆れるほどの連携ぶりで、一瞬にして引き抜かれる。そして露わになった娘の  
素肌に、四体の触手が思う存分に巻き付いた。  
 しかし、もはやそれぐらいで動じる恭子ではない。ゆったりと力を抜いて全身を触手に任せると、  
目を閉じて「あーん」と口を開ける。すると、触手達は親鳥よろしく、小分けにしたおにぎりを  
せっせと少女の口に運んだ。  
 
 この状況が、恭子には少し愉快だった。こんな風に餌付けする立場は、ずっと彼女のものだった  
のだ。狩りもままならない頃は、恭子がせっせ運びこむ食糧で、彼らは命を繋いでいた。そして  
最近では、ふとしたことから母乳を与えて事にもなった。  
 今日、その関係が変わったという訳では無い。が、妙なモノを飲まされた事はあっても、こうして  
まともな食事を触手から食べさせて貰ったのは、今回が初めの経験になる。  
 それが少し嬉しいような、くすぐったいような。愉快な気分なのは確かだったが、そうと  
意識するのはどこか気恥ずかしい部分もあって、つい恭子はミノリに無駄話を振った。  
 
「はむ、んぐ……ん。美味しいけど、ちょっと塩気足りないなあ。柚子胡椒振っていい?」  
“お好きにどうぞ”  
「オクトル、向こうの棚の、左から三番目の黄色い瓶。お願ーい。……そういや、最近しょっぱい  
ものがやたらと欲しいんだけど、塩分過多になんないかな?」  
“問題ない。君の感覚は、体内のナトリウムバランスを反映した正常なものだ”  
「そっか。やっぱ夏だから汗掻くのかな。ここんとこ試験勉強で引きこもり気味だったけど」  
“半分だけ正解だ。汗を掻いたのは君では無く"体"の方だ。この暑さの中、一日中屋外で  
活動しているからな。彼らの不足を補うべく、母乳の塩分濃度を上げておいた”  
 
 思わずもご、とおにぎりを詰まらせてから、半眼になって恭子は言った。  
「……ちょっと、そういうことする時は前もってわたしにも相談してよ」  
“体調管理は私に一任するんじゃなかったのか?”  
「いや、そりゃそうだけどさあ。おっぱいとか、そういうの弄る時は……」  
 やや尻すぼみになりつつも、恭子はごにょごにょと愚痴を垂れる。それに対して、ミノリは  
言葉を返さなかった。  
 彼女の不平は分からなくも無い。だが、母乳の生産と摂取栄養の関係性を説明した際、  
「じゃあ、もうダイエットしなくていいのね!?」  
 と目を輝かして言われた彼の心情なども、少しは汲んでほしい所だ。  
 
 しかし、ぶつぶつ言いながら、こっそり抜いた左手で恭子が胸のあたりを弄っていると、突然  
触手に動きがあった。  
「ふえっ?……わ、ちょっといきなりっ」  
 膨らみに食い付いた触手──恐らくはトリデスの口管とデッカの筒状の舌──が、いきなり  
吸い上げを開始したのだ。そして周りの触手達も、彼女に催乳感を起こさせるべくふにふにと  
乳房を揉みこみ始める。  
 焦らしすぎて暴走したか。最初はそう思ったものの、それでトリデスはともかくデッカまで  
動き出すというのはちょっとおかしい。何なんだろうと悩んでいると、正解は例によって  
胎の間借り人から勝手に届いた。  
“おっぱいとか言いつつ胸元を弄っていたから、飲んでもいいと勘違いしたんじゃないか ”  
「うぐ。それなら…っん……仕方ないか」  
 
 もともと、自分が一人で夜食をかっくらっていた分、恭子にも少し引け目がある。ここで彼らに  
だけ「おっぱい飲むな」と言うわけにもいかず、彼女は夜食の方を切り上げることにした。  
 流石の恭子も、触手に胸を弄られつつ、食事を続けられる程の器は持っていない。  
 
 だが、それはそれとして、冷めていく焼きおにぎりは勿体無い。そこで、彼女は一計を案じて、  
オクトルを呼び寄せた。それから、彼女の口元に触手で並べられたおにぎりの欠片の集団を  
指し示し、言う。  
「さっきのお礼、食べていいよ」  
 
 ところが、オクトルは動かなかった。恭子の目の前に頭を伸ばして、その頬や唇にペタペタと  
触手を触れさせているが、おにぎりの方には見向きもしない。嫌いだから食べない、といよりは、  
恭子の言葉が理解できていない様子である。何でも察しのいい彼には珍しいことだ。  
 
 そこで、ミノリがぴしゃりと言った。  
“お礼という名目で残飯処理を企む、君の悪辣さに気付いたに違いない ”  
「んなっ、適当な事……ぁんっ…言うなぁ」  
 彼の皮肉がかなり的を射ていることに、恭子は内心冷や汗をかく。だが、ここで引くとそれを  
認めることにもなる気がして、彼女は必死に頭を巡らせる。  
 と、その時ようやく両方の胸から乳汁が出始めた。デッカとトリデスは待ってましたとばかりに、  
赤ん坊のごとく吸い立て始める。  
 それで、恭子はふと閃いた。食べない理由はよく解らんがこいつらも所詮哺乳類、ということで、  
赤ちゃんみたいに、口移しで食べさせたらどうだろう。  
 
 丁度よく、胸元の触手は一時的に大人しくなった。出初めは母乳にも勢いがあるので、彼らは  
飲むのに必死になるのだ。これで終わりの方になると、また乳房で遊び始めたりするため、  
計画を実行するなら今がチャンスである。  
 
 そこで、顔の周りのおにぎり達を、口に入るだけ頬張ると、恭子は目を閉じ唇を突き出した。  
今度はオクトルも察しよく、彼女に向かって頭を落としてくる。元々がキス魔の彼であるから、  
恭子に求められて機嫌よく大きな口を寄せ、上手に窄めて彼女の唇を吸ったところで、  
 恭子はそっとおにぎりを押し込んだ。  
 
 いきなり固形物を押し込まれて、触手は一瞬、ビックリしたように固まった。だが、目の前で  
恭子がしてやったりという顔で笑っているのを見ると、徐に口を動かし、咀嚼して、飲み下し。  
 次の瞬間、少女の口へを無数の触手が殺到した。  
 
「ほがっは、はっはりほひむっはあ(あっはは、やっぱり美味しいんじゃん)!」  
 元々、中いっぱいにおにぎりをつめた口であるから、喋ることなど叶うはずも無い。それでも、  
恭子が無理やり笑いたくなるほど、オクトルは貪欲におにぎりを求めた。結果、少女の小さな  
口腔は一瞬にして空になり、それでも僅かな味の残滓を求めて、幾重にも分岐した舌が彼女の  
口を隅々まで這い回る。歯と歯の間、歯茎と頬の間を拭い切って、しまいには恭子の舌を扱き  
始めた。一見するとディープキスに見えなくもないが、ここまでいくと単なる歯磨きの様相である。  
 
 それをくすくすと笑っていた恭子だったが、彼女の余裕もそう長くは続かなかった。トリデスと  
デッカの触手が、本格的に恭子の体を責め始めたのだ。  
「ひゃぶ……はんっ…ほご」  
 不意を突かれてやや吃驚した声を上げたが、今度は彼女も不平を言う事はなかった。確かに  
食事は終わっているし、彼らから見れば、勝手にオクトルと事を始めたように見えただろう。  
 それに、いい加減焦らすのが可哀想な頃合でもある。  
 
「ほふ、はあー……んぐっ」  
 深呼吸と共に、全身の力をゆっくりと抜く。すると、そのタイミングに合わせて、早速トリデスの  
生殖肢が入ってきた。中の状態はまだまだ準備不足だが、トリデスのものも同じく柔らかい状態で、  
胎に収めたまま動かない。抽送よりも、こうして中に入れたまま色々するのが、彼の好みのようで  
ある。  
 デッカはソファー役の地の利を生かして、身体の背面を満遍なく覆っていた。うなじから尾てい骨  
に至るラインを、お腹に生えている細く繊細な触手で丁寧に刺激する。そしてちょうど頭に来た  
娘のおしりを、その巨大な口でチュッパチャップスのように、丸ごとぺろぺろとしゃぶり始めた。  
舌は時折前面にも回って、彼女の敏感な実をいたずらに摘んだり、或いは潤いを胎へ移したり  
している。  
 
 そして二人は、胸での愛撫も続けていた。トリデスはいつも通り、口管を先端にある四枚の  
花弁でしっかりと膨らみに吸い付かせ、右胸をぎゅっぎゅっと絞っている。もう殆ど母乳は止まって  
いるものの、元々こうしておっぱいで遊ぶのが動きが大好きな彼は、特に気にした様子はない  
ようだ。そして、左のデッカの分まで、隙あらば奪おうと食指ならぬ触手を伸ばしている。  
 デッカはデッカで、その長い舌を器用に使って、漏れた乳汁を舐めていた。彼はトリデスほど  
徹底した搾乳手段を持っている訳ではないので、乳首や乳腺が刺激されると、未だ少し母乳が  
漏れ出てくるようである。それがデッカには面白いらしく、乳輪に舌を張り付かせた状態で、  
乳房をふよふよと揺らしている。  
 
 首から上は、完全にオクトルの独壇場だった。彼は体をくの字に曲げて、無数の触手が集まる  
その中心に恭子の頭を掻き抱いている。頬や額では大小様々な触手がのたくり、閉じられた瞳は  
繊毛触手が、優しく瞼越しに撫でていた。そして口では、外殻付きの触手を嵌めて、他の触手の  
刺激で誤って噛まないようにした上で、相変わらず深い接吻が続いている。その下の顎には、  
既に硬くなり始めた生殖肢がねっとりと押し付けられているものの、まだ口に押し込む段階では  
ないらしい。  
 
 オクトルを除けば、全体的に触手側が楽しむ愛撫だった。だが、それでも恭子の身体は、彼らを  
受け入れる牝として、徐々に火照りを帯びていく。  
 段々と呼吸が早まるにつれて、胎の生殖肢も次第に力を持ち始めた。それは静かに挿さったまま、  
じわじわと体積を増していって、恭子の胎を内側からゆっくりこじ開ける。  
「んぐっ……ぁ…はうぅ」  
 次第に高まる異物感。それは、自分が触手にすっかり貫かれている事実を、恭子に否応なく  
認識させた。下手に激しく出し入れされるより、この方がずっと繋がっている感覚が強い。  
 
 そんな彼女の心内を知ってか知らずか、トリデスはゆっくりと生殖肢の蠕動を開始した。奥に  
埋めたまま全体をゆったり波打たせてみたり、或いはぐりぐりと捻ったり。自分の形を、少女の  
胎に覚えさせようというような動きだ。  
「ぁぐう……はふ、…あぶっ……すん」  
 決して、強い性感をもたらすものでは無い。けれど、それは肉体と精神の両面から、娘の身体  
を緩めていった。ぎちぎちと締め付けるだけだった膣に滑りが生まれ、トリデスの蠕動も少しづつ  
スムーズになっていく。  
 
 恭子の変化に従って、他の触手も徐々に動きを変え始めた。デッカはちゅぱちゅぱとした  
尻舐めをやめ、臀部全体を口に含んで、ねっとりとした愛撫に切り替える。胸部へ伸ばしていた  
舌も一旦戻して、尻たぶと股座の間でのたくりだした。それらのうちの一本は、時々オクトル  
と膣の間に差し入れて、彼女の濡れ具合を探っている。  
 空いた左胸には、既にトリデスの口管が食いついていた。そしてデッカの飲み残しを、好機と  
ばかりに吸い上げている。無論、元いた方の右胸は、別の触手でしっかり確保したままだ。  
 
「はごむぅ……んく、んじゅるるぅ」  
 口にも、オクトルの生殖肢が入ってきた。口腔で大量に蠢く群れの中に、一つだけ違う  
味のするそれを感じ取ると、恭子はほとんど反射的に吸い上げる。この辺りは、何も考え  
なくても、身体がそう反応するように覚え込まされてしまっていた。  
「れむ……あむむぅ………は、はふ」  
 同時に舌も絡めていく。しかしちゃんとした口唇愛撫をするには、いささか余分な触手が多すぎた。  
恭子がいくら目当ての生殖肢を探ろうとしても、彼女の舌は他の触手に押し流されて、思うように  
相手を探れない。  
 ややあって、それはオクトルがわざとやっていることに気が付いた。ので、恭子はうっすらと目を  
開け、目の前の頭に唸りつける。  
「んぱぁ……う゛ーー、ほぐほるー?」  
 
 するとすぐ、彼はごめんなさいと言うように他の触手を退散させた。そしてだいぶ固くなって  
きた生殖肢を、ちゃんと舐め易い形で彼女の舌先に押し当てる。  
「もー。あんま意地悪してると、してやんないぞ」  
 溜息交じりにそう言って、恭子はフェラチオを再開した。妙な所で妙な悪戯を仕込むのは、  
オクトルの生きがいのようなものだから、こうぞんざいに扱うのは少し可哀想な気がしなくも無い。  
が、今日の相手は彼だけでもないのだから、ここで疲れ切ってしまうわけにもいかないのだ。  
 
 そのことを恭子に思い出させるように、トリデスの生殖肢が抽送を開始した。  
「あぶ……れるん……んちゅ、ふぁああっ!」  
 十分にほぐされた柔肉の中を、熱くたぎったトリデスのものが我がもの顔で行き来する。しかし  
じっくりと慣らされた恭子の膣は、それがさも当然のように、触手の性器をもてなした。引き  
抜かれれば縋り付くように襞を絡める。突き込まれれば歓喜の収縮を持って抱きとめる。  
 時間をかけて自分好みに仕上げた密壺を、トリデスは存分に楽しんだ。単純な出し入れに  
恭子が段々慣れてくると、わざとペースを崩して呼吸を乱す。それにも息を合わせてくると、  
今度は胸の触手を引き絞って少女の身体を跳ねさせる。上と下の敏感なポイントを全て  
押さえたトリデスに、恭子は全く振り回されっぱなしの状態だ。  
 
 だが、それだけに触手の興奮も大きかった。抽送のペースはどんどん上がって、奥を叩き  
付ける乱暴な突きが増えてくる。胸の触手は痛いぐらいに膨らみを締め上げ、口管から漏れる  
荒い吐息が、左の乳首にかかっていた。トリデスらしくない荒い責めだが、それだけ彼に  
余裕が無い証拠だろう。  
 途切れがちな思考の端で、そろそろ来ると思った瞬間。トリデスは恭子の下半身をしっかり  
縛り直すと、ついに自分を終わらせる動きに入った。  
 
「んああっ……はんっ!…あうっ…はんっ!…ひゃう゛っ……!」  
 一突き一突きが全部奥まで入ってくる、完全に出す事だけを意識した動き。それでも恭子の  
口からは、甲高い嬌声が途切れなかった。トリデスが仕上げた少女の胎は、触手の攻めを全部  
快感へと変えていく。  
「はう゛うっ……あぶっ……んっはあぁ、…あんぅっ!」  
 ここに来て、さすがに恭子も他に気をやる余裕が無い。下手に銜えさせても噛まれるのがオチ  
なので、オクトルは一旦口の生殖肢を下がらせた。久し振りに得た自由を使って、恭子の喉が  
大きく息を吸いこんだ瞬間。  
 
 奥をこじるように突き拡げてから、胎の生殖肢が傘を開いた。  
「やあぁっ…だめっ…んああぁああっ!」  
 一旦中ほどに身を引いて、トリデスは勢いよく歓喜の精を吐き出していく。十分に踏み拡げ  
られた少女の奥は、その柔軟性を持って元の狭さに縮まる前に、触手の精液で埋められた。  
太った亀頭を狭い入口に引っかけ、出口をきつく絞ったまま、トリデスは肉に覚えさせた自分の  
型へ、白い粘液を満たしてく。  
 
「はあっ…はあぁ……・はぁ…だめ……無茶だよ…トリデス、入んないよ…」  
 しまいに、そう恭子が呟くのを聞いてから、彼は満足げに触手を入口から引き抜いた。  
 
 
3.  
 
 恭子がまともな思考を取り戻したのは、五分後だった。高みに上げられた身体がようやく元へ  
戻って来て、意識に掛った白い霞も晴れてくる。そこでふと、今は何時と時計を確認しようとして、  
恭子は小さく声を出して笑った。  
 今日は初めから自宅にいるのだ。なのに家に帰る心配なんかして、馬鹿みたい。  
 
 それは、実にいい気分だった。夜明けの時間を気にかける必要は無い。終わったら人目を  
忍んで山を下る必要も無い。何なら、ここで触手に抱かれたまま寝てしまったって構わない。  
たったそれだけの事実が、恭子に意外なほどの幸福感をもたらした。事後の疲労にそのまま  
まどろめる自由と言うのが、こんなに甘美なものだったとは。  
 
 勿論、今すぐにという訳にはいかないけれど。股間と口元に二人の生殖肢が押し当てられる  
のを感じながら、恭子はそう思ってくすくすと笑った。それでも、たとえ途中で寝こけたりしたって、  
心配することは何一つない。別に寝ながらされたっていいし、一眠りして、目を覚ましてから、  
また始めたって構わない。  
 でも、デッカを入れたまま寝るのはさすがに無理かな。オクトルは寝ちゃったら、わたしに  
気を使ってやめちゃいそうだ。人が寝てようが何だろうがお構いなしやりそうなのは──  
 
「……て。あれ、ノーナ?」  
 ふと気がついて恭子はあたりを見回した。肌に触れている触手に、ノーナのものを感じ無い。  
一見してリビングにいる様子もないし、耳を澄ましてもそれらしい物音は……  
 
  ガーー  
 
「ガー?」  
“……あ”  
 先に気付いたミノリが、非常に気まずそうな声を上げる。それに何なの?と恭子が聞き直そう  
とした瞬間、台所の方から、チン、と小さな電子音が聞こえてきた。  
 より正確には台所に設置してある電子レンジの方向から。  
 呆気にとられて固まる恭子。その視界に、カウンターの死角からレンジの蓋へと伸びる幾本かの  
触手が映り。  
 
「のぉおおおーなあああぁーー! アンタ一体何やってんのっー!!」  
 夜明け前の集合住宅にて、非常に迷惑な甲高い悲鳴が響き渡った。  
 
  *  
 
 ミノリによる実況見分の結果は、以下のとおりである。  
 
 ノーナは群れで最も小さな個体であり、二番目のオクトルとも二倍近くの体重差がある。  
よって、今回のように獲物を自由競争にて取得する現場において圧倒的に不利である事実は  
否めない。そのため以前は、自らの欲求を通すため強引な行動をとることも多かった彼だが、  
余り無茶をすると恭子に怒られることを学習した最近では、自制をもって好機を待つ忍耐を  
憶えていた。  
 
“而して今回。他個体の脱落を待つことを決めたノーナは、その持前の旺盛な好奇心を持って、  
空き時間に君の行動、即ち『冷凍保存食品の解凍』という行為を解析することを決意し、”  
「結果として、十二個もおにぎり焼いちゃったのね」  
 
 はあ、とため息をついて、恭子が結語を引き取った。彼女はデッカに乗ったまま、今は台所の  
カウンターの前にいる。あの後、慌ててレンジに駆け寄ろうとした彼女は、腰砕けで立つことすら  
ままならず、結局足場ごと移動してきたというわけである。  
 そして当のノーナは、おにぎりごとオクトルにしっかりと捕まえられていた。その捕縛は、一応、  
恭子の意を汲んでのこととは思われるが、押さえつけ方から鑑みるに、もう少しオクトルの  
個人的なものが絡んでそうだ。やっと自分の番いうところで、中断になった恨みとか。  
 
 そんな殺伐とした感がしなくも無い触手達に対して、人間(?)サイドはどちらかと言えば、  
事の顛末にほっとしていた。  
“ま、大きな事故にならなくて良かったな”  
「そーね。レンジは壊れず、ノーナも無傷で、被害総額は七百円。一歩間違えば、結構ヤバかった  
感じだもんね」  
 焼きおにぎりで本当に助かった。卵でも入れていた日には、目も当てられないこととなった  
に違いない。そう思いつつ、恭子は同僚に制裁を続けるオクトルの触手から、夜食の残骸を  
拾い上げる。  
 
 おにぎりの状態は様々だった。すっかり水分が抜けて岩の様になっている物もあれば、中身が  
まだ半分凍っているものもある。ノーナは、十二個すべての冷凍おにぎりを一度にレンジへ放り  
込んで、適当にダイヤルを回したらしい。その結果、あまり高級でない野々宮家のレンジでは、  
大幅な加熱ムラが出たようだ。これら全てを人間様にも美味しく食べられるようにするのは、  
随分と手間を食いそうである。  
 
 なので、触手に食べさせることにした。先ほどのオクトルのがっつきぶりからして、彼らの舌に  
合う事は間違い無い。そう思って、恭子が手近にあるデッカの口に押し付けたところ。  
「……あれ。やっぱりだめ?」  
 オクトルの時と同じように、触手は全く反応しなかった。そこでふと思い出して、口移しで  
食べさせてやると、これはおいしそうに頬張った。ところが、もう大丈夫かと再び直接食わせ  
ようとすると、前と同じようにすぐそっぽを向いてしまう。  
 他の二体も同様だった。(トリデスは、飲むもの飲んで出すもの出して満足らしく、既に部屋の  
隅で丸くなって寝ていた) あんなにがっついていたオクトルですら、恭子の口に収まったもの   
以外は、絶対に触手を伸ばそうとしない。その癖、一度彼女の口の中を経由したやつであれば、  
固かろうが半生だろうがそれはそれは美味しそうに咀嚼している。まるで、恭子が一度毒見  
しなければ、食べ物だとは信じないというような態度だ。  
 
「なんだろうね、これ」  
 口移しで三体に満遍なく分け与えながら、恭子は疑問を声に出して言った。甘え方の一種、  
と言われて普段なら納得出来ただろう。しかし、今回はどうも様子が異なる気がするのだ。  
以前彼女が食糧を巣穴に持ち込んでいた時、こんな事はただの一度も起こらなかった。  
 そして、何より不思議なのは、こう言う時は頼んでも無いのに率先して夢の無い解説を始める  
ミノリが、ずっと黙っていることだ。  
 
「ミノリは、何か思うとこ無い?」  
“さあな。冷凍の癖に余計な添加物を使うのは、感心しないという事ぐらいか ”  
「いや、そうじゃなくて……あ、実はミノリも食べたかったりして? 何なら、今度"直結"してる  
時に試してみ…」  
“結構だ。 ” 突然、ミノリが遮って言った。  
 
「……ミノリ?」  
“すまない、何でも無いんだ ” すぐに穏やかな口調に戻って、彼は言った。だが恭子に言わせれば、  
それはいささかやり過ぎだった。  
「あの。もしかして食べさせてるのまずいかな。なら、えと……」  
“問題はない。"体"たちの……つまり、オクトル達も喜んでいる訳だし、君が良ければ是非  
続けて貰いたい。何と言っても、貴重なデンプン質だからな ”  
 最後は茶化すように付け加えて、胎の寄生体は口を閉じた。これ以上、宿主の餌付けを  
邪魔しては悪い、とでも言うように。  
 
 結局、恭子はそれに乗った。口のおにぎりをノーナに押し込み、両手でデッカとオクトルの  
頭を抱き寄せる。食事が再開されたと気付いて、彼らは自分からおにぎりを割り、恭子の口に  
差し入れた。一度口を閉じ、再び薄く唇を開ければ、迎えの触手がすぐさま口腔に入り込む。  
それでも、相変わらず直接自分には運ぼうとはしない。  
 
「はむ……んごぉ……はふっ、いい加減口が疲れて来たよ」  
 半分ほど食べさせたところで、恭子は一度休憩を取った。今や握り飯を入れるのも出すのも  
全部触手任せの状態だが、それでも七合分のご飯というのはかなりの量だ。口を開けている  
だけでも疲れてしまう。  
 休んでいる間、触手は彼女の口の中に舌を入れて、執拗に後味を探っていた。そこまでする  
なら自分で食べれば……と言うべきでないのは、先ほどのミノリの反応で何となく分かったが。  
 
 彼らしく無い、強い口調だった。実際には脊髄越しの疑似脳波だが、それでも言葉に感情が  
入っているのがはっきりと分かった。大体、ミノリが恭子の言葉を遮るということ自体が、普段は  
まず無いことなのだ。  
 それが、この触手の不可解な行動と関係あるのは間違いないだろう。だが、理由を興味半分に  
知りたいと思う気持ちは、もう恭子には無くなっていた。  
 彼女は、明らかに地雷を踏んだのだ。実際は人一倍感情的な生き物の癖に、それを理知的な  
知性体というアイデンティティーのために必死になって偽装しているミノリ。あれは、そんな人造  
生命体が思わず本音を漏らしかける程の、地雷だった。  
 
 もちろん、だからと言ってそっとしておくつもりはさらさら無い。相手の脛に傷があるなら、見ぬ  
ふりしないで治しにかかるのが野々宮恭子の信条だ。それに、彼らの関係において、恭子が  
触手の行動原理を知っておくことは絶対の条件である。いくら脛の古傷だと言われても、放置  
していい問題では無い。  
 だが、タイミングぐらいは選んであげるべきだ。こんな片手間の状況ではなく、じっくり座って  
真剣に聞いてあげなくちゃ。  
 
 そんな事を、真面目につらつらと考えていたせいか、恭子はいつの間にか口周りから、  
舌と焼きおにぎりが消えていることに気付かなかった。  
 
 
4.  
 
 考え込んでいた恭子がようやく触手に気を戻したのは、デッカの舌が彼女の外襞をそっと  
捲ってからだった。  
「んぁ……あれ?」  
 顔の周りに残っているのは、彼女の首を支える触手と、ノーナの生殖肢一本のみ。触手の頭は  
三つとも、下の方へと移ったようだ。  
「ふぁっ……んっ…や……うぁ」  
 間もなくして、秘部の周りで本格的な愛撫が始まった。デッカは力強い太い触手で、膝から下  
をしっかりと固定し、恭子の股を限界まで開かせる。そして太股から上には、やや柔軟で伸縮力  
のある細めの触手を巻き付けると、ぎゅっぎゅっと筋肉を解すマッサージをし始めた。そして、  
自然に蓋を開き始めた娘の貝へ、細い触手を丁寧に触手を当てていく。  
 
 オクトルは股間から胸部を覆っていた。いつも通り、多くの触手を割いて恭子の下腹をすっぽり  
包み、冷えに弱いそこを保温している。顔はデッカと一緒に股座に突っ込んで、秘部へ繊細な  
触手伸ばしていた。  
 
「はん……ひゃ…んんー…」  
 二体の触手は、決して乱雑には動かない。繊細な触手で恥丘をそっと押し開き、膣前庭へ  
柔らかな舌を押し当てる。陰核には繊毛状の触手を絡ませたま、動かさず静かに圧迫する。  
まるで、トリデスに激しく踏み荒らされたそこを癒そうとするような動きである。  
 
 だが、触手の意図は治療ではでは無い。  
「はふ……はぁー……っや」  
 内側に一本、細いが力のある、筋肉質の触手が入ってきた。一旦、奥まで潜ってから、  
子宮口に頭を押し当て、体をグイとくの字に曲げる。それを、方向を変えて何度か試しながら、  
触手は胎の状態を確かめた。  
 トリデスの激しい抽送を受けたそこは、少し時間がたったとはいえ、まだ十分に開いていた。  
そして彼の出した大量の精液は、内側に十分すぎるほどの湿りを残している。  
 
「んぁ……あっ。…へぅ」  
 偵察の触手は割合すぐに引き抜かれた。次いで、オクトルの生殖肢が入口にぺとりと当て  
られる。今日はいささか、彼に対して焦らし過ぎた自覚が恭子にはあるので、彼女は目を  
閉じたまま、あっさりと首を縦に振った。  
 
「ん。いいよ……ふあぁ!」  
 狭い入口を潜り抜けると、触手は一息に最奥まで入ってきた。恭子の中が出来上がっている  
のに加えて、今回は大きくまんぐり返しにされたような体勢のため、膣道がまっすぐになっている  
のだ。勢いよく入った反動か、中に残っていたトリデスの精が、ぐちゅっと若干嫌な音を立てて、  
内襞の隙間から飛び出していく。  
 そこで一旦、オクトルは生殖肢の動きを止めた。恭子の息に特段乱れたところは無いが、  
それでも必ず、彼のものが恭子の身体に馴染むまで一呼吸入れようとするのが、オクトルの  
オクトルたる所以である。  
 
「はふ……ん?…むぐぐぅ」  
 その隙を突いて、今度はノーナの生殖肢が口の中に入ってきた。彼はようやく空いた恭子の  
膨らみに吸いついて、そこから上を支配している。母乳が出るにはもうしばらく時間がかかりそう  
だが、それまではあまり独り占めする機会の無い乳房を、存分に楽しもうという構えのようだ。  
 いつものことながら、なんだかなあと溜め息をつきたくなる所ではある。が、  
「むが……んく、んちゅ、あむ……」  
 今日の失態は、恭子が一人ハブられていたノーナを、ほっぽり出していた責任が大きい。  
なので、彼女はお疲れ気味の舌に鞭打ち、触手の性器を舐め上げて行く。  
 
「むぐ…あむ……んああっ」  
 ややあって、オクトルの生殖肢も上下運動を開始した。ゆっくりと奥に突きいれてから、傘の  
返しの部分でもって、恭子の壁を掘り返す。特に浅いお腹側の部分をエラで擦ると、はっきり  
とした性感が、少女の胎へ伝わった。  
「はうっ……れるぅ……はんっ!……あむぅ……」  
 触手のペースに合わせて、恭子の息も上がっていく。それは徐々に規則的になっていき、  
やがては生殖肢の抽送とぴったり一つに重なった。  
 
 この状態は、恭子が触手との交わりの中で、最も好きな瞬間の一つだ。イく時のような、  
直接的な性感こそ少ないが、"一緒にしている"という感覚は何時よりも大きい。横隔膜の  
上下に合わせて触手の先端が胎奥を叩き、単調ながらも確実なペースで、お腹の底に  
快感の熱を溜めていく。どこか微睡みにも似ている不思議な興奮の中へ、恭子がゆっくり  
意識を溶かしていったとき。  
 
「あむ……んんぅ……やっ…へ?」  
 突然オクトルが生殖肢を引き抜いた。そして、彼女が疑問の声を上げかける直前、今度は  
デッカのものが入ってくる。  
「はぐぅっ……むぁあっ!」  
 突然、一回り以上大きな触手を挿し込まれて、恭子は危うく口の触手を噛みかけた。しかし  
デッカはやはりオクトルと同じゆったりとした調子で、彼女の胎を押し開いて行く。  
 
「へあっ……んんー……ゃ……あぅっ…」  
 すると意外にあっさりと、恭子の呼吸はデッカの触手にも順応した。びっくりしたのは心だけで、  
身体の方はこの程度では冷めないほどに、高められているようだ。じわじわと押し上げられて  
いったから、その自覚には乏しかっただけなのだろう。  
「れるっ…んじゅる……ひゃぐっ!……すん…」  
 呼吸を合わせ、娘の身体が開いたところで、デッカの生殖肢が前後する。しかしその気遣い  
とは裏腹に、彼の触手がもたらすものは圧倒的な支配感だ。体軸に打ち込まれた巨大な楔は、  
恭子の身体に一切の自由を許さない。実際のところ、触手に全身を巻きとられた時点で自由など  
何一つ無いのだが、この胎の重みは、その事実を彼女に、執拗なまでに再認させる。  
 
 だからこその、信頼。生殺与奪の権すら与えようという思いが、年若い娘の身体を奥深くまで  
異形へと明け渡す。  
 
「ふぁあ…ぁ…はんっ……あんっ…ぅ…やあぁ……」  
 頭にかかる白い霞が、次第に濃さを増してきた。相変わらずゆったりして、それでいて酷く重い  
抽送が、恭子をぐっ、ぐっ、と高い所に押し上げて行く。  
 周りの触手も、彼女に逃げ場を残すまいと、全身の愛撫を続けていた。手足の指は一つ残らず  
細い触手で巻き取られ、触手流の握手でしっかりと娘を繋いでいる。腹を巻いた触手は呼吸に  
合わせて緩やかに恭子の体躯を締めつけ、脚を固定した触手はがっちりと押さえ込みながらも、  
感じそうな部分を狙って濡れた先端を這わせている。  
 そして秘部では、細い触手群が内外の襞を丁寧に挟んで広げていた。開かれた前庭では  
二対の舌が、生殖肢の動きで溢れ出す密液を味わっている。敏感な実を覆った繊毛達は、  
抽送に合わせて加える圧を上げていく。  
 
「ひゃう……ゃ…んんっ…はあっ…うわ…あ…」  
 ついに、呼吸が乱れ始めた。お腹のあたりで溜まっていた快感が、どんどんとその水位を  
上げて、恭子を溺れさせていく。デッカの生殖肢を銜え込んだ胎は不規則な収縮を起こし始め、  
それに同調して全身の筋肉もピクピクと震えた。かろうじて口に含んでいたノーナの触手は、  
反動で外に吐き出され、目鼻の上をヌラヌラとうねる。  
 身体は、もう半分以上イっているような状態だった。ただ、こうして穏やかな責めでゆっくりと  
押し上げられた場合には、絶頂とその前の感覚の差など曖昧としてはっきりしない。後は、  
触手が満足するまで、この快感の波の間で、ずっと溺れ続けることになるのだ。  
 
 その恭子の仕上がりに満足して、デッカはとうとう自らの生殖肢を引き抜き、代わりに目当ての  
『モノ』を押し込んだ。  
「はっ……ゃ…あは……ひぐう゛うぅっ!?」  
 軽い刺激で、恭子はあっけなく達してしまう。全身の痙攣に合わせて膣壁もピクピクと収縮し、  
彼女の胎は詰め込まれたものを強く抱きしめた。  
 しかしそこで、恭子は違和感に気付いた。  
 これ、触手でも触手の精液でもない。中の感覚なんて無いに等しいけど、絶対違うって  
事だけは分かる。なんで、一体、何が──  
 
 霞みかけた思考の端で、恭子が不審に思った瞬間。細いが強靭な触手が数本、膣口に飛び  
込んで胎を開いた。次いで、デッカとオクトルの舌が一斉に膣の中に殺到する。  
 正確には、膣に埋められた焼きおにぎりの欠片へ。  
 
「やっ、ちょっそんな……んあ゛ああっ!!」  
 絶頂中の、まだひくついている肉筒の中で、二体の舌が握り飯を求め暴れ回った。最初の  
数掻きで大きな欠片は粗方掬い尽くせたが、娘の中に入るサイズまで前もって解された米粒は、  
かなりバラけているものもある。そこで、より細くて繊細な分岐が、どこかに挟まっている食べ残し  
は無いかと、襞の裏や奥の窪みをほじくり返した。それが終わると、膣壁に摩擦でこびりついた  
後味を、舌で蜜液に混ぜて舐め上げる。  
 
 中の掃除を終えると、再びオクトルの生殖肢が入ってきた。そして、余りの事態にびっくりして  
冷めかけた恭子の身体を、例のゆったりしたペースで元の高みへ押し戻す。ついで、デッカの  
生殖肢が大胆な抽送で縮みかけた彼女の胎を開き直し、再び口を開けた膣の中へ、解された  
米粒が押し込まれる。  
「なっ、ほんと何なんっ……!…ぁうぁっ!」  
 そして、敏感な実を一捻り。恭子の身体は堪らずピクンと収縮し、中に入れられた焼き飯は  
火照った密液と膣圧でもって蒸し上げられる。  
 
 ここにきて、性感に中てられた恭子の頭にもようやく事態が飲み込めてきた。要するに、口移し  
で食べたいけれど、上のお口はお疲れだから、下のお口にお願いしようとか、そういうことか。  
 
 って、冗談じゃない。そんなエロオヤジの下ネタみたいな話、容認できるもんですか。  
「や……っ!」  
 ところが、途中まで出かかった"やめて"という制止の合図を、恭子は思わず飲み込んで  
しまった。ふと、先ほどのミノリの事が、頭の端をかすめたのだ。  
 こんな触手のトンデモ行動も、よくよく考えれば彼の激情の原因と関係するはずで……  
 
「って、今はそんな場合じゃ…っっ!あん゛ぁっっ!」  
 その一瞬の隙を突いて、二体の舌は再び少女のお櫃を開いた。炊き立ての釜飯を混ぜ返す  
様に、恭子の中を掻き回してから、触手は代わる代わる口をつける。そして娘の味が浸み込んだ  
飯を、卵ご飯でも掻き込む感じで、ズルリと口に吸い上げた。  
 
 あとはその繰り返しだった。中の米を食いつくしてしまうと、彼らはすぐに新しいおにぎりを  
詰め直す。次いで恭子を軽くイかせて、彼女の蜜が馴染んだ飯を、触手は貪欲に頬張った。  
途中で身体が冷めてきて、大事な米櫃が閉じてきてしまった場合には、二本の生殖肢と  
無数の触手が、少女を高みへと押し戻した。  
 
「あん……ひゃっ、ノーナぁ?」  
 この大騒ぎに、ノーナも二体の合間を縫って、恭子の腰元へやってきた。そして事の次第を  
把握すると、彼は持ち前の発想力を持って、デッカ達のアイデアに一捻りを入れてくる。  
「……っんな、おっぱいなんて……っひぅ!」  
 ようやく滲みだした母乳を口に含むと、ノーナはそれを膣の中へと注ぎ込んだ。噴きこぼれない  
様に内襞をしっかりと閉じ合わせてから、少女の釜に火を付ければ、触手垂涎のミルク粥が  
炊き上がるという具合である。  
 恭子の二種類の味がしみ込んだ"おじや"を、オクトルら三体は、実にうまそうに啜り上げた。  
 
「ひぃうっ!…きゃんっ!やっ……はうっ!」  
 もはや、「やめ」と呼びかける時期は完全に過ぎていた。舌が内側を洗い上げるだけで、恭子の  
身体は容易く上りつめるようになっている。異物を詰められる感覚には、まだ違和感が勝る  
けれども、それで身体が冷めるということは無くなった。  
 加えて、お腹の中から食われているという事実が、恭子に歪な興奮を──勿論、本人は  
絶対に認めないだろうが──もたらし始めていた。胸を吸われるのとは別の、より倒錯的な  
快感が、恭子の意識を飛ばし始める。  
 
 だが、女体はそろそろ限界だった。これ以上、いきっぱなしの状態を続けると、明日以降に  
障る恐れが出てきてしまう。なので、触手達は食事を切り上げて、性欲の方を満たす事にした。  
 
「ふぁ……んん゛ーっ」  
 下にはデッカ、上にはオクトルの生殖肢が入ってくる。そのまま、胎の触手は早速抽送を  
始めたが、恭子に方には触手へ奉仕する余力など残っていない。  
 そこで、オクトルは生殖肢以外に複数の触手を口の中に差しいれた。これらを器用に使って、  
彼は恭子の顎や舌の動きを、マリオネットのように支配した。舌を亀頭の先端に巻き付けて擦り、  
自分の先走りを少女の味蕾に擦りつける。また、鈴口に彼女の舌先を割り込ませ、射精を控えた  
尿道口を掃除する。  
 こうなるとフェラチオというより、恭子の身体を使ったオナニーに近い。しかしデッカの抽送中に  
彼女の口を味わう手段となると、これぐらいしか方法は無いし、それを気にするようなヒト的  
自尊心は、幸い触手には備わっていなかった。  
 
「んああっ……い゛いっ……あんっ!」  
 対する恭子は、完全な受け身だった。体奥に触手が打ち込まれる際に、思わず喘ぎが漏れ  
出る他は、碌な反応を返さない。  
 しかし意識が朦朧としながらも、彼女は触手の動きをよく理解していた。  
 ようやく、いつものエッチに入ったみたい。  
 その安堵が、恭子の身体から余計な力を抜いていたのだ。今後も、イかされたり飲まされたり  
と大変な事が無いわけじゃないが、基本的には触手を受け入れるだけでいい。それだけで、  
自分は触手を抱き続けることが出来る。  
 彼らに、幸福を与え続けることが出来る。  
 
「ふぁあっ!……やんっ!……やあぁっ!」  
 デッカの動きが大きくなった。膣の四分の三程度、ちょうどGスポットの辺りまで引き抜いて、  
いっきに奥まで突き込んでいく。小柄な恭子をデッカが好き勝手に犯すには相当な準備が  
必要だが、今回はそれが整った貴重な機会だった。亀頭が子宮口を突き上げる度に、無数の  
触手で固定されたはずの身体がずり上がる。それでも恭子の表情に、痛みによる歪みは  
見られない。  
 
「はぶぅっっ!……んごっ…ふあぁっ…」  
 次いで、オクトルの味も濃くなってきた。生殖肢は補助の触手に頼るだけでなく、自らうねって  
少女の口の各所に敏感な部分を擦りつけている。耳裏近くの唾液腺や、硬口蓋にあるギザギザ  
の皺、そして何よりも柔らかい舌。勢い余って、口蓋垂の先まで入り込むこともあるが、喉奥を  
犯す気は無いようだった。恭子が半分気絶している状態なので、最後は胎にするつもりだろう。  
 
「あんっ……あ゛んっ!…はぐっ…!はんっ……!!」  
 抽送のペースがまた一段と上がった。恭子の呼吸を完全に追い越し、激しいピストン運動で  
彼女の秘部は白く泡立ち始めている。ずぶ、ぶひゅ、とかなり淫靡な音を立てて、蜜液や母乳、  
そして唾液などの混合液が、膣口の隙間から溢れていた。  
 それをペロペロと舐め取っていたデッカの舌が、突然、陰核を捻り上げる。  
 
「んああ゛──っ!」  
 性感と痛感の混じり合った刺激に、弛緩していた全身がぴくりと引き攣った瞬間。デッカの  
生殖肢が、縮こまる膣壁を抉るようにして傘を開いた。  
「ひゃっ……は…んむぅうう!」  
 大量の精液を吐き出しながら、デッカは膣の中程で、自分の触手を扱き続けた。奥に空いた  
空間はすぐに白濁で満たされて、逃げ場の無い水圧が膣壁と子宮口に襲いかかる。しかし  
後者は、ミノリが自分の脳組織に負担にならないよう、途中でしっかりと閉じてしまうため。  
「や…漏れ…ぃ…っああぁぁっ!」  
 結局その大半は、二人のぎちぎちの肉の隙間を押し割って、膣口から勢いよく噴き出した。  
 
 それでも、デッカの射精は止まらない。  
「んぼっ…ふぁ、オクトる…?……あぶっ!」  
 いい加減、待ち切れなくなったオクトルが、精を零し続けるデッカの触手を引き抜いた。代わりに  
触手の精でぽっかりと白く口を開けた蜜壺へ、自分の生殖肢を沈めて行く。抽送を開始すると、  
デッカの精が文字通りじゃぶじゃぶと溢れだした。  
 抜き捨てられたデッカの触手は、娘の体に精液を撒き散らしながら、のそのそと上へ移動する。  
そして少女の口にたどり着くと、巣穴を見つけたウツボのように、ぬるりと中へ入り込んだ。  
 
「んぶっ…ふぁんっ……あぶ…んく……」  
 流し込まれる触手の精を反射的に飲み下しながらも、恭子はかなり限界だった。意識は殆ど  
無いと言っていい状態で、何回かに一度、体奥を強く突かれる瞬間にだけ、混濁の水面から  
押し出ているという状態だ。  
 そんな中、彼女の思考を繋いでいるのは、止めさせたくないという思いだった。 触手に本当に  
好き勝手させて上げる機会は、現実、とても少ないのだ。こんな所でお開きなんて、可哀想だ。  
 
「んぐ…ふぁ……あん………うぅ……」  
 しかし、これ以上は本当に意識を保てない。思考は真っ白に塗りこめられて、全身の感覚も  
曖昧だ。 最後に、このまま寝落ちしても続けていいよという意思表示のつもりで、恭子は  
オクトルの頭を抱き締めた。  
 
 
5.  
 
 目を覚ますと、恭子は文字通り、触手の繭の中にいた。  
 身体は、触手で編まれた寝袋の中にすっぽりと収まっている。頭だけ、その上の触手密度が  
薄い部分に、ポンと置かれている状態だ。そのせいで、顔には涼しい風が当たっているものの、  
全身はじっとりと汗ばんでいた。  
 そう言えば、冷房を切り忘れていた。触手のお陰で、風邪は引かずに済みそうだが。  
 
「……あ」  
 そこらでようやく、恭子は昨日の事を思い出してきた。涼しげだった彼女の頬に、ゆっくりと  
朱が差していく。  
 とんでもない夜だった。行為の激しさも、行為の特殊さも、今までとはまるで別格だった。  
一通り、触手との交わりはやり通したと思っていた恭子だったが、あんなのは初めだ。  
 赤面する顔を隠す様に、恭子は俯いて身体の様子を探り始めた。別に誰に見られている  
わけでもないのだが、場所が自宅のリビングと言うだけに、妙に気恥ずかしさが加速される。  
 
 身体を雁字搦めにしている触手は、拘束力は自体は緩かった。身体を縛るというより、  
包んでいるという感じである。恭子がごそごそと身を捩ると、四肢は簡単に自由になった。  
「…んんーぅ」  
 両手を上げて、大きく伸びをする。すると、あんな無茶苦茶をした後なのに、股を除いて身体に  
大きな違和感はなかった。あちこち精液やらなんやらが付いて、ニチャニチャだったりパリパリ  
だったりするものの、筋肉や関節には特におかしい様子は無かった。  
 但し、股間の方は、  
「……重い」  
 そう、言葉に出して、恭子は自分で吹き出した。あれだけの行為をした後なのだから当然  
なのだが、これはまるで、胎に楔を打ち込まれているようだ。連結肢を入れられる瞬間と、  
似ている部分があるかもしれない。異物感の大きさは、もちろん比較にならないけれど。  
 しかしいくらなんでもと思って股を探ると、本当に触手が挿さったままだった。調べると、  
ノーナの生殖肢である。彼も触手を埋めたまま、眠ってしまったのだろう。しかし、膣に触手を  
入れられたまま、ぐうぐう朝まで眠るとは、我ながら何だかなあ恭子が思っていると。  
 
「わわっ。ノーナ?」  
 突然、胎の触手が固くなり始めた。てっきり眠っているものだと思っていた恭子は、ビックリ  
して声をかけるが、やはり返事は返ってこない。そしてお腹の生殖肢も、僅かに蠕動する程度  
で、大きく動く様子は無い。何だ何だと思っていると、  
 
“ヒトの男子で俗に言う朝勃ちの現象だな。ノーナが意識している動きでは無い”  
「あ、おはようミノリ。起きてたの?」  
“今さっきだ ”  
 
 胎の中から勝手に返事が返ってきた。いつも通りの事なのに、今回はふと懐かしさと安堵を  
感じてしまう。何故だろうと頭を巡らし、恭子は昨日の事を思い出す。  
 
 ぽむ、と一つ膝を打ち、恭子は言った。  
「ミノリ、今ちょっと話しても大丈夫?」  
“改まってどうした。無論私は結構だが、君こそ入ったままでいいのか?”  
「いいよ。これちょっと抜けそうに無いし、みんなが寝てる今がチャンスだから。  
……あのね、ミノリと邪魔無しで話したいの」  
 
 そう言うと、相手の気配が少し変わった。察しのいい(生理学的な意味で)ミノリの事だから、  
彼女の言わんとすることがわかったのだろう。  
 それを敢えて無視するように、気さくな感じで恭子は言った。  
「焼きおにぎり、あの仔達が『食べられない』のは、どうして?」  
 
 一瞬、決して軽く無い沈黙が、寄生体とその宿主の間に落ちた。だが、そんな事で引くような  
人間でない事は、ミノリもよくよく分かっている。だからこそ、彼女は異形の生命体とここまで  
付き合ってこれたのだ。  
 
“敵わないな ”  
「ごめん」  
“いや、昨日も言ったと思うが、君に落ち度はなにも無い。問題は極々個人的な事なんだ ”  
 それから、あたかも深呼吸するかのように一息置いて、ミノリは言った。  
“ "体"達の脳には、ヒトの食べ物がおよそ食べられないものと認識するように、フィルタリングが  
施してある ”  
 
「……へ?」  
 言われた意味が全く分からず、恭子は間の抜けた声を出した。  
「えと。それってどういう意味?」  
“そのままの意味だ。君たちが食用にしているものは、我々が食べると極めて不快なもの感じ  
られるよう、そうだな、一種の洗脳がかけられている”  
「そんな、だって。ちょっと前まで、私が買ってきたお芋とかさ。平気で皆食べてたじゃん!」  
“生のジャカイモは、通常そのままではヒトの食用に適さない。私がいうヒトの食べ物とは、  
君たちが口に入れる直前まで、加工ないし調理されたものを指す ”  
 それから、相変わらずキョトンとしている恭子に対して、ミノリはやや口調を和らげて続けた。  
 
“地方での猿害は知っているだろう。観光者や土産物屋が襲われて、最近問題なっている ”  
「日光とか?」  
“そう。あれの一番の問題は何だと思う?”  
「……観光者のモラル?」  
“ヒト側の視点ではそうかもしれない。だが、猿側の視点に立てば答えは異なる。問題は、  
ヒトの食べ物が、猿やその他鳥獣にとっても十分に美味し過ぎるいうことだ。それは、我々  
触手とて例外では無い ”  
 
 そこでようやく、恭子はミノリの言わんとする事に気が付いた。まともな狩りすら出来なかった  
彼は、研究所時代、一体何を食べていたのか。  
「ミノリ、まさか……」  
“君の想像通り、あそこにいた頃は普通にヒトの食事を取っていた。培養槽における直接摂取  
は、一般に考えられるほど効率のいいものでは無いんだ。生物としての設計図を元にしている  
以上、摂食の形を取った方が、様々な面でバランスがいい。  
 まあ、そこでわざわざヒトの食事を与える必要はなかったわけだが、……結局は、彼らも  
人の子だからな。人間の言葉を操る相手に、犬の餌を与える気にはならなかったということ  
だろう ”  
 
 二の句を告げない恭子に対し、淡々とした口調で人造知性は言う。  
“だから、昆虫や小動物の生肉は、正直かなり辛かった。一度は味覚を切ることも考えたが、  
そこから得られる食物の情報は決して少なくないため、断念した。その代わり、私の脳から  
分離した"体"側には、人間の食事の方が不味いと認識させるフィルタを施した。それで、  
当時の未熟な脳機能に対しては、心的ストレスの軽減効果があると思ったんだが……  
 今回それが裏目に出たな。昨晩、触手達が焼きおにぎりを、君の口腔や膣に詰めてから  
口にしていたことは覚えているか?”  
「……そりゃ、忘れられるわけないけど」  
“あれは恐らく、触手達がフィルタを回避しようとしたための異常行動だ。洗脳が邪魔して直接  
口に入れられないから、一旦君の体に入れて分泌物扱いにしたのだろう。彼らの知能レベル  
に合わない単純なフィルタ処理を放置した結果だ。この点は悪かった”  
 
 それにどう答えたものか、恭子が迷っている内に、ノーナの生殖肢が蠢きだして、会話は一度  
中断になった。といっても、動きは単なる夢精の前兆だったらしく、二三度ぐりぐりと身を捩った  
だけで、生殖肢はあっさりと射精した。お腹の奥に新しい熱がじんわりと溜まり、昨晩の精液が  
身体の外にゆっくりと押し出されてくる。  
 
 眠ったまま、満足げに精を吐き出すノーナの触手を見つめて、恭子は考える。  
 ずっと、自分はこの仔達の母親代わりみたいなものだと思ってきた。人一倍身体を張って、  
彼らの望みはみんな叶えてやったという自負があった。だが現実には、彼女は満足な食事すら、  
提供することが出来ていない。総計八百キロ近い恒温動物を維持するだけの食糧を、恭子個人  
がヒトの食事の形で用意することは絶対に出来ない。  
 でも、それで当然なのだ。彼女は触手の母親では無いし、触手側だってそんな事を望んだこと  
は無い。母親だと思っていたのは、結局のところ、ただの彼女の独りよがりだ。  
 
 互いの幸福のために協力すると、ミノリと恭子は約束した。でもそれは、彼女が庇護者になる  
という意味では決して無い。  
 
 ふと、ここ数日、迷っていた進路の問題に、恭子は答えを見つけた気がした。具体的に、どの  
大学、どの学科に進むというレベルでは無く、将来を選択する上での前提のようなものだ。  
 ここが曖昧だったから、彼女はふらふらと迷っていたのだ。  
 
「……んっ」  
 一つ深呼吸をして、恭子は柔らかくなったノーナの生殖肢を引き抜いた。触手のベッドを這い出て  
床に降りると、気合いを入れて二本脚で立ち上がる。腰は多少ガクガクするものの、そのまま  
歩けないほどではない。膣口からは一晩分の精液がだらだらと流れ出ていたが、全身を鑑みるに  
そんな事を気にするレベルでは無いので、無視した。  
 
 浴室でざっと汚れを落とし、Tシャツを着てリビングに戻ると、もう殆どお昼近かった。彼女は  
ひとまずコーヒーを入れると、四人掛けのダイニングテーブルに腰かける。  
 その横では、四体の触手が絡み合ったまま寝息を立てていた。基本的に夜行性の彼らは、  
昼過ぎまで寝て過ごすことも珍しくない。  
 
 そんな触手達を見ながら、恭子は言った。  
「わたしの夢の一つはね、ミノリ。いつの日か、同じテーブルで、あの仔達と一緒の朝食を取ること」  
“……キング牧師か?”  
「あはは、それもいいね。 I have a dream that my friends, four feelers, will one day be able to  
sit down at the breakfast table with me.」  
“おいおい、ほとんど原型を殆ど留めてないぞ ”  
「バレたか。ってなんで触手がキング牧師の演説なんか知ってるのよ 」  
“一般教養 ”  
「なるほど…………?」  
 
 思わず頷ずきかけてから、恭子は「やっぱり、何かおかしいよ」と言って笑った。それから、不意に  
空腹を感じて、夕飯の残りを温め直そうと台所に立つ。  
 フライパンを揺すっていると、不意に胸に鈍い痛みを覚えた。一晩かけて溜まった母乳が、彼女の  
乳房をパンパンに膨らましている。マーボーが出来たら、全員叩き起して、これで一緒に朝食に  
しよう。今のところは、それで我慢するしかない。  
 
 でも、いつの日か。みんなで一緒に、美味しいものを腹いっぱい食べよう。そして、そういった  
自分の夢の実現に、一体何が必要なのか、これからしっかり考えねばならない。  
 横目にテーブルほっぽり出された大学案内を見やってから、恭子は自作マーボーを味見した。  
 
「うん。 我ながら、今日も美味しい」  
“そうか。全く、羨ましい限りだ ”  
 
 
 

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