ガサガサ、ガサガサ  
 落ち葉を踏みしめる僕の足音と風が木々を揺らす音だけが、辺りに響いている。  
 空はどんどんと曇っていき、心の中には、山の天気が変わりやすいって言うのは本当だったんだ、という見当はずれな感嘆と、家出なんかするんじゃなかったという後悔が湧きあがっていた。  
「くぅん」  
 僕の懐から、僕が家出することになった原因が心細げな鳴き声をあげる。  
「安心しろよ。今さら捨てたりなんかしないって」  
 ポツリ  
 僕のその言葉の直後、頭に水滴が落ちる。  
 ふと上を見上げると、どこか遠くが光ったような気がした。  
 雨が本格的に降る前に雨宿りできるところを探さなきゃ、と前進すると、突然目の前が開け、そこに大きな和風の家があった。  
「さっきまで、こんなの見えてた?」  
 何となく懐の子犬に声をかけてみるけど、案の定まともな返事は返ってこない。  
「わぅ」  
「そうだね、入ろう」  
 寒そうな犬の鳴き声に促されるように戸の前に立ってみる。  
 ギシ……ガタン…ギシギシ  
 僕が力いっぱい横に滑らそうとすると、今にも壊れそうな音を鳴らしながら、戸はゆっくりと開いた。  
 
 
「誰か居ませんかー?」  
 家の中は薄暗くて、あまり奥までは見えない。  
「あのー、誰か居ませんか?」  
 家の中からは、まったく返事は返ってこない。  
 誰も居ないのかな、と顔を中に入れた瞬間、後ろから雷鳴が響いた。  
 ……ゴロゴロゴロ………  
「きゃうん、きゃんきゃん!」  
 カミナリに怯えているのか、懐の子犬が鳴き喚く。  
「だ、大丈夫だから、ね。落ち着いて?」  
 吠えながらカタカタと震えている子犬をさすりながら、僕はそのまま家へと上がりこんでいく。  
「誰もいないから……上がっても大丈夫だよね」  
 誰も居ない怖さを紛らわすために、懐の子犬に声をかける。  
「わう?」  
 だけど、声をかけられた当の子犬は、その理由を分かっているのかいないのか、可愛い声をだすだけだ。  
 そんな子犬を見て、くすりと苦笑を漏らしながら、僕は家の中へと入って行った。  
 ギシ……ギシ……ギシ  
 僕が足を踏み出すたびに、床が軋む音が気味悪く響いてくる。  
 ガタ…ガタ…ガラリ  
 一番近くにあった戸を開くと、中には部屋の真中に綺麗に敷かれた布団と、そして水差しがあった。  
「布団があるね」  
「くぅん?」  
「ホコリも全然ないし、きっと誰か居るんだよ。探そう?」  
 とりあえず、と薄暗がりの中でゆっくりと布団に近づいていく。  
「えーと、あの、私の家に勝手に土足で上がりこまないで」  
 僕の後ろから、突然に女の人の声がかかる。  
 あまりにも突然の声に、僕はびくりと立ち止まった。  
 
 ……誰も居ないぼんやりくらい家の中に、女の人の声……  
 何となく、昔よくお婆ちゃんから聞いていた昔話の、山姥が頭をよぎって、僕はまるで石みたいに凍りついた。  
「どうしたの?とりあえずこっちに向いたら?」  
(いまどきお化けなんか居るわけないじゃないか。それに、こんな優しそうな声のお化けも居るわけないし)  
 その声を聞いて振り向くと、そこにはキレイな――そんなにとりたてて美人って言うほどじゃないけど、セミロングのキレイな女の人が立っていた。  
「あら、結構可愛いわね。君」  
 からかい口調でそう言うお姉さん。僕は自分で顔が真っ赤になるのを感じた。  
「ま、可愛いのは置いといて、君はどうして勝手にうちに上がりこんでるの?」  
「あ、えと、その……家出して…」  
 僕がそう言うと、懐にいた子犬が、ひょこんと顔を出した。  
「わぅ?」  
 ズザザザザッ  
 懐の子犬が一声鳴くと、お姉さんは物凄い擬音付きで後退した。  
「……えーと、犬、嫌いなんですか?」  
「べ、別に嫌いってわけじゃないけど……とりあえず、近寄らなきゃ大丈夫だから」  
「そ、そうですか。じゃ、僕がしっかり持ってますから、大丈夫です」  
 僕の言葉で、お姉さんは少し安心したみたいだった。  
「じゃ、ここで話すのもなんだしさ、靴もってついて来て」  
 そう言うと、お姉さんは僕に背を向けて歩き出した。  
 慌てて靴を脱いでそれを追いかける僕と、懐で不思議そうな顔をしている犬。  
 ……お前は気楽でいいな、犬。  
 
               ☆★  
 
 どうも真っ暗だったのはお姉さんが寝ていたかららしく、古ぼけた電球に照らされて、僕とお姉さん、そして子犬は居間のような部屋にいた。  
「で、結局その犬を飼う、飼わないで喧嘩になって家出したってこと?」  
 呆れたような顔で、お姉さんが言う。  
「そうだけど……別にそれだけってわけでもないよ。いつもいつも僕にあれしろ、これしろとかさ。そんなことばかり言うから、今回のことで頭にきて」  
 
 はぁ、と一つ溜め息をつく。  
「あ、そういえば君の名前聞いてなかったよね。名前は?」  
 ……僕も忘れてたけど、相手の名前も聞かずに相談に乗るのはちょっと無理があると思った。  
「えと、僕は里宮涼一。14歳です。あと、聞かなかった僕も悪いんですけど……お姉さんの名前は?」  
 お姉さんはあ、という顔をするとそのまま俯いてブツブツと何事か呟き始めた。  
「……春…いや、でも…………とりあえず、私の名前は桐山美央ってことで」  
「とりあえずってなんですか?!」  
「気にしない気にしない。で、君は涼君ね。分かった?」  
 ……仇名のことで分かった?といわれても…頷くしかない。  
 頷く僕を見て満足したのか、お姉さん――美央さんは、にこりと笑った。  
「で、結局のところ涼君は帰りたくないんだ?」  
「……今はまだ、帰りたくない」  
 俯いて、ぼそぼそと喋る僕。  
 それを見て、美央さんは我が意を得たりとばかりに、満面の笑みを浮かべた。  
「それじゃ、暫らくここに居てもいいよ」  
 さらりと言ってのける美央さん。  
「え…」  
 絶句してしまった。だって、普通見も知らぬ人を暫らく家に止める人なんて居ない。  
 ……僕がまだ14歳だからかも知れないけど。  
 ぺちゃぺちゃと、子犬が後ろでミルクをなめている音だけが大きく聞こえる。  
 そして、黙りこくっている僕を見ながら、美央さんが続けた。  
「ただし、家の掃除とか、家事とかやってもらうけどね」  
 なるほど。コレだけ広い家なら、一人では掃除もできないだろう。そのこともあるから僕を引き止めるんだ。  
「あ、はい。お願いします」  
「じゃ、今から晩御飯作って。私、お風呂にはいってくるから」  
 ………え!?  
「今からって……今からですか?」  
 突然の言葉に、意味の無い言葉が口をついて出る。  
 美央さんはにやにやと笑っているだけで、今の言葉を引っ込めようともしない。  
 ……14歳の少年に食事を作らせるって……  
   
               ☆★  
 
「結構美味しい、これ。今からでも主夫になれるよ」  
 僕が作ったチャーハンと野菜炒めを食べながら、美央さんがそんなことを言う。  
 どうしようもなく恥ずかしくて、今はきっと顔が赤くなっていると思う。  
「そ、そうですか?」  
「うん、お嫁にしたいわっ」  
 ぎゅっと、僕を抱きしめて、ふざけてクスクスと笑う美央さん。  
「は、離して下さいよ。あ、み、耳に息吹きかけないでくださいよっ!」  
 ぎゅっと抱きしめられたせいで、美央さんの大きなム、胸が背中に……  
「何赤くなってるの。コレくらいで」  
 可愛いなぁ、とクスクス笑う美央さん。  
「や、止めてくださいよ。僕、こういうの苦手なんですよ」  
「あれ、結構可愛いのに……もしかして実は女でしたとか言わないわよね?」  
 きょとんとした顔。  
「そんなわけないじゃないですかっ。もういでしょ?離して下さい」  
 ちょっと強い口調で言うと、美央さんはちょっと笑みを浮かべ、僕を離してくれた。  
「わうん」  
 トタトタトタ、と子犬が走りよってくる。  
「あ、そういえば僕の分も御飯作ってたんですけど……美央さん、全部食べてますね…」  
 僕の台詞に、美央さんはほんの少し苦笑いしながら、犬から遠ざかるように後退した。  
 くんくんと僕に鼻をこすりつける犬を抱き上げながら、とりあえず食器を洗いに行く。  
 
 三十年前くらいに造られたものばかりらしいけど……本当に年代を感じさせる汚れがそこここに浮き出ている。  
「あ、別に洗わなくてもいいよ。明日の朝洗ってもらえばいいから」  
「あ、そうですか?……結局僕が洗うことは確定ですか」  
 とりあえず台所に食器を持っていきながら、ちょっと落胆したようなふりをする。  
 なんだか、美央さんと会ったばかりってことを忘れそうになってしまう。  
「くぅん?」  
 落胆した様子を見て、励まそうとしたのかどうか知らないけれど、子犬がぺろぺろと顔を舐めてくる。  
 顔中を舐めまわされて、くすぐったくてついついクスリと笑ってしまう。  
「あぁ、もう落ち込んでないからさ、大丈夫」  
「そろそろ寝るよー?こっち来なさい」  
 美央さんの声が最初に入った布団の部屋から聞こえてきた。  
 あの廊下を歩いても一度も軋ませないとは……美央さんすごいなぁ。  
 とりあえず、薄暗い廊下を歩いていく。  
 ギシ……ギシ……ギシ  
 美央さんはよく足音一つ立てないでこの廊下をあるけるなぁ  
 とりあえず、布団に入ろうかな……と、部屋に入った瞬間、僕は硬直した。  
「み、美央さん?」  
 驚いたのは、別に布団が一つということじゃなくて――それも原因の一つではあるけど――美央さんの姿のせいだった。  
「……なんで尻尾が!?そ、それに耳が頭の上で変な形だしっ!?」  
「え――あ、嘘!?見えた?……あはははは」  
 美央さんの乾いた笑い声が、虚しく響く。  
「……あはははは…って、どう見てもおかしいですよ、これ!!」  
 うろたえる僕、そして欠伸をする子犬。  
 
「んー……眉に唾つけたりした?」  
「え?あ、はい。こいつが顔舐めましたけど……」  
 子犬を指差しながらそう言うと、美央さんは眉をしかめて僕を睨んだ。  
「見ちゃったからには……えぇい!」  
 そんな台詞とともに、美央さんは僕に飛びついてきた。  
「え、ちょ、ちょっと!?」  
「ん〜。涼君が可愛いからこうするんだよ?別に誰でもするわけじゃないし、これで誤魔化されて?」  
 そう言いながら、美央さんは僕のズボンを引きずりおろす。  
 トランクスまで脱がされて、僕の下半身は剥き出しにされた。  
「ご飯も作ってもらったし、コレはそれのお礼も含めて…ね?」  
 
「ちょ、ちょっと!!止めてくださいよっ」  
「え?」  
 僕は慌てた。だってそうだろう。こんなことは初めてだし……それにこんなに唐突だし。  
 ……でも、僕のモノは既にすっかり硬くなってしまってるから、自分で思っていても説得力が全然無い…。  
「あ、もしかして好きな娘とかいるの? もしいるんだったら……その娘になってあげてもいいよ」  
 好きな娘……今まで一人も好きな娘なんていなかったし……好きだっていう感情と、時間が関係ないのなら、僕が好きなのは美央さんかもしれないけど。  
「え、いや、あの、好きな娘なんていないです。え、えと、それよりも、なるっていったい…?」  
 うろたえる僕の後ろで、子犬があぅ、と欠伸をしながら寝転んでいる。  
 ……恩知らずめ、と少し現実逃避をしてみる。  
 ただ、うろたえる僕の質問は美央さんにとって予想外だったらしく、美央さんは暫らくきょとんとして、ぱん、と手を打った。  
「ああ、この耳と尻尾見てもわかんないかなぁ?気付いてなかったんだ……。私はほら、人を化かすっていう、タヌキってやつ」  
「え?……え?!」  
 一瞬、耳を疑った。  
 そんなことを言われても、信じられるはずが無い。  
 第一タヌキが人を化かすだなんて……  
「あー。その目は信じてない目だ。まぁ、そんなこと急に言われても信じられないか……。じゃ、実際に見てもらおっか」  
 その言葉と同時に、美央さんの体が僕より少し小さいくらいの大きさになった。  
「え?! あ、え?」  
 その顔はさっきまでの顔をそのまま幼くしたみたいで、キレイ、から可愛いに変わった感じがした。  
「どう?わかった?」  
 目の前でこんなものを見せられたら、頷くしかない。僕は、コクコクと頭を上下に振った。  
 15センチくらい小さくなったせいでブカブカになった服を引きずりながら、美央さんはにこりと微笑んだ。  
 ……身長は小さくなっても、ムネは大きさ変わらないんですね…その身長でそんなにムネが大きい人なんていませんよ…。  
 僕がついつい美央さんのムネを凝視していると、その視線に気付いたのか、美央さんはくすりと笑った。  
 美央さんの目は、硬くなった僕のモノに向けられている。  
 
「ほら、そのままじゃ辛そうだし……遠慮しないで、ねっ!」  
 そう言いながら美央さんは僕にのしかかってきて、そしてそのまま――  
「ん?!んむ!」  
 美央さんの唇が、僕の口をふさぐ。  
 突然のことに驚いて美央さんを振りほどこうとしても、美央さんはしっかりと僕を押さえつけていて、振りほどけそうにない。  
「むむ!?んむむ!!」  
 口の中にあたたかい物が入ってくる。  
 びっくりして美央さんを見つめると……美央さんは楽しそうに微笑んでいた。  
 口の中のあたたかい物は僕の舌に絡み付いてくると、ちゅうっ、と吸ってきた。  
 ようやく、それがなんなのかわかった。美央さんの舌だ。  
 そう考えると、僕のモノに余計に血液がまわり、さらに硬くなった気がした。  
「むむ……」  
 ちゅぽん、と音をたてて、美央さんの唇が僕の口から離れる。  
 ……よく考えればこのキスが、僕にとってのファーストキスだったんだ。  
 そう考えると、また少し、顔が赤くなった。  
「別に緊張しなくていいからね。ゆっくりしてくれてたらいいから」  
 そう言いながら、美央さんは少しづつ体をずらして、僕のモノの前に顔を近づける。  
 美央さんが動くたびに、僕のモノに服がこすれて、鋭い快感が背中を走る。  
「気持ち良いから、ね」  
 美央さんの口が、僕のモノに、10センチ、8センチ、4センチ、2センチとだんだん近づいてくる。  
 そこから流れ込む快感を想像して、目を閉じる。  
 ………だけど、何時までたっても思ったような快感はない。  
 ふと目を開くと、こちらを見ている美央さんが目に入った。  
「ね、涼君はさっきの姿と今の姿、どっちがいい?」  
 
 いまさらそんなことを聞くんですか!?  
「え……僕は、最初の大人の方が……」  
「大人、ね」  
 美央さんはくすりと笑うと、次の瞬間、その姿は最初のものに戻っていた。  
「さ、いくよ」  
 覚悟を固める暇さえなく、美央さんは僕のモノをぱくりと口に含んだ。  
「…あむ…ちゅぷ……ちゅぷ…」  
 美央さんの口が、僕のモノを包みこむ。  
 途端、想像もしなかったような快感が、背筋を伝わった。  
「美央さん……気持ちいいです……」  
 僕の声を聞いて、美央さんが口の端でだけ笑う。  
 途端、ずるりと舌が僕のモノの先端部分を這いずる。  
「ひゃ、ひゃうっ?!」  
 突然の刺激に、いつもよりも甲高い声が口から漏れる。  
「き、気持ちよすぎますっ!もう少し……」  
 僕をからかうかのように、美央さんの舌が裏筋をざらりと舐め上げる……  
「み、美央さん。駄目です、もう、もうっ」  
 びるっ、びるるるるっ  
 そう言うが早いが、僕のモノがまるではじけたような感じがして、美央さんの口の中に、熱いモノを放出した。  

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