ゴトン。背後で何やら鈍い音が──今、教室から出てきたばかりの西沢信也は、何か  
の落下音に気がついて振り向いた。するとそこには、  
「矢田先生・・・と、これは・・・ナニ?」  
目の前には当校のマドンナとして名高い英語教師の矢田清美と、その足元に転がる微  
妙なデザインのマッサージ器・・・いや、これはどう見たって、女性が自慰などに使うバ  
イブレーター──が、落ちていたのだ。  
 
「あッ!いけない!」  
清美が慌ててバイブを拾い、懐へ収めた。信也はそれを呆然と見ている。  
「み、見た?」  
「家政婦じゃないけど・・・見ました」  
「あちゃ〜・・・」  
頭を抱える清美。よもやこんなものを持っている所を見られてしまうとは──そんな感じ  
である。  
 
「君は確か、西沢クンだったよね?あたしが去年、英語を担当してあげた」  
「そうです」  
言い方がどこか恩着せがましいが、清美の記憶は間違っていない。信也は高校一年の  
英語を、昨年、彼女から教わっている。  
「あの・・・僕・・・誰にも言いませんから」  
関わり合いになるべきではない──そう思って、信也が踵を返そうとすると、  
「ちょっと待ったあ!話を聞いてよ、ね?ね?」  
清美は彼を羽交い絞めにして、人気の無い屋上へと連れて行ったのであった。いや、厳密  
に言うと拉致という表現が正しいのだが。  
 
「空がきれいねー」  
清美は屋上の扉の鍵をかけた後、信也に背を向けて言った。訳が分からない──  
拉致同然に連れて来られた者から見れば、それが本心である。  
「先生、さっきも言ったけど・・・僕は誰にも言わない・・・」  
「シャラップ!」  
さすがは英語教師といおうか、清美は信也の言葉を英語で遮った。しかし、発音は和  
風でネイティブの物には程遠く、はっきり言って長嶋さん英語に近い。ヘイ、カール!  
 
「君は、先生が好き好んでこんな事してると思って?」  
清美が唐突にするするとスカートを捲り上げた。何と下着は着けていない。その上、成  
人女性であれば生えているはずの若草も無かった。清美の恥丘は、汚れを知らぬ童女  
のようになだらかなのだ。  
「何もあたしは・・・ねえ・・・好きでやってるんじゃ・・あ・・ないのよ・・・ウッ!」  
清美の手が尻の方へ伸びている。そして、割れ目の奥から一本の紐を啄ばんだ。  
「先生・・・それは?」  
「ア・・・アナルパールよ。わ、悪いけど、この紐を引っ張ってくれない?案外、勇気が  
いるのよ、これが」  
「はい」  
「そっとね」  
「はい」  
乞われるがままに紐を手にする信也。彼は、女教師の押しの強さにすっかり呑まれて  
いた。  
 
「アウウッ!生徒にこんな事を頼むなんて・・・惨めだわ」  
アナルパールは、小さ目のピンポン球がいくつも連なったような姿形で、紐に通されて  
いる。清美はそれをまるで卵を産む雌鳥のように、アヌスからひり出しては哭いた。しか  
し、惨めだとは言いながらも、しっかりと腰を振っているのはどういう事か。  
 
「ふう、ふうッ・・・良かった・・・じゃなくって、助かったわ、西沢クン」  
「それはどうも。じゃあ、先生、そろそろ僕はおいとまします・・・」  
「いや、もうちょっと付き合いなさいって。まだ話は済んでないのよ」  
アナルパールを引き抜かれた後、清美は目をとろりとさせつつ信也の前に座った。  
意地でも帰さない、そんな心意気が伝わってくる。  
 
「実はねえ・・・あたし、三年生の不良たちからオモチャにされててねえ」  
「聞いてませんから」  
「それで、授業中にバイブをアソコに入れとけって言われちゃってさあ・・・困ってん  
のよねえ」  
「聞いてないっての!」  
話がちっとも噛み合わない。どうやら清美は、身の上の事を聞いて貰いたいらしい  
のだが、信也にその気は無さそうだ。  
「まあ、そんな訳で不幸にもその秘密を西沢クンに悟られちゃったけど、あたしの体  
を自由にしていいから、黙っといてよ」  
「あんた、絶対人の話聞かないのな。血液型B型だろ」  
自己完結型。清美の性格はまさにそれである。  
 
「さっきまでバイブが入ってたから、アソコでもお尻でもOKよ。ねえ、西沢クン・・・」  
「そんなにやりたきゃ、その不良たちとやればいいじゃありませんか」  
「いや、その子たちにも飽きられちゃってて・・・あんまり相手してくれないのよ・・・だ  
からあ・・・ね?」  
飽きられた、ではなく呆れられたのではないか。信也はそんな風に考える。  
「拒むのなら、今すぐここからこの格好で職員室へ走っていって、西沢クンに犯され  
ましたって言っちゃうから。そうなったら、君、退学よ」  
「なんで、そうなるんだよ!」  
懐柔から脅迫へ。清美はまるで一流のネゴシエーターのような、高度な交渉術を身  
につけていた。信也はそれに翻弄されるばかりで、まったく良い所が無い。  
 
「せっかくだから、先生の家においでよ。一日くらい親に嘘ついて、外泊できるでしょ?」  
「あんたそれでも教師か!」  
「うふふ。教師だからこそ、特権使って生徒とナニするのよ。いいから黙って、あたしに  
ついてきなさいね」  
信也はしぶしぶ承知し、清美と肩を並べて学校を出た。幸い、もう薄闇が辺りを覆ってい  
るので、二人があまり目立つ事も無い。そして、最寄の駅まで来た時、清美は動いた。  
 
「ごめん、西沢クン。ちょっと、コレ入れて」  
ずんと重たげな極太バイブ。清美はそれを手にして、信也に破廉恥なお願いをした。  
「え?ここで?」  
「そうよ。激しくしてくれていいわ、ズブッとちょうだい。前でも後ろでもOKよ」  
「人がたくさんいるよ」  
「だからスリルがあっていいのよ。さあ、早く」  
清美は信也と抱き合うような形で、腰を押し付けた。辺りには電車を待つ客が何人も居る。  
ただでさえ目立つ、学生服姿の少年と成熟した女の二人連れ。信也は渡されたバイブを  
持って固まってしまった。  
 
「ねえ、早く」  
「う、うん」  
こうなりゃやけだ──信也はなるべく目立たぬようにスカートの中へ手を入れ、バイブを  
滑り込ませる。幸か不幸か、その様子は誰にも悟られずに済んだ。  
「ううん、もうちょっと下・・・ああ、そこよ。入ってきた」  
清美のアシストもあり、バイブは難なく彼女の女穴へめり込んでいった。そして、信也の  
手にはワイヤレスリモコンだけが残される。  
「スイッチは電車に乗ってから・・・ね」  
「分かったよ」  
学生服のポケットにリモコンをしまい、信也は清美と共に電車に乗った。通勤通学のラッ  
シュ時はすでに過ぎ、車内はそこそこの込み具合である。  
 
「ちょっと離れててね。でも、あたしを見失っちゃ駄目よ」  
清美は小声でそう言った後、信也と距離を取った。そして、指でOKサインを出して、  
バイブのスイッチを入れてくれとねだる。  
「いい気なもんだ・・・はあ」  
ポケットの中にしのばせているリモコンに指をかけ、信也はスイッチをオンにした。車内  
がうるさい事もあって、バイブのモーター音は聞こえない。もっとも、聞こえても困るの  
ではあるが。  
 
(変わった人だなあ)  
スイッチを弱から中に変え、清美の様子を見る信也。ちょっとおすまし顔だが、黙って  
いれば彼女はまことに美しく、また知的に見える。それは、よもや生徒に色目を使って  
欲求を満たす淫乱な女教師などとは、夢にも思えない凛々しさであった。  
「西沢クン」  
声には出さないが、信也の方を時々見ては唇を動かす清美。相変わらずのおすまし顔  
だが、心なしか体が揺らいで見える。電車の揺れのせいもあろうが、女穴を貫くバイブ  
の振動が、相当物を言っているようだ。  
 
(強にしてやれ)  
リモコンにはもう一段階、振動を激しくするスイッチがある。信也はそこに指をかけた。  
すると、清美の様子にようやく変化が出た。腰を気持ち引き気味にして、何かに耐える  
ように電車の扉にもたれかかったのである。  
(おっ・・・先生の顔色が変わったぞ)  
先ほどまでのおすまし顔とは打って変わって、清美は何か許しを乞うような顔つきと  
なっていた。バイブを止めて──そう言っているようにも見えるし、もっと辱めて欲しい  
と訴えているようにも見える。とりあえず、信也は静観の構えを取った。  
 
電車がいくつか駅を通り過ぎると、清美はいよいよ足元が覚束なくなってくる。それに  
つれ、車内には酔客のような人間も増えてきた。ちょいと一杯ひっかけてきた輩どもが、  
家路につき始めたのであろう。彼らは酔いの勢いも手伝ってか、清美の傍らに寄り添い  
いかにも心配そうな面持ちで声をかけるのだ。  
 
「お姉ちゃん、大丈夫?」  
「ええ・・・何でもありません」  
頭が禿げ上がった醜い中年男が、清美の背に手を回した。顔が赤く、いかにも酔って  
いるように見える。  
「次の駅で降りるかい?俺が介抱してやるよ」  
「結構です・・・」  
「椅子が空いてるんだ。座ったら、どう?」  
「あの・・・お構いなく」  
気がつけば、清美は幾人もの男たちに囲まれていた。誰も彼も女をいやらしい目でしか  
見ない、畜生のような連中だった。そうなると、信也も心配になってくる。  
 
(先生、大丈夫かな)  
男数人に抱きすくめられるようにして、清美は長椅子に腰掛けさせられた。今のところ、  
女穴に捻じ込まれているバイブレーターには誰も気づいていないが、このまま彼らが  
熱を上げていけば、それもいずれは知られてしまうかもしれない。信也は清美を助ける  
べきかどうか迷った。  
「お姉さん、酔ってるの?」  
「い、いいえ・・・」  
「でも顔が赤いよ。もしかして、発情期なのかな?ハハハ」  
男たちの手が清美の体に伸び始める。明らかにその体を狙っているのだ。ここでとうとう、  
信也は足を進めてしまった。  
 
「先生!」  
男たちの間をすり抜け、清美の手を取る信也。そしてそのまま、彼女を椅子から立た  
せると──  
 
ゴトン。幾許か前に聞いたあの音が、電車内に響いた。女穴を塞いでいたバイブレー  
ターを、清美が落としてしまったのだ。  
「おっ、なんだこりゃあ?」  
「バイブだぜ。まいったね、こんな物を入れてたとは」  
「とんだ淫乱女だぜ。遠慮する事は無かったな」  
ブブブ・・・と鈍い振動が電車の床を響かせると、男たちが一斉に好奇の目で清美を  
見た。それはまるで、商売女でも見るかのような蔑んだ眼差しだった。一方、清美は  
と言うと──  
 
「ああ・・・い、いいッ!もっと言って・・・」  
がくりと膝を折り、その場にくず落ちてしまっていた。床には愛液が滴り落ち、彼女が  
幸せな瞬間を迎えた事を物語っている。  
「先生、立って!こいつらにやられちゃうよ」  
「え、ええ・・・」  
信也が清美の肩を担ぎ、男たちの合間を縫って出た。幸いにも、電車はどこかの駅  
へ滑り込んだ所である。信也は必死になって、ホームへ転げ出た。  
「あの小僧、先生って呼んでたな」  
「まさか教師?教師がアソコにバイブ突っ込んで、電車に乗ってたのかよ?まさか」  
男たちのそんな言葉を、信也は背中で聞く。気がつけば、背中が冷や汗でびっしょり  
と濡れていた。そして、清美はエクスタシーの余韻を噛み締めるように、呆けた顔で  
視線を宙に泳がせていたのだった。  
 
「面白かったね」  
しばらくして正気を取り戻した清美は、事も無げに言った。一歩間違えれば、あの場で  
輪姦されかねない状況だったというのに、のん気なものである。  
「ちっとも面白く無いよ」  
それに対し、冷や水をぶっ掛けられたのは信也の方。まさか見捨てて行く訳にもいかず、  
あの場は清美をなんとか助け出せたが、それはあくまでも結果オーライの話。  
 
「あのままだったら、絶対やられてたよ」  
「それも面白いかも。電車の中で輪姦なんて、ちょっと経験できないわよ」  
いくら信也が毒づいても、清美はどこ吹く風だった。どれだけ言っても、まるで他人事の  
ように笑い飛ばしてしまうのである。これには信也も呆れ果てた。  
「助けなきゃよかった」  
「うふふ。ごめんね」  
清美がそっと信也の肩を抱き寄せ、頬にキスをした。その一瞬だけは、なんとなく申し訳  
無さそうにして。  
 
「助けてくれてありがとう。西沢クン」  
「う、うん」  
にっこりと微笑む清美に見詰められると、何も言い返せなくなる信也。もともと流され易い  
性質で、生真面目なのだ。普通に接されると、当たり前の反応しか出来ないのである。  
「そして、これからもよろしくね」  
「お断りだ!」  
ノリのよい信也はこの数年後、お笑い芸人として大成するのだが、それはまだ先の話。  
今は女教師にいいようにされる、純な少年なのであった。  
 
おしまい  
 

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