草原に満ちる草いきれ。それを上回る程に、咽るような体臭が鼻を突く。それは決して不快なもの  
ではなく、むしろ甘く心地良いものだった。しなやかな身体と、それを包む柔らかい体毛。身体を合  
わせるたびに、意識がとろけるような感覚がクルトを襲う。幼なじみの身体を何度も何度も味わう。  
 やがてクルトの下半身、その性器を熱いものが込み上げ――  
 
 
「おい、クルトっ」  
「っん、あ、えっ」  
 その声に、クルトは思わず体を起こす。  
 目の前には、先ほどまで夢の中で身体を合わせていた、幼馴染――ヒルデの姿があった。  
「じゃ、邪魔だった……か」  
 草原での出来事以来、なぜかぎこちないヒルデ。もっとも、それはクルトにしても同じだったのだ  
が。  
「いや……もう起きるよ」  
「そうか。あ、そっちに行っても……いいかな」  
 以前は遠慮なく上がっていたベッド、そこに行くのにさえ、なぜかドキドキしてしまう。  
「ああ」  
 幼馴染の返事を待ち、ヒルデはクルトの横に座る。ただし、少し間を取って。  
「……」  
「……」  
 
 そのまま何をするわけでもなく、話をするわけでもなく、ただベッドに並んで座る二人。  
「クルト、何時まで布団をかけてるんだ」  
 沈黙に耐えかねたのか、ヒルデが口を開く。  
「え?」  
「せっかく天気がいいんだ。干しとけよ」  
 ヒルデは言うが早いか、掛布団に手をかける。  
「えっ、いや、まっ」  
 慌てて布団を抑えるクルトだったが、ヒルデの方が一瞬速かった。  
 バサッ  
 掛布団がはぐられる。  
「!?」  
 そこから現われたものに、ヒルデは目を見開き、次の瞬間には顔を真っ赤に染める。  
 クルトは慌てて尻尾で股間を隠す。  
「……」  
 上目遣いでヒルデを見上げるクルト。その視線を感じながらも、ヒルデの頭の中は、幼馴染の股間  
で見たモノが焼きついていた。  
(あんなの……なるんだ……)  
 まえに見たときには、確かに大きくなってはいた。しかし、いまみたクルトのモノはひくひくと脈  
打ち血管を浮き立たせ、その先端からドロリとした液体を吐き出していたのだ。ヒルデの身体を恐怖  
に近いものが走り、思わず後ずさる。  
 
 それを追うように、クルトの手がヒルデの腕を捕らえる。掴まれた腕を振り払おうと、がむしゃら  
に腕を振るうヒルデ。クルトはそんなヒルデを離すまいと、ベッドの上にヒルデをうつ伏せに押し倒  
す。  
「や、やめろって」  
 しかしクルトの口から漏れるのは、荒い呼吸音だけだった。  
 どうしていいのか分からず、ただヒルデを逃がしたくない。そんな単純な思考が、クルトの頭の中  
を支配していた。  
 先祖が餌を捕らえていた時の記憶が身体に残っているのだろうか。必死に逃げようとするヒルデを  
体重を移動させながら押さえ込み、その服を乱暴に剥ぎ取る。先ほどの夢の中で、お預けをくらって  
いた性欲が一気に解放されたのだろうか。ベッドにヒルデの顔を押し付け、柔らかな尻肉を腰で乱暴  
に突き上げ、無理やり交尾の体勢に持っていく。ヒルデの尻尾が二人の肉体の間で跳ね、クルトの身  
体を跳ね除けようとする。が、しょせん尻尾。クルトにとっては、そのふさふさとした毛が腹を撫で  
る感触に快感すら覚え、それがまた、クルトの欲情を掻き立てた。  
 布団に鼻先を押し付けられ、ヒルデは染み付いたオスの匂いに鼻腔を刺激される。一瞬、頭の中を  
淫靡な思考が走る。  
 ぴとっ  
 そんなヒルデを現実に引き戻すように、秘所に熱いものが押し付けられる。  
「ま、え、うそ……だ……」  
 ヒルデに対する答えは、その肉体に対して痛みと共になされた。  
「ひぐぅ」  
 
 クルトを受け入れたヒルデは、身を裂くような痛みに声を詰まらせる。未開の――それも全く濡れ  
ていない――処女膣を、クルトの性器が割り拓く度に、焼けるような痛みをヒルデが襲う。しかし、  
初めての挿入感に夢中になったクルトには、幼馴染を思いやる余裕などなかった。荒い息とともに、  
口元からどろどろと流れる涎れが、ヒルデの背中を汚す。肉棒を奥に進めるたびに、新たに現われる  
熱く濡れたヒルデの内壁。その感触を、クルトは飢えた獣が、肉を貪るように求める。長い間、無意  
識のなか鬱積していたオスとしての欲望が、クルトをただの獸へと変えていた。  
 やがて、クルトの亀頭が、自身の侵入を阻む壁にぶつかる。ヒルデの乙女の証、それをクルトはな  
んの感慨も抱かずに貫く。  
「あ……がぁ……ぐぁぁぁぁぁぁ」  
 身体を押さえつけられ、満足に動くことも出来ないヒルデ。瞳に涙を浮かべ、意味をなさない獣の  
悲鳴を上げる、彼女に出来たのはただそれだけだった。  
 クルトは、その声が聞こえていないのか、それとも、その声すら己の性欲を満たす甘美な響きに聞  
こえるのか、ただひたすらに己の行為に没頭していた。  
 やがて、クルトのペニスがヒルデの最奥へと到達する。しかし、クルトの行為はそこで終わりでは  
なかった。  
 クルトは腰を引き、肉棒をヒルデの中から半ば抜き出し、再び挿入する。最初はぎこちなかったそ  
の動きも、クルトの馴れと、ヒルデの意思とは無関係に分泌される愛液によって、滑らかに、そして  
速くなって行く。それはやがて、ヒルデの尻肉が、打ちつけられるクルトの下半身と乾いた音を立て  
るまでになった。  
「クルト……ひぐっ、痛い、よぉ……僕……助けて……クルト」  
 
 自分を襲い、犯す幼馴染。それでもなお、ヒルデはその幼馴染に助けを呼ばずにいられなかった。  
 セックスのイメージ、それは漠然としたものだが、確かにあった。しかし、それは甘くとろけるよ  
うなイメージだった。それが、こんなにも痛く、苦しいものだったとは。豹変してしまった幼馴染、  
叩き壊された甘美なイメージ。全てがごちゃ混ぜになり、意識を彼方へと吹き飛ばさんばかりに荒れ  
狂う。ヒルデの身体は自分の意識とは関係なく、クルトの動きに押し流されるように動きはじめる。  
 クルトの求めるまま、望むに任せてしまえば、苦しむこともなく快楽に溺れることも出来だろう。  
しかし、ヒルデはそれで堕ちるほど弱くはなかったし、望みもしなかった。ただの快楽だけではない  
幼馴染の全てを受け入れようと、身体を意識で必死に繋ぎ止める。  
 突き上げられる不自由な身体を動かして腕を伸ばし、クルトの顔を肩越しに抱え込む。首を必死に  
回し、その荒々しい呼吸の漏れる口から伸ばされた舌に、自分の舌を絡める。  
「ん……んふっ……あん……クルト」  
 二人の視線が重なる。ヒルデの見たクルトの眼は、赤く血走った、まるで噛み付かんばかりのケダ  
モノの眼だった。全身の毛が逆立つような恐怖を必死に押さえ込み、クルトの頭に腕を回して抱き込  
む。押さえつけるのではなく、包み込むような優しさで。相変わらず身体を走る苦痛は消えないもの  
の、それ以上に暖かいものがヒルデの中に満ちてくる。  
 メスらしくない。そんな自分がクルトを普通に愛せるのだろうか。  
 そんな妙な考えに捕らわれていたのがバカバカしくなった。自分は自分のままで、思う通りに彼を  
愛せばいいのだ。自分の出来うる限り、彼を受け入れよう。  
 ヒルデはクルトの頭を離すと、クルトの動きに合わせて腰をゆっくりと動かす。彼の動きを感じ、  
その方向に腰を向けて挿入がスムーズになるように受け入れる。  
 
 不十分ながらも分泌された愛液が、竿の滑りをなめらかにする。  
 膣がきゅうきゅうと挿入される肉棒を締め付け、緩め、クルトを最後へと導く。  
「ぐっ」  
 尿道に流れ込む精子の奔流に、クルトの腰の動きが止まる。  
 ぎりぎりと歯を食いしばり、がくがくと腰を震わせたまま、クルトの動きが止まる。  
「だいじょうぶだから」  
 彼が本能的に恐れていた何かを解き払うように、ヒルデは言う。それが何かと言う事が分かったわ  
けではない、ただ漠然と感じただけだ。  
「ひる……デ、はぐぁ」  
 彼の口から漏れた言葉。自分の名前に、ヒルデの胸がキュンと締め付けられる。同時に膣内壁がぞ  
わぞわと蠢き、クルトの亀頭を、竿を撫でたてる。  
「ひっ、ヒルデ、ヒルデ、ヒルデェェェェェェッ」  
 すでに限界に来ていたクルトは最後の堰を切られ、相手の名前を叫びながら大量の子種をヒルデの  
中に注ぎ込んだ。  
「クルト、入って、入ってくっぅ、一杯に……クルトっ」  
 
 
「痛かったんだから」  
 クルトに背を向けたまま、ベッドの上でヒルデがぽつりと呟く。  
「あ、その……ごめん」  
 他になにも言えずに、クルトはその場でうなだれる。  
「ほ、本当に、その……反省してるなら……せ、責任とってくれよ。その……僕の初めてを奪ったん  
だから……」  
 ぎこちなく紡がれるヒルデの言葉、その意味する事を理解したとたん、クルトの顔が、かぁっと火  
照る。  
「あ、あの……ヒルデ、それは……」  
「それともう一つっ」  
 どもるクルトに、ヒルデは告げる。  
「……次は優しくして」  
 そう言って振り向くヒルデの顔に、クルトはどきっとする。  
 男勝りの性格そのままの気の強い顔立ちに、甘い芳香を漂わせる大人の雰囲気をあやういバランス  
の上に乗せた幼馴染の表情が、そこにあった。  
 

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