高層ビルの屋上に仁王立つひとりの少女。
視線は遥か遠くを見据え。吹き荒ぶ風をその背に受けて。
気高く凛々しいその勇姿。我らがヒロイン『ローターピンク』!
「バイブラスター起動っ!」
ごおんっ!
叫びは雄雄しく大地を震わせ。身体を包むは眩き光。
突き出された手はただ麗しき。輝きは纏い形と為す。
おお、生まれいずるその力を何と言い表そう。おお、具現するその力をどんな言葉で紡ごう。
「バイブラスター起動完了! 発射体勢!」
腰を下ろし。片膝を着き。指先は引き金に添えられ。スコープを覗き込む目は一点に吸い込まれ。
そう、それは銃。銃と呼ぶにはあまりに大きく。全身で支え、全身で構え、全身で狙い、全身で射つ。
そう、それは兵器。兵器と呼ぶにはあまりに美しく。洗練され、計算され、完成された超電磁砲(レールガン)。
「発射体勢完了! バイブラスト、発射準備っ!」
きゅいいいいん!
唸り響き轟く咆哮! そう、それはまさに咆哮! 己の存在の顕示に他ならぬ!
活目せよ! 矛先は巨悪のみ! 罪無き人々を恐怖の渦に巻くその姿の、今は何と矮小なことか!
活目せよ! 平和の担い手を! 全ての人々が望み信じ願う理想の姿の、ああ何と偉大なことか!
ついに裁きの時は来た! 受けよ、正義の鉄槌をっ!!
『――――――エネルギー充電率0.8パーセント』
「うう…」
『――――――エネルギー充電率1.4パーセント』
「は、早く…ぅぅ」
『――――――エネルギー充電率1.475パーセント』
「…はぁ、はぁ…。う、うううぁううっ…」
翻るスカートの裾を気にしながら、そしてその奥の振動に身を焦がされながら、
平和の担い手はただただ待ち続ける。
裁きの時が来る日を。正義の鉄槌が下るその瞬間を。
「…あのぅ、司令官さん」
『どうかしましたか?』
「これ、使えません」
『まさかそんな。その気になればホワイトハウスとペンタゴンと自由の女神とネズミの遊園地を、
まとめて地上から消し去ることもできる超絶兵器ですよ? 海に向けて使用すればモーゼごっこもできます』
「エネルギーが満タンにならないと発射できない、というのは…。ちょっと無理です」
『無理って何がですか?』
「…が、我慢がですよ」
『というか、構え方が間違っていますよ? 本来は両脚を肩幅より少し広げた状態で、立ったまま使用するものです。
構えている間はあまり動いてはいけません』
「そ、それこそ無理です…!」
『はて? 重量もバランスも問題ないはずですが。他に何か不具合が?』
「だ、だって。…無防備じゃないですか」
『防御の力場くらい形成されてますよ? ちょっとやそっとの攻撃ではびくともしません』
「そうじゃなくて、その…。内股になっても駄目なんですよね?」
『はい』
「じゃあその…。し、振動を受ける場所が、無防備になるというか…。
振動が直接というか、そのまま伝わってしまうというか…。その、とにかく敏感な」
『えっち』
「ちょっ…!?」