『私立ボンジョルノ高等学校』  
には、今日も戦いの嵐が吹き荒れている。全校生徒のほぼ百パーセントが  
武に通じ、戦うことこそが生きる道と決めた若者たちは、求道の士となって  
己を鍛え上げる日々を過ごしているのだ。当然、その中には強者と弱者が  
存在し、弱肉強食の世界が紡がれている。  
 
今、校庭に空手着を身に付けた一人の少女が、型の練習をしている。小柄  
だが、伸びやかな肢体を持つ褐色肌の美少女だ。  
「ふうッ!せいやあッ!」  
突く、受ける。そして、身を転じる。軽やかな足さばきで、少女は華麗に舞う。  
腰にまとった黒帯が有段者の風格を見せ、ただの空手使いではない事を  
良く表していた。そんな少女の名は、氷上由里。女性ながら、ボンジョルノ  
高校第二空手部を率いる猛者である。幼き日々より空手を学び、今はすで  
に達人の域にあった。  
「ん?風向きが変わった・・・?」  
練習中の由里が眉間に皺を寄せ、何者かの気配を感じ取る。風のざわめき  
は、何者かが放つ殺気によって起きたものらしい。  
「出て来い」  
由里が静かに言うと、校庭にある花壇の影から数人の覆面男たちが現れた。  
全員が殺気を放ち、由里に対して何やら企んでいるように見える。  
「氷上由里殿、お命頂戴致す」  
覆面男の中から一人が進み出て、由里に正対した。左構えから拳を突き出す  
正当な空手のスタイルを取りながら、だ。  
 
「愚かな」  
由里が八層に構えを取り、呟いた。相手の人数を確認すると、五人ほど。  
その全員が、一目見て分かるほどに鍛えられた体を持っている。間違い  
無く、武道に通じた者達だ。  
「いくぞ」  
リーダー格の男の合図で、五人の覆面男が由里を円で囲む。逃げ場を  
無くし、取り込む戦法で由里を倒す算段らしい。だが─  
「下郎、推参」  
ふっと口元を緩め、そう言った瞬間、由里は跳んだ。生来の動体能力に  
物を言わせ、五間も跳ねた後、由里の足刀蹴りが正面の男を襲う。  
「ぎゃッ!」  
蹴りを食らった男が真後ろへ吹っ飛んだ。その刹那、由里は蹴りの反動を  
利用して隣にいる男へ後ろ回し蹴りを放つ。  
「ぐわッ!」  
二人目は真横へすっ飛んだ。体が折れ、糸の切れた操り人形のように  
手足をぶらつかせ、地にまみれていく。だが、由里の攻撃は止まらない。  
「死ぬのはお前らだ!」  
何と由里は蹴りの反動を利用して、次から次へと男たちを襲い、只の一撃  
で血の海に沈めていく。その間、彼女自身は一度も地に足をつけていない。  
そうして、まるで白鳥が舞うかの如くに跳びながら、由里はあっという間に  
五人の暴漢を蹴り伏せてしまった。  
「うう・・・」  
死屍累々。まさにそんな有り様で、五人は突っ伏している。その姿を、由里  
は息切れひとつ見せずに、  
「鍛錬が足らないな」  
と、詰った。  
 
「強くなりたかったら、第二空手部へ来るんだな。稽古つけてやるから」  
由里が暴漢たちに背を向け、その場から去ろうとした瞬間、  
ひゅん─  
という風きり音が鳴った。  
「しまった!」  
何かが腕を掠めた─そう感じた時、由里は悔やんだ。腕を掠めた何か  
が、尾ひれのついたクナイである事に気づいたとき、由里の膝は崩れて  
いた。  
「ふ、伏兵を・・・」  
潜ませていたのか・・・そこまで考えたとき、由里は地にまみれる自分の姿  
を思う。そして、薄れていく意識の中で敗北した事を、はっきりと理解した  
のであった・・・  
 
『第三空手部』  
と書かれた看板が、うらびれた道場に掲げられている。戸は落ち、屋根に  
はペンペン草が生すほどの寂れ方で、道場と呼ぶには少々頼りなげ。その  
中で、由里はサンドバックを繋ぐ鎖に戒められ、天井から吊るされていた。  
「く、くそッ!」  
彼女の姿は、捕らえられた家畜の如き様相であった。両手両足をひとつの  
縄に縛られ、身には何も着けていない。  
「この縄を解け・・・貴様らッ!」  
虜囚となった自分の姿が、未開の蛮族に捕らわれ、木の棒にくくりつけられ  
て運ばれていく畜生の如く惨めで、由里は泣き出しそうになった。しかし、  
ボンジョルノ高等学校第二空手部を率いる身で、泣き言は言えない。  
 
道場内には、十人近い男が鎮座している。その中から、一人の男が  
進み出て、由里の前へ立った。  
「相変わらず、お気の強いことですね、氷上殿」  
「き、貴様・・・生沢」  
「そうです。以前、あなたに敗れ、第二空手部主将の座を追われた、  
生沢義春です」  
由里から生沢と呼ばれた男は、無表情で言う。知己である由里を前  
にしても、何の感情も持たないような、冷たい眼差しを携えながらだ。  
「そうか・・・お前があたしに負けて、第二空手部を追われた後、第三空  
手部に落ちていったとは聞いていたが・・・これは、その復讐か?」  
「いいえ。そんな不遜なものではありません」  
「だったら、どうして」  
「下克上です。第三空手部を、格上げする為の」  
由里の問いに、生沢は静かに答えた。ボンジョルノ高等学校では、各  
部活にランク付けがあって、実力いかんによって第一、第二・・・と決め  
られている。無論、上位であるほど道場や設備が整い、下位に至って  
はほとんど部費も出しては貰えない。だから、下位に属する部活は常に  
上位の部活を狙っている。この場合、第三空手部が、第二空手部を凌  
ごうとしている訳である。  
「そうか・・・だから、伏兵まで潜ませて・・・不意打ちをしたというのか・・  
そう言えば、お前はいつも急所ばかりを狙う、卑怯な空手を使っていた  
な。外道め!」  
そう言って、由里がぷっ・・・とつばを生沢に引っ掛けた。つり上がった  
目にも、憎しみがこもっている。  
 
「何と言われても結構です。私は今、第三空手部の主将としてこいつらを  
導かねばならない。汚名など、いくら着ても何とも思わない」  
つばをひっかけられても、生沢は無表情であった。そして、  
「やれ。遠慮は無用」  
と、他の部員を顎で促すと由里に背を向け、道場を出ようとした。すると・・・  
「あッ!待て、生沢!尋常に勝負しろ!貴様、それでも空手家か!」  
戒められてもなお、由里は生沢に噛み付いた。だが、彼女が必死に留めようと  
しても、生沢は歩を緩める事も無く、道場から姿を消していく。  
「待てーッ!生沢ーッ!」  
それだけ叫んだ後、由里は十人近い部員たちに囲まれた。部員たちも生沢  
と同じく無言で、不気味さを醸し出している。  
「あれを持ってこい」  
誰かが言うと、部員がそれぞれ動いて何やら怪しげな物を持ってきた。ある  
者は牛乳を、またある者はカメラを手にしてくる。  
(こいつら、何を始める気だ・・・?)  
素肌を刺す道場内の張り詰めた空気に怯える由里。そして、ある物が目前  
へお目見えした時、彼女はついに戦慄した。  
「な、何だ、それはッ!」  
カチャン・・・と不気味な音を立てた『それ』は、何と浣腸器。どこから、どうやって  
手に入れたのかは不明だが、便通を良くする薬液を注入するための器具が、  
戒められた由里の前へ運ばれてきたのである。  
 
「ま、まさか・・・それを」  
浣腸器を手にした部員が、紙パックの牛乳を嘴から吸引している。白い液体が  
器の半分ほどを潤した時、由里は暴れ始めた。  
「貴様らッ!馬鹿な真似はやめろッ!」  
ぎしぎしと鎖が軋む。しかし、サンドバックを吊るす鎖は小柄な由里が暴れても、  
びくともしない。  
「やれ」  
部員の冷たい言葉が響いた。暴れる由里を数人がかりで押さえ、吊るされて恥部  
を隠すことも出来ない女の尻を割り、小さなすぼまりを探り当てる。  
「やめろーッ!ちくしょうッ!」  
ひやりと冷たい嘴が尻穴へあてがわれた。くうっと悲鳴を漏らす由里。高校一年の  
今に至るまで、そこへ異物を招いた事など経験が無いのだ。  
「やめろッ!やめッ・・・ううッ!」  
拒む言葉の最後が濁った。この瞬間、由里は尻穴へ牛乳が注がれていくおぞまし  
さを初めて知る。  
「うぐぐッ・・・く、くっそう・・・」  
天井から吊るされているがため、由里は尻穴に力を込められない。よしんば、込め  
られたとしても、嘴から注がれる液体を拒む事は不可能だろう。そうこうしている内  
に、牛乳はすっかり彼女の肛内へと収められていった。  
「お、お前ら・・・狂ってるッ!」  
にゅるっという感触と共に、浣腸器の嘴が抜かれる。この時、由里は反射的に尻穴  
をすぼめ、牛乳が逆流してくるような感覚に怯えた。呪詛の言葉も力ない。  
 
「氷上殿はまだ達者のようだ。もう一本、馳走して差し上げろ」  
誰かが言うと、浣腸器を持った部員は再び嘴を牛乳パックの中へ入れる。  
「ひッ!も、もう・・・」  
やめて、という言葉は出なかった。卑怯極まる策略で、自分を貶めたこの男  
たちに慈悲を乞う事などを、したくはなかったのだ。  
「やれ」  
号令と共に捻じ込まれた二本目の浣腸は、キーッというガラス音を立て、由里  
の尻穴を穿つ。  
「あーッ・・・」  
牛乳の冷たさがうらめしい・・・と、由里は背を仰け反らせ、思う。しかも、薬液に  
見立てられた白い液体は、すぐに便意を誘い、由里の肌を汗ばませてしまう。  
「グ・・・ククッ・・・」  
尻穴を懸命にすぼめ、便意に耐える由里。僅かにでも力を抜けば、濁流が肛門  
を抜け、外界へ放たれてしまう。しかも、十人近い異性の前で。  
「放してやれ」  
逼迫した由里の状態を見た部員が、戒めを解くように言った。しかし、縄を解かれ  
道場の畳の上に放り出された由里は、わなわなと震えたまま、動かない。いや、  
猛烈な便意が襲っていて、動けないのだ。  
「うう・・・」  
芋虫のように這いずり、由里は道場の戸へ向かう。行き先など無いが、この場を  
離れたいという本能が、そうさせているのだ。  
 
「はあッ・・・はあッ・・」  
ずるずると這いながら、由里はどうにか道場の戸まで来ることが出来た。  
そして、畳の縁に手をかけ、外まであと一歩・・・という所まで来た時、  
「無様ですな、氷上殿」  
と、いう声が響き、生沢が由里の前に立った。その瞬間、  
「あッ!ああッ!あああッ!」  
戸を目前にして、由里は汚物を放ってしまう。聞くに堪えない濁音と共に  
腐臭を放ちながら、由里は人として最も見られたくない排便シーンを披露  
してしまったのである。  
「うううッ!駄目、見ないで!」  
畳に突っ伏したまま、由里は泣いた。だが、盛り上がった尻穴からは濁流  
が放たれ続けている。ブスブスと燻る排出音に、居並ぶ部員たちは眉を  
しかめ、  
「すげえ音。それに、臭い」  
「本当に、くせえなあ。何を食ってるんだよ」  
「氷上殿は肉食なのかな?ははは・・・」  
そう言って、由里を嘲笑う。すると、ついに・・・  
「うわあーッ!」  
と、由里は誰憚ることなく、泣いた。泣き、狂ったように頭を振って、今だ放  
たれる濁流の温もりに慄いていたのである・・・  
 
それから数日後、校内に奇怪なビデオテープが置かれるという事件が  
起きた。それも、人目につくよう大量に・・・である。  
 
「なんだろう、これ」  
それを最初に見つけたのは、男子生徒だった。名を特に記す事は無いが、  
生徒は意味ありげに置かれたテープに興味を引かれたので、視聴覚室を  
ちょいと借りて、中身を確かめようとした。すると・・・  
 
『やめて!やめてーッ・・・』  
テープは、そんなくだりから始まる。悲鳴を上げているのは、由里だった。  
「これは・・・第二空手部の・・・」  
生徒は、由里の名前を知っていた。この学校で、一年生ながら第二空手部  
を率いる彼女の辣腕を知らぬ者はいない。  
『あッ!ああッ!あああッ!』  
続いてビデオを再生するテレビ画面に、芋虫のように這わされ、排便する  
由里の惨めな姿が映る。肛門から放たれる濁流まで、しっかりとだ。  
『やめて!もう、やめてッ!』  
今度は、輪姦劇だった。覆面をした男たちが、素裸の由里に群がっている。  
『氷上殿は、処女じゃないんですね』  
泣き叫ぶ由里に圧し掛かった男が言う。男根は彼女の真芯を深々と貫い  
ていた。  
『空手一筋って訳じゃ、無かったんだ』  
『お相手は誰?』  
周りから男たちの野次が飛ぶと、由里は涙ながらに、  
『もう、許して!お願い!』  
と許しを乞う。  
 
『初めてのお相手は、誰です?』  
男根をゆさゆさとゆさぶりながら、覆面男は問う。すると、観念したのか、  
『か、空手道場の・・・先生』  
ぽろぽろと涙を流しつつ、由里は自白した。だが、男たちの辛らつな質問  
は続く。  
『いつですか?』  
由里は答えない。唇を噛み締め、悔しさをこらえているようだった。  
『答えないと、もう一度牛乳をケツで飲んで貰いますよ』  
誰かがそう言うと、由里はひっと悲鳴を上げる。よほど、浣腸が堪えたら  
しく、声を詰まらせながら結んでいた唇を緩めてしまう。そして・・・  
『じゅ・・・十二歳の・・・時』  
ひんっとしゃくりあげ、女性であれば心に秘めておきたい破瓜の思い出を、  
告白させられてしまった。  
 
「なんてこった・・・あの、氷上由里が・・・」  
視聴覚室で、男子生徒がため息をつく。彼は、由里が堕ちた─そう思った。  
「まあ、うちの学校じゃ、何があっても驚かないけどな。氷上由里は、もう  
陽の目が見られないだろうな」  
生徒はテープをデッキから取り出し、手刀で粉砕した。そして、ポケットから  
何やら人形のような物を取り出すと、  
「俺には、関係が無い事だ。ねー、アスカちゅわあん!」  
某ロボットアニメの気の強い女の子フィギュアに頬擦りしつつ、のたまう。  
そう、この男は前回登場したフィギュアバカ一代、十河恭一である。  
 
「だけどね、アスカちゅわん。俺は、女をいたぶる野郎を許しておけるほど、  
気の好い人間でもないんだよね」  
恭一がフィギュアをポケットへしまい込む。そして、第三空手部のある道場  
へと足を向けつつ、今度は別のフィギュアを取り出した。  
「ボンジョルノ高校、第一空手部主将、十河恭一があいつらを撲殺しましゅ。  
覆面してても、俺にはすぐ分かっちゃうの。ねえ、アヤナミ・・・」  
危険極まりない人形への憧憬。十河恭一はすでにこの頃から、色んな意味  
で抜きん出ていた。だが、空手は一流であり、校内最強の座を欲しいままに  
している。  
「行こうか、アスカたん、アヤナミにゅん」  
拳を握り締めた恭一が第三空手部に着いてすぐ、そこかしこから悲鳴と怒号  
が上がった。助けてくれ、とか死にたくない、とか、それはもう哀れな悲鳴が。  
そして、第三空手部部員たちは全員半殺しの目に遭い、学園を追われる事  
となる。すべて、恭一が叩き伏せたのだ。  
「氷上を自由にしろ。テープも全部回収しろよな」  
恭一は最後にそう言い残し、立ち去ったと言われている。これが、十河恭一  
にとって最強伝説の始まりとなるのだが、それはまた、後のお話・・・  
 
って事で、強引におしまい。  
 

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