「・・・扉の向こうに武装した人間が二人いますわ。部屋の中には他に三人ほど。
そちらはおそらく研究員だと思いますの。全員男性ですわ」
脳裏に浮かぶ情報をすらすらと読み上げる。これが正義のヒロイン、イエローとしての能力の一つ。
直接目にしなくても、離れた場所の詳細が手に取るようにわかる、通称『バイブラインドタッチ』。
この能力により、敵の研究所を襲撃した自軍の状況は、実に圧倒的なものとなっていた。
・・・だが現在、自分自身には余裕などこれっぽっちもなかった。
「・・・部屋の中にはパソコンが12台。その内、先ほどまで起動していたのは・・・2台ですわ。
部屋の入り口に向かって右側、手前から3台目と・・・あとひとつは、一番奥のものですわね・・・」
すました声で答えると同時に、背中を汗がたらりと流れる。襲撃を開始してからすでにそれなりの時間が経っていた。
その間、自身の『後ろ』に装着された超絶ぱわー発生装置は、絶えず動作をし続けており、
(・・・い、いけませんわ・・・! よりにもよって、こ、こんなはしたない姿で・・・!)
自室のベッドの上でうつ伏せた自分は、膝を着いて持ち上げたお尻を、左へ右へとくねらせていた。
能力の使用条件。自分の額・・・おデコを地面にくっ付け、目を瞑る。ただそれだけ。
だが、少し前から自然とお尻が持ち上がってしまい、
(し、仕方ありませんわ! そ、その姿勢のほうが・・・楽、そう楽なんですわ! 他の理由なんてありませんわ!)
装置の動作にあわせてくねらせて、
(違いますの他の理由なんて無いんですの絶対ですの絶対! と、とにかく今は説明するのに集中ですわ集中!)
「・・・研究員の一人が反対側の扉から逃げましたわ。何かディスクのようなものを所持していますの。
逃走ルートは、まず部屋の反対側の扉を左に曲がって・・・」
ぞくり
「ひっ・・・!?」
今は頭より高いところにあるお尻から、身体中に駆け巡った『他の理由』。
「っっ・・・! ひっ・・・左に曲がって、廊下を真っ直ぐ、移動、していますわ・・・!」
ぎゅっと手でベッドを握り締め、何事も無かったかのように言葉を取り繕う。
その裏で、身体の動きは一段と増していた。上半身はベッドに擦り付けるように、下半身は装置の動作のまま為す術なく。
(ああありえませんわ! さ、作戦中ですのよ!? こんな、こんなはしたないことをーーー!)
ベッドに触れる胸の先の感触が普段とは違い、
(何かの間違いですわ! わたくしが、このわたくしが、そんないやらしいーーー!)
呼吸は荒く熱っぽさを帯びてリズムが整わず、
(絶対に認めませんわ! あ、あろうことか、お、お尻でなんてーーー!)
両脚の付け根付近がくすぐったくて仕方ない。
(わ、わたくし・・・!)
(・・・わたくし、身体がもうすっかりできあがってしまいましたのーーー!!!
このままだと、あ、喘ぎ声を出してしまいますわーーーーーー!!!)
(だだだ駄目ですの今は駄目ですのーーー! わ、わたくしの声はいま全部、本部で中継していますのよーーー!)
「・・・ほ、他の部屋の前を通って、ずっと、行ってますわ、ず、ずっと。あ、後ろっ、後ろを振り返って」
ぞくぞくぞくり
「ああっ・・・!?」
(だから駄目ですの何が何でも駄目ですのーーー! スピーカーで流れてますの本部の人が聞いてますわーーー!)
「あ・・・ま、曲がりましたの。右、ですそう右ですわ。あっ、すぐ左っ、左にいって、あ、またすぐ右っ」
ぞくぞくぞくぞくぞくり
「あああっ・・・!?」
(駄目ですのーーー! 皆さんが聞いてますのーーー! 聞かれちゃいますのーーー! そ、それだけはーーー!)
「そっその先、右にぐっと行って、いって左、すぐ左に・・・あっ、そのまま奥、ぐっと、ぐっと奥、奥っ」
ぞくぞくぞくぞくぞくぞくぞくぞくぞくぞくり
「ああああっ・・・!?」
(駄目ですのにーーー! で、出ちゃいますのーーー! だ、駄目なのに、出ちゃいますのーーー!
わたくしの、は、はしたない、いやらしい、お、お尻で感じた、感じてる、あ、甘い、あ、喘ぎ声がーーーーーー!)
「奥っ、もっと奥っ、そうそこっ、そこに、あっ、そこが、ああっそこが、そこが、あっあっ、あっ・・・」
(だ、駄目ーーーーーーーーー!!!)
「あっ・・・ああぁ〜〜ん・・・!」
いやーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
ぼふっ! ← 枕に顔を叩きつけた音
ぼふっぼふっぼふっ! ぼふっ! ぼふっぼふっ! ← 叩きつけまくっている音
ぼふっ! ぼふっ! ぼふっ! ← まだ叩きつけている音
ぼふっ・・・ ← 叩きつけてそのまま突っ伏した
・・・・・・ ← 突っ伏したまま動かなくなりました。お疲れ様でした。