戦闘員VSローターピンク2 〜協力〜  
 
 
正義と悪とは光と影や水と油のように消して交じり合うことのない関係だ。  
だがしかし、この世界に存在する脅威は正義の力だけで適う物ばかりではない。  
例えその存在が悪だとしても、その力が秩序にそぐわないとしても、  
72柱の魔王を使役したソロモン王のように、  
悪党だった孫悟空や沙悟浄、猪八戒を供とした三蔵法師のように、  
目的を貫くためなら正義の使者が悪の力を借りねばならない時もある。  
 
 
「うわぁ……こいつはやばいっすね……」  
ふとっちょの戦闘員が炎上する屋敷を見上げながら呟く。  
「そんな……何でこんなことを……」  
燃え盛る業火を前に、戦闘員を退治しに駆けつけたローターピンクが呆然とする。  
「おそらく、家中にある盗難品や密輸品を俺たちから隠すためだな」  
ローターピンクに連勝中の戦闘員が炎上している屋敷からお年寄りの使用人を担いで出てきた。  
「見つかるぐらいなら灰にするってか。なにも知らされてない使用人ごと  
燃やそうとするなんてよっぽど発覚するとまずい物ばかり集めてたんだろうな」  
 
「あ、先輩大丈夫っすか」  
「戦闘員さん、その人は?」  
「大丈夫だよ、軽い火傷はあるけど命に別状はない。  
おい、お前ちょっとこの人病院まで運べ」  
「了解っす、って山の下までですか?結構距離あるから5分ぐらいかかるっすよ。  
人一人担いでいくの結構きついっす」  
「怪我人を運ぶのなら私も……」  
怪我人を助けるなら正義も悪もない。悪党どもは征服した後の労働力が減るのを恐れての行動だろうが。  
ふとっちょ戦闘員と一緒に怪我人を担ごうとしたピンクの腕を、いつもの戦闘員が掴んで制する。  
 
「いや、君にはやってもらいたいことがある。この火を消すのが先決だ、協力してくれ。 
まさかこんな状態の時に俺たちを捕まえるのを優先するなんて馬鹿なこと言わないだろ? 」  
「はい…………分かりました…………」  
なんという大胆不敵、悪の組織の構成員でありながら正義の味方に  
上から命令するかのような口調!  
あまりの屈辱に頭へ血が上ったのか、ピンクの頬がほんのり赤く染まる。  
しかし山の中とはいえ豪邸の周りは何十件も住宅があり、  
いまだ消防車が駆けつけないこの状況では  
このまま火事を放っておけば大惨事になるのは目に見えている。  
ここはどんなに歯がゆくても、目の前の男の要求を呑むしかあるまい。  
ふとっちょ戦闘員が怪我人を担いで現場を離れた後、いつもの戦闘員は作戦を語り始めた。  
「とりあえずこの屋敷の構造を調べた結論としては正門奥の柱を45本砕けば館は全て崩れ落ちるはずだ。  
そいつを君のビームで破壊してほしい」  
ピンクはこくんと頷く。と、いきなり戦闘員がピンクの手を握った!  
悪人のあまりに馴れ馴れしい態度に怒りを感じたのかますますピンクの顔は赤面する!!  
 
「で、さっきの人助ける時見てきた感じだともう館内は密閉された空間もないみたいだから、  
えーと、あれ、なんだっけ、バックドラフト現象?も起こらないと思うし  
ここから見える柱を全力でぶっ放してくれれば背後の柱も貫通したビームで……危ないっ」  
ピンクを件の柱を攻撃できる位置まで導き細々とした説明をしていた戦闘員の前に、  
突然熱した2階の壁面が焼け崩れ落下する!  
 
二人はすぐさま飛びのき身をかわすが、柱までの場所をコンクリートの壁が塞いで  
攻撃目標を視認できなくなってしまった!  
「うわ……マジかよ…………どう、この状況で柱壊せる?」  
ピンクは真っ青な顔で首を左右に振る。  
「見えてないと……無理です……」  
飛びのいたとき少し移動し、向きもずれ分からなくなった今、  
今いる場所から正確に目標物を破壊する術は失われてしまった。 
ただ柱を破壊すればいいのではなく一度の攻撃で複数の柱を全て貫通しなければいけない。 
ビームを連射できないピンクには、わずかな角度のずれさえ作戦の成功の妨げとなる。 
 
壁面は左右に長く剥がれ落ちたため正門全体を覆うように落下してしまい、迂回するのは無理だ。  
柱に向かって伸びる廊下は正門側にしかないから他の場所から狙うこともできないし、  
辺りは足場になりそうなものもなく、壁面はいまだ赤く熱していて乗り越えることもできそうにない。  
「この壁面を小さなビームでまず壊してから、すぐに柱を壊せるかい?」  
「ぅ……バイブレストを連続で撃つのは、ちょっと無理です」  
「やはり、短時間の連射は無理か……」  
そこで突然戦闘員が四つん這いになる。  
「俺の背中に乗ってみてくれ」  
ピンクはいわれたとおり彼の上に乗る。  
「あ……見えます、いけそうです!」  
 
「じゃあ頼む、今すぐ君の力でこの屋敷を崩すんだ!」  
超絶ぱわぁ発生装置が駆動するその瞬間!  
「あ……ごめんなさい、すいません、やっぱり無理です……」  
即座にピンクの口から諦めの声が上がる!  
「なんで!?」  
「……その、超絶ぱわぁ発生装置が稼動する前は見えてたんですけど……」  
「…………あー、なるほど、動き出すと内股になって高さが足りなくなって見えなくなると」  
カーと顔を赤くして地面に降りたピンクは首を縦に振る。  
しかし誰が彼女を責められよう?  
例えそれが平和のためとはいえ、悪党の背に乗り正義の力を使うなど、  
正義感に燃える彼女には耐えられるはずもないのだろう。  
「我慢でき……てたら俺らなんかとっくに倒されてるわな、考えてみりゃ……  
見えてなくても、憶えた距離と位置で何とかこの壁面ごと貫通して当てるのは?」  
「多分駄目です……キャッチボールと同じで、見えてないと正確な場所には当たらないんです」  
 
「なら、仕方ないな」  
戦闘員はしゃがみこむ。  
「肩車しかないか」  
 
肩車をしているピンクに戦闘員は尋ねる。  
「あと、どれぐらいで撃てそう?」  
「そ……その、3分もか、か、かからないと……」  
なんという狡賢さだろう、この状況を利用してピンク本人から必殺技のデータを聞きだすとは!  
建物破壊を提案したのもおそらくこのためだったのだろう。油断のならない戦闘員だ。  
 
「あ……あの……ぁ、あまり、頭を擦り付けないでください……」  
「いや……、俺は全然動いてないよ。もぞもぞしてるのは君の方なんだけど」  
「な、なにを!」  
「いやだって、こっちは君と戦う時にいつも君がくねくねしてるの知ってるから」  
「うぅ……そんなに……あなたの前でいつもくねくねしてたんですか……」  
「あっ、こらだめだよ、そんな風に腰を引いたら重心が崩れて倒れるって!」  
「うぅ……ごめんなさい……はぁ……」  
「あ、もしかして、腰を密着させたら……耐えられないのかな」  
「な、ななっ?!そ、…………ふはぁ…………そんなこと、ありません……」  
 
と、戦闘員は太ももを掴んでいた手を離しピンクの背後に回してヒップを鷲掴みにすると、  
逃れようとするピンクの下半身を手前に引き寄せる!  
「ひぃあああぁぁっ……あ、ぁ、ぁあっ、だめっ、中に半分めり込ん…………」  
ピンクが戦闘員の頭を掴む手の力が一段と強くなり、  
涙目になりながら悲鳴をあげる。  
「……可哀想だけど、ここで倒れてまた最初からパワーを溜めるなんてことになったら  
消火が間に合いそうにないから。……正義の味方なんだから耐えてくれよ」  
正義の味方の責任感を楯に卑劣な戦闘員は彼女の小さなお尻を触るというセクハラに正当性を持たせる!  
この戦闘員の悪どさに怒りを感じぬわけがない!!  
わなわなと唇を震わせ、涙を潤ませ、悲鳴を上げながらそれでもピンクは前を見据える。  
全てを焼き尽くす紅蓮の炎を消し飛ばすため、今少女は屈辱と戦い、力と闘志を漲らせる!!  
「あぁ、もうちょっとっ、もうちょっとだからぁ、がまん、がまんひなきゃぁっ」  
 
「まだかっ、そろそろ火の粉がここまで飛んでくるようになったぞ!」  
「ぱわぁきた、きたっ、きたぁ、きましたぁ、いっぱいきたぁぁっ」  
少女の体を桜色の光が包み込む!  
集い蓄えられたスーパーエネルギーが、少女の体内で今まさに奇跡を起こす!!  
「きた、すごいぱわぁいっぱいっ、でる、でる、でちゃうううぅぅぅっ」  
少女が纏った淡い粒子は収束しピンク色の球体となり、ついに必殺技が放たれる!!!  
「いっぱいでるぅぅうぅぅぅぅっっっっ」  
ピンクの球は一瞬で正面へ延びる光線となり、そのビームに照射された館の柱が弾けとび、  
あっという間に燃え盛る豪邸は瓦解した。  
廊下や部屋といった空間が消え、空気の循環が消えた館の残骸の火の勢いは急速に弱まっていく。  
 
しかし目標を遂げたというのに、ピンクも戦闘員もビームを放った時と同じ姿勢のまま凍りついている。  
しばらくしてから戦闘員がスローモーションのようにゆっくりと腰を下ろすと、  
ピンクが固まったまま地に膝を着いた。  
 
そしてピンクの股の間からくぐるように後ろへ下がった戦闘員の首は、ぐっしょりと濡れていた。  
 
「あのさ……ここ離れた方がいいんじゃないかな」  
近づいてくる消防車のサイレンに気づき戦闘員がようやくピンクに声をかけると、  
ピンクは声を上げてわんわんと泣き始めた。  
 
 
「あの、何があったすか?先輩はどこへ行ったすか」  
怪我人を届けて帰ってきたふとっちょ戦闘員は、館の近くの山の中で先輩の戦闘員に  
大泣きするピンクの様子を見るよういわれて大弱りだった。  
当の先輩戦闘員はとっくにどこかへ走り去り二人取り残されている。  
「とりあえず火は消えたみたいっすね、いやーよかったよかった」  
ははは、と愛想笑いをするが、いまだ目の前の少女はわんわん泣いたままだ。  
今までしゃくりあげるように泣いている姿は見たことはあるが、  
ここまで大粒の涙を流しているのははじめてだったのでかなり驚き、  
いつまでも彼女が泣き止まないので本当に参っていた。  
(こんなとこ誰かに見られたら、とんでもない誤解をされるっす)  
 
「あ、そうだ、一仕事して疲れた後は甘い物はいかがっすか?  
じゃじゃーん、おまけの怪人シール入り秘密結社キャンディ!  
わが秘密結社の怪人シールがいっぱい入ってて、かっこいいっすよー。  
うちの社の貴重な収入源をタダで10袋あげますよー、  
おいしくて栄養豊富で怪人みたいに強くなれるっす」  
「いりませんっ、正義の味方ですからっ」  
ピンクは涙を流しながら叫ぶと、またわんわんと声を上げ泣き始めた。  
「そんなん、持ち歩いてるから、痩せないんだよ、お前は」  
はぁはぁいいながら小道をあの戦闘員が駆け上ってきた。  
「あ、先輩どこいってたすか?」  
「ちょっと、買い物に、な。ほら、これ」  
戦闘員がピンクの目の前に、袋を差し出した。  
「え……これは?」  
「新しい、やつだよ、今のは、もう、身に着けられ、ないだろ」  
「え、え、何の話っすか」  
「お前は、話に入るな、ていうかもうどっか行け」  
命令されたふとっちょ戦闘員はしぶしぶ山道を降りていく。  
 
涙が止まったピンクが、静かに首を横に振る。  
「でも、盗んだものとかなら私受け取れません」  
「違うよ、ちゃんとお金は払ったよ」  
「そんな覆面して買い物なんてできるわけないじゃないですか」  
「あー、確かに買い物はしてないよ。  
店に入ってから商品掴んでレジに万札置いて出て行くまで走りっぱなしだったから。  
て言うか店出た後も逃げるために走ったから。  
なんせこんな覆面姿だからデパート入ったとたんに店員に叫ばれて、  
女性下着なんか手に取った日にはまさに変質者扱い。  
試食コーナーのおばさんにはフライパンで頭殴られちゃうし」  
「それは、……大変でしたね。でもそんな格好してるから自業自得、ですけど」  
戦闘員はピンクに近づきその顔をあげさせる。  
「はは言われちゃったね。まあとにかく、せっかくいいことしたんだからさ、  
顔を上げて胸を張ろうよ。実際今日の君は十分誉められることをしたんだから」  
「悪の組織の人にいいことをして誉められても、なんか複雑です」  
「……笑ったね?」  
「あ、モザイクバリアーなくなっちゃいました?」  
慌てて顔を手で隠すピンクに、戦闘員は笑いかける。  
「別にあっても雰囲気で分かるよ」  
そう言うと山道の麓を指差す。  
「あそこらへんに公園があるから、そこのトイレで着替えるといい。じゃ、帰り道は気をつけてね」  
 
手をひらひら振って山道を降りる戦闘員をピンクは呼び止める。  
「あ、あの!」  
「……なに?」  
ほとんど聞き取れない声で、ピンクは釈明する。  
「わ……私……いつもは、こんなに……し…………下着を…………  
ぬ…………濡らし、………たりなんか、していませんから…………」  
「うん、そうだろうね。今日は俺が無理やり肩車とかしたから、多分そのせいだね」  
 
もう一度山道を降りはじめた戦闘員を、袋を胸に抱きながらピンクは再度呼び止める。  
「それから」  
「なに?」  
「……ありがとうございました……これ、大事にします」  
「そ」  
戦闘員を見送るピンクの頬は、今日一番のあざやかな赤に染まっていた。  
無理もない、正義の味方でありながら悪の組織の一員に施しを受けるという屈辱を味わったのだから。  
この悔しさをばねに強くなれ、正義の戦士ローターピンク!!  
 
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  
 
「あの、先生、もうお勉強の時間終わってます」  
椅子の上に正座しながらおどおどしている少女の前で、  
真向かいに座った青年がかんかんに怒った顔で少女を問い詰める。  
「いいから、いい加減誰なのか言いなさい」  
「いえその、ですからもうその、お勉強の時間が終わってるので  
これ以上先生がいてもその、月謝が払えません」  
「お金とかそんなのはいいの!というかこんなことで金なんてもらう気はないよ!」  
「あ、それよりもラジオ聞きませんか?  
へー、窃盗団のアジトが炎上して犯人達が捕まったらしいですよ」  
「そんなのは今関係ありません!」  
そんな問答を、二人はこの1時間ずっと繰り返している。  
 
他のバイトで服と体を汚したためちょっと早いお風呂に入り髪がまだ少し濡れたままの家庭教師が、  
同じくお風呂上りで石鹸の匂いがするちょっとポーッとした教え子に  
異性からプレゼントをもらったと聞きだしたのが2時間前。  
そしてその品がパンツであると誘導尋問で判明したのが1時間前の休憩中だった。  
 
「とにかく、中学生の女の子に下着なんか送るような男はろくな奴じゃない!!  
誰なんだいそいつは!」  
「いえ、その、言えないんです……一応、悪い人じゃ……悪い人になるのかな……」  
「なるよそりゃ、君みたいな小さな女の子にそんなものを送るのはとんでもない変態なの!」  
「で、でも、その、悪い人ではあるんですけど、根っからの悪じゃないっていうか」  
「君はいい子だから騙されてるの!とにかく、ことと次第によっては  
ご両親にも報告させてもらうからね!!」  
 
「あ、あの、ことと次第は説明できませんし、  
今日はお父さんもお母さんも多分仕事で帰ってきませんから」  
「だったら電話させてもらうよ!!  
こんなこと、良識ある大人として黙ってるわけにはいかないからね!!!」 
 
結局その後、家庭教師の尋問とお説教は2時間近く続いた。  
 
「全く、こんな純粋な子にそんな破廉恥なことするなんて、  
正体と居所さえわかれば全力でぶん殴ってやるのに!!」  
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  

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