戦闘員VSローターピンク 
 
 
悪の灯が消えないかぎり、少女の戦いは終わらない。  
しかし本当に憎むべき物は目に見える悪だけなのか。  
少女は知らない。世界は白と黒の2色だけでなく、もっと多様な彩りに満ち溢れていることを。  
少女には測れない。目の前の敵が真に悪と呼べるのか、自らと同じく平和を愛する者なのか。  
 
 
「そのお金を……置いていきなさい……」  
目の前に立つ悪の組織の戦闘員を、ローターピンクが内股で呼び止める。  
 
「また君か。いいかげん、諦めてくれないかな」  
ため息交じりの戦闘員を、我らがローターピンクは敢然と睨み返す!  
……半分涙目になりながら。  
戦闘員の攻撃を防ぐバリアーを展開しているため、  
彼女の股間でいままさに超絶ぱわぁ発生アイテムがフル稼働しているのだ!  
 
「盗んだお金を……いますぐ……でないと……攻撃します……」  
ローターピンクが口上を続ける間、憎むべき戦闘員は暢気に携帯を覗き見ている。  
高層ビルを破壊し、新幹線よりも早く移動できる(スペック上は)超絶ぱわぁ発生アイテムを  
身に着けたローターピンクに対しなんと大胆なことだろう!  
しかしそれもそのはず、この戦闘員は今までローターピンクに10戦10勝、無敗の戦闘員だったのだ!!  
 
「俺を追っかけてきてそろそろ1分か」  
携帯で時間を確認する戦闘員。  
そのあまりに人を舐めた態度に、ローターピンクの体が小刻みに震える!  
ここまでコケにされ、怒りを覚えないほうがおかしいから、その震えは怒りのせいであることは間違いない!!  
今すぐ攻撃するのだローターピンク!!股間の超絶アイテムの振動が何倍にも跳ね上がる!!  
 
「いますぐ……おか……おい……い……」  
 
しかしそれは本当に怒りなのか?  
なぜか筋力が強化されたローターピンクは悪を目の前にして腰をくねくね動かしているままだ。  
まさか、正義の味方でありながら何度も敗北の憂き目を味合わされた記憶が、  
少女の体を恐怖で縛っているというのか。  
 
「いま……おい……いきな…………いって………」  
 
負けるなピンク、戦えピンク!  
正義の味方が悪に、恐怖に、トラウマに屈するな!  
 
「いって…………い…………い…………いっ、ぃ………………いっちゃぁ……  
ぁ、ぁ、あああぁぁぁ…………」  
 
ローターピンクは体を今までで一番大きく震わし、へなへなとアスファルトの上に座り込んだ。  
 
携帯を見ていた戦闘員はまたため息をつく。  
「今日は2分15秒か。まあ、今までで一番もったほうかな」  
 
11回目の敗北に、座り込んだローターピンクの頬に涙が伝い始める。  
「うっ……ふぇ……また負けちゃったよう……」  
ぽりぽりと頭を掻きながら、戦闘員は非情な言葉をかける。  
「泣いてるみたいだけどティッシュいる?」  
 
わずかに残ったバリアーでぼやけ見えない顔に向かって差し出されたポケットティッシュを、  
ローターピンクは強い言葉で拒絶する。  
「いりませんっっ!!!!  
……うぅ……いつもいつもそうやって馬鹿にして……」  
「……だから君の相手は嫌なんだよな。そんなに泣いてると、俺がメチャクチャ悪人みたいだ」  
 
「あなたが悪いことするから私が出動するんじゃないですかっ!  
私だってあなたの相手なんてイヤですイヤです絶対イヤですっ!  
いつもいつも、私が負けて…………ぐすっ」  
「別に俺は君に勝ってないけどなぁ。何か君が勝手に自滅してるだけだし。  
そういや覆面してるのに、なんで俺だってわかるの?戦闘員なら俺以外にもいるし、声も機械で変えてるのに」  
 
「……だってあなたはいつも、戦いの後私の側で私のこと嘲笑ってるじゃないですか!」  
「別に馬鹿にしてないけどさ。むしろ俺は尊敬してるぐらいだよ。  
そんなに若いのに、恥ずかしい目に会いながらこんなに頑張ってるんだもん」  
 
「あなたに褒められてもぜんっぜん嬉しくありません!!  
うう……あなたみたいな人とはもう2度と顔を合わせたくないのに……」  
「お互い顔は隠してるけどね。とにかくさ、早く帰りなよ。もうお金も俺の仲間に渡したから取り戻せないし。  
いつまでも公道の真ん中で泣いてると一般市民に迷惑だよ」  
 
「あなたに」  
「人んちの前でなにやってんだてめえ!!」  
 
突然の背後からの大声に少女の体がびくっと震える。  
 
「きゃあ!!あ……すいません、今回の被害者の方ですよね……ごめんなさい、金庫のお金とりもど」  
「てめえなんで金庫のこと知ってんだ!?……さてはお嬢ちゃん、俺が以前撮影した子の仲間だな……  
まあいい、こっちでゆっくり金と嬢ちゃんのことを聞かせてもらおうか」  
 
纏わりつくような視線を絡ませた後、男は超絶ぱわぁを使えないローターピンクの腕を掴んで暗がりへ引きずり込もうとする!  
予想外のピンチに、ローターピンクの顔が恐怖で引きつった!!  
無理も無い、超絶ぱわぁが使えないならば、そこらの少女と変わらない平凡な女の子なのだ。  
 
「え……嫌、なんですかっ、手を離して!」  
 
「彼女から手を離せ」  
 
男の視線の死角にいた戦闘員が、冷たく言い放つ。  
「お……お前は誰だ!?」  
卑小な男はそれだけで怯えてローターピンクの手を離し、後ずさりする。  
「だれでもいいよ、んなもん。それよりも、あちらの警察が入り込んでるの、あんたの家じゃない?」  
「な……なんでサツが!」  
 
と、警察のほうに気をとられた男の膝に蹴りを入れる戦闘員。  
ポキ、という乾いた音が鳴り男の膝はありえない角度へ曲がる。  
 
声にならない悲鳴をあげ男は折れた足を引きずりながら暗闇へと消えていった。  
 
「っく〜〜、無駄に頑丈な膝してるな。蹴った俺の足までイッちまった。じゃあ、俺もそろそろお暇するか」  
男の向かった暗闇へ消えようとする戦闘員に、ローターピンクはおずおずと背後から語りかける。  
「あ、あの、助けてくれて……ありがとう」  
 
たとえ悪の戦闘員の気まぐれでも、助けてくれた相手にはちゃんとお礼を言う。  
それが正義の味方の辛いところだ。  
 
「……別にお礼言われる筋合いはないよ。ああいうむかつく奴を堂々とぶっ飛ばすせるから 
悪の組織でバイトしてるんだから。あ、警察の人きそうだから行くね。ほら、俺悪い奴だし」  
 
「あの、待ってください」  
「まだなんか用?」  
振り向かずに戦闘員は尋ねる。  
 
「あの……もしかして、今まで負けた私の側にいたのって……  
今日みたいに無防備な私が変な人に襲われないよう、見守っていたからですか?」  
「……ま、敵とはいえ君みたいな女の子がひどい目に会ったら俺も目覚め悪いからね」  
それだけ言うと、戦闘員は颯爽と闇に消えた。  
 
戦闘員の背を見つめていたローターピンクの頬が、ほんのりと朱に染まる。  
なんということだろう、憎むべき悪の組織の戦闘員に、  
今までずっと情けをかけられていたのだ!  
自らのふがいなさを思うあまり赤面するのもいたしかたない。  
その悔しさをばねにして、闘えローターピンク!  
 
 
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「どうしたの、今日はなんだかいつもより勉強に身が入らないみたいだね」  
「……あ、センセイ、また私ボーっとしてました?」  
「はは、いいよ、区切りがいいしそろそろ休憩にしようか」  
男は快活に笑って教科書を閉じ、ラジオをつけ水筒を取り出して少女の差し出したティーカップに紅茶を注いだ。  
血行の良くなるハーブと、脳のエネルギーとなる砂糖の入った紅茶を飲んで、少女の思考と精神が落ち着いてくる。  
「ごめんなさい……ちょっと考え事しちゃって」  
 
ラジオからは痴漢魔が逮捕されて盗撮されたビデオが大量に押収され、  
そしてそのビデオで稼いだはずの大金が何者かに盗まれていたというニュースが流れていた。  
「はは、いいんだよ。あんまり飲み込みが早すぎても教えがいが無いというか、  
家庭教師として張り合いが無いし。委員長の仕事が大変なの?」  
「ええと……その、学校のことじゃないんですけど……」  
 
ははーん、と男はちょっと意地悪そうな笑みを浮かべる。  
 
「もしかして……好きな男の子が出来たとか?」  
思わず紅茶を吹き出す少女。  
「あ、ご、ごめんなさい!」  
慌ててテーブルの上を拭こうとする少女の足が男の足に触れると、  
男の顔から笑みが消えうなり声が上がった。  
 
「あ、すいません、足踏んじゃいました?」  
脂汗を浮かべ俯きながら男はハハと苦笑いをする。  
「倉庫の棚卸のバイトもやってるんだけどさ……誤って荷物落としてこのざまだよ……」  
 
「すいません……なんだか今日、私謝ってばかりです」  
少女はテーブルを綺麗に拭くと、シュンとなって下を向いた。  
 
「……じゃあさ、謝罪のついでに好きな人誰か教えてよ。クラスメイト?それとも委員会の子?  
お父さんとお母さんには内緒にしておいてあげるから」  
「な、もう、別に好きな人なんていません!」  
急いで教科書を開いた少女は、少し暗い表情で小さく呟いた。  
 
――あの人が誰かなんて、私が知りたいぐらいです――  
 
「ん、何か言った?」  
「いえ、……なんでも」  
「好きな人の事教えてくれたら、宿題少なくしてあげるんだけどなー」  
「もう、だからいませんってば!ああもう何笑ってるんですか!センセイの意地悪っ」  
少女の表情に生気が戻ったのを確認して、男は笑いを堪えながら教科書に目を通す。  
「ははは、ごめんごめん。じゃあ、続きをやろうか」  
男が宣言して休憩は終わり、二人の勉強が再開された。  

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