「……なあ、ちょっと相談に乗ってくれへん?」
放課後、わたしの家に遊びに来てくれたちーちゃんが、唐突にそう切り出してきた。
クラスメイトのちーちゃんとわたしは、大の仲良し。いつも一緒に居るし、わたしに困ったことがあるといつも助けてくれる。
でも、ちーちゃんのほうからわたしに相談してくるのは珍しかった。何だろう?
「ウチが小説書くのを趣味にしとるのは知ってるやろ?」
そう、ちーちゃんは文章を書くのがすごく上手。読書感想文とかでこれまでに何度を賞を取っている。
とっても物知りさんで、むずかしい漢字や言い回しをすらすら書ける。そんなちーちゃんはわたしにとって自慢なのだ。
「で、いま書いてるシーンがどうも上手いこといかんのよ。何と言うか、具体的なイメージが湧かないというか」
へえ、ちーちゃんでもそんなことあるんだ。ちょっとびっくり。
でも困ったことを相談してくれるのは、ちーちゃんがわたしを信頼してくれてるってことだから、嬉しいな。
小説についてはよくわからないけど、わたしにできることがあるなら何でも言ってね、ちーちゃん。
「女の子がバイブで責められてアンアン言うシーンなんやけどな」
いやちょっと待って。
「通販で道具は手に入れたから、これはもう実際にやってみるしかないやん! よろしく!」
ちょ……やーーーーーーー!!!
ぶぃぃーーーーん
ちーちゃんのかけているメガネが何だか、キラーンって光ってこっちを見てる。
手にはその、振動しているピンクローター。あれを今からわたしに使うんだ……。
「そんな不安にならんでもいけるって。ちょっと下着越しに当てるだけやから。ちょっとだけ、ちょっとだけ」
う、うん。ちょっとだけ、なら。
「じゃあ、ベッドの上に仰向けになってなー」
よいしょっと。なりました。
「次ー、手でスカートめくり上げてー」
ハードル高くするの早すぎだよ、ちーちゃん……。
「上げて」
は、はい。目をつむって、スカートの両手でつかんで、お腹のほうに引っぱり上げる。
ふとももがヒヤリと涼しくなった感じがして、これってもう、下着も見えてるよね……。
「おーし、予想どおりの白やな。これでもし黒とか穿いてたら引いとるやろなー。そんなんウチも持ってないし」
タンスの奥に一枚だけあります……。
「脚開いてー。30度くらい」
う、うう。
「いけるいける。水泳の授業のとき、水着になったらこれくらい見えてるやん」
その水着姿も恥ずかしいんだよ、ちーちゃん……。
すごくすごくがんばって、両脚を開く。これでわたしの敏感なところは、ちーちゃんに対して布地一枚を残して、無防備になった。
「よし当てるでー、えいっ」
ひっ!? あわてて口をぎゅっととじる。ためらう間もなく当てられたからびっくりした。ちーちゃんはせっかちさんだ。
「本当は言葉責めとかあるんやけど、そこは省略やな」
……ちーちゃんの考えた言葉責め、ちょっと聞いてみたかったのは内緒だ。
ぶぃぃーーーーん
わたしのへやに、ローターの動いてる音がひびいてる。
ちーちゃんは無言。わたしも無言。いつもとは違う不思議な雰囲気。変な空間にまぎれこんだみたい。
「……どう? 感じてきた?」
何となくぼんやりしてきていた頭がふきとぶ。え、えっと……。
「んー、金銭的な都合でローターしか買えんかったしなー。やっぱバイブのほうがよう感じるんやろか?
ちょっと当てる場所変えてみていい? この辺はどう?」
わたしの返事を待たないで、ちーちゃんの手が動き出す。ローターを当てるところを色々と変えてくる。
あのね、ちーちゃん。下着の色んなところを触られるのって、とっても恥ずかしいんだよ。
けど、小首を傾げながら手を動かしてるちーちゃんは何だか可愛いな、ってひゃっ!?
……ひざが浮きかける。敏感なところにぐっと押し付けてきたから、身体がびくっと反応しちゃった……。
「あ、このぐらいのほうがいいんやな」
動きが浮き沈めするようなものに変わる。いやらしい動きだよちーちゃん。あしをもぞもぞしたくなってきたよ……。
それでまた、しばらく無言の時間が続く。するとまた、とうとつにちーちゃんが口を開いた。
「……なあなあ、染みが広がっていくところをよく確認したいんやけど」
すごいこと言うよね、ちーちゃん……。
「まだ時間かかるんかなー? なあ、ちょっとエッチなこと考えてくれへん?」
すごいこと止まらないね、ちーちゃん。急にそんなこと言われても無理だよ。いま頭なんてまわらないよ……。
困ったわたしはちーちゃんのほうを見て……あっ。
胸が高鳴った。ドキってした。
片手にコードがつながったコントローラーを持ったちーちゃんは、もう片方の手でピンクローターをわたしの下着に当てている。
その顔が思ったよりも下着に近くて。じっと見つめてて。頬がほんのりと赤くなってて。
何より、小説のためだって言ってたちーちゃんの目に、さりげない好奇心の色が見え隠れしていて。
「……ん? やった、きたきた! やっぱりエッチなこと考えるんは効果あるんやなー」
違うよ。エッチなのはちーちゃんのほうだよ……。
……んっ。……んっ。
身体がぴくっぴくってふるえちゃう。あしをもぞもぞしたくてたまらない。
手と足のゆびをぎゅっとしてがまんする。……ああ、わたし、感じちゃってるよ……。
ねえ、ちーちゃん。まだ続けるの……?
「んー、実際に濡れるとこは確認したしなー」
ちーちゃん、ことばをえらんで……。
「ていうか、本当に濡れたりするんやな。身体も小刻みに震えてるし。なんかやらしー」
やったのはちーちゃんだよ……? うう、これがさっき言ってたことばぜめなの……?
「まあ、このくらいでええか」
ほっ……。
「ああでもせっかくやし、他のシーンもやっとこうかな」
え?
「まだ余裕あるやろ。お願い」
う、うん……。でも、なにするの?
「そうやなー、まったく同じようにするのは無理やから……。とりあえず、宿題しよっか」
しゅ、宿題?
はぁ、はぁ、はぁ……。
「いやな、女の子がローターを入れたまま授業を受けるってシーンでな。そこはXに3を代入して」
んっ、んっ、んっ……。
「まさか本気で学校でやるわけにはいかんし、これなら宿題もできて一石二鳥やろ? Yの方程式を解けばそれが答え」
あっ、だめっ、あっ……。
「簡単やろー……って、聞いてる? ペン止まってるけど」
ね、ねえ、ちーちゃん……。
「やっぱ、ローターを入れたまま作業するのって無理なんかな?」
それもそうだけど……。それ以上に、今のじょうたいがエッチすぎて、あたまがへんになりそうだよう……。
目の前にはテーブルとノート。床にお尻を着いて座ってる。
それで、ちーちゃんに後ろから抱きしめられていて。ちーちゃんのローターを持った手が、私のふともものあいだにあって。
ちーちゃんの身体がわたしのからだにくっついてて。やわらかいところが、背中に当たってて。
おまけに、ちーちゃんの口がちょうど耳元にあって。吐息が、くすぐったいよお……。
「もうちょっと頑張ってみてくれん? お願い」
ちーちゃんの声がすごくすごく色っぽく感じて、もう、本当にへんになりそう……。
「んー……。無理そうやな」
むりれす……。
「でもこうしてると、ウチらアツアツの恋人同士みたいやなー」
ふえっ……!?
「ええーい、胸揉んじゃえー」
ふえええぇっ!?
「……柔らかいなー。あー、何だかやらしー気分になってきた。このまま禁断の世界いっとく?」
ちちちちーちゃんっ!?
「なーんて冗談冗談。本気にせんといてやー」
……そうだよね。
「めっちゃ震えてるけど大丈夫? っていうかごめん、制服から着替えてやるべきやったね。
……正直、こんなに濡れると思わんかったから。スカートに染み付いたらさすがにマズイよね……」
ごめんちーちゃん、本当にエッチなのはわたしのほうだったよ……。
「ま、大体わかったし。この辺にしとこうか。ありがとうなー、手伝ってくれて」
う、うん。こちらこそどうも。
「……で、あと一つだけ確認したいことがあるんやけど」
う、え?
「…………喘ぎ声ってやつ、聞かせて」
う、ええええええっ!?
ぐったり……
「やったでー! これで気になってたことは大体わかった! 付き合ってくれてありがとうなー!」
……う、うん。よかったね、ちーちゃん……。
「よっし、執筆意欲もバリバリ湧いてきた! 帰って文章まとめよー! お疲れー!」
ばいばい……。
「そっちはゆっくり休んでなー! ほななー!」
バタン
そうして、ちーちゃんは帰っていった。すごく嬉しそうな表情で。
よかった。わたし、ちーちゃんの役に立てたんだ。よかった。わたしもすごくうれしいよ。
すごくうれしい、けど……。ううっ……。
つくえに突っ伏したまま、ふとももを擦り合わせる。ち、ちーちゃん、あのね……。
……このほてりきったからだ、どうすればいいの……?
さ、さいごまでしてくれるって期待とかしてたわけじゃないよ? さすがにそこまでは、いくらなんでも、だし……。
でも、でもでも、ここまでしておいて、放置っていうのは……。ひどいよ、ちーちゃん。
それとも、これが放置プレイってやつなのかな……。ううっ……。
……もう、だめ。がまんできないよ……。
ちーちゃんの顔が思い出される。わたしにエッチなことしてるちーちゃんの顔。
ほっぺたを染めて、好奇心をちらつかせて、わたしの反応にドキドキしてる、エッチなちーちゃんの顔。
タンスに手を伸ばす。奥にある黒の下着よりもさらに奥、隠された小さな袋を取り出し、封を開く。
中に入っているのは、……わたしの、ピンクローター。
取り出して手のひらに乗せる。じっと見つめる。見つめながらドキドキする。
……ちーちゃん、あのピンクローターを持って帰っちゃったね……。
使うのかな、ちーちゃん。わたしに使ったローターを、ちーちゃんも使うのかな……。
ローターを使って、わたしにしたみたいなエッチなこと、ちーちゃんもするのかな……。
わたしみたいに……。ひとりで……。
……ちーちゃん、ごめんね。
わたし、こんなにエッチなともだちで、本当にごめんね……。
ガチャ
「ごめん、忘れ物してもーた! ウチの筆記用具〜」
かち、ぶぃぃーーーーん
「あ……」
あ。