赤、それは猛る火炎の色。  
赤、それは熱き血潮の色。  
赤、それは眩い太陽の色。  
 
物質を、人間を、恒星を、ミクロからマクロまで全てのものを  
誕生させ、活動させ、破壊させるエネルギーのシンボルカラー。  
 
だからこそ、その色を冠した戦士に敗北は許されない。  
彼女こそが正義の、平和の守り手の旗頭に他ならないのだから。  
彼女――バイブレッドが悪に負けた時、  
それは正義というエネルギーが消え去るのと同意義なのだから。  
 
 
覆面をした悪の戦闘員が5人、そして人ならざる姿をした怪人とおぼしき影が一匹。  
彼らは今まさに、悪徳政治家を縛り上げ彼の隠し金庫の暗証番号を聞き出したばかりだった。  
そんな彼らの活躍をカメラで眺めながら、ほくそ笑む男が二人。  
「ふふ……うまくいきましたなマラデッカー将軍」  
「これもマラソッテル博士の怪人の尋問光線のおかげ。大首領もお喜びで……  
くそっ、うまくいっていたのもここまでのようですな」  
「なんですと?それはいったいどういう……なっ、やつらか?」  
カメラの片隅に少女の影を確認した博士の顔が引きつった。  
そこには、学生服の少女の姿が映っていた。  
 
「あなたたちっ、そんな悪いことは……やめなさぃ……てばぁ……」  
妙に腰を蠢かせながら、深紅の後光を発する少女が窓辺へと降り立っていた。  
そこは3階。彼女が常人のそれをはるかに超える跳躍力を持つのは誰の目にも明らかだ。  
「なんということじゃ……奴らがもう来おったか……しかし、やつらも恐れるに足らずじゃ。  
ピンクであろうとイエローであろうと戦闘員5人に怪人まで加われば作戦成功率は90パー」  
将軍はそのいかつい顔を左右に振る。  
「その二人とは体格が違う」  
「な……やつらめ、新手を見つけおったか……しかし、どんなに未知の敵でも今夜の戦力なら大丈夫だ!  
者ども、オペレーションMじゃ!」  
「えー、この人数で女の子一人相手にするなんてメチャかっこ悪いじゃないですか」  
「黙れ黙れ、全身タイツ覆面姿で何かっこつけとるかばか者!言うこと聞かんと時給下げるぞ!!」  
しゃあねぇなーという声とともに、戦闘員たちが少女のいる窓の周りを一定の距離を置いて取り囲む。  
「ふふふ……これこそが貴様ら相手の必勝の作戦よ。長時間戦う事のできぬ貴様らには、  
時間稼ぎでやり過ごすに限る……しかも今夜はこちらのほうが圧倒的に多勢……  
このように前後から取り囲めばまとめて倒されることもありえない……負けぬ、負ける要素が見つからぬ……」  
「どうしても……たたか……ぅと……いうの?…………」  
か細い声で尋ねる少女に、戦闘員はやりづらそうにうなずく。  
 
「博士、相手は未知の敵。ここは慎重にいくべきだ」  
「ふん、将軍ともあろう方が臆したか?私の計算に間違いは無い!行け怪人、最初はお前だ!」  
怪人がぐあああぁぁぁとやはり人外の雄たけびを上げた瞬間、  
少女の体が大きくびくんと跳ねた。  
「……ひゃぁっ、あ、ちょ、ぁああつよっ」  
怪人の手が彼女のか細い腕を掴もうとした刹那、彼女は耐え切れなくなったかのように膝から崩れ落ち、  
その動きが怪人の掌握をかわすことになる。  
「なにっ?」  
「あ、や、いやあああぁぁぁっっ」  
そしてそのまま、膝立ちになっていた彼女は大きく前方へ頭を下げ、  
怪人の腹部にヘッドバットをかましたのだった。  
怪人は一撃で逆の壁際まで吹っ飛び、そのまま延びてしまった。  
しかしご自慢の怪人が一撃でやられたというのに、博士はその口端を吊り上げて勝利の笑みを浮かべた。  
 
「くくく……最初の動きを避けられた時こそ驚いたが……  
怪人一人を倒すほどの超絶ぱわぁーを使ったのだ……もはや、そいつに何もできまい……」  
確かに、少女はその頭を絨毯の上に突っ伏したまま長らく沈黙していた。  
首筋や太股に汗を浮かべ、呼吸を荒げながら、敵である悪党たちのほうを見ようともしない……。  
「わはははは、達してしまい力の使えぬ戦士などおそるるに足らず!戦闘員たちよ、さっさと拘束せよ!!」  
やれやれとため息をつきながら戦闘員の一人が縄を手に少女に近づく。  
「わりいな、嬢ちゃん。俺らが金を運び終えたころにはあんたの組織の奴らも駆けつけるだろうから、  
それまでちょっとおとなしくしてくれや」  
「ぇ…………ゃっ…………ぁぇぇ…………」  
「え?なんだって?」  
「だめだっ、不用意に近づくなっ」  
少女の小さな声を聞こうと戦闘員が彼女の頭に耳を近づけようとするのと、将軍が静止するのとは同時だった。  
しかし時遅く、戦闘員が少女の傍らに屈み込もうとした瞬間、地に突っ伏していた少女の頭が振り上げられたのだ。  
「うごいちゃいやぁぁぁっっ」  
という絶叫とともに。  
それは全くのカウンターだったため、バックヘッドはかすっただけなのに戦闘員を吹き飛ばすのに十分な威力だった。  
「おい、大丈夫か?」  
悶える彼女の近くで伸びてしまった戦闘員を助けようと新たな戦闘員が近づこうとするが、  
その戦闘員の足を少女が掴んだ。まるで地獄で苦しむ罪人が道連れの足を掴むような必死さで。  
「ひっ」  
悲鳴をあげて逃げようとするが超絶ぱわぁー発生装置で強化された彼女から逃れられるはずも無く。  
「あ、あ、あぁ、だめ、またぃく、いっちゃううううぅぅぅっ」  
少女は更なる艶めいた叫びを上げるとシーツを握り締めるように戦闘員の足を握り締める。  
3階まで軽々と跳び上がる驚異的な筋力で。  
「……」  
激痛のあまり声すら上げられず白目をむいて戦闘員は気絶した。  
これで耐衝撃性のある戦闘員用のタイツを穿いていなかったら、彼の足は無事ではなかっただろう。  
 
「これは、いったいどうしたことだ!?奴らは一度達した後は戦えぬはず……」  
「そうか、これが噂に聞く梅拳……!!」  
突然劇画調な面持ちで将軍が叫んだ。  
「なに、知っているのか将軍!!」  
「ああ、私も伝説の中でしか聞いたことの無い、幻の拳法……」  
 
―――梅券(ばいけん)―――  
 
かつて古代中国玲省で発祥した伝説の拳法である  
酔えば酔うほど強くなる酔拳をヒントにしたその拳の極意は  
女性達が虫の入った筒などを胎内に挿れ  
イけばイくほど強くなるという淫拳であり  
その拳の特徴ゆえにけして歴史の表舞台に姿を現すことは無かった  
しかしその間合いへ入ればそくさま死にいたるという強さと  
使い手たちの美しさから  
梅拳の拳法家は節々の時代で皇帝の後宮に召抱えられ  
昼はその技で後宮に徒なそうとする悪をことごとく屠り  
夜はその体で皇帝を喜ばせ梅券一門は中世磐石の地位を築いたという  
だがこの時の行き過ぎた繁栄が多くの民の嫉妬を呼び、  
今中国に伝わる「二梅」という言葉、すなわち  
「金瓶『梅』と『梅』拳ほどこの中国において淫らでいやらしいものはない」  
という言葉を生み出すことになったのは歴史の皮肉といえよう  
なお、史上最強の梅拳の達人「梅武」と発祥の地「玲省」の名前が合わさり  
西洋に伝わった際「vibration(バイブレーション)」  
という言葉の語源となったのは有名な話である  
 
―――蠢動書房刊 『YOU、エッチしChina☆』 より―――  
 
 
「……ありえん、あの年端もゆかない少女が拳法の使い手だと?」  
「超絶ぱわぁ発生アイテムに拳法の動きを記録させているのだろう。  
今の彼女はその記録された動作どおり技を繰り出す操り人形に過ぎん。新しいタイプの戦士だな」  
「しかししかし納得いかん!一度達したあとなら  
疲労感、虚脱感、倦怠感に精神を支配され連続で超絶ぱわぁを溜められぬはずじゃ!」  
「つまり、疲労感、虚脱感、倦怠感を感じぬ場所で彼女は絶頂を感じていることになる」  
「……まさか、外部ではなく……」  
「おそらく内部で絶頂を迎えている。梅拳に関する資料の『虫の入った筒などを胎内に挿れ』  
という箇所と照らしあわせて考えれば、この仮説はおそらく間違っていない」  
「馬鹿な……でわ……」  
「今までのような時間稼ぎは通用しない。  
いや、むしろ今までの戦法は彼女に超絶ぱわぁーを蓄える時間を与えることになる。  
一回でもイけば無力化する外と違い、中でイくのに限度は無いらしいからな」  
 
「馬鹿な馬鹿な馬鹿なーーっ!!それではなにか、奴は果てれば果てるほど拳法の鋭さが増し、  
達すれば達するほど超絶ぱわぁーによる筋力強化も増し、時間稼ぎすら通用しないというのか?  
そんなの無敵じゃないかーーーーっわしの計算でも勝利の方程式顔も言うカバーーーん」  
「錯乱するな博士」  
「ちょ……俺らはどうすればいいっすか?」  
震える声で負傷していない戦闘員が幹部二人に支持を尋ねる。  
なんせこのまま目の前で少女がイくのを見守るのは彼女のパワーアップを黙って見過ごすようなもの。  
しかし彼らが3人がかりになろうとも彼女にかないそうも無いのは、自分たちの背後まで吹っ飛ばされて  
いまだ気を失ったままの怪人を見れば明らかだ。まさに絶体絶命。  
「ひぃっ、あああぁぁっ、くはぁっ、やだ、やらあああぁっ」  
そんな部屋に少女の嬌声だけが響き渡っていた。  
 
しかし動けぬ状態の二人の戦闘員を尻目に一人が隠し金庫へ無造作に歩み寄る。  
「こら貴様何を聞いておったんじゃ!隙を見せたらやられてしまうぞ!!」  
「だいじょーぶですよ。それよかあれ、番号何番だっけ?  
えーと1919081……いくいくおっぱい、と……アホな番号だな……」  
その戦闘員は完全に少女に対して警戒を解いている!  
しかし背後から一撃食らえば絶命必至なこの状況で、なぜか男は涼しい声だ。  
それもそのはず、少女はのた打ち回るばかりで、少しも彼に攻撃を加えようとしない。  
金庫を開けていない二人の戦闘員を警戒しているのか?  
しかし彼女が(というか彼女を動かしているあいてむが)能力的に戦闘員たちを  
警戒する必要性はまず無いはずだ。  
 
「お……開いた開いた……あーでもなんかここまでみたいですね。  
遠くからパトカーのサイレン聞こえてきました。  
こっちは負傷者を運ばなきゃいかんし、この金塊全部運ぶのは無理です」  
「ば、馬鹿なことを言わずお前らだけでも速く逃げろ!  
そいつ相手に一人でも逃げられれば僥倖じゃ」  
「いや、だから逃げる必要ないですって」  
「な、何を……」  
「だって……ねえ?この子、さっきから同じ場所で喘いでるだけで、  
ちっともこっちに近づいてこない」  
「ひやあ、ひゃぁぁっ、またっ、またぁぁぁぁああっ」  
「な……まさか……」  
「ええ、おそらくこの子は動けないんですよ。連続でイきまくってますからね。  
『その間合いへ入ればそくさま死にいたる』なら、間合いに入らなきゃいい。  
そりゃ『歴史の表舞台に姿を現すことは無かった』わけですよこんな無害な拳法。  
あ、お前らはそっちの二人、俺は怪人さん運んどくから。  
しかし金目のものは運べず収賄政治家を御用にするだけじゃ、  
どっちが正義の味方かわからんな。じゃ、俺ら撤収しま〜〜す」  
口に金塊を咥えた悪党どもが姿を消すと、カメラの中に残されたのは喘ぎ悶える少女のみだった。  
 
 
赤、それは全てを活かす生命の象徴。  
赤、それは全てを動かす活力の象徴。  
赤、それは全てを轟かす情熱の象徴。  
 
赤、それは全ての根源の色。  
 
だからこそ、それと同じ色の超絶ぱわぁ発生アイテムを身につけた彼女に、敗北は許されない。  
たしかに今回彼女は負けなかった。しかし、勝ちもしなかった。  
 
次こそは悪を打ち砕き、正義の力を示すのだ!!  
負けるな平和の使者バイブレッド!!  
 
 
「てぃうかっ、けーさつくるのにとまんなぁ、ぃぁああぁぁぁっ」  
 
 
捕まるなよバイブレッド!!  
 

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