昼食後の講義ほど眠いものはない。
木曜の5限目は、片肘をついて昼寝の時間だ――いつもの私なら。
だけど今日は違う。
だって、罰ゲームを「与える側」なのだから。
* * *
夕べ、寮のルームメイトとのテトリス勝負に、私は勝利した。
常に真剣なこの勝負、「まった」なんかありえない。
理由はただ一つ――罰ゲームの存在だ。
勝者は敗者に対し、翌日の行動に対して命令ができる。寮生活での貴重な暇つぶしなのだ。
先日ぷよぷよで負けた罰ゲームとして、私は膣にローターを入れて一日生活することを強いられた。
もちろんいつもそんなエロい事を罰にしている訳ではないが(ランチを奢るとかもよくあるし)、
前回のはらいせに、私はサツキに命令することにした。
「明日はコレつけて生活して」
「この間の仕返し?」
「くくっ。ちょっとだけパワーアップしてるよ」
今回彼女に渡したのは、リモコン付きローター。
もちろん月曜に同じ授業を取っていることを見越してのチョイスだ。
「……ミキちゃん、趣味悪いよ」
「どっちが!」
私は、ふんと鼻で笑った。
* * *
さて、待ちに待ったこの時間。どうやって苛めてやろうか。
サツキは私の隣で真面目にノートを取っている。ご苦労なことだ。
私はふふんと笑い、手元のリモコンをかちかちっと操作した。
「……っ」
サツキの身体がびくんと震え、吐息がもれる。
朝から今まで、リモコンのスイッチをずっとOFFにしておいたのは正解だった。
今日初めて味わう刺激を、こんなに近くで観察することができるのだ。
リモコンは「弱」にセットさている。
しかしいくら微弱とはいえ突然の刺激は、サツキにとって大波と同じことだろう。
おもしろいので、しばらくそのままにしておく。
「……ふっ……」
サツキの長い髪がゆれている。
お嬢様のようなストレートがふるふると踊り、耳にかかっていた一房がぱらりと外れていった。
黒髪の隙間からの香りが、やさしく鼻腔をくすぐる。(これがフェロモンてやつか?)
ヤバイ。コイツの大人しい見た目(だけ)は犯罪だ。
うっすらと浮かぶ涙にくらりとする。
(ダメだダメだ!)
うっかり同情しそうになった自分を激怒する意味を込めて、――リモコンを「中」にした。
「……くぅっ!!」
ふん、かろうじて声は抑えたようだ。
サツキは両手をぐっと握り、震えながらも耐えている。
額には、汗。
……ああ、楽しい。すごい楽しい。萌え。
私は様子を見ながら、「弱」と「中」を短い間隔で切り替え続ける。
「ふ…っ……ぁ…っ…ぁ…っ」
かくかくと身体が揺れ始めた。
階段状に連なる講義室の隅の、一番死角になる席に座っているため、誰かに見られる心配はない
だろう。(この講義は人気ないし)
この際、思う存分乱れてもらおうじゃないか。
私はスイッチを操作し続けた。
振動を切り替える間隔を変えてみたり、一度切ったと見せかけて一息ついているところにスイッチ
を入れたり。
そのたびにサツキはぴんと身体を張ったり、逆にぐったりと机に突っ伏したりして、予想以上の
反応を見せてくれる。
おそらく、何度かは軽くイってるはずだ。
「…っ……はぅっ…あぅっ!!」
それでも止めてやらない。
そんな自分のドSぶりはキライじゃない。
中。弱。中。弱。中。……弱とみせかけてすぐ中!
サツキの眉間にしわがより、びくんと身体が跳ねる。
机の下の両足は、震えながらもぴんと伸びている。
何度も何度も繰り返し、ついにサツキが小声で訴えた。
「…くぅ…っ、ミキちゃん……もう…っ…」
「イきたい? っていうかもう何度もイってるでしょ」
そうじゃない、とサツキは首を大きく横に振る。
涙を溜めた大きな瞳が私を捉える。
「お願…い……っ」
「どうしても?」
「お願い……し…ます…っ!」
「くくっ。まあもうすぐ授業も終わるし…仕方ないなぁ」
私はリモコンを一度「弱」にして、にやりと笑う。
しばし、そのまま。
弱い刺激は、それに慣れ始めたサツキの身体には効果が薄い。
5分程度の微弱な攻めに、あんなに荒かったサツキの吐息は、少しだけ落ち着いてきた。
ちらりと時計を確認して――、
「み、ミキちゃん……?」
「もう少し……ほら、くるよ!」
――刹那。
ゴォォーン、ゴォォーン、ゴォォーン……。
聞きなれた、うるさすぎるチャイムが講義室に響いた。
同時に、私はリモコンを「強」へ!
サツキの身体に電流が走る。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ーーーっっっ!?!?」
「うちの学校のチャイム音がでかすぎることに感謝しなよ!」
「ん゛ん゛ぁふぁぁぁぁああぁぁぁーーーーっっっ!!!!!」
さすがに抑え切れなかった声を、それでも口に当てた桃色のハンカチで懸命に堪えながら。
白い四肢をぴんと張って――サツキは、果てた。
私はその様子を見下ろし、にんまりと笑った。
* * *
夜。
部屋でまったりと過ごす私とは対照的に、サツキはぐったりだ。
「……ミキちゃんの変態」
「あんたに言われたくないね。ほら」
私はユンケルを差し出す。サツキは力なく受け取った。
まあ、憎まれ口を叩くだけの元気はあるので、特に心配はないようだ。
私はテーブルの上のせんべいを一つつまみ、ばりっとかじりながら言った。
「だいたい、誰のせいで私がバージンじゃなくなったんだっつー話だ」
「その台詞、そっくりお返し致します」
「先に仕掛けたのはお前だろ!……ったく、カワイイ顔しやがって」
ばりっ。せんべいをかじる。
のりが歯にくっつく。
いつの間にかユンケルを飲み終えていたサツキが、私の横に座った。
「さて、……次は何しよっか?」
天使の笑みで、悪魔が囁いた。
*END*