【装着編】  
 
月曜未明、カケル自室。  
前夜は興奮してなかなか寝付けなかったはずなのに目が覚める。  
時計を確認、朝4時を少し回ったところ。  
ハッとしてトランクスの中を確認する。  
(・・・セーフ。)  
体は既に臨戦態勢。  
頭だけがまだ若干ぼんやりとしているといった状態。  
首をコキコキと動かして、背伸びをして、辺りを見回す。  
いつもどおりの自室。  
違いといえば、昨日未久と別れてから買ってきた、新たな「おもちゃ」。  
電車で二駅離れた繁華街の、一つ路地を入ったところにあるその手の店で買ったモノ。  
ドキドキしながら入ったものの、その手のものは既に若者の間にも氾濫しているのか、  
特に咎める者も無く拍子抜けした。  
そして、未久相手に主導権を握るにはこれが必要だろうと確信して手にした。  
パッケージは昨日のうちに開封しており、動作確認も完了。  
一枚紙の説明書は既に何回も読み返した。  
『この製品はジョーク製品です。他の目的には使用しないで下さい。』  
(・・・ジョークって何だよ。)  
この手の日陰「物」には付き物の注釈文。  
一晩経ってみてもツッコミを入れざるをえない。  
だが、ジョークと言えば昨日一日の出来事もジョークでないとは言い切れない。  
実際、現実感はいまひとつである。  
思わず、携帯を手に取る。  
No.0のダイヤルを自然に選択する。  
――プルルルッ、プルルルッ――  
(あ!)  
今がまだ朝4時と気が付いた時には遅かった。  
――ピッ。  
『んー、おはやー。』  
「あー、ごめん、おはよ。」  
『ほんとおはやー。むにゃ・・・。どしたー?』  
そういえば特に用件もなく掛けてしまった。  
 
慌てて出る咄嗟の一言。  
「そ、その、顔を、見たくなって。」  
『へ?・・・・・・・・・・・』  
(やばい、外した?)  
『うわー、なんか、いいね。目覚めちゃった』  
ほっと胸を撫で下ろす。  
(うーん、どうしても動揺しちまうなぁ・・・)  
同時に、窓の向こうでカーテンがシャッと引かれる音がする。  
自分も窓辺へ。カーテンを開ける。  
望月家と椎名家は隣同士。  
カケルと未久の部屋は5メートル程の距離で向かい合う形になる。  
お互いを意識しはじめてからは、このカーテンを開けることもあまりなくなった。  
まして向かい合って話しをするなんて何年ぶりのことか。  
もちろん朝の挨拶も、ブカブカのパジャマ姿の未久を見るのも初である。  
『おはよー。』  
「おはよー。」  
電話でなくても話せる距離ではあるが、そこはまだ薄暗い早朝。  
そのまま携帯で話を続ける。  
『頭ぼっさぼっさー。』  
カケルを指差して笑う。  
「うるせー。」  
『あははっ。で、顔、見ました。満足?』  
そう言って未久はニコリと微笑む。  
「うーん、ちょっと待ってて。」  
『ん?』  
声を聞き、顔を見たら、次は直接触れ合ってみたくなった。  
と同時に、『アレ』もついでに今『装着』させてしまおうと閃いた。  
携帯を切り、紙袋を持って窓辺へ。  
窓枠を乗り越え、瓦屋根を慎重に伝う。  
未久が驚きの声を上げる。  
「え?え?え、ちょっとまさか。」  
小学校のころには何度も屋根伝いに互いの家を訪れていた二人。  
さすがに親に見つかって止められてからは自重していた。  
それを今カケルがやっている。  
ということはこのまま部屋に来るということ。  
どうしようどうしよう、と焦る未久であったが、カケルがあと数歩という所でよろめく。  
「う、わ、たぉ!?」  
「あわわ!」  
慌てて手を伸ばして掴み、引き寄せる。  
そのまま、抱擁。勢いでベットへ倒れる。  
「っと、ごめんごめん。」  
「ふぅ〜。あぶなー。・・・・・・・・朝からドキドキしちゃった。」  
「俺も。」  
 
・・・  
 
朝。ベッド。若い男女。抱擁。・・・キス。  
――チュッ・・・  
――ンチュッ・・・  
軽く優しい口付け。時々未久の唇を甘く噛む。  
どこで習った訳でもなく、感じるままの行為。  
――チロ・・・レロ・・・  
――チュ・・・チュバッ・・・チュル・・・  
フレンチからディープへと移行。  
舌同士がヌルヌルと交錯し、互いの唾液がいやらしい音を立てながら混ざる。  
留め切れなかった分が頬を伝わる。  
それすらも惜しいとばかりに舌を伸ばして舐め上げる。  
「ん・・・」  
恍惚とした表情を見せる未久。  
そのせいで、ただでさえ落ち着きの無かった愚息がさらに存在感を主張する。  
もぞもぞと脚を動かし出す。  
そのまま未久のデルタへ割り込ませる。  
「ぁ!」  
グリグリと刺激する。  
パジャマ越しでもはっきりと分かる体温、柔らかい肉付き。伝染する緊張。  
その脚を挟み込むように未久が身をよじらせ脚を交差する。  
上下左右への動きを制限されたカケルは、抜き差しするように前後へ脈動する。  
「ぁ・・・ふぁ・・・ん・・・なんか・・・ちょっと・・・」  
未久を全身で感じたく、脚をからませ、身体を引き寄せ、再度唇を合わせる。  
(このまま・・・)  
カケルがそう思ってパジャマの裾へ手を入れた時。  
「ちょ、ちょちょちょっと待って!」  
未久は慌てて起き上がって制止した。  
「えー」  
ここまで来てそれは、と思うカケルだったが、未久の視線が目覚まし時計に泳ぐのに気づく。  
同時に、今の時間と場所を思い出して思いとどまる。  
「あ、ご、ごめんごめん、その、つい。」  
「う、うん、・・・あ、あの、別に嫌ってわけじゃ。ただ、今はってだけで。」  
「もちろん。・・・うん。えっと。」  
逡巡。  
 
ゴクンと唾を飲み込む。  
カケルは真面目な顔つきで尋ねる。  
「・・・いつがいい?」  
いつになく真剣な顔つきにドキッとする未久。  
「え?・・・ええええええーーーーーーーーっと・・・」  
いつと聞かれて咄嗟に答えられるものでもない。  
「あああ、ねぇ、さっき持ってきた紙袋って何!?」  
質問をはぐらかすのが精一杯だった。  
だが、その質問が話題を一層ピンクな方向へ持っていく事に未久は気づいてなかった。  
「あー、これ?」  
「そ、そうそう、さっきバランス崩した時もそれだけはしっかり持ってたし。」  
「うん。じゃぁ・・・はい。」  
紙袋のまま未久に手渡す。  
「なーにーかーなー。」  
未久はまだ先程の質問を受け流せたことにホッとしていただけだった。  
軽い思考停止状態。  
そのため紙袋の中から出てきた「ソレ」を見て完全に固まった。  
 
――蝶々。  
 
赤紫色の禍々しい色彩の蝶々。  
その4隅から幅1cmほどのヒモのようなものが、全部で6本伸びている。  
ヒモの先にはコネクタのようなものがついており、ヒモ同士を接続できるようになっている。  
一方、蝶々の上端からは細いケーブルが延び、輪ゴムで束ねられている。  
その先は、厚さ1cm半、大きさ7cm四方程の箱に繋がっている。  
箱にはダイオードランプが一つ付いている以外は何もない、簡素な作り。  
女の子を恥ずかしい目にあわせるためだけに生み出された、淫らな蝶々。  
装着される女の子にしてみれば「毒蛾」と言った方が適切かもしれないモノ・・・  
 
「―――――――――――――――――――!!!」  
悲鳴を上げそうになって飲み込む。  
「な、な、なによコレー!」  
未久は小声で抗議の声を上げる。  
動揺する未久を見れたからか、主導権を握ったカケルは落ち着いて説明する。  
「うん、ミクは昨日、おもちゃを固定するのにテープ使ってたよね?」  
「・・・うん。」  
「あれって、かぶれちゃうことがあるらしいよ。」  
「う、うん、でもあれは医療用の・・・」  
「それでも。それに・・・」  
オホン、とわざとらしく咳払いを一つ入れ、未久の耳元で囁く。  
「濡れると剥がれちゃうしね。」  
「!」  
未久の顔が一瞬にして真っ赤になる。  
「これだとヒモで確実に固定できるから安心だよ。」  
「ででも、なんか、それ・・・」  
カケルの矢継ぎ早な言葉に押し込められる未久。  
「それとも未久は学校でローターポロリしたい?」  
「っなわけないでしょっ!・・・って、ちょっと、学校って?」  
「今日は月曜日だよ」  
「そんなのはわかってるわよ!なんで校内でまで付けてないといけないのって話!」  
「だってミク、昨日途中で勝手に終わらせて返っちゃったじゃん。」  
「う」  
「それに昨日電話でミク、今日も着けてくって言ったしね。」  
「そ、れは、言ったけ、ど・・・、が、学校行くまでって意味で言っただけで!」  
「ねぇ、ミク」  
また真剣な顔になるカケル。  
「うぅ、その顔、卑怯・・・」  
陥落寸前の未久。  
次のカケルの言葉が決定打になる。  
「放課後まで我慢できたら、・・・エッチしよう。」  
「ああぁ・・・・・・・・・。」  
涙目で、真っ赤な顔で、・・・・・・コクンと俯く。  
(いよおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおっっっっっっしゃぁぁぁあああああ!)  
カケルは心の中で大きくガッツポーズをした。  
 
「じゃぁ、早速付けようか。」  
間が持たなくなるのを恐れてそう言った自分の言葉に、実はカケル自身も驚いた。  
「うん。・・・・・・って、ええ!?今ぁ!!?」  
無論、未久の驚きはそれ以上。  
「うん、今。」  
「ぁ、ゃ、その、じ、自分で付けるって!」  
「これヒモの着け方難しいよ。言葉で説明できるものでもないし。」  
「うう・・・」  
本当は説明書には絵で分かりやすく装着の仕方が説明されており一目瞭然なのだが、  
それを渡しては強制装着の口実にならないため、あえて部屋に置いてきたのである。  
「・・・」  
だが、それっきり未久は押し黙ってしまった。  
・・・。  
しばしの沈黙。  
優勢に立ってたはずのカケルも困惑する。  
(う、こ、これは、押すべきなのか?引くべきなのか?待つべきなのか??)  
テレビゲームならば選択肢の数以上に迷うことは無かっただろう。  
選択肢の度にセーブ&ロードを繰り返すこともできただろう。  
だが、現実はワンチャンス。  
結局カケルの選択は何時も通りの『引き』。  
「ご、ごめん、その、無理には・・・」  
未久は俯いたまま、すぐには何も答えなかった。  
もし覗きこんでいたら、不満そうな仏頂面を見てとれただろう。  
 
未久は一呼吸を待って立ち上がった。  
「ミク・・・?」  
大きく一度深呼吸。  
そして、パジャマの裾を持って、臍のあたりまで持ち上げて、一言。  
「・・・はいよ。」  
(!)  
「いいいいいい、いいの!?」  
今度はカケルが動揺する番。  
「嫌なら辞めるよ!」  
「まままって!」  
「・・・ん。」  
未久は目を閉じて明後日の方向を向く。  
カケルは意を決して動く。  
未久のパジャマのズボン、その両側を掴んで、下へ引っ張る。  
――グイッ  
ゆったりとした腰ゴムなのか、大した抵抗もなく下がり始める。  
薄いレモンイエローのパンティが顔を覗かせる。  
昨日のようなフリルが付いたものではなく、実用性を重視した生活感のあるパンティ。  
未久の顔をチラリと見るが、ギュっと目を閉じて背けたまま。  
これ幸いにと目の前のパンティを観察しながら、ゆっくりズボンを下ろす。  
――ズルッ  
お尻の丸みを越えたあたりで抵抗は殆ど無くなった。  
もう手を離せばそのままストンと下まで落ちるだろう。  
しかしそれでも手に持ったまま、ゆっくりゆっくりズボンを下ろす。  
未久の脚がプルプルと震える。  
思いの相手にとはいえ、至近距離で下着を凝視されながらズボンを脱がされているのである。  
恥辱の夥多は想像を絶しよう。  
「足、上げて、片方ずつ。」  
カケルの言葉にようやく一度目を開ける。  
片足ずつ上げるとズボンが抜き取られる。  
これで下はパンティ一枚。一気に心細くなる。  
しかも下から見上げてくるカケルと目が合ってしまい、また震えだしてしまう。  
だがカケルの方もここまで来て引き下がることはできない。  
「これ、少し下ろすよ。」  
そう言って指差したのは最後の布切れ。  
「・・・。」  
顔を背け、再び目を閉じる。  
無言の肯定、と取ったカケルは、親指を両側にかける。  
「・・・・・・・。」  
未久は思わず腰を引いてしまう。  
カケルはそれを咎めるように、パンティを手前に引っ張って直立させる。  
「!」  
最初よりも背筋を伸ばすような姿勢を強要された形になる。  
二人とも無言のまま、目覚まし時計の秒針の音だけが静かに響いた。  
 
パンティに、再度下向きの力が加わる。  
(み、見られるぅ!!)  
未久は心の中で悲鳴を上げる。  
薄い茂みが現れる。  
茂み、と言うにも幼い、若草。  
息を吹きかけたらゆらゆらと揺れそうだった。  
デルタゾーンが全て曝け出されたところで一度少し抵抗を感じたが、そのまま下ろす。  
――ネロリ。  
(!!)  
未久は、濡れた布地が柔肌から剥がれる感触をはっきりと感じた。  
そこへカケルの声。  
「あ」  
「・・・・!!?」  
「あいや、何でも。」  
カケルの目にも、股間とパンティの間にできた愛液の架け橋が捉えられた。  
それが思わず声に出た。  
咄嗟に繕ったが、何に対して驚いたかはバレバレだった。  
それが結果として未久の官能を直撃して、更に多量のお汁を溢れさせることになる。  
「は、早くしなさいよ!」  
焦った未久はカケルを急かす。  
「う、うん。」  
もう少し見ていたかったカケルであったが、流石にそうもいかない。  
蝶々を手に取り、未久にその表面を見せる。  
「ケーブルが出てる方が上ね。」  
「いいから早く。」  
言うが早いか、カケルは蝶々をクルリと裏返して、裏面を未久の秘部へ当てる。  
(え、あれ?なんんか感触が・・・)  
未久は戸惑った。  
昨日使ったピンクローターとは明らかに違う感触。  
ずっと柔らかく、優しい肌触り。  
(それに、なんだろう、当たる部分が、ただの丸い形じゃなくて、なんか・・・)  
未久が感触に戸惑っている間に、カケルはヒモを未久の腰に廻し、後ろで接続する。  
さらに二本を右の太股に廻して接続。残り二本も左の太股に廻す。  
「あとはここで締め付け調整、っと。」  
――キュッ  
言いながらカケルはヒモを締める。  
 
瞬間。  
「ヒッ!?」  
未久は股間に感じた感触に、思わずしゃがみこんでしまう。  
位置は蝶々が直撃しているところ。女の子の弱点。  
ピンクローターの時は、ただ『押し付けられている』といった感触だったはず。  
だが今は『ツンツンと突っつかれている?』といった妙な感触。  
「ね、ねぇ、カケル、なんかこれ、ツンツンしてない?」  
感触を、そのまま言葉にしてカケルに投げかける。  
一瞬キョトンとしたカケルだったが、すぐにピンと来て答える。  
「あぁそれね、裏側に小さな突起が沢山生えているんだ。」  
――突起。  
――小さな突起。  
――裏側に小さな突起が沢山。  
――裏側に小さな突起が沢山生えてて・・・!!!!!  
「そ――――――!!!」  
未久は反発しようとして立ち上がる。  
しかしその時の動きで蝶々がズルリと動き、クリトリスがしたたかに擦られる。  
「!っっ!ーーー!!」  
立ったまま動けなくなる。  
ぴくぴくと震えるだけで言葉も発せられなくなる。  
「あぁ、ちょっと待って。」  
そう言われるまでもなく、未久は微動だにできなかった。  
「ネットで調べてみたんだけどね、そのオモチャ、中途半端に固定した状態が一番キツイんだって。」  
そう言ってカケルは未久のパンティを上へ上げる。  
「ヒモだけで強く固定しようとすると血行に悪いみたいでね。」  
パンティがピッタリと穿かされる。  
先程までやや浮いた状態だった蝶々が、しっかりと秘部に当たるようになる。  
当然、沢山の突起もはっきりと当たる。  
だが材質が柔らかいせいか、突き刺さるような感じはしない。  
どちらかというと『コブ』といった感じだ。  
カケルはケーブルの先についている箱を拾う。  
箱の背面にはフックが付いており、それをパンティに引っ掛けて固定する。  
余ったケーブルをパンティの中へ軽く押し込んで完成。  
「どうかな。ちょっと動いてみて。」  
そう言われて未久は恐る恐る歩いてみる。  
「ん・・・ん・・・。」  
先ほどのような、クリトリスをシュリシュリと擦られるようなことは無くなった。  
それでも体を動かすとどうしても蝶々の位置が変わり、くすぐったいような感触が広がる。  
「んー、・・・あんまり激しく動かなければ、平気、かなー。」  
未久は強がってそう答える。  
そこへカケルのカウンターが入る。  
 
「ふーん、じゃぁ、『激しく動かされたらヤバイ』ってことだね。」  
そう言って、胸ポケットからマッチ箱くらいの箱を取り出して見せる。  
「え?」  
箱は先ほどの蝶々と同じ赤紫色。  
小さな押しボタン付き。  
   
 
 
 
未久、思考停止。  
 
 
 
 
 
次の瞬間、カケルの言葉の意味を理解する。  
なんということか、今の今まで、コレがどんなオモチャであるのかを失念していたのである。  
先ほどの未久の言葉は、『自分が激しく動かなければ』の意味で発したものであったが、  
もはや未久自身の意思には関係無しに、リーチがかかっていたのである。  
 
「!!!!!!!!!!」  
 
混乱。錯乱。  
そしてこれから一日の事を考えて眩暈を起こす。  
倒れそうになって、慌てて机に手をつく。  
『こんなもの』を付けて学校へ行き、放課後まで耐えなければならない――  
「ちょ、ちょっと待って!じゅ、授業中はダメだよ!」  
「あ、あぁもちろん、もちろん。」  
未久の必死さに、思わずそう答えてしまう。  
――授業中に先生に当てられた時にスイッチオンで身悶える彼女――  
カケルとしては、そんなエロマンガの常套シチュエーションに挑戦したかったのが正直なところ。  
だが未久の慌てようと、やはり事が発覚して問題になるのはマズイだろうと思い直す。  
「あああと、家出るまでもダメだからね!」  
「そそそれももちろん!」  
そちらは最初から考えてなかった。  
流石に家族の前で責めるような外道ではない。  
もっとも、世間一般からすれば既に常軌は逸しているのかもしれないが。  
 
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」  
未久はまるで短距離走でも終えたばかりかのように息を切らせていた。  
潤んだ眼。  
赤みが指した頬。  
しっとり濡れた唇。  
臍まで捲り上げられたパジャマ。  
さらに・・・  
ぐっしょりと濡れたレモンイエローのパンティ。  
その下端に、毒々しい蝶々がパンティを盛り上げるように潜伏。  
赤紫色の胴体カラーがはっきりと透けていた。  
そこから伸びる黒いヒモが、腰と両脚に巻きついて離さない。  
こんな淫らな蝶々は世界のどこにもないだろう。  
そして・・・  
その蝶々に指令を下す蟲笛が、自分の手の内に――  
瞬間、カケルの下半身がビクンと戦慄いた。  
と同時に、  
 
 
『未久〜、ご飯よ〜』  
 
 
「!」  
「!」  
階下からの声で一気に現実世界に引き戻される。  
未久の母親が、朝食を伝える声。  
時計を見ると、既に6時半。  
「は、はーい!」  
慌ててパジャマのズボンを拾い上げようとする。  
「きゃぅう!」  
しかし勢い良く動いたショックでまた肉芽を擦り上げてしまう。  
「お、おい」  
「大丈夫、大丈夫、今のはちょっと、驚いただけで。」  
さらに、スボンを拾い上げて、脚を持ち上げた時また軽く。  
「っ!!」  
少々の絶句の後、強気に答える。  
「ほら、あんたも戻んなさいよ!」  
「あ、ああ、おう。」  
カケルが窓から出るとすぐにカーテンを閉じた。  
 
瓦屋根をヒタヒタと伝う足音が消えるまで待ってから、未久はやっとため息をつく。  
「はぁー!はぁー!うぅー、はぁー・・・」  
結局絶頂に達するような失態は犯さずに済んだ。  
だが、恐ろしいことに、まだスイッチは一度も入れられていないのである。  
ただ装着するだけで、もう既に崩壊寸前なありさまだった。  
パンティはもはや、蝶々を押さえつける以外の役割を何も果たしていない。  
(・・・と、とりあえず、穿き替えないと。)  
そう思って慎重に動き出す。  
タンスの引き出しを開ける。  
パステルカラーのパンティが小さく折りたたまれて、仕切りのついたケースに収められている。  
その数、30を優に超えている。  
男勝りな言行で馴らした未久にとって、オシャレといえばせいぜい下着止まりであった。  
日曜は普段着慣れないキャミソールに、勝負下着のつもりで用意したフリルのインナーを用意した。  
(カケル、気づいてくれてたかな・・・)  
カケルがそういう部分に不慣れであることは既に長いつきあいで承知しているし、  
自分もまた奥手であったことを鑑みれば、どういう言える筋合いではなかった。  
(っと、まずこれ脱がないと。)  
ゆっくり、そっと、スケスケになった『パンティらしきもの』を下ろして下に置く。  
フローリングの床に『ぺちゃっ』という音が小さく鳴ったのがものすごく恥ずかしかった。  
次に新しいパンティを手に取る。  
洗濯済みのそれはフンワリと軽やか。  
その重さの違いが、即ち未久の『いやらしいアレ』ということになる。  
――カァァッ  
誰に見られているわけでもないのに、未久は一人で羞恥に震えていた。  
(今日、何枚パンティ持って行けば足りるかな・・・)  
半分の不安と、半分の期待。  
期待といえばもう一つ。  
(カケル、だんだん積極的になってるよね・・・)  
そう感じてボッと頬を染める。  
同時に不安も半分。  
(でも、・・・もっとずっと強引で・・・いいのに・・・。優しいだけじゃ・・・)  
それが自分勝手な押し付けであることはよく分かっている。  
分かっているだけに、どう対峙していいのか分からなくなる。  
結果、自己嫌悪。  
それを誰かに打破して欲しい。  
できれば、それがカケルであって欲しい。  
結果、永久循環。  
 
それでも日常通りに食事を取り、身だしなみを整える。  
空ろな気持ちが皮肉にも、下半身の異物を意識せずに済む形にしていた。  
 
 
そして、登校時間――  
                       【装着編】 -終-  
 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル