田中クンの災難・2――疫病神vs座敷わらし!? 
 
 
大慌てで会社に飛び込む僕。時計はすでに9時半を指している。は〜あ、完全に遅刻だよ…。 
何故かというと、僕の家に住み着いていた座敷わらしが時計を思い切り遅らせてたから、 
なんだけども……それだけじゃなく、今日は何だか変なんだよね。 
目の前でバスが行ってしまい、時間が無いからタクシーで駅まで行こうとしたら大渋滞で、 
そのままタクシーで行ったほうが早いってことで、結局そのまま会社まで来てしまったんだ。 
 
…は〜あ。おかげで財布の中身が一気に減っちゃったよ。 
それもこれも、あの座敷わらしのせい…ではなくて、 
彼女に悪戯の機会を与えてしまった僕のせい……なんだろうなあ。 
でも、座敷わらしがいれば、普通は裕福になるはずなのに、これって逆じゃないのかな? 
 
もっとも、『部屋に住み着いてた座敷わらしに時計を遅らせられて遅刻しました』なんて 
言うわけにはいかないし、それで『わかった』なんて納得する上司だって、この世にいるはずがない。 
と、いうか、納得する上司もそれはそれで怖いけれど。 
 
廊下を走りながらそんなことを考えているうちに、部屋の前に立っていた。 
………よく考えたら、携帯電話を持っていたのに、何で連絡しなかったんだろう? 
間抜けなことに、ふと扉の前で思い出した。 
仕方ないよね。就職するまでそんな物持ったこと無いし、一人暮らしで仕事以外に使う機会も無いんだし。 
ええい! 延々と心の中で言い訳をしてても仕方がない! 素直に寝坊って報告するしかない! 
「す…すみません! お、遅くなりました〜!」 
腹を括って、詫びの言葉を述べながら扉を開けて、中に入った。が、しかし。 
 
「お、早いな。昨日は泊まりじゃなかったんだろ?」 
「え? あ、せ、先輩……だけ?」 
中では先輩が一人、デスクの前でパソコンを操作している。 
あれ? 他の人たち…は? いったい、何がどうなってるの? 
「何だ知らないのか? JRの駅で列車事故があったんだよ。 
それで皆遅れているんだろうさ。ま、僕は私鉄だから関係無いんでここにいるけど、な」 
あっけにとられてる僕を見て、先輩が椅子ごとクルクル回りながら言った。 
「そうなんですか…。でも、全員が全員JR利用じゃないですよねえ…」 
「ん。4人が休暇と、昨日お前が帰ったあとに、3人出張で出てったんだ。 
ここに来るのはあと3人だが…そうだな、残った全員がJR通勤だよ。 
だから今の時点で来てるのは、僕とお前の二人だけさ」 
先輩につられて、ホワイトボードに書かれた勤務割を見る。 
確かにそのとおりだ。……う〜ん。まったく、何てタイミングのいい…。 
でも、そうすると今日僕がタクシーを使った意味って……。 
「……ん? でも、お前も確かJRだと思ってたけど、事故を知らないってことは、どうやって来た? 
まさか、この辺りに泊まってたのか?」 
「あ…い、いや、ち、違いますよ……僕…は…」 
先輩の問いに答えようとして言葉を詰まらせる。別にわざわざ本当のことを言う必要はない。そう思って。 
「ふうん…ま、いいや。…ったく、会社もマイカー通勤くらい認めてくれてもいいだろうに、な。 
だったら、こんなことになる確率も減っただろうにさ……」 
肩をすくめながら先輩がぼやきながら、再びパソコンに向き直って作業を再開する。 
ぼうっとしている暇はない。僕も急いで席に着いて、パソコンの電源を立ち上げた。さ、仕事仕事……。 
 
 
「……さて、定時か。じゃ田中、さっき言ったとおり、残りは任せたぞ。それでは課長、お先で〜す」 
定時の鐘が鳴り、最初に職場に来ていた先輩が、僕の肩を叩きながら退社する。 
……えっと…一応教えて貰ったのはいいんだけど、少し心細い……。 
家では悪戯に悩み、会社ではいきなりの慣れてない作業に悩む……って、 
やっぱり彼女、僕にとっては福を呼ぶんでなくて、厄を呼んでいるんじゃないのかな……? 
 
 
「ふう〜。やっと終わった〜」 
パソコンのデータを保存しながらつぶやく。結局、作業が終わったのは夜の8時だった。 
まったく……慣れればなんてこと無いんだろうけれど…長かった……。 
「お、お疲れ。ま、最初だから仕方ないよな。まずは慣れる事から、だ」 
「あ…か、課長、お疲れ様です」 
椅子にもたれかかり天井を見上げていると、突然肩をポンと叩かれた。 
ふと振り返ると、そこにはにこやかな顔の課長がいる。僕は姿勢を整え直した。 
「さて…今日のところはこれで終わりだな? ……どうだ? よかったら夕食を食べていかないか?」 
「え? …あ、その…御一緒するのは嬉しいのですが……」 
今朝タクシー通勤したから、お金無いよ……。かと言って、無下に断るわけにもいかないし……。 
「なあに、軽く夕食を食べるだけだ。金のことなら心配することはないぞ。たまには奢ってやるから」 
「え? い…いいんですか!?」 
まるで、今の心境と財布の中身を見透かしているかのような、課長の言葉。 
思わず声を裏返すところだったよ…。 
「ああ、もちろんだ。田中もよく頑張ってるみたいだし、な。 
それとも…何か用事でもあったか? だったら無理強いはできないが」 
「い…いえ、あ、ありがとうございます! 喜んで御一緒させていただきます!」 
……一瞬、『早く帰ってきてね』と元気に手を振っていた、あの座敷わらしの顔が頭に浮かんだが、 
同時に昨晩の悪戯を思い出した僕は、課長の言葉に反射的に答えていた―― 
 
 
 
「んにゃ〜。カギ〜カギ〜」 
ほろ酔い気分で家に辿りついた僕は、ゴソゴソと鍵を探す。…あ、あった。 
……座敷わらし、怒ってるかな? ま、仕方ない、か。 
課長の誘いだし、あんな豪華な夕食なんて、生まれて初めてかもしれないし。 
さて、鍵を開けて中に入って……っと……。 
 
「おかえりなさいませ」 
 
思わず扉をバタンと閉める。……今の、誰? 
ちらりとしか見なかったけど、座敷わらしじゃなかった、よね。 
何で僕の部屋の玄関で三つ指突いて、あんなことしてるんだろう? 
一気に酔いが醒めた僕は、必死に考え始めた。 
あ、そうか。部屋を間違えたか、そうだったか。えっと…B号棟の……105…って、ここじゃん。 
まさか、団地そのものを間違えたのか…な? いや、でも鍵って開いた…よね。……あれ? 
 
「も〜う、おにいちゃ〜ん、帰り遅〜い!」 
「い…いや、課長の誘いがあって、あの、その…」 
突然扉が開き、座敷わらしがその小さな頬っぺたを、ぷっくりと膨らませながら言う。 
う……やっぱ、機嫌悪そ……。思わずしどろもどろになりながら返答する。 
…でも、新婚家庭じゃあるまいし、何でそんなリアクション取ってんだ僕は? 
「まったく〜。おにいちゃんがいない間、大変だったんだから〜」 
座敷わらしに手を引っ張られながら、部屋の中に入ろうとする。 
「?? どうしたの、おにいちゃん。固まってるけど?」 
……気のせいでしょうか? さっきの女性がいるみたいな気がするのですが。 
「そうそう、彼女いきなり部屋にあがり込んできて、ここで暮らす、とか言い出すの〜!」 
ふうん、そうなんだ。………………………………はあー!? 何だそれー!? 
 
 
「よ…よろしくお願いいたします……」 
居間に戻ったかと思うと、再び三つ指を突いて礼をする彼女。 
……いったい何者で、何がどうなっているのか、ゆっくりと説明して欲しいのですが。 
「そんな…怪しい者ではないのですが……」 
いいや怪しい。どう見ても怪しい。年齢的には……僕より年上…だよね。 
でもよく見ると、座敷わらしと風貌が似てるかも。顔の輪郭とか、さらりとした黒髪とか。 
ただ、服が…違うかな? どちらも白っぽいヒラヒラした服なのは、ほぼ一緒なんだけど、 
座敷わらしのほうは、こざっぱりとして純白に近い色なのに対して、 
彼女の服は薄汚れて灰色っぽくなっていて、しかもあちこちがほつれてボロボロになっている。 
まるで、使用前使用後、というか、20年経ったらこうなる、みたいな見本みたい。 
そこまで考えてはたと気がついた。 
「…まさか、二人は親娘?」 
「「そんなワケないでしょ」」 
僕のつぶやきに、二人の声が重なる。 
「じゃ、姉妹?」 
「「だから違うってば」」 
再び声が重なる。そのタイミングひとつとっても、何だか関係があるようにしか思えないんだけど。 
 
「実は…私は、こう見えても人間ではなく……」 
女性が口を開く。はい、そうでしょう。と、いうか、こんな人間の方がいたら、某所に電話してます。 
「そ…そうですか……。で、今朝走っているあなたを見掛けて、 
この人と一緒にいたい、すべてを捧げるにふさわしい方だ。そう思いまして……。 
ただ、どういうわけか、私が接する方は、不幸な目に遭う方が多いのです」 
顔をあげ、悲しげな目でつぶやく彼女。……えっと…それって、まさか…ねえ。 
考えたくないけれど、ひとつのフレーズが浮かんだ。そう、”疫病神”の3文字が。 
……座敷わらしといい、目の前の彼女といい、 
何故いきなり、そういうものに見込まれなければならないでしょうか、僕は。 
せめて誰かみたいに伝説の勇者です、とか指名してくれたほうが余程嬉しい。……多分。 
…ん? と、いうことは、今日のバスに乗り遅れ、渋滞に巻き込まれ、挙句に散財してしまったのは…。 
「そ、そんなことがありましたか。…やはり、例外はない、ということですかね……」 
心の中でつぶやいていたはずが、思わず口に出していたようで、 
彼女はしゅんとした表情で寂しそうにつぶやきながら、うつむいてしまう。 
えっと…その…なんと申していいのか……。 
効果覿面、ってことか。ま、幸いにして実害は無かったからいいんだけれど…。 
と、彼女をまじまじと見つめて…固まってしまった。ボロボロの服の隙間から、胸の谷間が見えます。 
それだけでなく、何だか目のやり場に困ってしまうような格好なんだよね……。 
僕は立ち上がり、彼女の着替えになるような服を探し……昨日大量に洗濯して乾いてないから、 
Yシャツくらいしかないや。…でも、ま、ボロを着ているよりはマシ、だよね。 
「……え?」 
「あのさ…その格好、ちょっとアレだから…これに着替えてくれないかな、と思って…」 
「あ…は、はい。あ、ありがとうございます……。嬉しいです、私…」 
Yシャツを抱きしめながら礼を言う彼女。その目は潤みを増している。…う、何だか弱い…かも。 
 
 
「ねえねえ、おにいちゃん! あの女の人と一緒に暮らすの〜!? 
そんなになったら悪戯をする暇も無いから、おにいちゃんにお仕置きして貰えないじゃない!」 
袖をツンツンと引っ張りながら、座敷わらしが僕に言う。 
悪戯をする暇が無い? それは…イイかも……。 
「大体さ〜、怪しいと思わないの? いきなり部屋に入ったら、見知らぬ女の人がいたんだよ?」 
確かに怪しい。怪しいけれど、すでにこの部屋には前例がいたし、ね。 
「も〜! おにいちゃんってば〜! ……ん? あ、そうだ。分かった〜。何だ、そういうことか〜」 
急に口調が変わり、悪戯っ娘の目で僕を見つめる。何だよいったい。 
「んふふ〜。おにいちゃん、ああいう人が好みなんだと思ってさ〜。ま、人それぞれだしね〜」 
お、おい、別にそういう…… 
 
「あ…あの……。お、お待たせしました…」 
そのとき、扉が開いて女性の声がした。僕はその方向を見て…固まっていた。 
彼女にとって、Yシャツのサイズはやや大きすぎたようで、袖口はダブダブだが、 
胸元は、彼女の胸がその存在を主張するように、パンパンに張り詰めていた。 
さらに、Yシャツの裾から覗く太ももが、かえって僕の目のやり場を奪っている気がしてきた。 
 
……さっきのボロの方が、露出度は低かった、かも……。 
でも、他に替え着は無いし、仕方がない……か。む…ぐうっ!? 
 
そんなことを考えていた僕の思考回路は、突然マヒしてしまっていた。 
何故なら、彼女が有無を言わさずに僕を抱きしめ、そのまま唇を奪ってきたからだ。 
 
 
「うわ〜っ!」 
わらしが両手を口元で押さえながら叫び声をあげる。 
でも、その目は驚きというより、興味の色のほうが強く見えるんだけど。 
「チューしてる、チューしてるー!!」 
こちらを指差して、はしゃぎ声をあげる座敷わらし。 
…昨日、もっと凄いことしたのを忘れているのだろうか? 
「どうするの〜!? チューしたら、子どもが出来ちゃうんだよ〜!」 
……いったいどこで、そういう歪んだ知識を仕入れてきたのだ、この座敷わらしは。 
「…んっ……。子ども? あなた、この子にどういう教え方をしているのですか?」 
「え? いや…その……」 
くちびるを離した彼女が、きょとんとした表情で僕に問い掛ける。 
そう言われても、別に教えた覚えも無いんだけれど、ね。 
「え〜? もしかして、知らないでチューしてたの〜!? 知〜らないっ!」 
首を軽く向こうの方に向けながら、座敷わらしはおどけたようにはしゃぎまわる。 
「は〜あ……。なんと申していいのやら…ま、こういうことは早いうちに知ったほうがいいですし……。 
あのう……私からこの子に教えても、問題は無いでしょうか?」 
「えっと…その……え? ええっ!?」 
額に手を当て、溜め息をつきながらつぶやいたかと思うと、僕の目を見据えながら彼女は言った。 
突然の申し出に、意味が分からずきょとんとしていたが、意味が分かった途端叫び声をあげていた。 
 
「ですから…今申したとおりです。もちろん、あなたにも協力していただくかも、しれませんですが」 
……そ、それってもしかして…。嫌な予感を覚えた僕を他所に、彼女は意味深な笑みを浮かべている。 
そんな妖しい微笑みに、まるで吸い込まれるかのように、僕は無言で頷いていた。 
「まあそれはさておき、お仕事お疲れさまでした。お風呂のご用意していたのですが、入りますか?」 
「ええっと…じゃ、とりあえず…そうするね……」 
何だか…突然のことすぎて頭が痛くなってきた。ゆっくり風呂に入って考えよう……。 
「ではごゆっくり……。さて…と。あのね、お嬢ちゃん」 
「え〜? 子ども出来なくするおまじない、知りたいの〜!? どうしよっかな〜!?」 
微笑みを浮かべたまま、彼女は座敷わらしに呼びかける。 
当の座敷わらしは、相変わらず室内を駆けずり回っていた。 
「そ……そうじゃなくて、ですね。それよりお嬢ちゃん、夜中に部屋を走り回るとお隣さんにご迷惑ですよ」 
「ふーんだ、わたし、お嬢ちゃんなんて名前じゃないもん! ちゃんと千奈美って名前があるんだから!」 
そうか…そうだったのか。そういえば、僕も座敷わらしの名前なんて初めて聞いた気がするよ。 
僕はそんなことを考えながら、脱衣所へ入った―― 
 
 
「ふ〜、気持ちいい〜」 
湯船に浸かると同時に、思わず声が出る。……同時に少し冷静になった頭の中を整理する。 
話の節々から察するに、というかどう考えても彼女には、『疫病神』という言葉がしっくりくる。 
そう考えると、座敷わらしである千奈美とはまるっきり正反対、ってことになる。 
ただ、だからと言って、それが元で仲が悪い、ってことではなさそうなんだよね。 
もっとも、あの調子じゃあ、一緒に仲良く暮らすってのも無理みたいだし……うーん……。 
 
………千奈美は僕が来る前から、この部屋に住んでいたっていうし、 
やっぱりここは、彼女に出て行ってもらうべき……なのかな? 
怪奇現象は千奈美一人で十分だし、また引越しする余裕なんてあるはずが無いし。 
 
でも……何と言って、彼女に出て行ってもらえばいいのかな……? 
などと考えながら、とりあえずのぼせる前に風呂からあがることにした。と、 
「ああっ! や、やめてええっ!!」 
風呂からあがった途端に響き渡る悲鳴。この声は…千奈美? 何だ? 何があったんだ!? 
とりあえず、僕はバスタオルを腰に巻いただけの状態で、部屋へと戻った。 
 
 
「な…な……」 
部屋に戻った僕は、目の前で繰り広げられている光景に、声を失っていた。 
例の彼女が正座して、膝に千奈美を乗せている。これだけなら、よくあるような光景だろう。 
よく見ない光景なのは、千奈美が一糸纏わぬ姿なのと、背後から伸びた彼女の手が、 
千奈美の毛も生えてない幼い割れ目と、小さな胸を撫で回していること、だった。 
いっぽうの千奈美は、抵抗するどころか自ら大きく股を広げ、彼女の手の侵入を許し、 
軽く握り締めたこぶしを口に添えながら、虚ろな目で天井を見上げている。 
その姿を見ていると、普段意識などしていない心臓の鼓動が、一段と大きく響いた気がした。 
 
「まあ、千奈美ちゃん。大声なんか出しちゃって、いったいどうしちゃったのかな?」 
「だって……だって…あたし……あたし………」 
僕の姿に気づいていないのか、彼女は千奈美の耳もとに、そっとくちびるを添えながらつぶやいた。 
千奈美は彼女の手の動きに合わせ、下半身をビクビク震わせながら、艶っぽい声を漏らす。 
そのつぶらな瞳からは、涙がぽろぽろとこぼれ落ちていた。 
「ん? だって、じゃ分からないよ。……ちゃんと返事が出来ない悪い娘は、お仕置きが必要かな?」 
彼女は妖しい笑みを浮かべたかと思うと、千奈美の涙に舌を這わせながら、大袈裟に溜め息をつく。 
その言葉に、僕自身の胸がズキンと痛んだ。――前夜の”お仕置き”と称しての行為を思い出して。 
「…だって……だって…恥ずかしい…ん……だも…ん……あっ! ああんっ! ああんっ!!」 
千奈美が涙声で答える。背後の彼女に向かって、というよりも、虚空に向かってという感じで。 
と、千奈美の割れ目の中に、彼女の指がずぷずぷと音を立てて、潜り込んでいった。 
たちまち、エビのように上半身を反り返らせ、ひときわ大きな叫び声をあげる千奈美。 
「恥ずかしい、ねえ……。だったら、何で、ここは、こんなに、濡れちゃって、いるのかな?」 
「あっ! ああっ! ああんっ! ああっ! あああああっ!!」 
ぐちゅぐちゅと音を立てながら、彼女は指をうごめかせる。千奈美は、ただひたすら嬌声をあげ続けていた。 
 
 
「は…ああっ!?」 
彼女が千奈美の割れ目から、指を引き抜いた。 
ひと際大きな声をあげ、ぬめぬめと光る彼女の指先を、必死に目で追い掛ける千奈美。 
その目はまるで、お気に入りの玩具を取り上げられたような、いじめられっこのようだった。 
「むぐ…う……っ…うううっ……」 
と、彼女はおもむろに、半開きになっていた千奈美の口へと、自らの指を潜り込ませる。 
千奈美は何かに憑かれたかのように、先程まで自分の割れ目に潜り込んでいた指を、 
虚ろな表情のままで、チューチューとしゃぶり始めていた。 
「まあ、千奈美ちゃん。こんなに大人しくなっちゃって。そんなに気持ちよかったの?」 
「う……うん……」 
自分の指をしゃぶり続ける千奈美を見て、彼女は優しく微笑みながら言う。 
その声に、千奈美はか細い声で答え、コクンと首を軽く縦に動かした。 
「そう…もっと……気持ちよくなりたい?」 
「…………」 
更なる彼女の問い掛けに、千奈美は再び無言でコクリと頷いた。 
「ふふっ……でもね……それは私の役目じゃないの…………ね? 亮太さん……」 
彼女は千奈美の額に、軽くくちづけをしたかと思うと顔をあげ、僕をじっと見据えた。 
…って、僕がいるのにいつから気づいてたんだ? 
「ああ……っ……おに……ちゃん……?」 
彼女の声を受け、ぼんやりとした表情で僕を見つめる千奈美。こちらは…気づいてなかったみたい。 
「さ、これから亮太さんが千奈美ちゃんを、すっごく気持ちよくさせてくれるからね。 
そう……昨日の出来事なんて、目じゃないくらいに」 
 
「え…っ? ほ……ほんとう?」 
彼女の何気ないひとことに、僕は心臓が飛び出そうになった。何で…何で昨日の出来事知ってるの!? 
驚く僕を他所に、千奈美が声を上ずらせながら答える。 
ぼんやりとした表情はそのままだったが、その目は心なしか輝いて見える。 
「ええ、本当よ。私は千奈美ちゃんが、気持ちよくなれる手伝いをしただけ。 
さ、千奈美ちゃんからも、亮太さんにお願いなさいな……」 
「うん……お…お願い………あたしを…あたしを気持ちよく……させて………」 
幼子を諭す母親のように優しく微笑みながら、両手は千奈美の膝の後ろに回し、ゆっくりと両足を広げさせる彼女。 
千奈美は、素直に頷いたかと思うと、自らのつるぺたの胸を揉みしだきながら言った。 
その言葉は、僕に向かってというよりも、呟いている、と言ったほうがいいかもしれない。と、 
「まあ、千奈美ちゃん。あなたはお願いをしているのでしょう? 
そんなふうに、誰に向かって言ってるか分からないような頼み方では、誰も聞いてくれないわよ。 
ほら、亮太さんだって、怒ってもう寝ようとしてるじゃない」 
かるく顔をしかめながら彼女がひとこと。……いや、怒ってなどはいないんだけど。 
「ああっ…ご……ごめんなさい……おにいちゃん……あたしを…あたしを気持ちよくさせて…お願い……」 
だが、彼女の言葉は効果覿面だったようで、千奈美は慌てたように僕のほうへと手をのばしてきた。 
まるで、おしっこをさせられてるような姿勢になっている千奈美。 
おかげで、千奈美のピンク色の割れ目が、はっきりと見える。 
僕はフラフラした足取りで、千奈美の前に座り込んだ。まるで、花に引き寄せられる虫のように……。 
 
 
目の前にある、千奈美の幼い割れ目をじっと見つめる。 
そこは、ピクピクとまるで脈をうつように震え、透明な液体が糸を引いていた。 
「い…いやっ……は…恥ずかしいよう……」 
僕があまりに見つめすぎたせいか、千奈美は真っ赤に染まった顔を、両手で覆い隠す。 
その仕草に胸が高鳴る。……千奈美って、こんなに可愛かったっけ。 
「こおら千奈美ちゃん。手で顔を隠してないで、ちゃんと亮太さんのほうを見なさいな」 
「う…う……あ! ああん! あんっ!」 
彼女が千奈美の耳元でささやく。さらにそのまま舌をすぼめて、耳を舐めまわし始めた。 
千奈美は、まともに返事をすることも出来ずに身をよじらせて喘ぎだした。……もう、我慢できないよ。 
「あ! ああ! ああんっ!!」 
「く…ううっ……!」 
僕はモノの先端を、千奈美の中へ潜り込ませた。その途端、ひときわ大きな声をあげる千奈美。 
一方の僕もまた、モノから伝わる刺激に全身を震わせ、声にならない声をあげて腰を動かしていた。 
「どう、千奈美ちゃん? 昨日と今日と、どっちが気持ちいいかな?」 
「は! ああんっ!! き…きょ……今日の…ほう…が……あんっ!!」 
千奈美の胸をさわさわと撫で回しながら彼女が尋ねた。 
途切れ途切れに答えようとするが、最後まで答えることが出来ずに、金切り声をあげだす千奈美。 
ふと見ると、千奈美の割れ目の上にちょこんと出ている、小さな芽を彼女が指で摘んでいた。 
 
「んん? 私はどっちって聞いているんだよ? それじゃあ、どちらか分からないでしょう?」 
「ああっ!! きょ、今日!! 今日のほうがああっ!! ああんっっ!!」 
「…う……くっ…!」 
彼女が軽く顔をしかめ、たしなめるようにつぶやきながら、二本の指に力をこめる。 
同時に、僕のモノへの締め付けが力を増し、思わずくぐもった悲鳴を漏らしてしまう。 
「あっ!! ああっ!! イイ! イイようっ!! 気持ちイイようっ!! あっ!! ああんっ!」 
僕が腰を突き動かす度に、千奈美の口から悲鳴がこぼれる。 
自らの指を咥えた口からよだれを垂らし、その目からは涙が次々と溢れている。 
「はあっ! あんっ! ああっ!! ああああんんっっ!!!」 
僕が胸の頂を摘み上げた瞬間、それがとどめの刺激になったのか、 
千奈美は、全身をビクビクと震わせながら絶頂に達し、そのままぐったりと動かなくなった―― 
 
 
「あららら、よほど気持ちよかったのね。幸せそうな顔して」 
失神している千奈美の頬をさすりながら、彼女がひとこと。その顔はほんのり赤く上気している。 
「それとも……亮太さんが、それほど凄かったのかしら………ね?」 
「う……あうっ」 
そうつぶやいたかと思うと、彼女はゆっくりと千奈美を抱え上げた。 
同時に、まだ千奈美と繋がっていたモノから刺激が走り、思わず声が漏れてしまう。 
千奈美が失神したおかげで、まだ絶頂に達していなかったモノは、 
先端の穴から、透明な液体をとめどもなく溢れさせ、ピクピクと震えていた。 
「ふふっ……亮太さんはまだ、満足されてないみたいですね。……さあ、どうぞこちらへ……」 
抱えあげた千奈美をそっと寝かしつけた彼女は、自らもすぐ隣に横になりながら、僕に流し目を送る。 
絶頂に達する直前で、これ以上無いくらいに興奮していた僕に、 
彼女の視線と言葉を拒むことなど、出来るはずが無かった。 
「……あ…ああっ!」 
おもむろに彼女の両足を広げ、ひといきにモノを割れ目に付きたてた。 
途端に彼女のつぶらな口から漏れる、艶っぽい声。 
ゾクゾクするような刺激が僕の全身を襲い、さらなる快楽を味わおうと半ば無意識のうちに腰が動き出す。 
「あっ! はあっ! ああっ!」 
「くう…ううっ……お…お姉さん…っ……も…もう…もう…僕…僕…っ…!」 
腰の動きに合わせ、彼女が艶っぽい声をあげる。 
だが僕は、さっきまで千奈美と繋がっていたおかげで、絶頂がもう目の前に迫っていた。 
「ああっ……お…お姉さんなんていや……。……雪枝って呼んで……」 
「あ! ああっ! 雪枝さん! 雪枝さんっ!!」 
彼女――雪枝さん――は、僕をしっかりと抱きしめながら耳元でそう囁く。 
まるで、それが何かの合図だったかのように、僕は雪枝さんの中で果てていた。 
 
 
絶頂に達してしばらくの間、僕は雪枝さんに体を預けていた。何だか、凄く安心できるようで…。 
「亮太さん……」 
雪枝さんが、潤んだ瞳で僕を見つめながら、話しかけてくる。 
その声に答えようと顔をあげたとき、Yシャツの隙間から、雪枝さんの豊かな胸がちらりと見えた。 
次の瞬間、僕の理性はどこかに弾け飛んでしまっていた。 
「あ! ああんっ!!」 
雪枝さんの胸を両手で揉みあげた。途端に、雪枝さんの口から嬌声がこぼれる。 
「あは! あ! ああっ!!」 
僕の手では覆いきれないくらいに大きいその胸は、ぷにぷにと柔らかく弾力に富んでいる。 
そんな手応えが心地よくて、僕は夢中になって揉み続けた。 
「ああ! あああっ!!」 
僕が胸を揉んでいる手に力を込めるたびに、雪枝さんは全身をくねらせて叫び声をあげ続ける。 
口の端からはひとすじのよだれを垂らし、目からは涙が溢れ、頬を濡らしていた。 
「ん……んんっ……」 
さっき、雪枝さんが千奈美にやったように、雪枝さんの頬に舌を這わせ、涙を絡めとってみる。 
まるでテレビ番組で、芸能人がワインを舌で転がすようにしながら。 
「あっ! ああんっ……ん…むうううっ………」 
――ちょっと、しょっぱい。そんなことを考えながら、喘ぎ声が漏れる雪枝さんの唇を奪った。 
「んふ…ん…んふうっ……」 
思い切って舌を潜り込ませてみた。すると、雪枝さんの舌が僕の舌におもむろに、優しく絡みついてくる。 
初めて味わう柔らかい舌の感触に、言いようのない心地よさを感じた僕は、 
しばしの間、雪枝さんを抱きしめながら、自らの舌を雪枝さんの舌と絡めあわせていた。 
 
「あ……ああ…亮太さん………亮太…さん……」 
「……ゆ……雪枝さ…ん……っ……」 
長い長いくちづけが終わり、ゆっくりとくちびるを離す。 
雪枝さんはまだ満足していないのか、虚ろな目で僕の名を呼び続けている。 
その声に半ば無意識に答えながら、僕はそのまま雪枝さんの胸にむしゃぶりついた。 
「……あ………ああっ! あはあんっ!!」 
先ほど、胸を揉んでいたときと同じように嬌声をあげる雪枝さん。 
僕はそのまま、片方の胸をしゃぶり続けながら、もう片方の胸を荒々しく揉みしだく。 
「…あ……か……あ…ああ…あ……」 
「ん……んん…っ……ん…んんんっ……ふんっ……」 
感じているのか、雪枝さんはピクピク震えながら、途切れ途切れに声を漏らしている。 
まるで、その声に操られているかのように、僕もまた鼻息を荒くして雪枝さんの胸を味わっていた。 
 
「あ…あ……ああ…あああっ!!」 
「ぐむ? …ん……んんん…ごく…ん……んふう…っ……」 
突然、雪枝さんがひときわ大きな悲鳴とともに、体をビクンと痙攣させたかと思うと、 
僕の口の中にほのかに甘い味が溢れた。思わず咽喉を鳴らしながら”それ”を飲み下す。 
ふと視線を横にすると、僕が揉んでいる雪枝さんの胸から、 
白っぽい半透明の液体が迸り、千奈美の顔にまで飛んでいた。 
「はあ…あ……ああ…あ……」 
「んぐ…ぐ……ぐう…んぐ…んぐうっ……」 
雪枝さんは、虚ろな目で天井を見上げ、半開きの口からは喘ぎ声が漏れ続けている。 
僕はそんな雪枝さんの様子に委細構わず、夢中で雪枝さんの胸から出てくる液体を飲み続けた。 
 
 
「ああ…あ………亮太…さん……」 
しばらくして、ようやく我に返ったのか、雪枝さんが僕の名を呼ぶ。 
その間、ずっと僕は雪枝さんから溢れ出す母乳を飲み続けていた。 
急に恥ずかしくなってきて、思わず顔をあげた僕の指先に、何かがまとわりついてきた。 
 
「んふ…ん……おいしい…おいしいよ……」 
「千奈……美……」 
ふと見ると、いつの間に目を覚ましたのか、千奈美が僕の手についた、雪枝さんの母乳をしゃぶっている。 
「んん……おいしい……おいしいよ……」 
「あ! はああっ!! ち、千奈美ちゃん! ダ、ダメええっ!!」 
僕の手をしゃぶりつくした千奈美は、うわ言のようにつぶやきながら、雪枝さんの胸にしゃぶりついた。 
同時に雪枝さんが、叫び声をあげながらビクンと体を仰け反らせる。 
その声の艶っぽさに、再び理性が弾け飛んだ僕も、まるで千奈美に負けないように、 
もう片方の雪枝さんの胸の頂を軽く甘噛みした。 
「あは! ああっ!! ふ…ふたり……ともおっ!!!」 
両方の胸に歯を立てられた雪枝さんは、声を上ずらせるが、二人ともそれくらいで離れるはずがない。 
むしろ、先程よりも母乳の出がよくなったようで、二人とも夢中になって胸にしがみつく。 
「ああ! あ!! あああっ!!」 
部屋では、二人が雪枝さんの胸を吸う音と、雪枝さんの喘ぎ声だけが響き渡っていた―― 
 
「あ…あ……ああっ…あ……あ…」 
「んふ…ん……んんっ…く…ううっ……」 
雪枝さんが身をよじらせながら、足を僕のモノに擦りつけてくる。 
その気持ちよさに、再びモノが大きく膨らみ始めてきた。 
「あ……ああ…あ……」 
「……あ…う…」 
意識しているのかいないのか、雪枝さんはモノを太股で挟み込んだまま、身をよじらせ始めた。 
思わず雪枝さんの胸から顔を離してしまう。 
と、千奈美が一心不乱になって、雪枝さんの胸をしゃぶっている姿が目に入った。 
「ん……っ……んん…んっ…。ん? んん? おに……ちゃん?」 
そんな姿を見ていると、何だか無性に興奮していた僕は、千奈美を抱き上げて、雪枝さんの上に乗せた。 
一瞬、怪訝そうな顔をして振り向く千奈美だが、すぐに再び雪枝さんの胸に舌を這わせ出す。 
雪枝さんは何をするでもなく、ひたすら千奈美のなすがままに体をよじらせている。 
さっき、風呂にあがった時に見た光景とは、まるで逆の状態だ。 
……もっとも、千奈美は雪枝さんに言葉攻めをする余裕は、全然無さそうだけれども。 
そんなことを考えながら、ゆっくりと雪枝さんの両足を押し広げてみた。 
丁度、二人の割れ目が擦れあい、いわゆる貝合わせの状態になっている。 
僕はおもむろに、モノを二人の割れ目の間に潜り込ませてみた。 
「「あ! ああんっ!!」」 
「う……ううっ……」 
次の瞬間、まったく同じタイミングで二人が甲高い声をあげる。 
かくいう僕自身も、モノを柔らかく包み込む感触に、全身が痺れるような快感を覚え、声を漏らしていた。 
 
「は! あ! ああっ!!」 
「むぐ…あ…あっ……ぐ…んぐ…ぐっ…」 
僕が腰を動かすたびに、雪枝さんは喘ぎ声とともに体を震わせる。 
千奈美もまた喘ぎ声を漏らしてはいたが、くちびるはしっかりと雪枝さんの胸に吸いついていた。 
そんな中、僕はさらなる刺激を得んがために、腰の動きを早めだす。 
「ああっ! あっ! ああっ!!」 
「あっ!! はあっ! ああんっ!!」 
段々、雪枝さんの声が甲高く、断続的になってきた。 
それに合わせて、千奈美も雪枝さんの胸から口を離し、叫び声をあげ始める。 
「はあっ! ああっ! 気持ちイイ! 気持ちイイようっ!!」 
「あ! ああっ!! あーっ!!」 
と、千奈美がいきなり雪枝さんの胸を、めちゃくちゃに揉みしだきだした。 
胸から母乳を吹き出させ、全身をビクビクと震わせながら、雪枝さんが悲鳴をあげる。 
あまりの艶っぽさに、思わず腰を動かすのを忘れ、見入ってしまうくらいだった。が、 
「ん? ん……」 
吹き出した母乳が僕の顔に掛かった。それが頬を伝って口の中に入り込んだ瞬間、またも理性が飛んだ。 
「ああ! あああーっ!!」 
雪枝さんの胸を揉んでいる千奈美の手を押しのけて、代わりに胸を思い切り吸い上げる。 
たちまち、雪枝さんの叫び声が響き渡るが、そんなのは気にならない。 
僕は、胸を揉むたびに湧きでる母乳を、咽喉を鳴らして飲み下しながら、再び腰を動かし始めた。 
「あ! あ! ああっ!!」 
「あああっ!! イ! イク! イクウッッ!!!」 
千奈美と雪枝さんが声を震わせて叫ぶが、その声も遥か遠くで聞こえているような、錯覚に陥っていた。 
僕は、そんなことに委細かまわず己の欲望に忠実に、腰の動きを早めだす。 
 
「は! あっ!! ああーっ!!」 
「お! おに…おに……ちゃ! も…あ! ああ…ああ!」 
雪枝さんが、ひときわ大きな声をあげ、ビクンと大きく体を痙攣させたかと思うと、ぐったりと動かなくなった。 
千奈美もまた、涙を流しながら甲高い声をあげる。う……さすがに…もう、限界………かも……。 
「ああっ! あっ! ああああんっ!!」 
「くっ! う…ううっ!!」 
そう思った次の瞬間、千奈美がわずかに腰を震わせ、モノを擦りあげたのがトドメの刺激となり、 
僕は絶頂に達し、そのまま意識を失ってしまった―― 
 
 
「もー、おにーちゃーん! 朝だぞー! 起きろー!」 
「ぐえっ!?」 
突然、横っ腹に鈍い衝撃を受け、カエルが潰れたようなうめき声を出しながら、目を覚ます。 
ゆっくりと体を起こすと……何も着ていない状態だった。えっと……あれ? 
「ね、一応雪枝さんが体を拭いてくれてたけどさ、ちゃんとシャワー浴びてから会社行ったほうがいいよ。ね?」 
千奈美が、僕の手を引っ張り起こしながら言う。……あ、そうか。昨日はあのまま、気を失ってたんだっけか。 
……そういえば、その雪枝さんはどこへ行ったんだ? まさか、千奈美が追い出した、とか? 
ま、仕方ないと言えば仕方ないか。正直、昨日あんなことをした挙句、「出て行け」なんて僕の口からは言えないし。 
「雪枝さ〜ん、おにいちゃん起きたよ〜!」 
などと考えていると、千奈美が居間に向かって叫んだ。……え? そ、それって? 
ふと首を伸ばして居間のほうを見ると、台所で料理を作っている雪枝さんが見えた。 
「あ、おはようございます、亮太さん。今、朝食を作ってますからその間に、 
千奈美ちゃんの言うとおり、シャワーを浴びられたほうがいいですよ」 
「え? 雪枝……さん? あの…えっと……その…」 
「あ〜。おにーちゃん、まさか雪枝さんを追い出そうとか、考えているんじゃないでしょうね? 
そんなことしたら、あたし怒るよ〜!」 
千奈美の声に、雪枝さんはこちらを振り向き、僕を見つめてにっこりと微笑みながら言った。 
何と答えていいか分からず、声を詰まらせてしまった僕を見て、千奈美が腕組みしながら僕を見る。 
「えっと……そんなつもりじゃ、ないんだけど……」 
「じゃ、どんなつもりなのよ!? 男ならハッキリ言ってよねっ!」 
なおも口ごもる僕に、千奈美が人差し指をピシリと突きつけてきた。 
「あ、あのさ。別に僕は反対してないよ。どっちかというと、嫌がっていたのは千奈美のほうじゃない」 
「ふ〜んだ! あたし、そんなこと言った覚えないもん! おにいちゃんなんか、知らない!」 
僕の答えに、千奈美は頬をぷっくりと膨らませて、寝室へと向かって歩き出した。 
 
「あ…! ちょ……おい、千奈美!」 
「あらあら。千奈美ちゃん、怒っちゃったみたいですね。どうしましょうか?」 
後ろ姿に声を掛けようとするが、千奈美は振り向こうともしない。 
ふと横を見ると、心配そうな顔をした雪枝さんが立ち尽くしている。 
「なあに、大丈夫ですよ。すぐに機嫌を直……わぷっ」 
肩をすくめながら、雪枝さんに話しかけようとしたとき、寝室から飛んできた何かが僕の顔を覆った。 
手にとって広げてみると……何だこりゃ? 僕の……パンツ? 
「ふんっ! さっさとシャワー浴びなよっ! いつまで裸でいるのさっ!」 
ふと寝室のほうを仰ぎ見ると、頬を膨らませたままの千奈美が立っている。 
何だ。下着を持ってきてくれたのか。結構いいところ、あるじゃな……え? 裸? 
そう思った僕は、ゆっくりと顔を下に向け……ようやく、自分が裸だったことを思い出した。 
「わ! わわっ!」 
「それともさ〜。また昨日みたいなこと、今すぐ始めたいの〜!?」 
雪枝さんの手前、慌てて前を隠す僕。そんな僕を見て、千奈美が悪戯っ娘の顔でひとこと。 
「ば、馬鹿っ! そんなハズ、ないだろうっ!?」 
「わ〜い、赤くなった赤くなった〜! 照れてる照れてる〜っ!」 
「ま……亮太さんったら。…………私はいつでも大丈夫、ですよ?」 
思わずむきになって言い返すが、千奈美は手を叩いて喜びだす。 
……雪枝さんは何を勘違いしているのか、頬を赤くしてうつむいてしまうし。 
「いいよっ! シャワー浴びてくるっ!」 
「はいは〜い! ちゃんと洗って来てね〜っ!」 
これ以上、何を言っても無駄と思った僕は、踵を返して風呂へと向かった。 
そんな僕に、千奈美が凄く明るい声で手を振っていた―― 

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