「ふう、ただいま〜」  
「あ、おにいちゃん、お帰りなさ〜い!」  
「ああ、ただい……いいっ!? 何てカッコしてるの!?」  
一日の仕事が終わり、家に戻る。カギを開け、玄関に入るといつものとおり、  
座敷わらしの千奈美がパタパタと出迎えにきた………ところで、僕は思わず声をあげてしまった。  
なぜなら千奈美は、いつものヒラヒラした真っ白い服ではなく、  
スカートのような白いフリルが付いた、薄いピンク色の水着を身にまとっていたのだ。  
さらに、水色の浮き輪に身体をくぐらせ、水中メガネと小さなシュノーケルまで装備している。  
まさに『これから、海に入ります』と言わんばかりの格好だった。  
……念のため、言っておきますが、我が家に海はありません。プールもありませんです、はい。  
「うふふ〜、似合う〜?」  
僕の驚きの声に、千奈美は嬉しそうにその場でクルクル回り始める。  
「い、いや。似合うも何も……買ってきたの?」  
「うん!」  
口をぽかんと開けながらつぶやく僕に、千奈美は元気な声で返事をしてきた。  
 
「あ、お帰りなさいませ、亮太さん」  
「うん………って、雪枝さんもかい! しかも何なの、この部屋のありさまは!?」  
部屋に入った僕を、にこやかに疫病神の雪枝さんが出迎える。  
その雪枝さんは、黄色いビキニに麦わら帽子をかぶった格好で、  
ビーチパラソルの下に敷物をしいて座っていた。………ここは海水浴場ですか?  
「えっとね、今日のお昼さ〜……」  
僕の叫び声に、後ろにいた千奈美がにこやかに語りだした―――  
 
「うみ、いきた〜い!」  
「海ですか。そうねえ、行ってみたいですねえ」  
昼、テレビ番組で海水浴のニュースを見た千奈美が、  
掃除機をかけている、雪枝のほうを振り返りながら言った。  
声をかけられた雪枝は、掃除の手を止めてテレビを見ながら、まんざらでもない様子で答える。  
「ね、今度おにいちゃんが仕事休みの日、みんなで行こうよ!」  
雪枝の返事に、千奈美はぱっと目を輝かせ、雪枝の手を掴みながらブンブンと動かす。  
「そうですねえ……その辺は亮太さん次第、ですけどねえ。  
……ところで海は置いといて、お夕食のおかずを買いに行こうと思うんですが……大丈夫?」  
「うん、いいよ! たまには駅前の大きいスーパー行こうよ〜。今日はあっちのほうがお肉が安いよ!」  
そんな千奈美の仕草を嫌がる風でもなく、雪枝は首を傾げながら千奈美に問いかけた。  
千奈美は上機嫌で頷きながら、返事をした。  
 
実は、部屋の主である亮太から、雪枝は一人で買い物に行くなと言われていた。  
何故なら、疫病神としての資質なのか、はたまたただの世間知らずなのか、  
彼女は訳の分からない買い物をしてくることが多々あり、その都度家計が危機を迎えるからだった。  
経済観念とかは、見た目に反して千奈美のほうが、よほどしっかりしている。  
もっともその千奈美も、玩具だとか自分が興味を寄せた物には、浪費を惜しまないタイプだったが。  
そのため、買い物は二人が一緒に出掛けて、お互いがお互いを監視しているのであった。  
 
「あ、そうなんだ。じゃ、千奈美ちゃんが言うのなら、そっちへ行きましょうか」  
千奈美の言葉に、雪枝は頷きながら買い物に出掛ける仕度を始めた――  
 
「ひさしぶり〜ひっさしっぶり〜♪」  
「まあ、千奈美ちゃん。はしゃぐのはいいけれど、はぐれないように気をつけてね」  
「分かってるよ〜」  
千奈美は車から降りると、跳ねるような足取りで、スーパーへ入ろうとする。  
背後から雪枝の注意を受けた千奈美は、くちびるをとがらせながら、雪枝のほうを振り向いた。と、  
 
パンパカパーン  
 
「おめでとうございます!」  
「え? なに? なになに?」  
いきなり、ファンファーレとともに、マイクを手にした若い女性の祝福の声。  
予期せぬ出来事に、千奈美は目を丸くさせていた。  
「お嬢さんが、当店が開店してから10万人目のお客様です。さ、どうぞこちらへ!」  
「あ、あらあら千奈美ちゃん……」  
「さあさあ、お姉さんもこちらへどうぞ!」  
女性は、呆然としている千奈美の手を取りながら、即席のステージへと案内する。  
そんな光景を、雪枝はのんびりと眺めていたが、女性は雪枝にも手招きをしてきた。  
「え? あ? お、お姉さんって……」  
「さ、どうぞご一緒に。どうぞどうぞ」  
突然話をふられて戸惑う雪枝に、周囲にいたはっぴを着た店員が、ステージにあがるように促す。  
戸惑ったまま、千奈美と雪枝の二人は壇上にあがることになった。  
 
「さ、あらためて、おめでとうございます。……まず、お嬢さんのお名前から、聞かせてもらうかな?」  
「えっと……田中、千奈美です……」  
女性からマイクを向けられ、戸惑い気味に話す千奈美。本当は苗字なんて無いのだが、  
亮太と一緒に暮らしている以上、彼と同じ苗字を名乗ることにしよう、ということになっていたのだ。  
「千奈美ちゃんですか。今日はこのお店に、何を買いに来たのかな?」  
「はい、雪枝さんと一緒に、おかずを買いに来ました」  
千奈美の名前を確認した女性は、再度質問をしてきた。本当のことなので、素直に答える千奈美。  
「雪枝さんと言うのは、こちらのお姉さんですね? 雪枝さん、今日のおかずのご予定は?」  
「え? えっと……その…まだ……はっきりとは………」  
照れ屋なのか、ステージにあがってから、茹でたカニのように、  
顔を真っ赤に染めている雪枝は、いきなりマイクを向けられ、しどろもどろに返事をする。  
もっとも、まだ何にするか、決めていなかったのは本当だから、答えようもなかっただろうが。  
「そうですか! さ、ただいまから店長より、記念品が贈られます! 店長、こちらへどうぞ!」  
「千奈美ちゃん、おめでとう」  
「あ、ありがとうございます!」  
女性の言葉を受け、スーツの上にはっぴをまとった恰幅のいい男性が、  
ステージの中央へ歩み寄り、手にしていた小さな箱を、千奈美へと手渡す。  
千奈美はぺこりとお辞儀をして、男から箱を受け取った。  
その瞬間、はっぴ姿の店員たちや、野次馬の客たちから、拍手が沸き起こる。  
 
「さらに副賞は! 昼は海水浴、夜は星空、伊豆白浜民宿の旅、家族旅行ご招待券です!」  
「ええっ! ほ、本当!?」  
女性の次の言葉に、千奈美は目を輝かせて叫び声をあげていた。  
そのリアクションに、周囲から笑い声が響き渡る。  
「本当なんです! 千奈美ちゃん、今年はまだ海に行ってないのかな?」  
「うん! 雪枝さんと行こうって、さっき話してたばかりなの!」  
女性は、千奈美の突然の声に驚く様子も無く、微笑みを浮かべながら、再びマイクを千奈美に向けた。  
千奈美は少し興奮気味に、雪枝のほうをチラチラ見ながら答える。  
雪枝は相変わらず、顔を真っ赤に染めたままだが、千奈美の言葉にコクコクと頷いていた。  
「それはまた、見事なタイミングですねえ。どうぞ、家族みんなで楽しんできてください!」  
「はいっ!」  
千奈美の元気な返事とともに、再び周囲から拍手が聞こえてきた。  
 
 
「ね……雪枝さん……」  
「……千奈美ちゃん、これは………」  
賞品を握り締めながら、千奈美が雪枝をじっと見つめ、雪枝もまた千奈美を見つめ返す。  
やがて二人は頷きあいながら、売り場の中へと足を踏み入れた――  
 
「……と、いうことがあったのです」  
「で、早速そのスーパーで水着を初めとして、こんなものを買い揃えた……と?」  
二人の説明を聞き終え、折りたたみベッドに腰掛け、辺りを指差す。  
……季節が終わってしまえば、使わないものばかりだし、レンタルも用意してるだろうから、  
あえて買う必要も、無かったと思うんだけど。まあ、部屋は余っているから問題は無い、か。  
 
実はこのマンション、一人暮らしの僕が暮らすには、無駄と思えるくらいに大きかった。  
ところがこの部屋に限っては、”いわくつきの物件”だったらしく、家賃が妙に安かったのだ。  
もっとも、その”いわく”の正体と、今では平気で一緒に暮らしてたりするのだけれども。  
よく考えたら、それも千奈美がもたらす”福”の一種なんだろうか? いや、ちょっと違うか……。  
 
「はい、どうせ買ってしまうなら、一度に買ったほうがいい、と思いましたので。  
ただ、ひとつ問題がありまして………」  
「な、何?」  
言いながら考え事をしていた僕を、雪枝さんの言葉が現実に引き戻す。……何ですか、問題って?  
「おかげで、今日のお夕食は、おにぎりになりました。ちなみに今週ずっと」  
眉をしかめ、手元のバスケットを開けながら、雪枝さんはポツリとつぶやく。  
そこには、美味しそうなおにぎりが、ゴロゴロと……って、ちょっと待った! 今週ずっとおにぎり!?  
「は? はあ!? ………もしかして、一週間の食費、使い果たした……の?」  
「………………」  
僕の質問に、雪枝さんは無言でコクリと頷いた。……まあ、雪枝さんの浪費癖に関しては、  
財布の中身はさておいて、すっかり慣れてしまったけど、何のために二人で買い物に行ったんだ?  
 
「ち、千奈………」  
「ん? なに〜?」  
「い、いや……何でもない………」  
そう思った僕は、振り向きざまに、千奈美に声を掛けようとして……固まってしまった。  
千奈美は、満面の笑みを浮かべながら、足踏みポンプでビニールのシャチを膨らませていたからだ。  
そうか……二人の利害が、思い切り一致してしまっていたのか………。  
こうなると、二人は本当の姉妹か親子かってくらいに、妙な連携を発揮してしまうからなあ。  
などと思いながら、僕は苦笑いを浮かべ、首を振りながら、そのままベッドに寝っ転がった。  
「あ、大丈夫ですよ。ちゃんと亮太さんの水着も、買ってまいりましたから」  
「い…いや、僕が言いたいのはそうでなく……」  
と、雪枝さんが立ち上がり、僕を見下ろしながら言う。  
立ち上がった弾みで、雪枝さんの見事な胸がゆさゆさと揺れている。……これはこれでイイ、かも。  
って、問題はそこではなく! と答えようとしたが、  
「ささ、とりあえず、背広姿ではおかしいですから、早く着替えてくださいまし」  
「えっと………はい」  
雪枝さんは、僕の手を引っ張り起こそうとする。  
きっぱりと断言され、反論するのは無駄と悟った僕は、雪枝さんの言葉に素直に頷いていた。  
確かに海水浴場で、スーツ姿はおかしいよねえ……などと思い始めた僕は、  
すでに二人の考えと、雪枝さんのゆさゆさしてる胸に、毒されているのでしょうか?  
 
「まあ、凄く似合ってますよ」  
「うん、似合う似合う〜」  
水着に着替えた僕を、雪枝さんはコクコク頷き、千奈美は手をパチパチ打ち鳴らしながら迎える。  
「ゆ……雪枝さん、この水着って………」  
問題は、股間が強調された、かなり際どいデザインだということなんですけど。  
「大きさはピッタリでしょう? 亮太さんの大きさは、もう完全に把握してますからね」  
雪枝さん、手つきがいやらしいです。  
「ん〜、わたしは普段はもう少し、小さいと思ってたんだけどな〜」  
千奈美も何を言ってるんだ!  
「まあ、千奈美ちゃん。いつも朝か夜の膨らんでいる状態しか、見ていないからかしらね?」  
「え〜、ちゃんと見てるよ〜!? 時々一緒に、お風呂入ってたりしてるもん!」  
雪枝さんの言葉に、千奈美がくちびるをとがらせて反論する。  
……何だか、雲行きが怪しくなってきたんですけれど。  
「………あ、そっか〜、わかった〜。おにいちゃん、いつもわたしのハダカを見ると、  
我慢できなくなっちゃって、あんなになっちゃうんでしょ〜?」  
「まあ、亮太さん。なんてはしたないんですか」  
千奈美がポンと手を打ち鳴らし、とんでもないことを口走りながら、片手を頭に乗せてポーズをとる。  
途端に、僕を見る雪枝さんの目がジト目になる。……雪枝さん、それは誤解です。  
「ま、仕方ないよね〜。わたしの魅力がそれほどだってことだし〜♪ ……誰かと違って」  
「まあ、千奈美ちゃん。誰かって、誰のことかしらね?」  
僕が沈黙していると、千奈美が歌うようにつぶやきながら、最後にポツリとひとこと。  
その最後のひとことに、雪枝さんがピクンと反応した。……青筋立てないでください。怖いです。  
 
「だあって、おにいちゃんの縮んでる状態を覚えてるなんて、  
いっつもそんなのしか、見てないってことでしょ〜? ……わたしと違って」  
両手を握りこぶしにして、口元に添えながらつぶやく千奈美。お願い、これ以上挑発しないで。  
「何を言ってるんですか! ほら、これを御覧なさい!」  
「う、うわわっ!? ゆ、雪枝さんっ!?」  
言うや否や、雪枝さんはしゃがんだまま、僕の後ろに回りこんだかと思うと、  
僕の水着をいきなりずり下ろし、露出させたモノを背後から優しく握り締めた。  
突然のことに、思わず悲鳴交じりの声が漏れてしまう。  
「ほら! 今は縮んでますが、こうすると亮太さんのおちんちんは、すぐに逞しくなります!  
私は千奈美ちゃんと違って、亮太さんのどちらの状態も、熟知しているんです!」  
「ちょ、ちょっと雪枝さん……あ、ああっ」  
カリ部分を、人差し指で軽く引っかきながら、ゆっくりと手首のスナップを利かせ始める雪枝さん。  
さらに、もう片方の手のひらで袋をコネコネと撫で回し、指先で蟻の門渡りを刺激してくる。  
雪枝さんの言葉どおり、僕のモノはあっという間に戦闘体制に入りだした。  
………いつもながら、見事なテクニックです、雪枝さん。  
腰が震え、ビーチパラソルの柱に両手でしがみつきながら、あえぐ僕。  
……抵抗出来ないのが、悲しい男の性と言うべきか、どうなのか……。  
 
「だから言ってるでしょ〜? わたしのハダカを見るだけで、おにいちゃんはおっきくなるって!  
雪枝さんは、わざわざそんなことしなきゃ、おにいちゃんをおっきくさせれないんでしょ?」  
水中メガネを頭にずらし、余裕の笑みを浮かべる千奈美。  
ちょっと待て、僕はそこまで色情狂じゃないぞ。  
……今言っても、説得力なさそうだし、話がややこしくなるし、気持ちイイから黙っているけど。  
「は〜。仕方ないですね」  
千奈美の言葉に、雪枝さんはゆっくりと首を振りながら、ため息をつく。  
もちろん、手の動きは止まるどころか、続いています……って、お尻の穴をなぞらないで!  
ゾクリとした寒気みたいな刺激が、背筋から全身に伝わり、仰け反ってしまう。……ちょっとイイかも。  
「百歩譲って、亮太さんのおちんちんが、千奈美ちゃんの裸を見て逞しくなるとしても、  
そのあとに、それをなだめる方法や、亮太さんが喜ぶツボは、よく分かってないでしょう?」  
「ああっ! ゆ、雪枝さん! 雪枝さあんっ!」  
言いながら、雪枝さんは手の動きを激しくさせた。こみあげる快感にこらえきれず、叫び声をあげる。  
う……もう、もうダメ……。僕は雪枝さんのテクニックの前に、早くも限界を迎えようとしていた。  
「…………ん…ん………んん…っ……。ごく……ごく……」  
僕が暴発する寸前に、雪枝さんは僕のモノを咥えこみ、口の中で暴発を受け止めた。  
完全に、僕のタイミングを熟知しています、雪枝さん。本当お見事です、雪枝さん。  
涙でにじむ目で雪枝さんを見下ろすと、咽喉を鳴らして、僕の精を飲み下していた。  
 
「ん……ん〜ん、んっ。ほら、こんなに簡単に、亮太さんを満足させることが、千奈美ちゃんに出来て?」  
舌先をモノの先端に絡ませ、僕の精を残さず飲みつくした雪枝さんは、ようやくモノから口を離す。  
と、首だけを千奈美に向けて、挑発するように笑みを浮かべる。……ちょ、こ、これって……。  
「な、なによ〜! わ、わたしだって、やればできるんだからあっ! ……ん、んふ……んっ……」  
予想通り、千奈美は顔を真っ赤にさせながら、雪枝さんを押しのけて、僕のモノを口に含んだ。  
「ちょ、ちょ…ち、千奈美!?」  
千奈美の口は小さく、八重歯がモノに当たって、雪枝さんの時とは違った刺激を送ってくる。  
「ん…んふ……んんふ…っ……んっ……ぐ…っ」  
両手でモノを握り締め、鼻息を荒くさせながら、モノの先端を必死に舐めまわす千奈美。  
一度果てたにも関わらず、たちまち僕のモノは、勢いを取り戻し始める。  
そのまま、床にへたりこもうとしたその時――  
「さあ亮太さん、たまにはこうして、千奈美ちゃんのご奉仕を受けるのも、悪く無いでしょう?」  
いつの間に僕の背後に回ったのか、雪枝さんが僕の胸を撫で回しながら、耳元でささやく。  
ああ……ゆ、雪枝さんの胸の感触が………って、そうではなく!  
「ゆ……雪枝さ…あ、あうっ……ん…んんっ……」  
中途半端な姿勢になりながらも、振り向きながら雪枝さんに話しかけようとしたが、  
雪枝さんは笑みを浮かべながら、僕の乳首を摘まみあげてきた。しかも左右同時に。  
その刺激にのけぞった隙に、雪枝さんは僕のくちびるを優しく奪ってきた。  
………もしかして、千奈美を挑発したのもすべて、雪枝さんの計算だったのだろうか?  
そうだとすると………怖いです、雪枝さん。……嬉しいけど。  
 

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