「お帰りなさいませ。どうでしたか、海は?」
「ええ、とても気持ちよかったです」
「………………」
砂を落として民宿に戻ると、女将さんがにこやかな顔で、僕たちを出迎えてくれた。
雪枝さんは明るく返事をしていたが、雪枝さんに肩を抱かれた千奈美は、無言で下を向いている。
……何だか二人の態度が、くっきりとコントラストを描いてるような。ま、それはそうかも。
「まあ、それはなによりで。御主人さんは、いかがでしたか?」
「え? あ、あはは。ぐっすり寝てました」
と、女将さんは、僕へ話を振ってきた。頭を掻きながら答える僕。
……せっかく海に来て、もったいない気もするけれど、明日もあるし、ね。
「そうでしたか。天気もよかったし、気持ちよかったでしょう。
さ、まずはゆっくりと、お風呂でもどうぞ。今、夕食の支度をしていますから」
「あ、はい、どうも」
あくまで女将さんは、にっこりとした表情を崩さず、僕たちに風呂を勧めてきた。
……正直、洗い足りなかったから、丁度いいかな。
「わーい、お風呂お風呂〜!」
「まあ、千奈美ちゃん。お風呂に入る前に、ちゃんと体を洗わないとダメですよ?」
脱衣所で、水着を脱ぎ捨てたかと思うと、歓声をあげて風呂場へ駆け込む千奈美。
雪枝さんは、脱ぎ散らかされた水着を畳みながら、千奈美へ軽く声を掛けていた。
「む〜、わかってるよ〜」
風呂場から、千奈美の不満げな声とともに、シャワーから水が出る音が聞こえてくる。
……さすがに、さっきの今だから、雪枝さんに逆らおうとは、思えなかったのかな?
「お風呂お風呂…っと」
手拭いで、前を隠して風呂場へと入り込む。
6畳くらいの大きさで、半分くらいが湯船という、3人では広すぎるかもしれない位の大きさだ。
シャワーがひとつしかないというところが、いかにも民宿らしい。
「……へえ、結構大きいですね。これだけ広ければ、いつも3人で入れますのに」
僕のあとから入ってきた雪枝さんが、のんびりとした声でつぶやく。
……雪枝さん、そうかもしれませんが、一般家庭に、このサイズの風呂は大きすぎです。
それに、こんなサイズの風呂があるような家、僕の給料では住めるはずがありません。
「せ〜の!」
ドボーン!
「………ぷっは〜。気持ちいい〜!」
シャワーで体を洗い終えた千奈美が、歓声をあげながら、湯船に飛び込んだ。
「まあ、千奈美ちゃん。お風呂はプールじゃ、ありませんよ? 飛び込んじゃダメでしょう?」
「む〜、いいじゃな〜い。私たちしか、いないんだから〜」
体を洗いかけていた雪枝さんは、軽く眉をしかめながら、例によって千奈美をたしなめる。
千奈美はこれまた例によって、くちびるを尖らせて湯船を泳ぎまわりながら、雪枝さんに抗議する。
「……千奈美ちゃん? 普段からお行儀悪くしていると、いざというときに、出てしまうものなのよ?」
「まあまあ、雪枝さん。せっかくの旅行なんだし、そのくらいで」
雪枝さんの語気が、少し荒くなるのを感じ取った僕は、雪枝さんの肩を取りながらなだめた。
「ほ〜ら。おにいちゃんだって、ああ言ってるし〜」
「でも、亮太さん」
僕の言葉に、得意げな顔で泳ぎ続ける千奈美と、顔をしかめる雪枝さん。
……雪枝さんの顔が、少しだけ怖く見えるのは、はたして気のせいでしょうか?
「千奈美も。旅に出て、はしゃぎたくなるのは分かるし、大きなお風呂だから、
泳ぎたくなるのもよく分かるけど、あまり調子にのっちゃダメだよ?」
「むむ〜。おにいちゃん、いったいどっちの味方なの〜?」
僕が千奈美をたしなめると、千奈美は頬っぺたを膨らませて、湯船からあがる。
「な、何を言ってるの? 僕は別に、どっちの味方というわけでも……あ、あれ?」
千奈美の迫力に押され、思わず一歩後づさると、背中に柔らかいものが二つ当たった。
「亮太さん? そういう、どっちつかずの中途半端が、いちばんよくないんですよ?」
「え? ゆ……雪枝、さん?」
振り返ると、雪枝さんのたわわな胸が、僕の背中に当たっていた。……いつもながら、見事な胸で。
雪枝さんはにっこりと微笑みながら、背中から抱きつくように、泡まみれの両手を僕のお腹に回す。
……微笑んでいても、目が笑っていないのが、非常に怖いです、はい。
「ゆ、雪枝さん……あ、あうっ」
「さて。亮太さんも、まだ体を洗っていないですね。……もちろん、ここも」
言い訳………もとい、説得しようとした途端、下腹部に刺激が走り、思わず腰が引けてしまう。
雪枝さんは、泡まみれの手で、僕のモノをやさしく握り締めていた。
「ちょ……ゆ…雪枝……さ………あ、ああっ……」
「あれ〜? 雪枝さん、おにいちゃんのおちんちん、洗ってるだけなのに、大きくなってきたよ〜?」
喘ぎ声をあげる僕の目の前に、千奈美がトコトコやってきて、雪枝さんにひとこと。
……この状態で勃たなければ、男じゃない、と思う。
「まあ、亮太さん。私はただ、体を洗っているだけなのに。なんていやらしいんですか」
「そ……な、あ、洗ってるだけ…な……て…」
などと言いながら、胸を僕に押しつけ、モノをしごくピッチをあげる雪枝さん。
抗弁しようとするが、耳たぶを軽く齧られ、声が声にならない。
「うわ〜っ、先っぽから、お水が出てきた〜」
「ち、千奈美! う、うわわっ!?」
ちょんちょんと、千奈美がモノの先端を突っつく。言葉どおり、モノからは先走りが漏れ出していた。
「千奈美ちゃん、シャワーを取ってくれる?」
「うん、わかった〜!」
雪枝さんの言葉に、元気よく頷く千奈美。
……それにしても二人とも、さっきまでの険悪な空気は、いったいどこへ行ったんだ?
「はい、雪枝さん!」
「ありがとう、千奈美ちゃん。さ、亮太さん。洗い流しますよ〜?」
「……は、はひ……」
千奈美からシャワーを受け取ると、雪枝さんは僕からぱっと離れ、シャワーでお湯を掛けてくる。
下腹部を襲う快感に、腰砕けになっていた僕は、雪枝さんたちの、なすがままになっていた。
「さ、ここも念入りに泡を落とさないと、ね?」
「はああ……ゆ、雪枝さあん……」
シャワーを当てながら、モノを念入りにしごきあげる雪枝さん。……も、ダメ、イッちゃう……。
「………っと」
「へ? ゆ…雪枝さ…ん?」
まさに、絶頂に達しようかという瞬間、雪枝さんはぱっと手を離した。
思わず情けない声で、雪枝さんを見返す。……僕がイキそうになるタイミング、知ってるよね?
「どうしましたか、亮太さん? 体は洗い終わりましたよ? さ、お風呂に入って、温まりましょう?」
「おにいちゃん、どうしたの〜? お風呂入るのに、おちんちんおっきくしちゃって〜?」
二人とも、何事も無かったかのように、湯船に浸かりながら、僕に話しかける。
雪枝さんはにっこりと微笑み、千奈美は悪戯っぽく笑い、軽く小首を傾げて。
「それとも、わたしたちのハダカを見て、興奮しちゃったかな〜?」
「まあ、亮太さん。こんな時間にこんな場所で、なんてはしたないんですか」
湯船の中で立ち上がり、くねくねとポーズをとる千奈美と、呆れ顔で僕を見つめる雪枝さん。
……というか朝から、しかも運転中に、あんなことをしたのは誰ですか、雪枝さん。
「あ、あの……」
「どうしたの〜? 本当に入らないの〜?」
雪枝さんに声を掛けようとしたが、まるでそれを遮るように、千奈美が声をかけてきた。
しかも、ふたたび湯船の中を泳ぎまわってるし。
……あのさ、今気づいたけど、さっきまで、海で散々泳いでいたんじゃなかったの?
「い、いや………」
「ふう、湯加減も丁度よくて、気持ちいいですよ、亮太さん?」
お願い、最後までイカせて――と言おうとしたが、今度は雪枝さんに遮られた。
……って、雪枝さん。今度は泳いでいる千奈美に、注意しないんですか?
「ねえ、亮太さん?」
ぼけらっと立ち尽くす僕を見て、雪枝さんが微笑みを浮かべながら、ふたたび声を掛けてくる。
そのときの雪枝さんの微笑み方が、悪戯をしたときの千奈美のそれに、
非常によく似ていることに気がついた僕は、これ以上続けてもらうのをあきらめ、湯船へと歩き出した。
……って、こ、こんな中途半端、あんまりだあ!