「はあ……はあ…はあ……」  
「………ひ、久弥君………こ、これ……あなた、まさか……?」  
「……あ……あ、ああ……」  
肩で息をさせる、久弥の耳と尻尾をまじまじと見つめ、雪枝が驚きの声をあげる。  
だが、久弥は射精の快感からか、全身をピクピク震わせ、声にならない声を漏らすのみだった。  
「ん~、ん~」  
「こおら、千奈美ちゃん。久弥君から離れて。まったく……お風呂に行きますよ?」  
久弥の精液にまみれた、千奈美の髪の毛を軽くさすりながら、雪枝が呆れ気味にひとことつぶやく。  
その千奈美は、未だに久弥の尻尾に頬擦りし続けている。  
「久弥君も、続きはそこで、ね?」  
「う…ああっ、あっ……」  
雪枝は、手についた精液を舐めすくいながら、久弥のペニスの先端を、  
もう片方の指で軽く弾いたかと思うと、耳元でそっとささやいた。  
久弥は一瞬、ビクンと体をすくませたかと思うと、呆けた顔で雪枝を見返しながら、コクリと頷いた――  
 
 
少し時間は遡って、一階の風呂場では――  
 
「さて、亮太さん、まずは体を流してさし上げますえ」  
「あ……ど、どうも……」  
葉子さんに促され、腰に手拭いを巻いたまま、風呂場の椅子に腰掛ける僕。  
「?? どうしたんどすか? こちらですえ……?」  
だが、葉子さんの怪訝そうな声が背中越しに聞こえ、僕は思わず振り向いた。  
そこには、いつの間にかピンク色のマットが敷かれていて、葉子さんが笑みを浮かべて座っている。  
……こ、これってもしかして……。  
「さ、どうぞ、亮太さん……」  
「は、はひ……」  
葉子さんの目が光った――ような気がした――次の瞬間、僕はまるで、  
何かに操られているかのように、フラフラと立ち上がり、そのままマットの上に寝っ転がった。  
 
「さ…いきますえ、亮太さん……」  
「う、うん……」  
石鹸を自らの体にまぶし、泡まみれになった葉子さんが、僕に向かって声を掛けてきた。  
僕は夢うつつの状態で、コクリと頷く。  
「んふ……ん…っ……んんっ…」  
「あ、ああっ……や、柔らかくて、気持ちイイ……」  
と、葉子さんは僕の上に圧し掛かり、そのまま自らの体を押しつけてきた。  
思わず口を突いて出る感想。……よ、葉子さんの下腹部が…ア、アレとぶつかって……。  
「んまっ……。そんなこと言ってくれるなんて……ん…んふっ……」  
葉子さんは嬉しそうに微笑みながら、体の揺さぶりを大きくさせる。  
……その頭に、犬のような耳が生えているような気がするけれど、多分それは気のせいだと思う。  
 
「……っ、亮太さんたら……もう、こんなにさせちゃって……嬉しい」  
「っ……よ、葉子さ……あ、ああっ……」  
不意に、葉子さんが後ろ手に、大きく膨らんでいた僕のモノを撫ですさりながら、耳元でささやく。  
背筋を走る、ゾクゾクした刺激に震えながら、僕は喘ぎ声を漏らしていた。  
「さあ……ここは念入りに、綺麗にしないと、ね?」  
「……は…ひ……」  
上半身を起こした葉子さんは、モノを優しくしごきながら、微笑みかけてきた。  
虚ろな表情で、コクリと頷く僕。……やっぱり葉子さんの頭に、犬の耳が見えるけど、それは幻覚だろう。  
「それにしても……ホンマに、立派なおちんちんどすわあ……っ…あ、ああっ……」  
「………くっ……うっ………」  
言いながら、葉子さんは自らの下腹部を、モノに擦りつけてくる。  
微妙な刺激に、僕は思わず身をよじらせながら、息を詰まらせていた。  
 
「………亮太さん……いきますえ?」  
「……う、うん………っ」  
しばらくの間、葉子さんはモノに下腹部を擦りつけていたが、不意にその動きをピタリと止め、  
モノの先端を、割れ目に半分近く潜り込ませながら、僕に語りかけてくる。  
僕は快感に脳が痺れ、葉子さんの言葉に対し、半ば反射的に頷いていた。  
 
「………っ、は、ああっ!」  
「! あっ! あ…っ!」  
僕が頷いた途端、葉子さんは腰をすとんと落とした。  
その直後、下腹部から凄まじいまでの刺激が響き渡り、思わず声が出てしまう。  
葉子さんは上半身を仰け反らせながらも、腰を上下に揺さぶりだした。  
「あうう、あっ! はああっ!」  
腰を上下に揺さぶるたびに、葉子さんの口から悲鳴に近い喘ぎ声が漏れだす。  
未だに泡まみれの、葉子さんの形のいい胸が、ぷるぷると波を打っている。  
……も、もう、我慢できないかも。  
「んあ? ……あっ?」  
僕は繋がったままの状態で、葉子さんの右足を抱えながら上半身を起こし、葉子さんを横に寝かせた。  
怪訝そうな顔を見せる葉子さんに構わず、僕は葉子さんの右足を肩に担ぎながら、腰を動かし始めた。  
「あっ! ああっ! あああっ!」  
僕の頭の中に、葉子さんの喘ぎ声が響く。その声に導かれるかのように、僕は腰を動かし続ける。  
結合部からは、グチャグチャと湿った音が鳴り響き、白濁した液体があふれ出していた。  
「はああっ! 亮太さんっ! もっと、もっとキテえっ! もっと激しくしてえっ!」  
「……っ、葉子さん……葉子さんっ……」  
髪を振り乱し、あられもない声で叫び続ける葉子さん。  
昼間のにこやかな姿からは想像もつかない、獣のような艶姿にすっかり僕も興奮していた。  
「ああっ! 亮太さんっ! 亮太さんっ!」  
「く…っ……、よ、葉子さ……んっ…」  
葉子さんの声に呼応するかのように、僕は腰の動きを早める。  
……さ、さっき一回イッたけれど……も、もう限界、かも……。  
「よ、葉子さんっ! イッちゃうっ! イッちゃうよっ!」  
「な…中に……。お、お願い、中に、中に出してえっ!!」  
「……うっ……ううっ!」  
振り絞るような、僕の声を耳にした葉子さんは、懇願するように叫び声をあげる。  
その目に光る涙を目にしたとき、僕の理性も限界に達し、あっさりと葉子さんの中で果ててしまった。  
 
 
「あ……ああ、す…凄い、よかったです……」  
風呂の壁にもたれ掛かり、絶頂の余韻に浸る僕を見て、葉子さんがひとこと。  
葉子さんのお尻から、ふさふさした茶色い尻尾が生えていて、機嫌よさそうに揺れている。  
……ああ、よっぽど気持ちよかったんだろうなあ……。  
「ぼ…僕も、気持ちよかっ…………」  
僕は夢見心地のまま返事をしようとして、あることにようやく気づき、固まってしまった。  
……な、何で尻尾が生えてるの!? し、しかもまだ、犬の耳は生えているし!  
「……あら嫌だ。あまりにも、亮太さんが良すぎたから、つい出てきちゃいましたわ……」  
僕が尻尾を凝視しているのを見て、あっさりと答える葉子さん。  
まるで、『陽が昇るから朝になる』くらいに、平然と。……って、も、もしかして彼女って……。  
「そう、亮太さんの想像どおり、ウチは狐の妖狐どす。……大丈夫ですよ。  
バレたからって、口を封じるような野暮はしません。ただ単に、このことを忘れてもらうだけでっから……」  
身の危険を感じた僕は、ゆっくりと出口に向かって這い出そうとする。  
が、葉子さんの目が妖しく光ったかと思うと、指一本動かすことが出来なくなった。  
……そうか、あの耳は犬じゃなくて、狐だったのか……って、そうではなくて!  
「だから大丈夫やて、言うたでしょ? さ……ウチの目をじっと見て………」  
「あ…う……」  
慌てる僕の手を優しく握り締め、葉子さんは妖しく微笑む。  
と、葉子さんの目を見ていると、体の力が抜け、抵抗しようという気が薄れてくる。  
「うふふ……そう、素直がいちばん、どすえ………」  
すっかり大人しくなった僕を見て、葉子さんは嬉しそうな声をあげながら、そっと僕の眉に舌を這わせる。  
……あ、何だか気持ちいい、かも……。  
頭がぼうっとして、意識が薄れてきたそのとき――  
 
「あ~っ! 二人とも、なにやってるのおっ!?」  
「………ち、千奈美!?」  
不意に浴室内に、甲高い声が響き渡った。  
その声で我に返った僕は、首を巡らせて声の主を確認し、思わず驚きの声をあげていた。  
浴室の入り口には、一糸まとわぬ姿でこちらを睨みつけ、  
頬っぺたをぷくりと膨らましている、千奈美の姿があったのだ。  
「え? な…何故? く、薬が……?」  
唖然としているのは僕だけでなく、葉子さんも一緒だったようで、戸惑いの声を漏らす。  
……な、何? 薬って?  
「どうしたの、千奈美ちゃん? こんな夜中に大声なんか出しちゃっ………あら、まあ」  
と、千奈美の後を追うように、今度は雪枝さんが浴室に入ってきた。  
雪枝さんは、千奈美を軽くたしなめたかと思うと、こちらを見て目を丸くさせている。  
……こ、これは…ま、まずいかも……。  
「……っ!? ひ、久弥さマッ!?」  
いっぽう、葉子さんは雪枝さんの隣で、じっと立ち尽くす久弥君を見て、声を裏返させている。  
……え? ひ、久弥『さま』?  
「な…何故……何故、久弥さまが………」  
声を震わせ、口をパクパクさせる葉子さん。  
よく見ると、久弥君にも耳が生えていて、尻尾が生え……え?  
……何だか、尻尾がたくさん生えているように、見えるのだけれども。  
 
「ま……まさか、あなたたち、久弥さまを……!」  
不意に、葉子さんの髪の毛が、ざわっと逆立ったような気がした。  
と、その手には真っ赤に燃える炎が、立ち上り始めた。……や、やばくない? これ?  
 
ジューッ  
 
「あ……」  
と思った次の瞬間、千奈美が葉子さんの手にシャワーを当てて、火を消してしまった。  
葉子さんは、自分の手と千奈美の顔を交互に見つめ、狐につままれたような顔をしている。  
……って、葉子さんが狐だったか。  
「も~う。葉子さん、なに勘違いしているの~? 久弥くんが、わたしたちの部屋に入ってきて、  
寝ている雪枝さんのおっぱい、揉んでいたんだよ~?」  
シャワーをかざしたまま、千奈美は呆れ顔でつぶやく。……そ、それ本当?  
「! ……な、なな……な…そ、そんな………」  
「嘘だと思ってるの~? だったら、久弥くんに聞いてみなよ~?」  
僕も驚いてしまったが、葉子さんはそれ以上に動揺し、口をパクパクさせている。  
千奈美は、そんな葉子さんの態度を見て、不満げにくちびるを尖らしていた。  
……ま、千奈美は悪戯はするが、嘘はつかないけどね。  
「………ひ、久弥さま……ほ、本当なのですか?」  
床にへたり込み、放心した表情で、葉子さんは久弥くんに尋ねた。  
「……………………ご、ごめんなさい、葉子さん。千奈美ちゃんの言うとおりです……」  
「な……なんてことを…………」  
久弥君は顔をうつむかせ、黙りこくっていたけれど、やがて覚悟を決めたのか、ぼそぼそと喋りだした。  
葉子さんは久弥君の答えを耳にして、ため息とともに、何度も首を振り続けていた。  
……『なんてことを』って、葉子さんが僕にしたことは、問題無いのでしょうか?  
 
 
「お、お二人様………も、申し訳ありませんでした」  
風呂からあがり、僕たち5人は大広間に集まった。  
葉子さんは額を床に擦りつけ、今にも泣き出しそうな声で、千奈美と雪枝さんに詫びてきた。  
……本当に僕に関しては、どうでもいいの? いや、気持ちよかったのは確かだけどさ。  
「ま、まあ、それはいいんですけれど……何でまた、私たちに一服盛ってまで、  
亮太さんにあんなことを、なさったりしていたのですか? とても、お金目当てには見えませんが」  
雪枝さんは、差し出されたお茶をずずっと啜りながら、葉子さんに問いかけた。  
……さっき、一服盛られたばかりらしいのに、警戒心って言葉はないのですか、雪枝さん。  
「それは……その………あなた方だけの、胸に秘めていただけますか?」  
「何言ってるの~? あんなことしておいて、内緒にしろって……ゆ、雪枝さん?」  
ぱっと顔をあげ、上目遣いにこちらをじっと見つめる葉子さん。  
そんな葉子さんに、千奈美はぷっくりと頬を膨らませて食って掛かろうとするが、  
雪枝さんに肩をポンと叩かれ、さも意外そうな顔で、雪枝さんを見返していた。  
「まあまあ、千奈美ちゃん。大したことは無かったのだし、あまり目くじら立てても、仕方ないでしょう?」  
「で、でも……」  
「千奈美ちゃん」  
「は…は~い」  
優しく諭す雪枝さんに、千奈美は不満げな声を漏らすが、再び雪枝さんに諭され、  
不承不承ながらもコクリと頷いた。くちびるを尖らせたままなのが、千奈美の不機嫌さを現している。  
 
「さて葉子さん、私たちが今夜見聞きしたことは、口外しないと約束は致しますが、  
その代わりにあなたたちも、包み隠さず話していただけますね?  
多分、内緒にしておきたいのは、あなた方の耳と尻尾に関することでしょう?」  
頷く千奈美を見て、にっこりと微笑んだ雪枝さんは、葉子さんに向き直り、  
静かに、それでもきっぱりと言った。虚言は許さないという、毅然とした態度で。  
「あ……は、はい……。実はウチたちは、見てのとおり人間ではなく、こちらの久弥様は、  
九尾の狐の末裔で、ウチは代々、九尾の狐様にお仕えする、妖狐の家系の生まれだったのです」  
「ええっ!? ひ、久弥くんがあっ!?」  
葉子さんの言葉に、真ん丸な目をさらに大きく見開き、久弥君をまじまじと見つめる千奈美。  
……というか、久弥君のあの尻尾を見たら、どう見ても九尾の狐にしか見えないと思うけど……。  
「まあ、千奈美ちゃん。夜中ですよ、お静かになさいな。  
……それにしても二人暮しということは、九尾の狐一族は、もう久弥君しかいないのですか?」  
「い、いえそれは……なんとも言えませぬ。一族は散り散りになって、久しいので」  
軽く千奈美をたしなめながら問いかける雪枝さんに、葉子さんは首を振りながら、寂しく答える。  
……一族、ということは、昔はもっとたくさんいた、ということなのかな?  
そういえば、夕食を食べているときに、出身地の話をしてたら葉子さん、顔を曇らせちゃったっけか。  
何か、そのことと関係があるのかな? でもあまり、深く関わらないほうがいいのかも。  
 
「……なるほど。それでは、最初の質問に戻ります。  
何故、亮太さんとお風呂場で、あんなことをなさっていたわけで?」  
雪枝さんも、僕と同じ考えだったようで、次の質問を葉子さんに投げかけた。  
……何だか知りたいような、知りたくないような……。  
「そ、それは……ウチが人の姿でいつづけるためには、妖力が必要なのですが、  
その妖力の源である殿方の精を、時々いただかなくてはならないわけで……」  
……ということは、僕は葉子さんの妖力の、補給源だったということですか。  
そうだよね、何の理由も無く、ひょいひょい女性が寄って来るほど、僕がモテるはずがないものね。  
「ふうん。じゃあ、久弥くんも?」  
「! ……い、いいえ。久弥様は…九尾の狐様は、  
ウチたち妖狐とは、桁違いの妖力の持ち主なので、そんな必要は無いのです……」  
千奈美の質問に、葉子さんは一瞬はっとした表情を見せたかと思うと、ゆっくりと首を振りながら答える。  
「そっか~、そうだよね~。そもそも久弥くんの場合、もらっていたんでなくて、出していたんだし~」  
「ち、千奈美ちゃん!」  
葉子さんの答えに、千奈美は納得したように、うんうんと頷きながら、にっこりと微笑む。  
思わず久弥くんが、顔を真っ赤にさせながら、千奈美に向かって叫び声をあげていた。  
「って言うかさあ、葉子さんの精をもらう相手って、久弥くんじゃダメなの~?」  
が、そんな久弥くんに委細構わず、千奈美はふたたび葉子さんに問いかけた。  
……人間と九尾の狐じゃ、違うんじゃないの?  
 
「えっ!? な、なな……そ、そんなとんでもない! ひ、久弥さまに手を出すなんて……!  
ウ、ウチは久弥さまが大人になるまで、しっかりと見届ける義務があると言うのに、  
も、もしそんなことをしてしまえば、ウ、ウチはご先祖様に、な、何と申し開きすれば……!」  
「別にそんなの、どうでもいいじゃな~い。散り散りになったのなら、文句を言う人も、いないんでしょ?」  
千奈美の言葉に、葉子さんはあからさまに動揺し、どもりまくっている。  
そんな葉子さんを見て、嬉しそうに言葉を続ける千奈美。……本当、嬉しそうだな、おい。  
「し、しかし………!」  
「それとも、別に理由があるのかなあ? 久弥くんじゃ、ダメだって理由がさあ」  
顔を真っ赤にさせ、口ごもる葉子さんに、千奈美はなおも詰め寄る。  
……それにしても、ちょっとやりすぎじゃないか?  
「まあ、千奈美ちゃん。それはお二人の問題なのですから、私たちが口を挟むことじゃないでしょう?」  
「え~。だって~」  
などと思っていると、雪枝さんが千奈美をたしなめ始めた。  
当然のごとく、千奈美は不満げな声を漏らす。……でもこれは、雪枝さんの言うとおりでしょう。  
「だっても何も無いですよ、千奈美ちゃん。……葉子さん、事情はよく分かりました。  
約束どおり、今夜のことは私たちの胸にしまっておきます。どうも、お邪魔いたしました」  
「あ…は……はい……」  
ポンポンと、千奈美の頭を軽く撫でながら、すっくと立ち上がる雪枝さん。  
葉子さんはぱっと顔をあげ、雪枝さんにペコリと礼をしてきた――  
 

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