――ということで当日、僕たちは普通の出席者よりも、少し早めに会場へ向かうことになった。  
 
「へ〜え。ずいぶん小ぢんまりとした教会だね」  
「うん、そうだね」  
同僚の式場である、教会を見上げてアイリスがひとことつぶやき、同意する僕。  
教会は、郊外の大きな公園のそばにあり、まるで外国のどこかから、  
そのまま切り取ってきたのではないかと思えるような、佇まいだった。  
 
……僕もいつか、こんな場所でアイリスと、結婚式を挙げたいなあ。  
よく考えたら、入籍が無理でも、式を挙げることは可能なんだし。  
周りの人に、説明なんて出来るはずないから、二人だけで式を挙げるってのでも、いいのかも。  
 
「?? お〜い、御主人サマ〜? どうしたの〜?」  
「え、ええ!? い、いや何でもない…何でもない、よ……」  
不意にアイリスの声がして、現実に戻ってくる。  
アイリスは心配そうに、僕の頬っぺたを両手で挟み込みながら、話しかけていた。  
僕は何故か、アイリスの顔をまともに見ることが出来なくなって、  
視線を逸らしながら、アイリスの手を軽く握り返し、歩き始めた。  
 
「え〜っと……。あ、すみません、彼女がシスターの役をするってことで、早めに来たんですが」  
「あ、はい。……ちょっと、お待ちくださいね」  
教会の入り口のあたりで、受付の支度をしている人に、アイリスを指し示しながら声をかける。  
声をかけられた人は、僕たちをその場に制しながら、奥へと姿を消していった。  
 
「あ、アイリスさん。わざわざ無理聞いてくれて、どうもありがとう」  
「ん〜、そんなに気にしなくていいよ」  
待つことしばし、さっきの人と、係のおばちゃんらしき人ともに、  
真っ白いタキシードを身に纏った同僚が現れ、アイリスに握手を求めてくる。  
アイリスは、いつもの屈託の無い笑みを浮かべ、手を握り返していた。  
「で、早速ですが、着替えはこちらにて、お願いいたします」  
「あ、はいは〜い♪」  
係のおばちゃん――あとで聞いたら、神父の奥さんだったらしい――が、アイリスを手招きする。  
手招きに招かれ、アイリスはまるでスキップでもするように、足取りも軽く奥の部屋へと消えていった。  
……凄い乗り気だなあ。途中で、尻尾とか生えちゃったらどうしよう?  
「……新條、どうもありがとうな」  
「ん? いやいや、礼ならアイリスに言ってくれれば、それでいいよ」  
アイリスを見送る僕に、同僚が頭を下げてきた。……別に、僕が何かしたわけじゃ、ないんだけどね。  
「そ、それにしてもさ……」  
軽く手を振る僕だが、同僚はそれでも何か言おうとしてくる。……義理堅いというか、何と言うか。  
「新郎さーん、花嫁さんの支度が整いましたので、お願いしまーす」  
「あ。はーい、分かりました〜。……これから写真撮影なんだ。悪いけど、控え室でゆっくりしててよ」  
「ん、ああ、ありがと」  
と、同僚を呼ぶ声が聞こえてきた。声のほうを見ると、係の人が手招きをしている。  
同僚は、係の人に返事をしながら、僕に声を掛けてきた。  
……とは言ったものの、アイリスが着替えているんだし、ちょっと待ってるかな。  
 
カチャ  
 
「あ、アイリ…………え?」  
廊下の椅子に腰掛け、しばらくぼうっとしていると、不意に扉が開き、アイリスが姿を現した。  
声を掛けようとして、思わず固まってしまった。  
 
目の前には、アイリスがいた。それ自体は、驚くことでもなかったのだが、黒いゆったりとした修道衣と、  
対照的に真っ白なベールを身に纏ったアイリスの姿は、まさしく聖女と呼ぶにふさわしかった。  
……いや、聖女どころか、僕にとってはかけがえのない、女神サマなんだけど。  
何となく、『アイリスを見ていると、聖職者を連想させる』という、同僚の気持ちが分かった気がする。  
 
「あ………ま、待ってた、の?」  
「い、いや…待ってたもなにも、すること無かったし………というか、えっと……」  
ぽかんとしていた僕に、アイリスが戸惑い気味に声を掛けてくる。  
僕は何と答えていいかわからず、ただ、しどろもどろに答えるしかなかった。と、  
「さて……ほおう、これはまた……」  
突然、背後から声がして、僕は思わず振り返った。  
そこには、いつの間に現れたのか、神父さんが立っていて、アイリスを見て感嘆の声を漏らしていた。  
「うんうん、とてもよくお似合いですね。……っと、失礼しました。私は橘、この教会で神父をしています」  
「え? ……あ、ど、どうも……」  
「あ、どうも初めまして。……アイリスと言います」  
40半ばと思われる神父さんは、微笑みを浮かべながらアイリスを見ていたが、  
はっと気がついたように、僕たちに礼をしてきた。  
「そうか、アイリスさんですか。今日はよろしくお願いしますね。それで、早速なのですが、  
式の進行についての、打ち合わせ等を行ないたいのですが、構わないですか?」  
「は、はい。よろしくお願いいたします。………そ、それじゃ、またあとで、ね」  
アイリスが、神父さんの言葉に頷きながら、僕を見て小さく手を振った。  
「ああ、別にご一緒でも構わないですよ? あなたもただ、じっとしていては退屈でしょう?」  
「えっと……じゃ、そうさせてもらおうかな?」  
が、そんなアイリスを見て、神父さんは僕にも声を掛けてくる。  
実際、式が始まるまで、ヒマをもてあますと思ってた僕は、神父さんの申し出を素直に受けることにした。  
 
 
「あ、あれ?」  
「………アイリスさん、そのタイミングでは、新郎新婦が指輪を受け取れないですよ?  
慌てる必要は無いのですから、新婦さんが誓いますと答えてから、お二人に差し出してください」  
「は、はい……」  
式場にて、神父さんと式の練習をするアイリスだが、指輪を差し出すタイミングを間違え、  
神父さんにたしなめられて、少しオロオロしている。……こんなアイリスの姿を見るの、初めてかも。  
 
「………で、新郎新婦がその結婚証明書に署名をされましたら、  
列席された方々にご確認いただくために、高く掲げてください」  
「高く掲げて………あ、は、はい」  
さらに神父さんの説明は続き、アイリスは神妙な顔で頷いている。  
……高く掲げるって、妙に間があったけれど、まさか宙に浮こうとか考えてないだろうね?  
 
「さて、あとは本番をお楽しみ、ということで、ひと休みされるといいでしょう」  
「あ……はい」  
神父さんが時計を見て、アイリスに優しく声を掛けてきた。  
アイリスは多少緊張気味に、ぎこちない笑顔で神父さんに返事をしている。……だ、大丈夫かな?  
 
「ふ〜…う」  
「さて、いよいよだね」  
「う…うん……。何だか急に、緊張してきちゃったかなあ」  
さっきアイリスが、着替えをしていた支度部屋に戻り、ため息をつくアイリスに声を掛けた。  
アイリスは僕の問いかけに、ぼんやりと宙を見つめながら答える。  
「ははっ、アイリスでも、緊張することってあるんだ?」  
「むっ。………御主人サマ、私の言うこと、信じてないの?」  
軽口を叩く僕に対し、多少拗ねた表情で、くちびるをとがらせるアイリス。  
「い、いや…そういうことじゃなくって……え? ちょ、ちょっと!?」  
「ほらね? ちゃんと、胸がドキドキしているの、わかるでしょ?」  
僕の言葉の途中で、アイリスがいきなり僕の手を取ったかと思うと、自らの胸に押しつけてきた。  
言葉どおり、手から伝わるアイリスの胸の鼓動は高まっている。……そっか、そりゃあそうか。  
「ご、ごめん。変なこと言い出し……ア、アイリス!?」  
「………んっ。御主人サマ、こんな時にこんな場所で、何を考えているかなあ?」  
胸から手を離し、謝ろうとするが、アイリスは手を離そうとせず、逆に僕の手ごと胸を揉みしだき始める。  
驚きのあまり、手を振り切った僕を見て、アイリスは悪戯っぽい笑みを浮かべだした。  
「……って、アイリスが手を………」  
「……御主人サマのせいで、私、体が疼いちゃって……我慢、出来なくなっちゃった………」  
「ア……アイリス………」  
抗弁しようとする僕を意にも介さず、ゆっくりと修道衣の裾をまくりあげるアイリス。  
――姿かたちはアイリスとはいえ、聖職者であるシスターが、自らの秘所をさらけだそうとしている――  
そんな、どこか背徳的な姿に、僕は思わずゴクリと唾を飲み込んでいた。  
「ね……御主人サマ………私を慰めて………」  
「……あ、あ………」  
誘うような視線に射すくめられたかのように、僕は操り人形のようにギクシャクとした動きで、  
アイリスのもとに跪いた。――まるで、聖女に祈りを乞う信者のように――  
 
「んふ……っ……」  
「……うわ…。もう、濡れてるよ………」  
そっと、アイリスの下着に手を伸ばすと、アイリスは喘ぎ声を漏らし始めた。  
薄いブルーの、紐で結わえるタイプのそれは、割れ目の部分がほんのりと湿っている。  
「もう……ばか……あ、あんっ……」  
抗議の声をあげようとするアイリスだが、湿っている部分を軽くなぞってみると、  
途端に甘えた声をあげだす。僕はそのまま、なぞり続けてみた。  
「あ…あんっ……あ、ああっ……」  
壁に寄りかかり、全身をプルプル震わせるアイリス。……少し裾を支える手が、下がってきている。  
「よい……しょっと」  
「ん! ああっ! は…あっ……」  
紐の結び目を外し、割れ目にじかに指を這わせてみた。  
無意識なのか、アイリスはくぐもった喘ぎ声とともに、ほんの少しだけ両足を開く。  
僕はそのまま、割れ目の中に指を潜り込ませた。すでに、中は熱い蜜で満たされていて、  
指で隙間をこじ開けるだけで、割れ目から蜜があふれ出し、太ももを伝いはじめた。  
「あっ! ああんっ! ご、御主人サマ……っ!」  
顔をあげてみると、アイリスは顔を真っ赤に染め上げ、必死に目を閉じている。  
その目の隙間から、わずかにこぼれる涙が、僕の心の何かを抉った。  
「んっ! あっ! ああっ! ご、御主人サマっ! 御主人サマっ!」  
割れ目の中に潜り込ませた指を、激しくうごめかすと同時に、太ももを伝う蜜に舌を伸ばしてみると、  
アイリスは狂ったように嬌声をあげだし、わずかに腰を落とす。  
僕はさらに、太ももから割れ目の付け根にちょこんと膨らんでいる肉芽へと、舌を這わせ続けた。  
「む…むぐっ……っ…」  
「くっ! ……っ! はっ! あ、ああっ!」  
舌が肉芽に触れた途端、アイリスは両手を服の裾から離し、僕の頭を押さえ込んだ。  
アイリスの、突然の行為に驚きながらも、僕はただひたすら、肉芽をペロペロと舐め続けていた。  
 
「あ……ああっ、イイ…イイようっ……」  
しばしの間、舌と指を動かし続けていると、アイリスの声が甲高い声に変わってきた。  
同時に、割れ目からあふれる蜜も量を増し、僕の咽喉を潤している。  
「んふ…ん……っ、御主人サマ…御主人サマ……っ……」  
「ぐ…っ、ア……アイ、リ……む、ぐ…っ……んぐ…ぐっ……」  
さらに、僕の頭をぐりぐりと、自らの股間に押しつけてきた。……い、息、できない、かも……。  
苦しさのあまり、思わず反対側の手を、アイリスのお尻に伸ばした。  
すると指先に、何だか細長いものが触れる。無意識のうち、それを引っ掴んだ瞬間――  
「うああっ! ご、御主人サマあっ!!」  
アイリスが、悲鳴交じりの声とともに、腰を落とし始める。  
「……ア、アイリス…く、首が……」  
それとともに、押しつけられていた僕の頭も、さらに下へと押し付けられてしまったため、  
かなり不自然な姿勢を余儀なくされてしまう。……こ、これ、シャレにならないって……。  
さっきまでの苦しさとは、まったく違う苦しさを首に感じた僕は、  
苦し紛れに握り締めていた細長いものを、上に向けて引っ張った。と、  
「御主人サマ! しっぽ! しっぽ、らめえっ!」  
舌をもつれさせながら、アイリスは僕に向かって叫び続ける。  
すでに、アイリスの足はガクガクと震え、僕が太ももにしがみついていなければ、  
立っていられないような状態だった。……え? しっぽ?  
「……ひ、ひやあっ!? ご、ごひゅひんひゃまあ……」  
握り締めていたものを、つつつっとなぞってみると、アイリスのお尻に突き当たった。  
尻尾をなぞられたのが、よほど気持ちよかったのか、アイリスは甘えた喘ぎ声を漏らし続ける。  
「ら、らめえ! ごひゅひんひゃま! ごひゅじんしゃまあっ!」  
調子に乗った僕が、尻尾をゆっくりとしごき始めると、アイリスは僕の頭から、ぱっと手を離した。  
 
「ん? ……ア、アイリス?」  
「ご…ごひゅじんひゃまあ………」  
両手を動かし続けたまま、僕はスカートから頭を出し、アイリスの顔を見上げた。  
アイリスは、顔を真っ赤にさせ、口元を両手で塞ぎ、必死に漏れ出そうとする喘ぎ声を堪えている。  
……こんなアイリスの姿…初めて見るかも。  
「あっ! あはあんっ! ご、ごひゅじんしゃまっ、ごしゅじんひゃまああっ!」  
そんなことを考えながら、僕はひたすらにスカートの中で、両手を動かし続けた。  
全身をブルブル震わせ、アイリスが絶頂に達しようとした、その瞬間――  
 
コンコン  
 
不意に、ドアをノックする音が聞こえ、僕はビクリと身をすくめてしまった。……い、いったい誰!?  
「あのう……ちょっと、よろしいでしょうか?」  
「……あ、はひ……どうぞ」  
ドアの向こうから、鈴を鳴らしたような女性の声がして、アイリスはとろんとした表情で、返事をする。  
……ちょ、ちょっと待て! どう考えても、よろしくないだろっ!  
「……あんっ」  
慌ててアイリスから飛び退ると、そのときに指かどこかが、  
割れ目を軽く擦ってしまったのか、アイリスが甘えた声を漏らす。  
 
ガチャッ  
 
僕がアイリスから離れたのと、扉が音を立てて開いたのは、ほぼ同時だった。  
――扉の向こうには、結婚式の主役である、同僚の花嫁がたたずんでいる。  
「……あ、お取り込み中、だったでしょうか?」  
「え? い、いや、そんなことないよ。それより、結婚おめでとう」  
花嫁は僕たちを見て、申し訳なさそうな顔をしていたが、  
僕は慌てて否定しながら、とってつけたように祝福の言葉を贈る。  
……というか、アイリスの艶姿に魅せられて、自分が今置かれている状況を、  
すっかり忘れていた気がする。同僚の結婚式場で、こんなことをする僕っていったい……。  
 
「この度は、どうもありがとうございました。こちらこそ、急に無理をお願いしたうえに、  
お礼とご挨拶が遅れまして、大変申し訳ありません」  
「そ、そんな気にするほどのことでも……」  
僕が軽く自己嫌悪に陥っていると、花嫁はこちらへ歩み寄ってきて、ペコリと頭を下げてきた。  
……ううん、たまに会ったことがあるけれど、ウェディングドレス姿だと、またイメージが違うなあ。  
「あ、こちらこそ。どうも初めまして」  
アイリスは気を取り直したのか、花嫁に頭を下げながら、右手を差し出している。  
「どうも初めまして。今日はよろしくお願いいたします」  
花嫁もにこりと微笑みながら、右手を差し出し、握手を交わした。……そういや、二人は初対面だっけか。  
「……………」  
が、彼女の手を握り締めた途端、アイリスは全身を緊張させ、わずかに顔を引きつらせた。  
……な、何があったんだろう? イク寸前で中断されたから、不機嫌なのかな?  
「………? ど、どうかなさいましたか?」  
「…あ、い、いえ。ちょっと緊張してきたのかも。式が成功するように、頑張らせてもらいますね」  
そう思ったのは、花嫁も一緒だったようで、心配そうにアイリスに問いかけているが、  
アイリスは、すぐにもとの表情に戻り、彼女に微笑み返した。  
……さ、さっきとは違う意味で、大丈夫かな?  
 
「みなさ〜ん、時間で〜す。列席者の方は、中へどうぞ〜」  
「あ。じゃあ、僕も行ってきますね。それじゃ、二人とも頑張って」  
と、神父さんの奥さんの声がする。僕は式場へ向かいながら、二人に声を掛ける。  
「ん、わかった」  
「はい、ありがとうございます」  
声を掛けられ、アイリスはウィンクしながら手を振り、彼女はペコリと頭を下げていた。  
……って、これじゃアイリスは生殺しじゃないの。ま、たまにはいい………待てよ?  
だとすると、何だか夜は、恐ろしいことになるような予感が……。  
 
 
――式に関しては、滞りなく進んでいた。さっきの練習で、神父さんに指摘されていた、  
二人に指輪を渡すタイミングも、ばっちりだった。……ちょっと顔が火照っているようだけど、  
果たしてあれは、式の緊張のせいなのか、さっき寸前で止められてしまったことによる、  
欲求不満からなのか、どっちなのだろう?  
ときどき、列席者のなかから、『あのシスターって誰だ? すっげえ可愛いな』とか、  
『彼氏とか、いるんだろうか?』などといった、ひそひそ話が聞こえてきて、  
そのたびに僕はどことなく、くすぐったさを覚えていた――  
 
 
「あ、あれ? まだそのカッコ、しているの?」  
「うん、着替えるの、面倒だったし」  
無事式が終わり、披露宴の会場で、隣の席に座ったアイリスに向かってひとこと。  
そう、アイリスの服はいまだに、修道衣のままだったのだ。さすがに、ベールは脱いでるけど。  
……それって、式のためにって買ったドレス、無駄になってんじゃないの?  
それに、まだ顔が火照っているような……これって、やっぱり……?  
「や、どうも〜。……って、何なの、その服装? 実は修道女だったの?」  
「どうも、こんにちは」  
と、アイリスとは反対側の僕の隣の席に、同僚が腰をおろしながら、アイリスに声を掛けてきた。  
……そっか。彼は式に参加しては、いなかったんだっけか。  
「ああ、片山に指名されてたんだよ。シスターの役をやってくれって」  
「なるほどね。でも、似合ってるじゃないの。後ろから見たとき、全然違和感無かったし」  
僕の言葉に、同僚はあっさりと頷きながら、ビールに手を伸ばす。……おいおい、まだ飲むなよ。  
「さて、皆様静粛に。ただいまから、新郎新婦が入場いたします。どうぞ、盛大な拍手でお迎えください」  
突然、会場の照明が消え、司会者の声が聞こえる。……さて、いよいよ披露宴、か――  
 
 
「さて、と。山内は2次会どうするの?」  
「ん? やめとくよ。今週も、お袋がこっちに遊びに来てるしさ」  
無事披露宴も終わり、隣にいた同僚に問いかけてみると、同僚は肩をすくめて返事をした。  
「あ、そうなんだ」  
……てっきり、気に入った娘に声を掛けるために参加する、とか言うのかと思ったのに、  
人間変われば変わるものだ。……それとも、佳乃さんが怖いのかな?  
「まったく、今までこっちに来ることなんて、まったく無かったってのに、  
孫が出来た途端に、ほいほい遊びに来るようになっちまって。で、おまえはどうすんだ?」  
「ああ。何だか、彼らの同窓会になりそうだし、僕たちも帰ることにするよ」  
同僚は、顔をしかめながら言葉を続け、僕に同じ質問を問いかけてきた。  
僕もまた軽く首を振り、同僚に答える。……実は今回結婚した同僚って、結婚相手は幼馴染みだから、  
列席者はほとんどが、彼らの元同級生ばかりだったのだ。  
「そうか、それもそうだな。それじゃ、お疲れ」  
僕の返事を聞いて、同僚は軽く敬礼の仕草をして、帰っていった。  
……僕は、着替えに行ったアイリスを待つとするか。  
 
「お待たせ、御主人サマ」  
「ああ……って、着替えてないじゃないの!? ……まさか、その格好で帰るの?」  
支度部屋から出てきて、にこやかに笑みを浮かべるアイリスを一目見て、驚きの声が漏れ出す。  
アイリスの服は相変わらず、修道衣のままだったのだ。しかもご丁寧に、ベールまで被っている。  
「……うん」  
僕の驚きの声に、あっけらかんと答えるアイリス。……そんなに、その格好が気にいったのだろうか?  
「それに、洗って返そうと思ったんだ。だったら持って帰っても、着て帰っても一緒だし」  
ぽかんと口を開けている僕を見て、アイリスは言葉を続ける。……そんなもの、かなあ?  
 
〜まもなく、2番線に電車が到着します。白線より下がって、お待ちください〜  
 
「ん。……ξσχν&πζν&&ιχ……」  
帰り道、駅のホームで、アナウンスが流れたかと思うと、  
アイリスは何やらブツブツと、呪文のようなものを唱えだした。  
……傍から見ると、シスターが祈りを捧げているようにも、見えるのだけれど……?  
 
「ね……御主人サマ……さっきの続き、しよ?」  
「え? ア、アイリス……ちょ、ちょっと!?」  
電車に乗り込むや否や、アイリスはとろんとした目で僕を見つめ、ゆっくりと服の裾をめくりあげはじめた。  
……って、ここ、電車の中じゃないか!? い、いくら空いているとは言っても……!  
「……どうしたの? 私…もう、ガマンできないよ……」  
反射的に、抗議の声をあげようとしたが、アイリスは甘えた声を漏らしながら、僕ににじり寄ってくる。  
「い、いや、我慢出来ないも何も、ここ……あ、あれ?」  
思わず椅子に倒れ込んだ僕は、辺りを見渡しながら、アイリスに声を掛け、妙なことに気がついた。  
……周りの人、僕たちを見ていない……?  
「……大丈夫だよ、御主人サマ。魔法で私たちの姿、見えなくさせているから……」  
「え……そ、そうな…の?」  
「そう……だから、こんなことしても、誰も気にしないから……」  
アイリスは、にっこり微笑みながら、僕のベルトをカチャカチャと外しにかかった。  
「で…でも……あ、あうっ……」  
なおも抗議の声をあげようとする僕に構わず、アイリスは下着越しに僕のモノを優しく撫で上げた。  
その優しい刺激に、思わず声が裏返る。  
「御主人サマ……お、お願い……」  
「ア…アイリス………し、下着、着けてなかったノ?」  
僕を椅子に押し倒し、アイリスは懇願するような声とともに、そのまま僕の顔の上に跨ってきた。  
下着――ではなく、ヒクヒク震える割れ目が、じかに目に飛び込んできて、  
驚きのあまり、僕は声を裏返しながら、アイリスに問い掛けた。  
 
「ご〜しゅ〜じ〜ん〜さ〜ま〜」  
「う、うああっ!? ア、アイリスっ!?」  
と、いきなりアイリスが、僕のモノを激しくしごきたてながら、抑揚の無い、ひくーい声をあげる。  
不意の刺激に、僕は全身をビクリと震わせてしまう。  
「誰のせいで、私がずっとノーパンだったと、思っているのかな〜?」  
「え、ええ? だ、誰のせい……って?」  
僕は、アイリスがもたらす快感に溺れかけながら、震える声で必死に問いかける。  
……ずっとノーパンだった? い、いつから?  
「も〜う。忘れたの〜? 私をイク寸前で放りだしたうえに、穿いてた下着まで持ってっちゃって〜」  
「う…くっ? ア、アイリス……?」  
恨みがましい声とともに手を止め、モノをぎゅっと握り締めるアイリス。  
モノからいきなり、快感の代わりに突き抜けるような痛みが走り、口から情けない声が漏れ出す。  
……ま、待てよ? 僕が持っていった?  
アイリスの言葉を受けて、上着のポケットをゴソゴソ探ってみると、何か柔らかいものが指先に触れる。  
恐る恐る、ポケットから取り出し、目の前まで持っていくと……  
「…………あ」  
それは薄いブルーの、紐で結わえるタイプのパンティだった。  
紛れも無く、先ほどまでアイリスが、身に着けていた下着だった。  
……そ、そういえばあのとき、僕が脱がしてそのままにしていたっけ……すっかり忘れてた。  
「御主人サマったら……私に、あんな恥ずかしい思いをさせて、喜んでいたのね。……許せないっ」  
下着を見つめ、しばらく呆然としていたが、アイリスの声を耳にして、現実に戻ってくる。  
「ち、違うよ、ア…む、むぶうっ」  
僕は弁解しようとしたが、アイリスがいきなり腰を落としたため、言葉が中断されてしまう。  
……い…息が………。  
「んふふっ……御主人サマ、本当に喜んでいたのね。もう、こんなにさせちゃって……んっ……」  
再びモノを軽くしごきあげたかと思うと、アイリスはおもむろにモノを咥えこんだ。  
モノから伝わる快感と、息苦しさがないまぜになってしまう。……こ、このままじゃ、このままじゃ……。  
 
「ぷ……ぷっはあっ!」  
僕は必死に、両手でアイリスのお尻を抱え上げ、空間を確保した。……ああ、空気が美味しい……。  
「んぐ……ん…んっ……」  
「く…あ……っ、ア、アイリス……」  
息苦しさから開放されると、途端にモノからこみあげる快感が、増したような気がする。  
アイリスは相変わらず、ひたすらにモノをしゃぶり続けていた。  
あまりの勢いに、じゅぽじゅぽと音まで聞こえてくる。  
目の前に、ゆらゆら揺れるアイリスのお尻と、生き物のようにピクピクうごめく割れ目が見え、  
割れ目が口を開くたび、隙間から透明な液体が滲み出している。……こ、これは……。  
「んっ! ん…っ……んふうっ……」  
「! ……っ、んっ……っ…ぐ…んぐ…っ…」  
気がつくと、僕はアイリスの割れ目に、むしゃぶりついていた。  
その途端、アイリスはくぐもった悲鳴をあげながら、モノに軽く歯を立ててくる。  
「あ、あはあっ! ご、御主人サマんっ!」  
僕がお返しとばかりに、割れ目に指を潜り込ませると、  
アイリスはモノから口を離し、お尻を震わせながら、艶っぽい声で悶えだす。  
「んふ…っ……んっ……」  
「んああんっ! 御主人サマ、御主人サマっ!」  
さらに、軽くくちびるで肉芽を咥えてみると、アイリスはモノをしごくことも忘れ、  
歓喜の声をあげだした。割れ目からは蜜が次々とあふれ出している。  
 
「あっ! ああっ! あは、あっ! ああっ!」  
……お、美味しい……もっと…もっと飲みたい……。  
そう思った僕は、割れ目に潜り込ませていた指を、一心不乱にうごめかした。  
まるで、割れ目の中の蜜をかきだすように。すると割れ目からは、  
ぐちゃぐちゃという湿った音が響き渡り、僕の期待通りに、蜜がしとどにあふれ出してきた。  
「ああんっ! あっ、あっ、ああっ、あああっ!」  
「……んぐ…んっ……っ……」  
僕は、アイリスの嬌声も気にならないほどに、ただひたすら、  
あふれる蜜を飲み下すため、咽喉をゴクゴクと鳴らし続けていた。  
「ご、御主人サマ! イッちゃうっ! 私もうイッちゃうようっ! 御主人サマあっ!」  
「んふ……? ん…っ……んぐ…っ……」  
不意にアイリスの声が、途切れ途切れな喘ぎ声になり、同時にピタピタと、何かが頬を叩く。  
手に取ると、それはアイリスの尻尾だった。僕は何も考えずに、手に取った尻尾を口に含んだ。  
「かっ! あ…ああっ! ご、御主人サマ……あ、ああ、あ、あっ、ああっ……」  
「うあっ! ア、アイリスっ……」  
途端に、アイリスが歯をカチカチ打ち鳴らす音が聞こえ、声だけでなく、全身をブルブル震えさせ始めた。  
それとともに、モノを握り締める手にも力がこもる。  
弾みで、僕はアイリスの尻尾に、軽く歯を立ててしまった。  
「あっ! あっ、ああーーーーっ!!」  
次の瞬間、アイリスは絶叫をあげながら、絶頂に達していた。  
 
「……はあ…はあ……ご、御主人サマ………」  
「ア…アイリス……」  
モノを握り締めたままのアイリスは、肩で息をさせながらこちらを振り向いて、僕に話しかけてくる。  
僕はゆっくりと上半身を起こし、アイリスの顔を見つめようとして……固まってしまった。  
向かいの席に座っている若い女性が、こちらをじっと見つめているからだ。  
……も、もしかして、見られてる!?  
 
「百乃〜、お待たせ〜。タイミングピッタリっ!」  
「も〜、みぃったら、何言ってるのよ〜。あんたが遅れるって言うから、私も遅れて出たんじゃないの〜」  
 
などと思っていると、彼女は電車に乗り込んできた、別の若い女性に話し掛けていた。  
……見られていたわけじゃないのか。ああ、驚いた……。  
「ん〜? 御主人サマ、どうしたのかなあ? 小さい御主人サマ、すっごいピクピクしているよ?」  
「……くっ、アイリス……」  
と、アイリスはいきなり、モノを軽くしごきながら、先端をちょんちょんとつつきまわし、  
悪戯っぽい笑みでこちらを見つめてきた。  
「もしかして御主人サマって、見られてると興奮しちゃう人、なのかなあ?」  
「ちょ…そ、そん……あ、あうっ」  
舌なめずりをしながら、アイリスは言葉を続ける。  
否定の言葉を口にしようとしたが、急にモノをしごくピッチが増し、思わず体が仰け反ってしまう。  
「御主人サマあ? 素直になったほうが、いいよお?」  
「………………」  
そんな僕を見て、修道衣姿のままのアイリスは、さぞ嬉しそうに微笑む。  
見た目との、あまりのギャップの激しさに、僕は思わずゴクリと息を呑み、無言で頷いた。  
……というか、どう考えても、彼女ってやっぱり悪魔、だよね……。  
 
「んふふっ……照れちゃって、かっわいい。……さ、御主人サマ……キテ……」  
「……あ、ああ……アイリス……」  
僕の頷きを、肯定の意と受け取ったアイリスは、嬉しそうな笑みを浮かべたまま、  
ゆっくりと立ち上がったかと思うと、服の裾をめくりあげ、お尻をこちらに向かって突き出した。  
真っ白いお尻の間には、先ほどから弄っていたおかげで、  
完全に濡れそぼっている割れ目がヒクヒクと、まるで僕を誘うように、妖しくうごめく。  
僕はフラフラと、ぎこちない足取りでアイリスに近寄り、両手でお尻を掴みあげた。  
「…あっ……ご、御主人サマ……」  
軽くお尻を揉みあげると、アイリスは座席の隅の金属の棒にしがみつき、  
甘えた吐息を漏らし始める。……ああ、柔らかいお尻……。  
 
「ご……御主人サマ…はっ…早くう……」  
しばらくの間、夢中になってアイリスのお尻を揉み続けていると、  
アイリスはじれったそうに、切なげな声をあげる。その目には、じんわりと涙が浮かんでいた。  
「あ…ああ、いく…ぞ? アイリス……」  
「うん……」  
モノをアイリスの割れ目にあてがい、突き立てようとしたそのとき――  
 
「へえっくしょいっ!」  
 
座席に座っていた、若者にしては、頭がかなり寂しい事態に陥っている男性が、くしゃみをした。  
……ほ、本当に見えてない、んだよね?  
「御主人サマああ……」  
アイリスがなじるような、泣き出すような口調で、戸惑っている僕に声を掛ける。  
……そう、さ。アイリスの魔法、だものね。大丈夫さ。  
「………っ」  
「ふ…あ、ああっ!」  
気を取り直した僕は、ひと息にアイリスの割れ目へとモノを突き立てた。  
途端に、上半身をビクンと震わせるアイリス。  
すでに一度絶頂に達し、完全に濡れていた割れ目は、難なく僕のモノを飲み込んでいった。  
「あ…ああ、ご、御主人サマ……何だか、いつもより、大きいみたい……」  
「……ア、アイリスこそ……いつもよりも、きつく僕を締めつけてきてるよ……」  
モノが完全に、割れ目の中に潜り込んだかと思うと、アイリスは肩で息を弾ませながらひとこと。  
僕はアイリスの腰を抱えながら、耳元でそうささやいた。  
事実、普段よりも遥かに強い快感が、僕たち二人を包み込んでいた。  
「ああっ…アイリス……アイリス……」  
「……っ……ご、御主人サマ……スゴイ…スゴイよ……」  
うわごとをつぶやきながら、僕は夢中になって、アイリスに腰を突き動かした。  
アイリスもまた、腰を前後に揺さぶり始める。……ああ、すごい…すごい、気持ちイイ……。  
 
「ああっ……ア、アイリス……ぼ、僕…も、もう、イッちゃう…イッちゃうよ……」  
「イッちゃう? イッちゃうの? はやく…はやくキテ……私の…私の中で、一緒にキテえっ!」  
いつもよりも、締めつけがきついせいか、はたまたここが電車の中という特殊な環境のせいか、  
早くも僕は、限界に達しそうになっていた。  
が、僕の声を耳にしたアイリスも、腰を振り乱しながら金切り声をあげだす。……も、もうダメだっ!  
「くっ……アイリスっ! アイリスっ!!」  
「あっ、ああっ、ああんっ、あああーーーっ!!」  
次の瞬間、僕はアイリスの中に向けて、精をほとばしらせていた――  
 
 
「はあ……はあ、はあ…はあ……」  
僕は絶頂のあとの、ぐったりとした脱力感に襲われ、座席に体を投げ出していた。  
周りの人間は相変わらず、僕たちの存在に気がついていない。  
……でもこれ、本当に本当の出来事なのかな? よくAVとかでは、こういう企画があるけれど……。  
「……んふ…っ……ご、御主人サマ……」  
「な……何だい、アイリス?」  
と、僕の首にしがみついていたアイリスが、甘えた声をあげながら、軽く耳たぶに歯を立ててくる。  
気だるさが全身を包みながらも、僕は手を伸ばして、アイリスの頭をくしゃくしゃと撫で回す。  
……ああ、幸せ……。  
「ねえ……電車の中でスルのって、いつもより興奮した?」  
「え!? ………う、うん」  
アイリスの問いかけに、心臓が飛び出さんばかりに驚いたけれど、事実だったので素直に頷く。  
「そうっか……。じゃあさ、私のこの格好と、どっちが興奮したかなあ?」  
「え……ええっ!?」  
僕の答えに、にっこり微笑んだアイリスは、自分の服を摘みながら、再び問いかけてきた。  
……こ、これはさすがに……どっちがどうとかなんて、言えないでしょう……。  
「ん〜? とぼける気かな〜? ………いいよ、小さい御主人サマに、聞くことにするからっ」  
「あ……あうっ…ア、アイリス……」  
返答に詰まる僕を見て、アイリスは軽く頬っぺたを膨らませたまま、  
僕の足元に跪いたかと思うと、舌を伸ばしてモノを舐めすくった。  
「んふふっ、小さな御主人サマ〜? 小さな御主人サマは、どっちが興奮しますか〜?」  
「あ………あっ……」  
アイリスは、モノに向かって話しかけたかと思うと、ぱっくりとモノを咥えこんだ。  
電車の中で、しかも聖職者であるシスターの格好をしているアイリスが、  
モノを咥えているという事実に、僕のモノはふたたび興奮し、膨れあがっていた。  
 
「………ぷはあっ。小さい御主人サマ、元気いっぱいだねっ。んふふ」  
「う……あ…アイリス……うっ!?」  
モノをしごきあげながら、先端をチロチロと舐めまわすアイリス。  
舌先がカリ部分を掠めたとき、僕は堪えきれずに仰け反ってしまった。……あ、あれ!?  
「ア……アイリス……お…降り過ごしちゃったみたい……」  
仰け反った弾みで、窓の向こう側を見てみると、ちょうどいつもの駅を、出発したところだった。  
「………え? あ、あら〜」  
「あ、あら〜じゃないよ! この列車、急行なんだから、次の駅は当分先だよ!」  
アイリスは僕の言葉を耳にして、ぱっと顔をあげ、窓の向こうの景色を見ながら、声をあげるが、  
その口調が、あまりにも呑気すぎたため、僕は思わず声を上ずらせてアイリスをなじった。  
「そうなんだ……。じゃあ次の駅は、あとどのくらいで着くのかなあ?」  
「次の駅まで……? えっと……あと20分くらい掛かるはずだよ」  
モノから離れたアイリスは、僕にまたがったかと思うと、  
そのまま両肩を掴み、じっと僕の顔を見据えながら、問いかけてきた。  
問いかけてくるときの、儚げな表情にドキリとしながらも、僕は時計を見ながら答える。  
「そうか……だったら…だったら早速、続きを始めないと……」  
「ちょ、ちょっとアイリス!?」  
肩を掴む両手に力を込め、アイリスは独り言をつぶやく。  
……こ、この展開は、もしかして……。  
「だって……だって、次の駅までで20分、引き返して20分の、合わせて40分くらいでしょう?  
早く始めないと……中途半端で終わってしまうじゃないの」  
例によって平然とした顔で、そら恐ろしいことをつぶやくアイリス。その目は…やはり本気だ。  
「ちょ、ちょっと待ってよ! いくら電車に乗ってる時間が結構あるからって、わざわざ……ん…んんっ」  
ずっとエッチして、過ごさなくてもいいじゃない! と言おうとしたが、やはり例によって、  
アイリスにくちびるを塞がれてしまい、その言葉が口から出てくることは、無かった――  
……というか、このパターン、いったい何回目なんだろうか……。  
 
 
――翌朝――  
 
「御主人サマ〜、朝だよ〜」  
「ん? あ、ああ。お、おはよう、アイリス……ふあ〜あ……」  
いつものように、アイリスがにこやかな笑みを浮かべながら、僕を優しく揺り起こす。  
僕は寝ぼけ眼を擦りながら、ゆっくりと上半身を起こして伸びをした。  
……あれからアイリスは、宣言どおり、車内にて続きを始めた。しかも往復で、きっちり2回。  
さらに家に着いてからも、夜のお勤めの2回が、当然のように待ち受けていて……し、仕事休みたい。  
「さっ、御主人サマ。朝ごはん、出来上がってるよ」  
「ああ……って、ア、アイリス、そ、そのカッコ!?」  
伸びあがった僕を見て、アイリスが優しく声を掛けてきた。  
声を掛けてきたアイリスを、ようやく見て……僕は思い切り叫んでいた。  
アイリスはまたも、昨日の修道衣を身につけていたのだ。  
「どうしたの? この格好、そんなに変かな?」  
「い…いや……へ、変も何も……続けて着るほど、気に入っちゃったの?」  
軽く小首を傾げながら、アイリスは寂しげにつぶやく。  
「ん〜別に。ただ何となく、御主人サマが喜びそうな格好を、してみただけなんだけど……」  
くちびるに人差し指を当て、困り気味の顔で答えるアイリス。……そ、そんなこと言われると。  
「い、いや。ちょっと驚いたけど、嬉しいよ、アイリス」  
「そ、そう!? 御主人サマ、大好きっ! ……んっ……んんっ…」  
僕の言葉に、アイリスは満面の笑みを浮かべながら、抱きついてきたかと思うと、  
くちびるを奪ってきた。僕はそんなアイリスを、そっと抱きしめ返した。  
 
「ねえ……御主人サマ」  
「な、ナに?」  
ようやく布団から抜け出し、朝ご飯を頬張る僕を見つめながら、アイリスが声を掛けてきた。  
その深刻そうな表情と口調に、返事する僕も、思わず声を裏返させてしまう。  
「あのさ……しばらくの間、留守にしていい?」  
だが続くアイリスの言葉に、僕はぽかんと口を開けるしかなかった。  
「……………え? ど、どうしたの? 突然?」  
「……お願い、ワケは聞かないで」  
しばしの沈黙の後、詰め寄る僕の手を、アイリスはそっと握り返したかと思うと、  
じっと僕を見つめ、儚げな笑みを浮かべる。  
「で……でも……………」  
「お願い」  
「…………う、うん。わ…わかった………気をつけてね」  
「んふっ。……どうもありがと………んっ……御主人サマ。ずっと、愛しているからね」  
なおも口ごもる僕を見て、アイリスはふたたび、僕を諭すように語り掛けてくる。  
その儚げな表情を目にしたとき、僕はそれ以上の追及を諦め、そう答えるしかなかった。  
 
 
 
――一週間後――  
 
「ふう……アイリス………」  
仕事を終え、自宅に戻った僕は、独り言とともにため息をつく。  
あれからアイリスは、いまだに戻ってきていない。  
……もしかしたら、愛想つかして出て行っちゃったのかなあ?  
レンジに冷凍食品を放り込んで、スタートボタンを押しながら、僕は考え込む。  
……いや、あの日、僕が会社に出かける前にも、アイリスは僕のことを『愛している』と言ってくれた。  
だから、そんなことは無い……。無い、はずだ……。  
「でも……」  
心の中に、不安感が芽生え、どんどん大きくなっていく。  
……何だかんだ言って、アイリスだって、結婚に対しての願望は、少なからずあったのだろう。  
僕が『結婚して欲しい』と言ったときの、うっとりとした表情が、それを物語っている。  
それを僕は、戸籍の有無にこだわって、式ひとつ挙げようともしなかった。  
今思えば、あの日アイリスが修道衣を着続けていたのも、無言の抗議だったのかもしれない。  
 
チーン  
 
「もう……遅い、かな………」  
レンジから、解凍完了の合図が鳴り響き、僕はゆっくりと立ち上がりながらつぶやく。  
……帰ってきてさえくれたら、謝ることも、結婚式の話をすることも出来る。  
でも……でも、帰ってきてくれなければ………。  
 
ガチャ  
 
不意に玄関の扉が開く音が聞こえ、僕は反射的に、玄関に向かって駆け出していた。  
「ただいま〜、今帰ったよ〜」  
「ア……アイリス!」  
そこには、いつもと変わらずに、優しい笑みを浮かべる、アイリスの姿があった。  
何ともいえない感情がこみあげてきた僕は、迷わずアイリスを抱きしめていた。  
「ご……御主人サマ!? ど、どうしたの?」  
「ア……アイリス…アイリスう……」  
突然のことに、アイリスは驚きのあまり、目をパッチリと見開きながらも、僕をしっかりと抱きしめ返す。  
僕は涙声で言葉が言葉にならず、ただひたすら、アイリスの名をつぶやき続けていた。  
 
「ア……アイリス………」  
「よしよし。落ち着いてきたかな? いい子だから、続きは中でゆっくり話そうね?」  
アイリスは、すがりついて泣きじゃくる、僕の頭をぽんぽんと軽く叩きながら、優しく諭してきた。  
……ああ、アイリスが…女神サマが……帰ってきてくれた……。  
 
 
「で、何があったのかな?」  
すぐ隣に腰掛け、僕をじっと見つめるアイリス。……も、何て言っていいのか……。  
「……え、えっと…その……も、もうアイリスが、戻ってこないかと思って……」  
「…………はあ?」  
「だ、だから……アイリスが帰ってきてくれたから、凄い嬉しくなって、つい………」  
ぽかんと口を開けて僕を見返すアイリス。僕はしどろもどろになりながらも、今の気持ちを口にする。  
「御主人サマ」  
「は、はい?」  
そんな僕の言葉を遮るように、アイリスが静かに、それでもきっぱりと僕に呼びかける。  
僕はまるで、先生に叱られた生徒のように、反応してしまった。  
「御主人サマ? 私は御主人サマの妻だよ? 妻が夫の元を離れて、どこへ行くっていうの?」  
「………ひぇ…ひぇっと……」  
アイリスは軽く首を傾け、僕の両頬を軽く引っ張りながら、僕に問いかけてくる。  
「……大丈夫だよ。私はどこにも行かないよ。前にも言ったでしょ? 私は御主人サマのそばにしか、  
居場所なんてないんだし、御主人サマのそばにしか、居たい場所なんてないんだから」  
「………アイリス………」  
頬を引っ張る手をぱっと離したかと思うと、今度は手のひらで優しく包み込むように頬を撫でてくる。  
胸にじんわりと、熱いものを感じた僕は、アイリスの手をそっと握り返していた――  
 
 
「…………しょっと」  
「ん? な、何それ?」  
不意にアイリスは、片手を伸ばし、さっきまで手にしていた茶封筒を拾い上げた。  
「戸籍謄本、貰ってきたよ」  
「え、ええっ!?」  
茶封筒を僕に差し出しながら、アイリスはあっさりとつぶやく。僕は慌てて、茶封筒の中身を取り出した。  
 
――中身は、戸籍謄本と出生証明書を始めとする、公的証明書の数々だった。  
さらに国民健康保険証と、パスポートまで入っている。  
 
「ほ……本当だ……まさか、これを取りに行くために一週間も?」  
「ん、まあ、そんなとこかな?」  
僕はパスポートの中を確認しながら、アイリスに問いかけると、  
アイリスは軽く首を左右に振り、曖昧な笑みを浮かべながら答えた。  
「で……でも、どうやって?」  
「んふふっ、それは秘密です。……でもこれで、法律的にも、ちゃんと結婚できるんでしょ?」  
さらに問いかける僕を見て、悪戯っぽい笑みを浮かべたかと思うと、上目遣いに僕を見つめるアイリス。  
……や、やっぱり、気にしていたのかな……? よ、よし……。  
「………あ、ああ。そうと決まれば、さっそく入籍しに行こうか?」  
「う……うん。そ、それもいいけれど………」  
アイリスの手をとりながら、立ち上がろうとするが、アイリスは座ったまま、動こうとしない。  
「ど、どうしたの!?」  
「……その前に、夜のお勤めを済ませなきゃと思って……」  
思わずふたたび座り込んで、アイリスの両肩を抱きながら問いかけた。  
アイリスは、顔を真っ赤にさせながら、ぽそぽそとつぶやく。……なんだ、そういうことか。  
「えっと……最後にシたのが、先週の日曜日だから…………」  
と、宙を見て、指折り数えるアイリス。……え? ちょ、ちょっと待って。  
「今日はじゅうろっか……む、むぐ……っ……」  
数え終えたアイリスは、僕に向かってにっこりと微笑みかけてきた。  
恐ろしいことを最後まで言われる前に、今度は僕がアイリスのくちびるを、そっと塞いだ――  
 
 

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