「ふぁあああ…」  
 がくがくと身体を震わせる翼は、呆けたような顔で口を半分開けると、まるで空気を求める魚のように  
ぱくぱくと唇を動かす。  
「どうした?」  
「…りょ…げ………あっ…はぅ…」  
 知っていてにやにやと笑う主の、その右耳をおかえしのように翼はぺろぺろと嘗める。  
「翼はかわいいなぁ……『今日は私が』…なんだって?」  
 
かぷっ  
 
「あだっ!こら、耳を噛むな、耳を!」  
 肉切り歯で噛みつかれて、零幻の耳朶に穴が開くほどの痛みが走る。それでも再び尾を“きゅきゅきゅ”  
と握り込むと、熱い吐息を吐きながら翼は口を離した。  
「いりわるぅ……」  
「意地悪?オレが?」  
 耳を擦(さす)りながら零幻は、さも意外だとでも言いたそうな言葉を吐く。そんな彼に、翼は幼女の  
ようにこくっと頷き、彼が苦しくない程度に“きゅううう”と抱き締めた。  
 
 抱き合うようにして繋がっているため、翼の凶悪な重たい乳房は、零幻の意外と逞しい胸板に押し付け  
られて淫猥な形に歪んでいた。帯は解いたとはいえ、翼はまだ薄い白布の寝間着を身に着けている。その、  
さらさらとした上質な絹のようになめらかな寝間着の中へ、零幻は両手を差し入れ、その上で彼女の背中  
と尾を愛撫している。  
 寝間着が彼女の汗を吸ってしっとりとしているのを感じている彼は、ふと、翼の肩に顔を埋め、布地に  
鼻を押し付けるようにして思い切り息を吸った。  
「翼の汗の匂いがする」  
「…ぁあ…いや…」  
 零幻の、どこかうっとりとした声音に翼がもじもじと身じろぎする。  
「いや?何が?」  
「いっぱい……いっぱい汗をかいてしまいましたから…」  
「これだけ乱れればな」  
「ぃやです……その……あ、汗臭く…ないですか?」  
 
「良い匂いだ」  
「……うそ」  
「ウソ?おいおい、オレがオマエにウソをついた事があるか?」  
 とぼけた顔でにこりと笑う零幻に、翼は何も言えなかった。確かに彼はウソは言わない。だがそのかわ  
り、真実も言わない。都合の悪い事は話さないし、旗色が悪いとすぐに逃げる。何も話してくれないとい  
うのは、ウソをつかないということと同義ではないはずだ。  
 そんな零幻を、翼は卑怯だと思う。  
 だから、「好きだ」「愛している」「大事だ」という彼の言葉が、泣きたくなるくらいに嬉しくても、  
それを信じる事が出来ない。  
 信じたいのに信じられないというのは、とてもとても哀しいことだ。  
 だから、翼の中ではこの御主人様は、「とてもとてもひどいひと」だった。  
「あっ!…あっ!…あっ!…」  
 翼が黙っていると、零幻は両手で彼女のなめらかで“きゅっ”と引き締まった尻肉を掴み、ゆさゆさと  
揺すった。時々、ぐいっと持ち上げ、そして重力に引かれるままに落とす。  
「あっ…ふ…ふかぁい…」  
 “ずんずん”と奥の奥、子袋の入り口をぐりぐりと圧迫されるような感覚に、翼のとろけた頭も体も、  
ぶるぶると震えて揺れた。  
 それでも腰が動く。  
 零幻の首にしがみ付いたまま、翼の腰はぐにぐにと、まるで擦りつけるかのように妖しく動く。  
 そして“じゅぷじゅぷ”と粘液の絡んだ音が響き、胎道が“きゅううう”と引き絞られる。  
「…あっ…いやっ…」  
 不意に“ぬるるっ”と御主人様のモノが引き抜かれ、翼は窓枠に両手をかけるよう促された。切なくて  
切なくて、翼は泣きそうな顔で主を見るが、彼は彼女がそうするまで、絶対に入れてくれるつもりは無い  
ようだった。  
 仕方なく翼は、のろのろとした緩慢な動きではあったが、早くあそこをみっちりと埋めて欲しくて、急  
いで膝立ちに寝台に立ち、窓枠に両手をかける。  
『あ…風……』  
 窓から翼の顔が出て、少し生暖かい風が彼女の顔を撫でる。  
 目の前には黒い森が迫り、さわさわと草木の葉の擦れ合う音が聞こえてきていた。零幻のかけた術は内  
側の音を外に漏らす事は無いが、外側の音はちゃんと伝えてくれる。でなければ、何か異変があっても感  
知出来ないからだ。  
 
「…んぅうぁあ〜〜〜〜〜〜……」  
 ぐいと腰を両手で掴まれ、翼は寝間着を捲り上げられて、強引に高さを調節されると、すぐに主の右手  
の指が尻肉を分けて太い剛直のモノが“ずぶずぶ”と胎内へと挿し込まれた。  
 肩甲骨まで捲り上げられた白い寝間着が、蒼月の冷たい光を浴びて青になる。つるりとした剥き身の茹  
で卵のような尻肉を両手で揉み込んで、零幻はゆっくりと腰を前後させた。  
 
にるっ……ぬるるっ……ぬるっ…ぬるっ…ぬっ…ぬっ…ぬっ…  
 
「…んうっ…ぅ…ぁ…はっ…ぁ…」  
 徐々に早さが増すその動きに、まるで耐えられないとでもいうように翼の頭がいやいやと左右に振られ、  
藍銀の紙がさらさらと流れる。素肌の背中には尻尾まで続く鱗(うろこ)と鬣(たてがみ)の峰があり、  
それが蛇のようにうねった。  
 “ぱちゅっ…ぺちっ…”と、粘液質な音を立て零幻の男根が出入りする。翼の長い龍の尾が邪魔をして、  
その様は見下ろす零幻からは見えない。そのため彼は、翼の尾を右手で掴んで“ぐい”と捲り上げ、ひく  
ひくと蠢く尻穴も“ぬるぬる”とした粘液を垂れ流す膣口をも明かりの下へと露にした。  
「い…いやっ……」  
 肩越しに振り返り涙目で抗議する翼に、零幻は意地悪く笑ってやりながら、前傾した彼女の体の下で乳  
牛(ちちうし)のように重たく垂れ下がり、ゆさゆさと前後に揺れ動く乳房を、左手をいっぱいに開いて  
掴んで“ぐにぐに”と揉みしだく。  
「ああっ…ああっ!…」  
 切羽詰ったように啼き声を上げ、びくびくと体を震わせる翼の後押しをするように、零幻は腰の動きを  
早めた。  
 
ぺちっ!ぺちっ!ぺちゅっ!ぺちっ!ぷちゅっ!  
 
「あっ…あっ…はっ…あっ…あっ…ひっ…あっ…」  
 白く泡立ち、ねとねととした粘液が翼の太股を垂れ落ちる。  
 揺れ動く乳房を後から弄び、そのやわらかさ、あたたかさ、重さをたっぷりと楽しんでいた零幻の左手  
が、その垂れ落ちた粘液を指で掬い取って、こりこりと勃起し包皮から顔を出した翼の陰核へと塗りつけ  
る。  
 
「ひんっ!…ぃあっ…」  
 途端、胎道の締め付けが“きゅうううう”と一層増し、零幻のモノを奥へ奥へと引き込むように蠕動  
(ぜんどう)した。  
「うぅ…」  
 彼の口から、思わず声が漏れる。  
「き…きも…きち…ひ…?」  
 『気持ち良いですか?』と聞きたいのだろう翼の真摯な瞳に、零幻は素直に「ああ」と囁く。  
「すげぇ…イイ。オマエの身体は、やっぱり最高だ。オマエの身体が一番良い」  
「あぁ…う……しい……」  
 『嬉しい』。  
 そのたった一言を告げると、翼は再び窓の外に顔を戻し、愛しい人から与えられる快美感を感じること  
だけに集中した。だが視線の先、黒い森の中に、いくつもの光るものを見つけると、翼は全身が“かああ  
あっ…”と一層の熱を帯びるのを止められなかった。  
 獣の目だった。  
 鹿や兎、狸や野鼠や、野性の馬までいる。  
 その彼等が、窓から顔を出し、尻から人間の男に責め立てられながらうっとりと快楽に酔う龍人を、じっ  
と静かに見つめていたのだ。  
『ああ…見られてる……私と零幻様が繋がってるところを…見られてる……』  
 妖亀を退治した事で、この森の草食動物や小動物が戻ってきたのだろう。  
 その彼等が、どうしてここにいるのかわからない。音絶(おとたち)の術で声が聞こえたとは思えなかっ  
たが、ひょっとしたら翼の硬角から発する微弱な思念派が、彼等を引き寄せてしまったのかもしれない。  
『ああ…恥ずかしい……』  
 野生動物の瞳は、感情を示さない。ただ、じっと静かに見つめるだけだ。  
 だが、だからこそ快楽に溺れ身も世も無く善がる自分の姿を、音も無く見つめら続けるのは翼の羞恥を  
激しく喚起した。  
「そろそろいいか」  
 小さく聞こえた零幻の呟きに、翼が翻弄されながらも振り返れば、彼は彼女の身体を軽々と抱き起こし  
て、汗と淫液をたっぷりと吸った寝台にころんと転がした。ずしりと重たい白く大きな乳房が“ぶるん”  
と揺れ、汗ばんだ肌が蒼月の青と行灯の橙を映してきらきらと煌く。  
「そろそろ注いでやる」  
 
 しなくても良い宣言を、零幻はわざわざ、目に涙をいっぱいに溜めた翼の熱く火照る尖った耳に囁く。  
そして彼は、彼女の両足をいっぱいに開いて、その中心の『肉の亀裂』に、己のいきり立った肉茎を“ぬ  
ぬぬぬ…”と奥深くまで一息に挿し入れた。  
「あっ…ぁっ…あっ…ああ〜〜〜〜〜〜ぁ〜…」  
 翼の流麗な眉は苦悶を刻んでいるにも関わらず、紅を注さずともなお紅い唇は、天上の愉悦を示してい  
る。狂おしく刻まれた愛しい人の刻印が、魂にこれでもかと何度も何度も穿たれてゆく錯覚。  
 いや、それは確信だろうか。  
 
ぶぼっ…ぶっ…りゅっ…  
 
 主に抱き締められ、翼も彼の首にかじりつくようにして抱き締め返す。“ずんずん”と力強く、優しく、  
激しく剛直を打ち込まれると、押し広げられた股間の洞(ほら)から空気が漏れる。  
 広がっている。  
 大きく口を開けている。  
 呑み込んでいる。  
 奥深くまで。  
 貪欲に。  
 全てを。  
 その上で、もっともっと深くまで迎い入れたくて豊かな尻を揺する。尚も親密な密着を求め、隙間すら  
許せないとでも言うかのように素晴らしく美しい形の長い両足が、零幻の腰に回される。  
「んはぁうぅ…」  
 ぐりぐりと膣壁のやわらかな肉襞を零幻の暴虐な肉柱(にくばしら)が擦り上げれば、翼は首を竦めて  
耐えるしかない。  
 
 高みは近く、意識は朦朧と揺れる。  
 
 哀しくて。  
 
 苦しくて。  
 
 愛しくて。  
 
 涙がぼろぼろとこぼれては紅く染まった頬を流れた。  
「泣くな」  
 無理です。  
「オマエが泣くと、オレは困る」  
 違うのです。  
 哀しいのではないのです。  
 哀しいけれど、それはいいのです。  
 あなたと私は、主と従であり、聖と魔であり、人と妖なのですから。  
 決して交わらないのですから。  
 それはわかっているのです。  
「では、なぜオマエはいつも泣くのだ」  
 嬉しいのです。  
 愛しいのです。  
 愛しくて胸が苦しいのです。  
 愛しくて魂(こころ)が哀しむのです。  
「なぜ哀しい?こうして愛しているのに」  
 気持ちが良くて。  
 気持ちがすごく良くて。  
 この気持ちの良いことを私以外の娘にしたあなたが憎いのです。  
 きっと何度も私以外の娘にしたあなたが許せないのです。  
 でも愛しているのです。  
 全てを許したいのです。  
「ならば許せ」  
 
 では愛して下さい。  
 身体だけでなく心も愛して下さい。  
 口付けと同じくらいの気安さで「愛している」と言わないで下さい。  
 魂が引き裂かれるほどの愛しさで「愛している」と言って下さい。  
 囁いて下さい。  
 言葉にならない言葉を胸に、翼は零幻に貫かれながら何度も涙の雫をこぼした。  
 
 やがて。  
 
「行くぞ」  
「…ぁ…は…ぁい……」  
 主の腰の動きが一層激しく、深くなる。  
 そうしながら、主の薄い唇が呟くように囁くように言の葉を紡ぐと、常人には不可視の銀字がするする  
とこぼれ出る。その銀字の帯が薄く開いた翼の唇の中へと入ってゆき、彼女の頭の硬角がぼんやりと青白  
く光を放った。  
「…んっうっ…」  
 そして。  
「…くぅぅぅううう…」  
 翼の全身に複雑な文様が浮かび上がる。その文様は翼の鼓動に呼応するように明滅を繰り返し、やがて  
光は下腹部へと集まっていった。  
「いいか」  
「はいっ」  
「いくそ」  
「は…」  
「いくぞ」  
「ぅ…」  
「いくぞっ!」  
 
 まるで叩きつけるような腰の動きに、翼のもったりと大きな乳肉が面白いように揺れ動く。  
 
ぱちゅっ!ぱちゅっ!ぱっちゅっ!ぺちゅっ!  
 
 零幻は翼の両脚の膝裏に腕を当て、抱え上げるようにして彼女の身体を二つ折りにすると、上から叩き  
つけるように男根を押し込んでゆく。翼は涙をぽろぽろとこぼしながら寝台の敷布を顔の横で掴み、何か  
に耐えるようにいやいやと首を振った。  
「ぅ…ひっ…ひぃっ…」  
 翼の紅い唇の間から、噛み締めた白い歯が覗き、肉切り歯がぎりぎりと合わさって鋭く光る。  
「…ふっ…」  
 零幻が短く呼気を吐く。  
 それが、射精の合図だった。  
「あっあっあっあっあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぁ………」  
 長く尾を引き、引き絞るような声が漏れ、下腹部に集まった光が一気に全身を覆う。薄ぼんやりと膜の  
ように覆う光は、ゆっくりとその輝きを失い、やがて消えた。  
「……ぁ………」  
 “びくっびくっ”と、しゃくりあげるように翼の赤味を帯びた白い腹が波打つ。一滴も漏らしてなるも  
のかと、翼の膣が脈動し、奥へ奥へと零幻のモノを誘い込んだ。  
『ああ……入ってる……入ってくる……』  
 何度も脈動する御主人様のモノから、精が、練り込まれた陰気が流れ込んでくる。下腹部が熱くなり、  
その代わりに全身が少しの間、氷のように冷たくなったように感じた。  
 いつも、そうだ。  
 いつもこんな風に体がひどく冷たくなり、翼はこのまま自分が消え去ってしまうような恐さを味わう。  
 だのに、この瞬間がたまらなく愛しいのは、  
「……良かったか?」  
 零幻がいつもの笑顔で、熱い口付けをくれるからだ。  
「りょうげんさまぁ……」  
 見上げる翼の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれる。愛しくて愛しくて、この瞬間だけは、気が狂いそうな  
ほど幸せだった。  
 主は二つ折りにして上から押さえ込むように挿入していた男根を、“ぬるり”と抜き取った。  
 
「…んぁっ…」  
 翼がその刺激に、消え入りそうな声を上げる。  
 そして、  
「…ください…呑ませてください…ぜんぶ…ぜんぶ…」  
 泣きながらそう請う翼の口に、零幻は、まだ彼女の淫液と自分の精で濡れた男根を寄せていった。翼は  
身を起こし、上半身を左肘で支えながら力を無くしてだらりとした肉茎にしゃぶりつく。  
 そうして丁寧に嘗め、ちゅうちゅうと吸う。  
 しゃぶる。  
 尿道に残った精までも、全ては私のものだ…とてもいうかのように。  
「零幻さまの…あじ…」  
 たっぷりとねぶり、一滴残らず精を嘗めとって飲み下すと、翼はうっとりと囁いて再び仰臥した。荒かっ  
た呼吸はゆったりとしたものとなり、前の開かれた白い寝間着からは、仰臥してもだらしなく垂れたりす  
ることなく大きく盛り上がった乳房が、汗ばんだ肌のままゆらゆらと揺れていた。  
 

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