(ふぅ……いい加減広い部屋に引っ越さないといけませんね。
こんな狭い部屋に彼女を呼んだら何を言われるか……怖い怖い)
気分転換のための部屋の模様替え。
小説のアイデアが出てこない時にする儀式みたいなものです。
しかしまぁ……大量にため込んでいたものですね。我ながら呆れてしまいます。
部屋の模様替えついでにいたるところに積まれていた資料用の本を整理する。
……まさか段ボール3箱にもなろうとは。これはどこに置いておきましょうかね?
う〜ん……とりあえずは寝室にでも置くとしましょう。
一冊一冊の重さは微々たるものですが、集まれば大変な重さになるんですね。
まるで一人一人の力は微々たるものでも、力を合わせれば大きな力を産みだす人間のよう……ゴキ!
本の詰まった段ボール箱を持ち上げた瞬間に聞こえた破滅の音。
こ、これは何の音でしょうか?腰の辺りから聞こえたような?
とりえあず段ボール箱を降ろしてみる。……う〜ん、真っ直ぐ立てませんね。
……近くに整骨院はありましたかね?とりあえずは……模様替えは中止ですね。
そうだ、明日のドライブもキャンセルにしなくてはいけませんね。
はぁぁ……これでは彼女に怒られてしまいますね。
床を這いずりながら携帯電話の置かれているリビングへと向かう。
先に床を掃除しておいて、正解でしたね。服が汚れずにすみました。
「いいなぁ〜、リカの彼氏って小説家の先生なんだ?じゃあさ、結構お金も持ってるんじゃないの?
うらやまし〜!アタシも同い年のガキなんかじゃなくて、金持ちの大人を引っ掛ければよかったなぁ〜」
「ちょっと!引っ掛けるってなによ!アタシとセンセは運命の人なんだからね?
収入なんて関係なし!そりゃ明日はセンセの愛車の高級外車でドライブだけどね」
「なにそれムカツク〜!呼び出しといて惚気?ホントにムカツクんだけど〜」
学校帰りに友人を誘ってファーストフード店でのおしゃべり。
んっふっふ。アタシだってセンセが小説家で結構お金を持ってるなんて知らなかったから驚いたんだけどね。
ま、アタシの美貌にかかればセンセを落とすなんてチョロイものね!
って今日は威張るためにここに来たんじゃないわ。相談しなきゃいけないことがあったのよ。
「……で、相談なんだけど、男ってどうやったら発情するの?」
「……はぁ?そんなの二人きりになればすぐ発情期じゃん。
さかりのついた猫よ猫!ま、アタシはさかりのついた子ネコちゃんになるんだけどね?」
アハハハと笑う恭子。
やっぱり普通はそうだよね?男なんてすぐにえっちすることしか考えてないお猿さんだよね?
「だよね〜?普通二人きりになれば、えっちしようとしてくるよね?
センセは何でしてこないんだろ?キスすらまだなんだよ?これっておかしいよね?」
「えええ〜?付き合ってもう一ヶ月過ぎてるんでしょ?
それって絶対おかしいよ〜。リカの彼氏、インポなんじゃないの?もしくはホモ」
やっぱりおかしいのか……アタシに魅力がないのかな?
センセと2人きりでエレベーターに閉じ込められるという運命の出会いをして早一ヶ月。
夏休み中ずっと遊んでたんだけど……進展は手をつないだくらい。
センセ、もしかしてアタシの他にも彼女がいたりするのかな?
……ホモ?ま、まさかセンセがホモなんてことは……あ、ありえるかも?
だってアタシのセクシー水着姿を見ても涼しい顔してたし、
胸を押し付けても『胸が当ってますよ』とか平然と言ってくるくらいだもん。
ありえないよ!このアタシの誘惑を涼しい顔して受け流すなんて!
やっぱりセンセは……ホモ?
「い……いやぁぁぁぁぁぁ〜〜!!センセがホモなんて絶対にヤダ!ヤダヤダヤダ!絶対にヤダからね!」
「落ち着きなさいっての!冗談だから冗談。リカに遠慮してるだけじゃないの?」
むぅ〜……遠慮なのかな?なんで自分の彼女に遠慮なんかするの?
遠慮する必要なんてないのに……むしろ早くしろっての!
ストローでアイスティーにぶくぶくと泡を立てる。
センセ、アタシのことなんだと思ってるんだろ?って、メール?誰だろ?
「わ!センセからメールだ!んふふふ、明日のドライブのことかな?
『早くリカが作った卵焼きを食べたいよ〜』とか『君が作った卵焼きを想像したら仕事になりません』
とか書かれてたりして?や〜ん、いっぱい作ったげるから、たくさん食・べ・て・ね?」
ウキウキ気分でメールを見てみる。
恭子が『マジバカップルウザイんだけど?』とか呟いてるけど気にしない。
ふんふふ〜ん、何味の卵焼き作ろっか……な?な、なんですってぇぇぇ〜!
(うぅぅ……最悪です。これが悪名高いぎっくり腰ですか。腰が痛くて動けませんね。
……これでは何も出来ませんね)
夜の8時、ベッドで横になりながら天井を見つめ、己の不運を嘆く。
せっかく彼女との約束していたドライブもキャンセルしてしまいましたし、部屋は散らかったままです。
まったく今日は散々な目に遭ってますね。
……しかし、リカさんの声が途中から機嫌がよくなったように感じたのは何故でしょう?
ドライブ中止のメールを送ってすぐにかかってきたリカさんからの電話。
最初は一方的にまくし立てられてタジタジになりましたけど、
中止になった理由を説明すると納得したのか、妙に優しくなったような?
う〜ん……何か怪しい気がします。もしかしたらリカさんは、何かを企んでいるのでは?
……ま、気のせいでしょう。企むもなにも、いったいなにを企むというのです?
腰を痛めたせいか、少し気が立っているようですね。リカさんを疑ってしまうとは……反省しなければ。
ベッドの横に置かれた写真たての中で、輝くような笑顔を見せているリカさんに心の中で謝る。
……せっかくの二人でのドライブ、ぎっくり腰で中止になるなんて残念です。
雑誌の連載も終わり、のんびりと二人で過ごせると思っていたのに……本当に残念です。
『ピピピピピ!ピピピピピ!』
天井を見つめ、夕御飯を何にするか考えていると、枕元に置いてある携帯電話が鳴る。
おや?電話ですか?いったい誰でしょう?……リカさんから?何の用でしょうね?
『センセ、腰は大丈夫?お医者さんには行ってみたの?』
携帯に出るとリカさんの元気な声が。
あぁ……癒されますね。声を聞いているだけで痛みが引くようです。
リカさん、貴女は私の元気の源です。まるで万能薬のような人だ。
「今日やったばかりですから大丈夫ではありませんけど、どうにか生きてますよ。
医者にはぎっくり腰と診断されてしまいました。……情けないですね」
『あははは!やっぱりそうだったんだ?センセ、もう年だね?』
……訂正です。リカさんは劇薬ですね、取り扱い注意です。
「……その年寄りに止めを刺すつもりの電話ですか?なら切りますよ?」
『もうセンセ、そんな怒んないでよ、冗談だってば!で、センセの部屋って何号室なの?』
「冗談でも人の心は傷つくんで……は?わ、私の部屋ですか?何故です?」
『何故ってそんなの決まってるじゃない。センセ、動けないんだから看病しに来たの。
んふふふ、嬉しいしょ?カワイイ彼女に世話してもらうって嬉しいでしょ?』
……はい?リ、リカさんが私の部屋に来る?そんな話、聞いてませんよ?
「な、何を言ってるんですか?そんなのはダメです!年頃の女性がこんな遅くに男の部屋に来るなんて。
もし何かの間違いがあった場合、貴女の親御さんになんと言えばいいのか……とにかくダメです!」
『……センセ、腰痛めてるのに間違いをするつもりなんだ?なおさら早くセンセのところへ行かなきゃね』
「んな?な、何もするつもりはありません!とにかくダメなものはダメです!早く家へ帰りなさい!」
まったくリカさんは何を考えているのです?
まだ16歳なのにこんな時間に男の部屋に来ようとするとは。
そりゃあリカさんに看病してもらえたら嬉しいですよ?
しかし時間が時間です。今日は諦めていただかないと……何故私の部屋を知っているのです?
『はぁぁ〜、センセ、相変わらず強情だねぇ。そんな事言ってたらアタシ、帰りにナンパされちゃうよ?』
「ダ、ダメです!絶対にダメですからね?見知らぬ男について行くなんて危ない!危険すぎます!」
『あははは!センセ、冗談だってば。彼氏がいるのにそんなのについて行くわけないじゃん。
で、何号室なの?早くしないとホントにナンパされちゃうかも?』
「……ぐぅ。わ、分りました、1308号室です。ですがお見舞いが済んだらすぐに帰るように……」
『1308号室ね?センセ、呼び出すからオートロック開けてね。
……けどさすがは小説家の先生だけあるね、いいとこに住んでるんだ』
『ピンポーン』と部屋の呼び出しが鳴る。もちろん呼び出したのはリカさん。
はぁぁ〜……のんびりと寝て過ごすつもりがそうはいかなくなりましたね。
床をはいずってインターホンの受話器をとり、オートロックを開錠する。
……まぁ、嬉しいことは嬉しいんですけどね。
こんな形で彼女を部屋に招待するとは考えもしていませんでしたけどね。
数分後、大きなカバンとスーパーの袋を持ってリカさんがやって来ました。
相変わらずいい笑顔を見せてくれます。……私はこの笑顔に惚れてしまったんですよね。
そういえば何故大きなカバンを持っているのです?
スーパーの袋から少し見えた『明るい家族生活』と書かれた箱は何です?
……嫌な予感がするのは何故でしょう?とても嫌な予感がしますね。
「うわぁ〜!センセの部屋、初めて来るけど……散らかってるね」
部屋に入ってくるなり、まるで探検をするかのように各部屋のドアを開けるリカさん。
……好き勝手してますね。さすがは劇薬、取り扱い注意です。
「申し訳ありません、模様替えの最中にやってしまったもので」
「ふ〜ん……部屋数は結構あるのに、本だらけで全部潰れちゃってるんだ?アタシの部屋は何処にしようかなぁ?」
「リカさん、お願いですから安静にさせてください。正直あまり動けないのですよ」
『ここにしようかな?う〜ん、やっぱりここがいいかな?』などと冗談を言っているリカさん。
……冗談ですよね?冗談にしては真剣な眼差しが気になります。
「確かに動けなさそうだね。腰を90度に曲げて歩いてる人っておじいちゃん位しか見たことないもん。
センセはベッドで寝ててね。アタシが夕御飯作ったげるから」
ゆ、夕御飯を作ってくれるんですか?……ぎっくり腰になってよかったかも?
私はリカさんの手作り夕御飯を楽しみにしながらベッドで横になる。
……監視しておくべきでした。私の考えが甘かったですね。
「お待たせ〜!ふぅふぅしたげるから、いっぱい食べてね?」
リカさんがキッチンに入ってから30分後。
白い清楚なエプロンに、小さなお鍋を持った満面の笑顔のリカさんがキッチンから現れました。
小さなお鍋からは湯気が立ち込めており、どんな料理なのかとても楽しみです。
……いいですねぇ。実はこういうのに憧れていたんですよ。
愛しい人が私の為に手料理を作ってくれる……叶わないと思っていた夢が叶いました。
「ありがとうございます。こんな私の為にわざわざ来てくれて……本当にありがとう」
「あははは!アタシはセンセの彼女なんだから当たり前じゃないの。
それよりさ、せっかく作ったんだから食べさせてあげるね?はい、あ〜んして」
レンゲにお粥をすくい、軽く息を吹きかけ熱さを冷まし、私の口元へと運んでくるリカさん。
私はベッドに横になったまま口を開け、リカさん手作りのお粥を食べさせてもらう。
……うん、薄味で、胃に優しい病人用の食事ですね。
しかしなんだか照れてしまいますね。これではまるで夫婦みたいじゃないですか?
腰を痛めたおかげでこのような事をしてもらえるとは……こういうことが怪我の功名というのですかね?
はは、違いますか。しかし腰を痛めてよかったと思ってしまいますね。
……何故お粥なのでしょう?ぎっくり腰にはお粥がいいのでしたっけ?
「はい、センセあ〜んして?」
「リカさん、作ってもらってなんですが、何故お粥なのですか?少し味が薄くて少々物足りないんですが……」
「センセ、何言ってるの!センセは病人なんだから、胃に優しい食べ物を食べなきゃいけないの!」
「……どちらかというと怪我人のカテゴリーに入ると思うのですが?胃はいたって健康ですしね」
「はぁ?だってセンセ、動けないんでしょ?なら病人じゃん」
「いや、動けないのは腰を痛めているからでして……」
「……言われてみればそうね、ぎっくり腰だもんね。
しまったなぁ、看病するイコールお粥って想像しちゃった。今、簡単なおかず作るからちょっと待ってね?」
そう言って白いエプロンを翻し、キッチンへと向かうリカさん。
やはり勘違いですか。まぁそれがリカさんらしい……ぶふ!んな?なんてかっこうしてるんですか!!
キッチンへと向かうリカさんの背中を見送る私の目に、思いもしない物が映りました。
染み一つない綺麗な白い背中。海に行ったときも日焼け止めを塗っていましたからね、日ごろの努力の賜物ですね。
その背中には黒いブラジャーが。大人びた物をつけているんですね、驚きです。
その黒いブラジャーから視線を下げると、引き締ったお尻を申し訳程度に隠している、黒いショーツが。
そのショーツから伸びるスラッとした綺麗な足。
一緒に海に行った時にも思いましたが、リカさんの足はまるで彫刻のような美しさがありますね。
芸術のような身体を見て思わずため息が出る。……何故エプロンの下は下着だけなんです?
あなた何を考えてるんですか!!
「んな!なななんてかっこうしてるんですか!貴女は露出狂ですか!いったい何を考えて……うごお!」
ふっ、やっと気がついたようね。これぞ恭子に聞いたセンセを虜にする作戦No1『裸エプロン』よ!
……まぁホントは全裸でエプロン着るみたいなんだけど、そんなの恥ずかしいじゃない?
さぁセンセ、男の部屋で裸エプロンという無防備なアタシを襲いなさい!えっちしちゃいなさい!
コンドームも買ってきてるから安心して襲うのよ!今宵こそ『明るい家族生活』の封印を解くのよ!
ドキドキしながらセンセに襲われるのを待つ。……あれ?なんで襲ってこないの?
恭子の話ではこのかっこをしたら、『えっちする確率100%』ってことだったんだけど……なんで?
焦らしてるのかな?もう、センセもやる気満々なんだ?
ドキドキしながら振り返ってみる。……ベッドから落ちて、腰を押さえて呻いてるわね。
……ちっ、作戦No1はどうやら失敗のようね。
なら続いて作戦No2『お風呂でお背中流しますね?そのまま雰囲気に流されて、お風呂で初えっち!』よ!
「きゃあああ!まぁたいへ〜ん、センセ大丈夫ぅ?」
慌てて駆け寄るフリをしてセンセを抱き抱える。
もちろん胸は顔に押し付ける。……えい!ギュッと抱きしめちゃえ!
「ふぐぐ!や、やなさふぁい!いい加減にしなふぁい!い!あががが〜!」
胸に顔を埋めたまま暴れるセンセ。……ヤダ、ちょっと気持ちいいかも?アタシって胸が性感帯だったのかな?
自分でする時はそんなには感じないんだけど……あん!そんなに暴れないで!もう、センセのえっち!
って感じてる場合じゃないわね、早くお風呂に連れ込んでえっちしかなきゃね。
「クンクン……センセ、少し汗臭いかな?お風呂に入ろ?」
センセの髪の匂いを嗅いでみる。……ちょっと汗臭いかな?けどこれがセンセの匂い、ちょっと興奮しちゃうね。
「…君は……いい加減にしなさい!本気で怒りますよ!」
胸の中でフルフル震えてたセンセの顔。
あははは、まるでローターってヤツみたいだね。……ローターって気持ちいいのかな?
恭子は病み付きになるって言ってたけど……今度センセに使ってもらうことにしよう。
そんな事を考えていたら大声を出したセンセに『どん!』突き飛ばされた。
いった〜い!かわいい彼女を突き飛ばすなんて、なに考えてんのよ!
突き飛ばされたアタシは床に倒れこんでしまう。
センセ、急に何するのよ!危ないじゃないの!怪我でもしたらどうしてくれんのよ!
「ちょっと、なにすんのよ!危ないじゃないの!」
「あっつぅぅ……何をするはこちらの台詞ですよ!君はいったい何をしにここへ来たのですか!」
腰を押さえながらうずくまっているセンセ。うずくまりたいのはこっちよ!
「はぁ?なにをしに来たって?そんなの決まってるじゃないの!センセと初えっちしに来たのよ!」
「……状況を考えてくれませんか?私は腰を痛めているんですよ?君は常識がありませんね、失望しました」
腰を痛めているだぁ?こんな大事な時に何を言ってんの……ヤバイ、すっかり忘れてた。
そういえばセンセ、ぎっくり腰だったんだ。
「や、やあねぇ〜、冗談っすよ、冗談。センセの看病しに来たに決まってるじゃないっすか」
あははは、と誤魔化し笑いをするアタシ。そんなアタシを突き刺す冷たい視線。
あん、そんな獣のような目で見ないでよ……ってこれは相当怒ってるわね。どうしよう?
ベッドで寝ているセンセの前でもうかれこれ10分は正座をさせられてる。
なれない正座で足が痺れてきたけど文句は言えない。
だってセンセ、さっきから一言も話してくれないんだもん。
「あのぉセンセ?ちょっとした冗談じゃないの、そんな怒んないでよ」
「……冗談?貴女は冗談でそんなはしたない姿をするのですか?」
「いや、これはセンセが喜ぶかなって……」
センセの冷たい視線がアタシを突き刺す。
……あん、そんな目で見ちゃヘンな気持ちになっちゃうじゃないの。
「そもそも何故私の住んでいるマンションを知っていたのです?教えた覚えはありませんよ」
「海に行ったとき、免許書を見てメモったの」
「はぁぁ〜……貴女には他人のプライバシーもないんですね」
大きなため息を吐くセンセ。
……え?他人のプライバシー?ちょ、ちょっとセンセ?今、なんて言ったの?
「貴女は他人のプライバシーに土足で入ってくるような人だったんですね。
そんなことをしているようでは……」
「……センセ、他人ってなに?センセにとってアタシは他人なの?
センセにとってアタシは恋人でもなんでもなく……他人だったの?」
センセが言った一言がアタシを絶望へと突き落とす。
そっか……他人だからキスしてくれないんだ。他人だからアタシを求めてくれないんだ。
アハハハ……彼氏が出来たってはしゃいでバカみたい。
センセにとってアタシはなんでもない他人でしかないんだ。
涙がぼろぼろと溢れてくる。優しいセンセが大好きだったのになぁ。
ひっく、やっぱりアタシなんかがセンセの恋人になるなんて、無理だったんだ。
ひっく……ヤダよぉ。センセと別れるなんてヤダよぉ。
わんわんと声をあげて泣くアタシ。センセと別れるなんてヤダ。ヤダヤダヤダァ〜!
そんなアタシを誰かがギュッと抱き締めてくれた。
誰かじゃない。涙で視界がぼやけてるアタシにも分かる。……センセ、なんで抱き締めてくれたの?
(こ、これはマズイですね!リカさんが泣いてしまいました。……こういう時にはどうすれば?)
私が深く考えずにいった言葉『他人』という言葉に、リカさんがショックを受けて泣き出してしまいました。
ベッドの横にちょこんと座り、わんわんと声を上げて泣くリカさん。
『センセと別れるなんてヤダ!』とか『センセが大好きなのにぃ〜!』などと声を上げて泣いています。
こ、これは……泣いているリカさんには悪いですけど、とても嬉しいですね。
リカさんが私のことをここまで思ってくれているなんて……胸がドキドキしますね。
無意識のうちに私はベッドから降り、腰が痛いのも忘れて泣きじゃくるリカさんを抱きしめる。
しばらくの間、ギュッと強く抱きしめて頭を撫でていると、里香さんは少し落ち着いたようです。
「ぐす……センセ、なんで抱きしめてくれたの?」
「それは決まってます。私の大事な人が泣いているんです、何とかしたいと思うのが当たり前じゃないですか」
「ひぐ……センセが泣かしたくせに」
「そ、それは申し訳ありませんでした。私の考え足らずの言葉がリカさんを傷つけたようで……申し訳ない!」
私の胸に顔を埋め、ぐすぐすと泣いていたリカさん。
グスグス泣きながら『センセのバカ!バカ!』と胸を叩いてきます。
叩かれる度に腰にビキビキ痛みが走りますが、ここは我慢です。男の根性の見せ所です!
「センセ……アタシのことどう思ってるの?アタシのこと……好き?」
「……えぇ、好きですよ。じゃないと部屋に入れたりしませんよ」
「ホントに?誰にでも言ってるんじゃなくて?ホントにアタシのこと……好き?」
リカさんの問いかけに顔を真っ赤に染めてしまう。
こ、これはかなり恥ずかしいですね。……想いを口に出すという事は、恥ずかしいものだったんですね。
そんな恥ずかしい事を平然と言ってのけるリカさんを尊敬して……平然と言うわけじゃないんですね。
胸の中で私を見上げるリカさんの顔は真っ赤に染まっています。
目を潤んでいて、今にも泣き出しそうです。……その表情がかなり色っぽいですね。
「センセ、アタシのこと……愛してる?」
ウルウルと潤んだ瞳で胸の中から私を見上げるリカさん。
そ、その表情は反則です!カワイイにも程がありますよ!
そんなリカさんを見ていると、体が勝手に動き出しました。
抱きしめるのを止め、リカさんの綺麗な顎に手を添えて、顔を少し持ち上げ……唇を奪いました。
「ん……んん……ひく、センセ、うれし、ウレシイよぉ」
「ん……んん……リカさん、こんなに女性を愛おしく思ったのは初めてです。……好きです、愛しています」
「セ、センセ……センセ〜!!アタシも大好き!愛してる!」
嬉し涙か、涙をポロポロ零しながら私に強く抱きついてくるリカさん。
私はそんなリカさんをギュッと抱きしめる。……こ、腰が、辛いですね。
「センセ!センセセンセセンセ!大好き〜!」
「イ、イタタタ、リカさん、腰が痛いのでそんなに強く抱きしめないで……いててってて〜!」
「センセセンセセンセ〜〜!」
「あがががががが〜〜〜!!!」
感極まったのか私を押し倒そうとするリカさん。
反射的に支えようとしたために……こ、腰がぁぁぁ〜〜!!
『ゴキン!』
リカさんと私が初めてキスしたその日、私の腰は悪化してしまいました。
「……リカさん、そろそろ家に帰りませんか?親御さんも心配なさってるでしょうしね」
「イ・ヤ!センセの腰が治るまでここで暮らすの。ん〜……あ、ここのスーパーの洗剤が安い!」
リビングでエプロンを身につけ、新聞広告と睨めっこしているリカさん。
いい光景ですねぇ。まるで新婚生活を送っているようです。
けどね、大変忍びないのですが……そろそろ帰ってくれませんか?
「いやいや、10代の少女が男の部屋に4日も泊まるなんて、ダメですよ」
「……その少女が4日も泊まってるのに、キスしかしてこない男の方がダメだと思うけどなぁ」
リカさんの言葉が腰を突き刺す!……腰じゃありませんね、胸ですね。
「……役に立たない腰ですみません」
「アハハハ!センセ、そんな落ち込まないでよ、アタシはいつでもいいからさ。
センセがムラッとした時に襲ってくれたらいいよ」
「……ムラムラしっぱなしなんですけどね」
正直好きな女性が常にそばにいる状況が、ここまでマズイとは思いもしませんでした。
理性と腰痛でどうにか抑えてはいますが……このままでは本当にマズイですよ。
「ん?センセ、なんか言った?アタシ、買い物行って来るけど大人しく待っててね?」
鼻歌を歌いながらご機嫌なリカさん。
私はそんなご機嫌なリカさんを痛い腰を押さえながら玄関まで見送りに行く。
「じゃ、センセ、行ってくるから大人しく待っててね?……ん」
「はいはい、大人しく待ってますよ。気をつけてくださいね?……ん」
玄関先での行ってらっしゃいのキス。
リカさんが居ついてからの私たちの習慣になってしまいました。
幼い頃には憧れていたのですが……まさか見送る側になるとは思いもしませんでしたね。
しかし見送る側もなかなかいいものですね。
リカさんがエレベーターに乗り込んだのを確認し、部屋へと入る。
……さてと、どうしましょうかね?
視線を下半身の持って行き、ため息を吐く。……私はスケベだったんですね、知りませんでした。
とり急ぎ、これをどうにかしないとダメですね。
リカさんとのキスで大きくなった下半身をどのように収めるかを考える。
これもリカさんが居ついてからの日課になってしまいました。
……今日もリカさんでしますか。ゴメンなさい!
アルバムから水着姿のリカさんの写真を取り出し、トイレットペーパーを用意する。
腰が治ったら水着姿でお願いしてもいいんですかね?う〜ん、難しいところですね。
私はそんなことを考えながら、水着姿のリカさんに己の欲望を吐き出した。