うだるように暑い日だった。  
 山深い、鬱蒼とした森に囲まれた小屋の中で、娘は囲炉裏端に座って、力なく団扇を使っている。  
 
 薄い真っ白な着物は、今時テレビの中でしかお目にかかれそうにない代物だ。その裾から伸びる手足は、  
やはり作り物のような白さで、俄かには山の人間とは信じがたい。  
 しかし、実際のところ、彼女は誰よりも長く、この山の中で暮らしてきた。  
 
 囲炉裏に下ろした桶に、水が張ってある。朝方、小屋の外の井戸から、苦労して汲んで来たものだ。  
彼女は先程まで、足をふくらはぎまでつけて、涼をとっていた。深い井戸の水はこの猛暑の中でもよく冷えて  
いて、中々に快適だったのだが、温まってしまっては意味が無い。水面を恨めしく見つめながら、この暑い中  
また外に出て冷水を汲むのと、ここでじっと団扇を使って耐えるのと、果たしてどちらがマシだろうかと  
考える。  
 
 そのまま考えるのにも疲れて、結局、このまま小屋の中で伸びていようという結論に達した時、裏の  
勝手口がドンドンと叩かれた。そして女の返事を待たずに、勢いよく戸が引かれ、巨大な背負子を背負った  
大男が現れる。彼は上がり口に背負子をドスンと下ろすと、囲炉裏端に横たわっている彼女を見て、言った。  
 「おう、さすがにへばってんな、雪女。」  
 
 男は、山小屋への荷揚げを生業としていた。この付近一帯の山は、冬は日本有数の豪雪地帯となるが、  
夏は割りあい多くの登山客で賑わう、観光スポットである。娘の小屋は、そこからはやや離れた人気の無い  
場所にあるが、彼のように山に慣れた人間なら、寄り道するのもさほど難しくない。  
 ただ、普通の人間なら、大した景観も遊び場もないそこへ、わざわざ深い森を分け入ってまで来ようとは、  
思わないだろう。  
 
 上がり口で山靴の紐を解く男に、娘は言った。  
 「小屋帰りかしら?」  
 「ああそうだ。」 山男は答えた。「頂上山荘のオヤジがな、氷菓子を夏休みだってんで、また大量に  
仕入れたのはいいんだが、賞味期限切れの在庫が倉庫に溜まってるのをすっかり忘れていやがった。  
お陰で下りもこんなに大荷物だ。」  
 言いながら、彼は背負子の一番上の箱を開けると、ほらよ、と一つを娘に放った。  
 
 受け取った手から、ひんやりと心地よい冷気が伝わってくる。暑さですっかり抜けていた力が、少し戻るのが  
分かった。早速包みを開けて中身を取り出す彼女に、男は続ける。  
 「あのオヤジ、去年大分足を出したのをちっとも反省してねえな。今日日、夏山にガキなんざは来ねぇって  
のによ。大人しくジジババの相手をしてりゃいいのに。」  
 「そう。」  
 興味なさげに、娘が応じる。しかし男のほうも、それで特に気を害した様子は無い。  
 
 娘が氷菓子を半分程食べ終わったところで、ようやく男の靴が脱げた。そのまま靴下と上着もその場に  
脱ぎ捨てると、彼は小屋に上がって、娘の背にどっかりと腰を下ろした。そしてやおら彼女を後ろから  
抱きすくめ、その豊かな黒髪に、顔を埋める。  
 
 しかし、娘は無表情のまま、氷菓子を食べ続けている。男がようやく人心地、という風に「あ゛ー」と唸ると、  
一旦氷から口を離して、ポツリと言った。  
 「あつい。」  
 「俺は滅茶苦茶涼しい。」  
 「そうでしょうとも。」  
 そしてまた氷に戻る。背中の熱が、彼女の力を急速に奪っていくのが分かるけれど、今の彼女の力では、  
とてもじゃないが振り払えない。冬でも筋力では無理だろうが、その代わり5秒で氷漬けにできるだろう。  
 だが、悲しいかな、今は夏真っ盛りである。  
 
 男は胡坐をかいて、足の間に娘を座らせた。そして腰まで届きそうな彼女の黒髪を掬うと、それをタオルの  
様に顔に当てた。よく冷えたお絞りで顔を拭くような快感だ。しかもこのタオルは、いくら使っても温まる  
ことがない。  
 
 娘が氷菓子を食べ終わる。すると男は早速、その大きな手を前に伸ばした。着物の上から、ごそごそ膨らみを  
探り、場所を確かめる。裾から手を入れると、冷たく柔らかい胸の谷間に挟み込む。この感触は、ちょっと他に  
例えようが無い。  
 熱い手が胸元をまさぐり、また力が抜けていく。しかし、娘には抵抗する手立てがない。だからしない。  
ただ、さっきの氷菓子の冷気が勿体無い、とは思う。  
 
 しばし熱い左手を冷ました後、男は右手に切り替える。が、うまく裾から入らない。一旦手を後ろに戻して、  
素早く娘の帯を緩める。すると夏物の薄い着物は、割と簡単に前を開いた。そのまま肩まではだけさせ、  
瑞々しい娘の乳房を掬い出す。  
 
 山男の大きな両手が、彼女の胸を揉みしだく。相変わらず冷たくて気持ちいい。飽きずに捏ねて、少し  
柔らかくなってきたかと思ったとき、また娘が無感動に言う。  
 「とけそう。」  
 「そう言えば揉むと柔らかくなるよな。これ融けてんのか?」  
 「私の体は融けないわよ。熱に融けるのは雪ん娘の類い。柔らかくなったのは、力が抜けたから。」  
 男が眉を上げた。「これ筋肉で出来てんのか。さすが妖怪だな。」  
 娘はやはり無表情で返す。「違うわ。雪女としての力。」  
それにふむ、とだけ言って、男は言葉を切る。よく分からないが、まあ気持ちいいし、どうでもいい。  
 
 「じゃあ何が融けそうなんだ?」  
 「背負子。氷室の氷があるんでしょう?」  
 「ああ。」 合点がいって、男は答えた。「だが、ちょっとやそっとじゃ融けねえぞ。上に氷菓子が詰まってるし、  
今流行りの何だ、なんたらアルミとかいう断熱剤で包んであるしな。」  
 「でも勝手口は暑い。」 女が頑なに言った。  
 
 男は胸から片手を離し、娘の顎を上げて上から見下ろす。さかさまの状態で、二人はしばし見つめ合う。  
 背負子を放置したとして、娘が男に出来ることは何もない。また、彼がそれを涼しい納屋に運んでやったと  
しても、娘は特に何もしないだろう。だから、これは純粋なお願いだ。  
 しかし、膝上から逆さまにこちらを見上げる女の瞳に、媚の色は一滴もない。  
 
 やおら、男は顔を下げ、逆さまのまま娘の唇を奪った。舌を差し入れて少女のものと絡める。彼女はやはり  
抵抗しない。冷たくて甘いその舌は氷菓子みたいだと思い、そこで先程この娘にそれを食わせてやったのを  
思い出す。  
 口を離す。娘はやはり、じっとこちらを見ている。  
 男は言った。「分かった。」  
 
 娘を一旦膝から下ろし、背負子を拾い上げて納屋に向かう。扉を開けると、そこは確かにひんやりとしていた。  
しかし何も無い納屋だな、と彼は思う。  
 
 囲炉裏に戻ると、女はそのままの姿勢でそこにいた。着物ははだけたまま、胸はまろびでたまま。  
 彼は一旦娘の元を素通りすると、押入れを開けて布団を下ろした。敷布団だけ二枚抱えると、囲炉裏の  
側まで運んできて、少女の脇に並べて敷く。  
 娘を抱えて布団に下ろす。山男はズボンを下着ごと下ろして裸になり、言った。  
 「抱くぞ。」  
 
 男は返事を求めていない。だから娘も、何も言わない。  
 
 彼は再び胡坐をかいて、雪女を横抱きに抱えた。男の肌を伝う汗が、娘の白い着物にしみこむ。娘の  
右腕を着物から抜き、側面を露出させて、自分の胸に抱え込むと、汗ばんだ肌に、ひんやりとした  
柔らかさが最高に気持ちいい。左腕でさらに抱き寄せ、右手は再び乳房を狙う。  
 
 下から掬い上げるように揉む。一般的に、冷たい物というのは固いものだが、これは数少ない例外だな、  
と男は思う。もっとも、この女の存在が、例外中の例外なのだが。  
 揉み込む力を徐々に強める。指は膨らみに沈み込み、そして確かな弾力で押し返す。普段は着物を  
愛用しているため目立たないが、この娘は中々に立派なものを持っている。しかし、荷揚げを飯の種  
にする男の手は、さらに大きかった。手を広げて包み込むようにすると、ちょうどよくすっぽり収まる。  
 
 男の指に従って、娘の胸は従順に姿を変えた。しかし指を離せば、また元通りたわわに実る。  
成るほどこの娘の乳房だ、と男は思う。逆らわないが、服従もしない。  
 
 男が乗ってきて、揉む力が強まっても、娘は無表情を崩さなかった。しかし彼の手がその頂きに掛かると、  
娘の眉がかすかに動いた。  
 それに気付いて、男の攻めが乳首に移る。下乳を掌で支え上げ、豊かな膨らみに慎ましく浮く、やや  
小さめのそれを、そっと親指で押し込む。  
 
 「っん……ぅん…」  
 吐息と間違うような、小さな喘ぎが漏れ始めた。しかし、娘は特に声を我慢しているつもりはない。  
もともと、あまり声を上げない性質なのだ。  
 顔に目をやると、そこはやや赤みが差しているようにも見えた。しかしながら、彼が試しに頬を寄せると、  
そこはやはり心地よい冷たさを返してくる。  
 
 顔をよせたまま、男は娘の体をやや立てると、膝上に横向きで座らせた。体を差させていた左手を、  
彼女の頭の後ろに回して、口を吸う。  
 唇を繋いだまま、右手で胸を揉んでみる。声はなくても、吐息の乱れが、直接伝わる。それが少し  
面白くて、男は口を吸ったまま、乳房をキュッキュッと揉み上げる。  
 
 しばし楽しみ、顔を戻すと、娘は目を開け、男と目が合った。それは単に"癖"なのだろうが、彼は何となく  
聞いてみる。  
 「なんだ?」  
 「何が?」  
そりゃそうだ。しかし折角なので、休憩がてら少し会話を続ける。「今何考えてんだ?」  
 どんな質問だよ、と男は自分でも思う。まあしかし、何か気の利いたことを考えるのも面倒だ。  
 「特に何も。」 だが娘は淡々と答える。 「……そうね、結構子供っぽいとこあるのね。」  
 「例えば?」  
 「おっぱいで遊ぶの、楽しい?」  
 「そいつの前では、皆童心に戻るんだよ。」  
そう言って、男は娘を抱き直す。そして高さを調節してから、彼女の右胸に吸い付いた。  
 
 控えめな乳首をしばし唇で舐った後、口を開けて豊かな膨らみをたっぷりと含む。舌で探ると、  
柔らかな弾力の中に、少しこりこりとした実がある。しつこくつつくと、肺の動きが大きくなるのが、  
肌越しに分かった。  
 
 口で胸を楽しみながら、男は右手を足へ回した。着物の裾を払って、太股辺りまで顕わにする。  
それ以上は、帯を完全に解かないと難しい。  
 しかしそれには構わず、彼は内腿をたどって布の下の足の付け根まで手を伸ばす。娘は下着を  
着けていなかった。足は閉じていたが、男が片手を割り込むように開かせると、その動きには抵抗しない。  
 
 右手が付け根の泉にたどり着く。そこは既にしっとりと濡れていたが、やはり冷たい。初めてこの女を  
抱いた時、さすがにこの違和感は拭えなかった事を、男は思い出す。しかし、慣れればこれはこれで面白い。  
 外側の襞を割って、指に女の液を擦り付ける。十分に濡らしてたところで、親指を使って、秘部全体を揉む  
ように愛撫する。強めに押して、指の腹を内襞の裏庭に押し付ける。  
 
 娘の息が大分上がってきたところで、男は一旦、胸から口を離した。名残惜しい気がしなくも無いが、  
ここは後でも、いくらでも楽しめる。  
 布団に娘を仰向けに下ろす。顔ははっきりと赤らんでいるが、頬を舐めるとやはり冷たい。なんとも不思議な  
光景だ。秘部から手を抜き、帯を外そうと手を回しかけた時、唐突に娘が口を開けた。  
 「帯は洗うのが大変なの。」  
 「だから、抜こうとしてるんだぜ。」  
 「違う、右手。」  
言われて見れば、娘の愛液がテラテラと光っている。  
 
 「舐めるか?」  
 「嫌よ。」  
 「んじゃ髪で拭こうかな。」  
 「どうぞ。」  
男は思わず娘の顔を覗き込んだ。 「……そっちはいいのかよ?」  
娘は肩をすくめた。 「どうせ髪は洗うもの。」  
 変わった奴だなと男は言って、左手で長く豊かなその黒髪を一房掴む。それで粘液に光る右手を包もうと  
近づけて──左手を下ろし、右手を自分の口に含んだ。  
 五本の指を全て奇麗に舐めとり、自分の涎も殆ど吸い取る。あとは少しわき腹でもこすれば、すぐ乾き  
そうな所まで清めて、彼は何となく勿体無くなり、申し訳程度に娘の髪に指を通す。  
 「貴方こそ、変わった人ね。」  
 「どうせ付けるなら俺のがいい。」  
 「変態。」  
そう言われて、男は娘の口を吸う。本当は、人間離れした艶やかな黒髪を目の前にして、何故か汚そうとする  
気持ちが萎縮してしまったからなのだが、わざわざそれを言うつもりは無い。  
 それを見越していたのかもしれない。何だかんだ言って、この女は筋金入りの妖怪だ。  
 
 気を取り直して、帯を抜き、着物を脱がす。娘を仰向けに転がし、男は膝立ちになって、その裸を眺める。  
ざあっと広がった黒髪の上で、真っ白な裸体がよく映える。本当に、いつ見てもいい体だ。思わず溺れ、  
季節を忘れて通った結果、殺された者の気持ちも、分からないではない。  
 娘はそんな男の視線を、体を隠すことも無く淡々と受け止めている。  
 
 ひとしきり目を楽しませた後、男は娘に覆いかぶさり、膝を割った。まず舌を首筋に落とし、そのまま胸を  
経由して股座に降りる。  
 両手で太股を押さえ、秘部をしっかりの露出させて口を付ける。舌で襞を割り、穴から豆にかけてを舐め  
上げると、すぐに蜜があふれ出す。蜜壷に舌先を突っ込むと、頬に両足の震えが伝わった。  
 
 娘の液は多い方だった。男は顔を押し付け、そこを唇で覆うと、次から次へと溢れ出す蜜を音を立てて啜る。  
なにか、娘の体を溶かしながら舐めとっている気分になって、そう言えば雪女は融けないんだったと、先の  
会話を思い出す。  
 
 娘の足が小刻みに震える。相変わらず声を出さないので分かりにくいが、耳をすますと、ふっふっとかなり  
荒い息遣いが聞こえてきた。男は太股を押さえていた手を脇から回して、膨らみを探ると、その頂きを  
押し込んだ。  
 足が一度ギュっと男の頭を締め付け、そして弛緩する。蜜壷は痙攣を繰り返し、壊れた蛇口のように、  
際限なく愛液を溢れさした。  
 
 彼はそれを吸えるだけ吸って、頭を上げた。娘の顔には、さすがに女の表情が出ている。普段が無表情な  
だけに、その様は殊更に扇情的だ。  
 口を寄せようとすると、娘の手が上がる。彼女の今日初めての自発的な行動に、お、と男が思っていると、  
白魚のような指が、男の口周りの汚れを拭った。  
 
 「そんなに嫌いか。」  
 「貴方は、自分の、舐め、たい?」  
 切れ切れの呼吸のまま、そういう彼女に、男は成る程、と返して接吻する。だが先程まで秘部を弄っていた  
舌を絡めても、娘はそれには何も言わない。気にならないのか、諦めているのか、そんな余裕が無いだけか。  
 男はそのまま、瞼や眉間に口を落としながら、彼女の息が戻るのを待った。  
 
 呼吸が整った所で、指を入れてみる。んぁ、とこの娘にしてはいい声を出す。昇りつめた後で敏感なの  
だろう。内も中々に柔らかい。このまま遊んでもいいが、今日は別にちょっとしたお楽しみがある。こちらの方  
は、そろそろ頂くことにしよう。  
 
 中に入ると、そこはキンキンに冷えていた。男のそこは、今日はまだ娘の冷気を味わっていなかったので、  
よりいっそうの冷たさを感じる。しかしその触感はしなやかで瑞々しく、ぎゅうぎゅうと彼を締め付けてきた。  
 腰を軽く揺すって奥まで入れると、男はしばしその涼しさを堪能する。自分のモノをこんな風に冷やして  
涼をとるなど、この女を抱くことでしか味わえない快楽だ。  
 
 モノが程よく冷えて締まった所で、男は腰を使い始めた。娘の整った顔が、男の動きに合わせて色づき、  
歪む。しかしその口から漏れる喘ぎは相変わらず小さく、嬌声とは言いがたい。代わりに、下の秘壷が  
淫靡な水音を立てて、男の耳を楽しまる。  
 
 リズムよく娘を揺すっていると、程なく汗が噴き出してきた。いくら相手が雪女だといっても、今年一番の  
暑さ中、昼下がりの小屋で、威勢良く腰を使っていれば、すぐにのぼせ上がる程の熱が溜まる。  
 男は一旦奥まで入ると、そのまま娘に覆いかぶさり、汗ばんだ体をその涼やかな肌に押し付けた。そのまま  
しばらくじっとして、体に溜まった粗熱を取る。  
 
 そしてまた動き出す。暑くなったら娘で冷やす。サウナと水風呂を交互に使う、のとは少し違うか。  
だがいい汗を掻いていることには違いない。それよりずっといい思いをしているのだから。  
 
 下は大分柔らかくなってきた。しかし決して緩んだという訳ではなく、締め付けがより柔軟で動的なものに  
変わったといった感じだ。そして冷たいものがじゅぶじゅぶと、男を銜え込む口から溢れ出す。  
 娘は体が融けることはないと言ったが、熱い一物で女のそこを柔らげながら、ぽたぽたと蜜を溢れさせて  
いると、どうしても、自分の熱がこの雪女を融かしているようにしか思えない。  
 
 男は腰の内に、暑さとは別の熱が溜まっていくのを感じる。娘の方はまだ道半ばといった所だが、先にも  
言ったとおり、今日はこの後に旨いものが待っている。もう一度体を冷やして、じっくり娘を味わうのもいいが、  
今日はもう一息に頂くことにしよう。  
 
 男の腕が、二人の付け根にするりと伸びる。それは冷たい林に分け入って、寄り道もせず真っ直ぐに娘の  
実へ向かった。  
 途端に、娘の息が大きく乱れる。ついで反対の手を胸にまわせば、あっ、ふぁっ、といい声で鳴き始めた。  
腰を手の邪魔にならぬようゆったりと動かし、娘を一気に自分と同じところまで引き上げる。  
 
 そしてそのまま自分を追い越させ、後一歩の所まで押し上げる。うら若き娘の整った顔が、快感で  
ぐしゃぐしゃに崩れた様は、男の庇護欲と獣欲を同時に掻き立てた。先程は股座にいて見れなかった  
その顔を、存分に眺め、そして舐め、男は娘の耳元で言った。 「出すぞ。」  
 
 腰使いが一気に荒くなる。打ちつける肌の湿った音と共に、娘の体が激しく揺れる。仰向けでも尚丸みを  
保つ膨らみは、体に一拍遅れる形で大きく波打った。だのに、娘は口をあける。  
 「なかっでっ、出せばっ…ぁ…足、たた…っ…なくっ…ぅ…くぅぅっ!…」  
 「知ってるよ。つーかそもそもお前、俺来てから今日、一歩も自分で歩いてねーだろ。」  
 
 もしかして、妖怪ってのは人間に話しかけられると返事をしなきゃいけない決まりでもあるのか。 こんな  
状態でも喘ぎ喘ぎ言葉を紡ぐ娘に、男はそんなことを思いながら、腰を強める。おかげで、男の言葉も、  
少しばかり切れ切れだ。  
 
 腰が熱い。傘も熱い。最後に、実を摘んで娘を高みに押し込むと、男は両腕を素早く女の肩に回して、  
自分も終わらせるため腰を振るった。  
 
 ひゃっ、と小さな悲鳴が聞こえた。後は、声にはならない叫び。冷たく引き攣る娘を感じて、男は  
最奥で傘を開く。猛烈な熱が、娘の中を弱った冬を押し退けていく。  
 
 胎の底に命の熱を噴き上げられて、娘は今度こそ自分の腰が融かされるような感覚を味わった。  
新しい命の飛沫は、春の息吹に通ずる力だ。それは即ち、冬の死を司る彼女を、終わらせる力でもある。  
それは真夏の熱気以上に、彼女の体の力を奪った。  
 
 男は、大方出し終えると、体を繋げたままクルリと仰向けになった。そのまま娘を腹に乗せ、ふー、と息を  
吐きつつ体を休める。娘は力なく男の胸に倒れこみ、流れた黒髪が冷毛布となって二人を包む。  
 
 そのまま、二人は暫くじっと抱き合った。男は火照った体を冷ますため、そして娘はただただ動けないため。  
繋がったそこだけが、時折何かの拍子にピクンと動いた。男のものはやや硬さを落としながらも、変わらず  
娘を塞いだままだ。閉じ込められた熱が、ゆっくりと娘に染み込んでいく。  
 この熱を全て殺し切らない限り、足はまともに動かないだろう。  
 
 実は極たまに、この熱が恋しくなることもある。冬の生は、皆一様に彼女の死に従順だ。雪深い冬山は、  
弱き者に、次に芽吹くモノ達のための椅子を明け渡すよう、容赦なく要求する。そうして彼女が殺し回った  
山々には、春になると新しい生が好き放題に伸びられる。  
 だから、自分を押しやる春の力を、この雪女は嫌いではなかった。それは、ある意味で自分の成果だ。  
そして、きっと子供。胎のこれは、二重の意味で、それを自分に彷彿とさせる。  
 
 だがしかし、今はうんざりするほど生が蔓延る夏真っ只中だ。  
 
 
 「腰が抜けた。」  
五分ほどして、娘が出し抜けに言う。その声に男は起き上がり、娘を抱えたまま布団に座って言った。  
 「嬉しいね。そりゃどうも。」  
 「褒めてない。」  
ありゃま、といって口を吸う男。水分補給とばかりに、娘の冷えた唾液を吸い上げる。  
 「まあ腰なんざ感じなくても、突かれりゃ抜けるしな。で、悪かったのか?」  
 「いいえ、気持ちよかった。」  
表情を一ミリも変えずにそう言う娘を、男はだよなぁと笑いながら抱き上げる。  
 
 娘を布団に寝かせると、男は脇にある手ぬぐいを拾った。そして娘の足を開き、自分の精を零す蜜壷を、  
成果でも確かめるように眺めた後、手ぬぐいを当てて、立ち上がった。  
 
 普段、大抵ニ、三度は抱く男があっさり立ったので、娘が疑問の視線を向けた。山男が唇の端を上げて  
「し足りないか」 と聞くと、彼女は「全然。」 と即答する。それでも、視線は逸らさない。男はまあ待ってろ、  
と言って納屋から背負子を取ってくると、荷解きをしながら言った。  
 「今日が土用の丑の日って知ってたか、雪女。」  
 
 見事な鰻だった。氷詰めの箱から取り出されたそれは、今にも動き出しそうな色艶のいい一品だ。  
男はそれを自慢げに娘の前で振ってから、他にも米やらタレやらの箱を抱えて台所に向かった。  
すっかり勝手知ったるなんとやらで、鼻歌交じりで鰻を捌きながら、男が言う。  
 
 「白焼、蒲焼、こんだけ上等なら何しても旨いぞ。希望あるか?」  
 「……お刺身がいい。」  
 「馬鹿言え。」  
 
 鰻茶漬けに落ち着いた。娘の分は、それを氷室出しの氷でしめて、冷茶漬けにする。鰻を冷やすなんて  
正気の沙汰じゃないぞ、という男に、何しても旨いんでしょう? と娘は真顔で返した。  
 盆に丼と急須を二つずつ載せて、男が囲炉裏端に戻ると、娘はやはりそのままの格好で布団に転がって  
いた。男が手伝って体を起こし、座らせる。  
 「着物は?」  
 「腰が立たないと着れない。」  
 「んじゃ、お前の裸を肴に食おう。」  
 「そう。」  
向かい合って座ると、頂きます、と二人は一緒に箸を取った。  
 
 やはり旨い鰻だった。肉厚で、脂の乗りもいい。料理人の腕もいい、と男が舌鼓を打っていると、  
女が言った。  
 「これ、西の沢の鰻ね。」  
 「分かるのか。」  
 「ええ、水源が私の山だから。」  
 「天然物なんて売店の婆さんの大ホラだと思ったが、本物だったとはな。」  
箸で一切れつまみ上げ、物珍しげに見つめる男の横で、娘はせっせと箸を動かした。確かにいい鰻だが、  
大事なのはこの山の水で育ったことと、この山の氷でしめてあることだ。  
 
 娘は丼に浮く氷をひとかけら、箸で掴んで口に入れた。先の氷菓子のような、夏を追い出しただけの  
紛い物でない。氷室の氷には、本物の冬の冷気が詰まっている。歯で小さく砕いて飲み込むと、鰻の  
精気と相まって、全身のだるさがすっと抜けるのを感じる。  
 
 娘が箸を置くと、男はとっくに食べ終えて、彼女の裸を眺めていた。至って普通な人間の彼の目にも、  
この雪女に生気が戻ったのが分かる。自分の体の下で、頬を染めて乱れる姿も悪くはなかったが、  
こうして力を戻した白い裸身には、どこか冬の畏れを感じさせる、凄みある美しさがあった。  
 
 男が尋ねる。「腰は戻ったか。」  
 娘はすっと目を閉じ、下腹に手を当てた。蠢く命を感じ、それを捉え、そして凍らせる。冬なら息をする様に  
出来るその作業も、力の出ない夏では酷く億劫なものだった。  
 だが、今の娘の体には冬の冷気が満ちている。それに、何といっても自分の体の中のことだ。彼女は  
丹田に意識を集中すると、一息に胎の命を終わらせるべく、力を入れた。そして、  
 
 
──パキンッ  
 
 
 「……すげえな。」  
 男が唸るように言う。小屋の気温は一気に十度は下がっていた。雪女の力を体験するのは、これが最初  
ではなかったが、夏真っ盛りにこれ程のものを見せ付けられたのは、初めてだ。  
 だが、もっと驚いていたのは娘の方だった。目を丸くして、自分の腹と、薄く氷の張った桶の水を見比べて  
いる。この娘の、狐につままれたような表情など、二度と拝めんかもしれんな、などと思いながら、男はその  
戸惑った横顔を眺める。  
 
 「そんな顔してると、年相応で可愛いぜ。実年齢じゃなくて、見た目の方の年だけどな。」  
 「私、こんな力は出してない。」  
 娘は、まだ納得いかない顔で、小屋の中を見渡している。そのおどおどした仕草に、本当に普段なら在り  
得ない少女くささを感じて、男はふと、おかしくなった。立ち上がって娘の元にいき、彼女も立たせて  
その裸を抱き寄せる。  
 
 「いいじゃねえか、涼しくなったんだし。お、腰の方の治ったな。」  
 「私の力では無理なのよ。どんなに調子がよくても、私は冬の妖怪だから、夏そのものは払えない。」  
 「別に雪降らしたわけじゃなし、そんな大それた事じゃ…」  
 「でも、今なら殺せるのかも。」  
 
 男が何か反応する間はなかった。雪女は背伸びをすると、首に手をかけ、すっと目を閉じて、瞬く間に山男の  
唇を奪った。柔らかな舌が彼の唇を割り、冷たい唾液が流し込まれる。  
 これが雪女の口吸い。死の接吻。昔から数多の人を凍らせてきた、雪山の甘い罠。  
 
 一瞬、山男は本気で覚悟を固めた。真夏に雪女に殺されるのは、世界広しといえども俺だけだろうな。だが、  
ああくそ、確かにコイツの口付けは気持ちいい。普段受身だから知らなかったが、こんな技を持っていたとは。  
いや、知った奴は須らく死んだ筈だから、知らないのは当然だ。って、俺はいつまでこうして考えていられるんだ?  
 
 何時までたっても、怖れていた寒さも痺れも眠気も来ない。やがて男は口を離し、女も目を開けてこちらを見る。  
お互い呆けて見つめ合うことしばし、娘が先に口を開いた。  
 「やっぱりだめね。」  
 「俺は殺られたと思ったぜ。」  
 
 娘が首に回した手を解く。彼女が離れると、男はへたり込むようにその場に座った。今になって、冷や汗が  
全身から噴き出してくる。娘はそんな男の様子は気にも留めずに、すたすたと歩いて自分の着物を拾った。  
 
 「夏は絶対無理なんじゃなかったのか。」  
 「無理よ。夏山の死は、山の主か腐り神の仕事だもの。」  
 「んじゃ、また何で試そうと思ったか、よければ理由を聞かせてくれねえか。」  
 「さっき、この小屋の夏を払えちゃったから。今でも理由がわからないわ。」  
 
 ふむ、と山男は考える。別にこの娘の疑問を解決してやりたかった訳ではないが、この収まらない動悸を  
沈めるには、何か別の事に集中するのが一番だ。  
 すると、ふと、あることに気がついた。  
 
 「暑気払いって知ってるか。」  
 「夏の暦には詳しくないの。」  
 「土用の丑の日に鰻を食べると、夏負けしない。」  
 「でもそれって、二百年か三百年か前のお侍さんが言い出したんでしょう。」  
 「よく知ってんじゃねーか。だが、この日にうのつく字のものを食うといいって言い伝えは本物だ。」  
そこまで言われて、娘もようやく成る程 と言う顔をした。  
 「じゃあ、これは"私の"暑気払いだったってこと?」  
 「なんたって雪女の暑気払いだ。これくらい豪快で当然かもな。」  
 
 言って、男はごろりと寝転んだ。とりあえず死の危険がなさそうと──己の希望的観測かもしれないが──  
分かると、やっとこの快適な涼しさを楽しむ余裕が生まれてきた。そのまま寝返りを打って娘の姿を探すと、  
雪女はもうきっちりと着物を着ていた。  
 
 「鰻を食ったのは初めてか。」  
 「夏は初めて。冬に殺したことはあるけれど。」  
 
結局、日の高く一番暑い時間を、男は涼しい娘の小屋で寝転んで過ごした。  
 
 
 窓にかかる簾から漏れた光が、そろそろ囲炉裏に届きそうな時間になって、男は漸く腰を上げた。娘は  
また氷菓子を食べていた。よく食うな、と言う男に、どうせ捨てるんでしょう、と娘が返す。  
 「なんなら箱で置いてってやろうか。売れないんだし。」  
 「ゴミになるから嫌。」  
だろうな、男は言って箱を括る。背負子が出来上がると、土間に下りて、山靴を丁寧に編み上げる。  
すると、娘も見送りのため降りてきた。まったくこの女らしからぬ行動ではあるが、これにはちゃんと  
理由がある。  
 
 準備が整って背負子を背負うと、娘が引き戸を開けてくれる。山男が外に出ると、むっとした夏の熱気  
が出迎えた。クーラーの効いた部屋から外に出たというよりは、赤道を越えて別の季節に飛ばされた  
ような感覚だ。  
 
 帰りの一歩を踏み出す。すると、後ろから「ねぇ。」と娘が声をかけてくる。それが雪女の決まり事なのか  
は知らないが、必ずこの一言を言うために、娘はわざわざ見送りに立つのだ。  
 
 はっきりと微笑んで、雪女は言った。「冬になったら、またおいで。」  
 苦笑いで目を逸らし、山男が返した。「夏しか来ねえよ、馬鹿。」  
 
 この微笑見たさに、一体何人の男が雪山を訪れ、死んだのだろう。それを知っている山男にも、彼女の  
微笑は、続きを見たいと思わせるに十分な魅力を持っていた。  
 
 男は一度手を上げ、後は振り返らずに山を降りる。自分もいつか、誘惑に負けて、あの妖怪の手にかかる  
のだろうか。だがどうせ山で死ぬなら、最期はあの娘の本気の口付けを味わって逝くのも、悪くない。  
 
 登山口を出て事務所につく頃、気圧のせいか今頃ゲップが出てきた。鰻の匂いがした。  
 

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