歩き出す少女の横に回り、その小さな手の上から自分の手のひらを重ね合わせると、彼女はおずおずと指に力を込め、握り返してきた。  
はにかんだ顔で手をつなぐ二人の姿は、一見仲のいい恋人同士のようだ。  
校門を抜けた彼は、彼女を連れたまま学校から少し離れたコンビニエンスストアの前で立ち止まった。  
「ちょっと、買い物してきてくれるかな」  
「何?」  
聞き返す彼女の耳朶に唇を寄せて、箱入りゴム製品の名称を囁くと、顔を赤くしてかぶりを振った。  
「や、やだっ」  
「言う事聞くんじゃないの? 僕はここで待ってるからね」  
自分は店内がよく見渡せる入り口付近に立ったまま、渋る背中を押してやると、地面のマットに脚がかかり、自動ドアが左右に開いた  
仕方なしに中に入った彼女は、足早に店内を回る。  
(は、早く買ってすぐ出ちゃおう)  
うろうろと通路を歩いていると、目的のものを見つけ足を止める。そこにはさまざまな種類のものが置かれていたが、ちゃんと見るのすら初めての彼女に細かな違いなど分からない。  
適当に一番手前にあった箱を手に取ってレジのほうへ体を向けたときだった。両脚の間を、誰かの指が這うような感覚を襲った。  
(何!? き、気のせいよ…)  
そう思って精神の安定を図ろうとするが、感覚はさらに強くなる。割れ目に沿ってつぅっと駆け上がったそれが、縁をしゅっしゅっと扱き立てた。思わず声が出そうになるのを抑える。  
 
「…ぁっつ、やぁ」  
(あたし…やっぱり淫乱なの? こんな物買ってるだけで…こんな風になるなんて)  
謎の感触が、陰唇を摘んで左右に引っ張り、音がするほど擦り上げる。己の体液でぐちょぐちょに濡れたそこを攻められると、傍から見ても分かるほど呼吸が激しくなった。  
くらくらとして、つい手の中の商品を床に取り落としてしまう。それを拾おうと座り込むと、いつの間に移動したのか若い店員がすぐ後ろに立っていた。  
実は、彼女が店に入ってきたときから、ずっと声をかける瞬間を狙っていたのだ。  
(へぇ…かわいいじゃん。近くの高校のコかな? ちょっと話しかけてみるか)  
「何かお探しですか」  
下心見え見えの態度で近づき、猫なで声でたずねてくる男に、彼女は驚いたように肩を上げ、拾いかけていた箱をさっと棚へ戻した。  
しかし男はその商品がなんなのか覗き込むと、驚いたように目を見開き、そして下品そうに口元を歪めた。  
「ああ、こちらはお勧めですよ」  
彼女が戻した箱を手に取り、大きな声で側面に書かれた説明を読み上げる。  
「『思わず付けてみて、アレッと思うかも…。このコンドームは、なんとツブツブ加工がされているんです。そのツブツブがアソコを刺激して彼女も大喜び!』」  
「や、やめて…くだ、さ…いっ!」  
その声が不自然に途切れているのに男は気付いた。不審に思ってよく見れば、スカートからすらりと伸びた脚がぶるぶると小刻みに揺れている。  
(なんだ…? 俺にゴム買うとこ見られて感じてんのか…、いや、まさか…)  
実際には少年がやっていたのだから、当然これは間違いだ。  
 
しかし、火照って汗ばんだ彼女の顔が、男の視線を避けるように横を向いたのを見て、彼は勝手に勘違いし、興奮した。  
店内を見回すが、客はいない。この時間なら、昼食を買いに来る会社員や学生もまだほとんど来ないはずだ。男は彼女の見ていないところでにやりとした。  
「お客様に商品の説明をするのも店員の役割ですから」  
そう言って、なれなれしく彼女の手に触れると、そこに持っていたコンドームの箱を乗せた。  
「これは本当にいいんですが…初めての方にはもっと挿れやすいものもありますよ。…お客様は今までにそういった経験は…?」  
白昼堂々こんなことを訊かれる羞恥に耐え切れず、彼女の目にかすかに涙がにじんだ。蚊の鳴くような声量で抗議の声をあげるがそのせりふは途中で掻き消えてしまった。  
「そんなこと、言う必要…あり…」  
「いえいえ、最適な商品をご購入いただきたいですから。ご経験は? あるんですか?」  
「そ、そんなの…ありま、せっ…」  
思わず言ってしまい口を手で押さえるが、もう後の祭りだ。おまけに、下着の中でうごめく感触はさらに激しくなり、一番感じてしまう部分を何かでちょん、と突付かれる。  
「ひゃっ!」  
弱点を捏ねられる。粘土を丸めるような手つきでくにくにと愛撫されると、すすり泣くような声が、涎とともに口の端から漏れた。  
「ひ…ふぁ、あ、ぁんっつ」  
目の前の少女のあまりに淫猥な姿に、男は目を疑った。だが、もともとあまり物事を深く考えないたちだったため、単純に今の状況を楽しむ事にした。  
「やっぱり初めてでしたか、ではこちらがよろしいですよ。『快感ぬるぬるゼリー入りで慣れない女性も安心! 初めてでも絶対の満足感が』」  
 
「も、もう…ぁっ、なんでもい、です…っ」  
男の説明など少しも聞こえていない。  
先ほどと今との刺激でもうびんびんに充血している敏感なそこに、硬いもの(これ…爪、まるで誰かの爪みたい…)が当てられ、かりかりと引っかくようになぶられているのだ。  
「じゃあ、こちらへ」  
言われて、やっと会計が出来るとほっとする。しかしわずかな距離を歩く間も股間の疼きは止まらない。  
爪と似た触感のものを勃ち膨らんだ突起物にきりきりと立てられると、針で刺されたような痛みとそれ以上の快感が襲った。  
「…いっぁあっ! …はぁっつ」  
男がレジの中に入り、慣れた手つきで機器を操作する。少女は表示された金額を見ずもせず、震える指先で財布から千円札を数枚つまみ出し、男に渡した。  
「ひぁっ…お、おつり…ゃっ、いいです、から」  
渡された袋をひったくる様にして店を出ると、扉の前で待っていた少年と目が合った。  
(よ、よかった、一緒にいられてなくて…。またあんなの見られてたらあたし…)  
もちろん彼は一部始終を外から覗いていたのだが、そんなこと彼女は知らなかった。無言でビニール袋を手渡す。  
「偉い偉い。ちゃんと買えたね」  
そう言って渡された袋の中に確かに入れられた箱を確認すると、彼はまた彼女の手をとった。  
「じゃ、行こ。この隣のビルだから」  
 

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