「こんにちは〜、お久しぶりです!」  
雪子は市役所の企画部企画課のブースに笑顔で現れた。  
2年前に結婚退職したかつての自分の職場であり、  
現在彼女の夫である中嶋貴巳氏の職場でもある。  
「あ〜雪子ちゃんだ、久しぶり!」  
「どうしたの?課長に届け物?」  
比較的小さな市の市役所ゆえにアットホームな雰囲気のここは、、  
退職してからも雪子を暖かく迎えてくれる。  
「そうなんです。お弁当届けに…朝ちょっと間に合わなくて」  
きょろきょろと夫の姿を探すが見当たらない。席を外しているらしい。  
「毎日愛妻弁当か…うちなんて毎日職員食堂だよ。羨ましい」  
「いいですよね〜。雪子さん、ついでに僕にも作ってくれません?材料費払うし」  
と、雪子と同期の沢木がやや本気の面持ちで言う。  
「ダメ!一つでも毎朝だと結構大変なんですよ?  
沢木さんは彼女に作ってもらって下さい」  
「雪子さんみたいに料理上手な彼女がいたらこんな事言わないっす」  
「褒めても何も出ませんよ…って言いたいとこですけど、これ」  
差し入れに持ってきた重箱を、ブース中央の広いデスクに広げる。  
「おおっ美味しそう!これ手作り?」  
「昨日から仕込んでたんですけど、思ったよりいっぱいできちゃったので…  
皆さんで食後のおやつにどうぞ」  
重箱の中には、小ぶりのおはぎが並んでいる。  
漉し餡、つぶ餡、キナコ、抹茶の四色が見た目にも美しい。  
「雪子ちゃんホントに料理上手だねぇ…私、今度教えてもらいに行こう」  
「まだ若いのにおはぎなんてよく作れるねぇ」  
「洋菓子のほうが難しいですよ、それに私おばあちゃんっ子だったので」  
雪子が料理上手なのは、家庭の事情で高校生のころから家事を一手に引き受けていた  
せいなのだが、それを知っている同僚達はあえてそのことには触れないでいてくれる。  
それが雪子にはありがたかった。  
 
「美味い!最高!」  
「って沢木さん早すぎ!まだお昼ご飯前でしょ」  
「いや〜雪子さんはいいお嫁さんになるね!」  
「もうとっくにお嫁さんですから…」  
沢木と交わす漫才じみた会話も、久しぶりで雪子には楽しかった。  
しかし沢木は本気か嘘かわからないような冗談が好きで、少し反応に困ることもある。  
「係長と喧嘩したら僕のとこ来ていいすよ?ダブルベッドだから広いし」  
「沢木さんのお部屋は汚そうだからイヤです」  
「ひどいなぁ〜僕本気なのんごふぅっ?」  
「あ〜喋りながら食べるから。大丈夫ですか?」  
沢木がむせ返ったのは、横に立つ同僚からこっそり脇腹にひじ打ちを喰らったから  
なのだが、おはぎを喉につまらせたと思い込んでいる雪子は、沢木の背中を  
ぽんぽんと叩いて、湯のみを持たせてやる。  
「ゆっ雪子ちゃん、ほら課長帰ってきたよ?」  
と、慌てて別の同僚が強引に雪子を沢木から引き離し、ブースの入り口を指差す。  
そこには、泣く子も黙る無表情・無愛想の鉄仮面が、  
どす黒いオーラを漂わせながら沢木と雪子を凝視していた。  
中嶋貴巳(36)、雪子の12歳年上の夫であり、企画部企画課の課長である。  
30代という若さの課長は異例ではあるが、その有能さを知る誰もが納得している。  
彼の銀縁の眼鏡がキラリと冷たく光るのを、雪子以外のその場にいた全員が  
背筋の凍る思いで見た。  
(…沢木、殺されるぞ…)  
(沢木君かわいそうに…ご愁傷様です)  
当の沢木も、背中に鋭く突き刺さる貴巳の視線に、冷や汗をダラダラ流している。  
凍りついた場の雰囲気に気づいていないのは雪子ばかりだった。  
「あ、お帰りなさい。お弁当遅くなってごめんね」  
「…いつ来たんだ?」  
「今さっきだよ。おはぎも持ってきたから皆さんで食べてね」  
「わかった。…じゃあもう帰りなさい」  
「…え?でもまだ来たばっかりだし」  
「仕事中だ」  
「……はい。」  
「それから沢木」  
「は、はいぃっ!」  
貴巳に呼ばれた沢木が直立不動の体勢になり、裏返った声で返事をする。  
「16時からの会議の資料は?」  
「え〜っと、もう少しでできます」  
「具体的に」  
「…七割くらいっす」  
「七割できてるということか?」  
「いや…えっと、あと七割っていいますか…」  
「ほう」  
「…すいません、すぐやりますっっっ」  
 
同僚たちの哀れみに満ちた視線を浴びながら、沢木はそそくさと自分のデスクに  
戻っていった。  
彼のワイシャツは、秋だというのに背中まで汗でびっしょりと濡れていた…  
 
「えーと、じゃあ私帰ります。皆さん、お邪魔してごめんなさい」  
「いやいや、差し入れありがとうね」  
「雪子ちゃんまた遊びに来てね」  
「はい、ありがとうございます。それじゃ」  
 
(…なんか、貴巳さん怒ってる…)  
叱られた子供のようにしょんぼりとして、雪子は元職場を後にした。  
 
 
(大体、雪子は少し鈍すぎる)  
家路につく車の中で、ハンドルを握りながら貴巳は考えた。  
雪子は自分のことを男性受けするタイプではないと思っているようだが、  
それは大きな間違いだ。  
確かに、誰もが眼を奪われるような美人ではないかもしれないが、  
バランスのよい上品な目鼻立ちと、色白できめ細かい肌、  
それに柔らかく優しげな表情。  
雪子が同じ職場に勤めていた当時も、男性職員からかなりの人気だったのだ。  
もっとも雪子自身はそんなことは露知らず、だったのだが…。  
今日のことにしても、沢木が雪子に好意をもっているのは、同僚の誰が見ても  
明らかなのに、雪子自身はまったく気づいていないようだ。  
ただの冗談とでも思っているのだろうか?  
だいたい沢木も、相手にされないのをいいことに調子に乗りすぎである。  
貴巳は私情を仕事にもちこまないことをモットーとしているが、  
午後の会議で案の定、急ごしらえの資料の内容に出席者から質問が集中し、  
しどろもどろで答える沢木を見て、少々いい気味だと思ったのは事実である。  
 
雨がぱらついてきたのでワイパーを動かす。このところ日没後はめっきり寒くなってきた。  
貴巳の好みで、車内には余計な装飾物は一切置いていない。今時珍しいマニュアル車である。  
完璧主義である彼は、オートマ車の変速が、自分の思うタイミングと微妙にずれるのが  
我慢できないのだ。  
ひんやりとしたシフトレバーを握りながら、車内の時計をちらりと見て時間を確認する。  
雪子にメールで知らせた帰宅予定時間まであと4分。ぴったり到着できるはずだ。  
昼間、邪険にされて寂しそうだった雪子が、  
どんな表情で自分を出迎えるのか…そんなことを考えながら、  
駐車場に向かうべくハンドルを切った。  
 
 
一方そのころの雪子は時計をこまめに確認しながら、  
夕食の最後の仕上げにおおわらわだった。  
夫は、メールで予告した時間から1分と違わずに正確に帰宅する。  
そのタイミングに合わせて、出来立ての夕食を用意するのが雪子の一日のうち  
一番大事かつ大変な仕事である。  
(お魚はさっき裏返したし、あとは煮物を盛り付けて…  
あ、おみそ汁に味噌入れなきゃ!あ〜あと3分しかない…)  
くるくると動き回って料理を作る様は、懐かしの「料理の鉄人」さながらである。  
(箸置きとお箸並べて…よし、これでOKかな)  
ようやく夕食がテーブルにセッティングされた。とほぼ同時に玄関のドアの開く音がする。  
「貴巳さんおかえりなさい、お疲れ様でした」  
「………」  
夫の無表情で無愛想な態度はいつものことだったが、  
昼間のことがあったため、雪子は少しびくっとした。  
まだ怒っているんだろうか…?  
しかし貴巳の表情からそれは伺い知れない。というか、  
彼の表情から何か窺い知れることのほうが圧倒的に少ないのだ。  
よく知らない人が見たら、貴巳は四六時中不機嫌な人間だと思われるだろう。  
コートと鞄を受け取りハンガーに掛けると、雨が降ってきたのか僅かに水滴がついている。  
それをタオルでぬぐいながら、  
どのタイミングで今日のことについて話すべきか、雪子は迷っていた。  
 
食卓についた二人だったが、気まずい沈黙が続いている。  
テーブルの上には、新鮮なアジの塩焼きと筑前煮、揚げたジャコと水菜のサラダに  
大根と油揚げのみそ汁が並んでいる。  
貴巳の好みに合わせて和食中心のメニューである。  
いつもなら、口数の少ない夫も、この煮物は美味いとか、その程度の会話はあるのだが、  
今日に限ってそれもない。  
黙ったまま夕食の箸を置くと、沈黙に耐え切れなくなった雪子が切り出した。  
 
「貴巳さん、今日はごめんなさい」  
妻が、思い切ったようにぺこりと頭を下げる。  
「…何のことについて?」  
わかっているくせにそんなことを聞く自分も少し意地が悪い、と思ったが、  
雪子が困っているときの顔はなんとも可愛らしいのだから仕方ない。  
少し困らせて、その表情を楽しみながら、今夜は身体のほうもじっくり可愛がってやろう。  
案の定、雪子は頬を少し赤くしてうつむいて、口ごもる。  
しかしその口から出た言葉は、貴巳の予想外のものだった。  
 
「えっとね、お仕事の邪魔、しちゃったなぁって」  
「…え?」  
「あのあと考えたんだけど、貴巳さんやっぱり、私が職場に行くのが嫌なんでしょう?  
私情持ち込むの嫌いだし。私も、元自分の職場だからって、遊びに行くみたいな気分で  
おやつとか持って行って、いけなかったなって反省したの。  
やっぱり職場は男の戦場だもんね?」  
 
「…………違う」  
「え?」  
何ということだ。───に気づいていないとは。  
瞬間的に、怒りに似た激しい感情が湧き上がる。  
自分でもなぜそんな気分になるのかわからない。  
きょとんとした雪子の表情には、憎らしいほど邪気が無くて。  
それが更に貴巳の劣情をかりたてた。  
おもむろに雪子をダイニングセットの椅子から抱き上げると、  
乱暴にソファに押し倒す。  
「ちょっ、貴巳さん、なにするの?!やめて!」  
突然のことに驚いて抵抗する雪子にかまわず、無理やりスカートとセーターを捲りあげる。  
眼に染み入るように白い肌が、急に外気にさらされて震えている。  
「い、やぁ…違うって、なに…?私、悪かったらちゃんと謝るから、乱暴にしないでよぉ…」  
目尻に涙を浮かべて雪子が懇願する。  
付き合い初めてから今まで、そんな乱暴な扱いを受けたことがなかったし、  
怯えるのも無理からぬことではある。  
しかし今の貴巳には、そんな態度さえ神経を逆撫でする原因になった。  
ブラジャーを強引にずり下げて、いきなり強く乳首を吸い上げた。  
「あああああんんっっっ!やだぁ、貴巳さん、なんで…?」  
 
何故だろう。おかしい。  
元々自分はこんな人間ではなかったはずだ。  
常に冷静沈着に、理性的に判断することが一番だと思ってずっと生きてきたのに。  
雪子が気づかないというだけの理由で…  
気づかない?  
───何に?  
 
「久しぶりに沢木と話して、楽しかったか?」  
貴巳は自分の口から出た台詞に驚き、そして悟った。  
雪子が気づかなかったこと──自分が、沢木に嫉妬しているという事実。  
今、貴巳の中に渦巻く感情は、雪子への怒りではなく、  
嫉妬などという、これまでの自分がもっとも軽蔑し遠ざけていた感情に支配されている、  
自分への戸惑いと苛立ちだということ。  
 
「沢木さん?何で今そんなこと…」  
雪子の口から他の男の名前が呼ばれるだけで、無性に苛立ってしまう。  
冷静にならなければ、と自分に言い聞かせるが、  
一度暴走を始めた感情はとどまるところを知らない。  
乱暴に雪子の唇をむさぼり、舌を強く吸い上げる。  
息が苦しくなるまで存分にやわらかな口内を味わい、ようやく離した。  
 
そして雪子も、ようやく貴巳の秘めた感情に思い至った。  
おずおずと口を開く。  
「貴巳さん…もしかして、やきもち?」  
信じられない事実。  
あの貴巳が。陰で鉄仮面とあだ名され、無表情無愛想正確無比のロボットのような貴巳が?  
ちょっと親しく話しただけの元同僚に、嫉妬しているなんて。  
「信じられない…もしかして、沢木さんと私が何かある、とか疑ってる?」  
だとしたら殴ってやろうか、と半ば本気で雪子は思った。無性に腹が立ってきた。  
「いや、それはない」  
即答されて少し安心したが、じゃあ何故そんなに貴巳が怒っているのか理解できない。  
「だったら、やきもちなんて妬く必要ないじゃない?」  
「……雪子が、他の男と楽しそうにしているのが非常に不快なんだと、  
今さっき気づいたところだ」  
「そんな!貴巳さん以外の男の人と、これから一生楽しく喋っちゃいけないってこと?」  
 
そうだ、  
と喉から出そうになった言葉を、貴巳は必死で飲み込んだ。  
なんていう醜態だろう。  
理性的に考えれば、雪子に無理な要求をしているのは自分のほうだ。  
浮気をしているわけじゃなし、知り合いの男性と会話することまで禁止する権利は  
自分には無い。当たり前のことだ。  
しかし暴走する感情は、それでは納得してくれない。  
雪子を自分だけのものにしておきたい。  
できれば、誰の眼にもふれさせたくない。  
その眼も声も肌も胸も手足も、全て自分だけのために存在していて欲しい。  
自分はこんなに浅ましい人間だったのか。  
今まで理性で押し隠していた醜いエゴが、一気に噴出するようだ。  
 
ぶつけるような勢いで再び雪子の唇を吸い、胸をめちゃめちゃにもみしだく。  
「やだっ…貴巳さん、やめて!やめてってばっっ!」  
抵抗する雪子を無理やり押さえつけ、下着を引きちぎらんばかりに剥ぎ取った。  
電気のついた明るい室内で、夫の目の前に性器をむき出しにされた羞恥で、  
雪子の肌がさぁっと紅く染まり震えている。  
いつもなら丹念に時間をかけて愛撫し、十分に潤してから事に及ぶのだが、  
今日の貴巳にはそんな余裕はなかった。  
雪子の膝を割り広げ、まだ口を閉じたままのピンク色の秘部に、舌を這わせ吸い上げる。  
唾液をたっぷりとまぶしつけた舌で、強引に秘口をこじ開けて潤す。  
同時に、クリトリスを指の腹でぐりぐりと強めに刺激すると、悲鳴のような嬌声が漏れた。  
「ひゃ、あ、ああああああああっっっ!だめ!ダメえぇぇぇぇぇっっ!」  
敏感な部分への激しすぎる責めに耐え切れず、意に反して雪子が絶頂に達する。  
膣口がびくんびくんと痙攣し、貴巳の舌を締め付け、  
いやらしい味のする液体がじわりと奥深くから滲み出てきた。   
それを確認すると、貴巳は痛いほどたぎる自分自身のものを取り出し、  
前戯らしい前戯もなしに強引に挿入した。  
ズプゥゥゥゥッッッ!  
「や、あっやだあぁぁぁ!ひっ…んうぅ…」  
やはりいつもよりも潤いが足りないのか、ぎちぎちと引っかかり、  
ただでさえ狭い雪子のオマ○コが、容赦なく貴巳自身を締め付ける。  
たまらず強引に抜き差しをすると、雪子が泣き声をあげた。  
「いた、いたあい…貴巳さん、たかみさんっ…」  
 
貴巳は、なんてひどいことをしているのかと冷静に頭の片隅で思う一方で、  
雪子をめちゃくちゃに壊してやりたい──  
オマ○コに精液撒き散らして、自分だけのものだという印をつけてやりたいと思う、  
手に負えない激しい衝動に突き動かされていた。  
自分の快楽と支配欲のためだけに激しく腰を使い、そして絶頂に達する。  
ドクン、ドクンと濃厚な精液を胎内に噴出し、荒く息をしながら、改めて雪子の様子を見て、  
貴巳はようやく我に返った。  
 
雪子が、自分の身体の下で、顔を手でおおいながらすすり泣いていた。  
今更ながら、貴巳は激しい後悔に襲われる。  
自分はなんということをしてしまったのか。これではまるでレイプではないか。  
「うえっ…ひっ…ぐ…」雪子が嗚咽を漏らす。  
「すまない…雪子、本当に悪かった」  
萎えた自分のものをあわてて抜き去り、雪子を抱き上げようとしたが、  
その腕は雪子に振り払われた。  
「イヤだって…言ったのに…痛いって言ったのに、貴巳さんやめてくれなかった…」  
「…悪かった…」  
謝る以外に返す言葉もない。自分が心底情けなかった。  
 
 
夕食の時とは比較にならない、ひどく重い沈黙が続く。  
じっとしていたら窒息するのではないかと錯覚するほど、重苦しい静寂。  
おもむろに雪子が震える膝で立ち上がり、剥ぎ取られた下着をつけ身づくろいをはじめた。  
貴巳と眼を合わさずに、無言でリビングから出て行き、  
そして、貴巳の耳に、玄関のドアが閉まる音が響いた。  
 
すぐに追いかけるべきだと思ったが、あまりの虚脱感に、  
貴巳はしばし呆然と立ち尽くしていた。  
そんな自分も、先ほどまでの獣じみた行動も。  
貴巳が36年間生きてきて、初めて経験したものだった。  
 
 
 
タクシーから降りると、雨は本降りになっていた。  
(やっぱり傘、持ってくればよかった…)  
雪子は小走りに、母の家の玄関に向かう。  
自宅を出るとき、とっさに財布だけは持ってきたものの、  
雨は小降りだったし、傘のことまで考える余裕がなかったのだ。  
考えなしに家を出たものの、夜中に友達の家に押しかけるわけにはいかない。  
かといってこんな時間に開いているのは、駅前の居酒屋やクラブくらいだ。  
女性が一人で行くのはかなり勇気がいる。だいたい雪子は酒がほとんど飲めない。  
迷った末、近くの商店街まで出てタクシーを拾い、同じ市内にある母の家の住所を告げた。  
 
3度目のチャイムを鳴らしたが、応答は無かった。  
カーテンの隙間からも灯りはもれてこない。  
周りの家と比べても大きく立派な作りのこの一戸建ては、  
雪子の母が住んではいるが、雪子の実家というわけではない。  
実の父は雪子が高校生のときに事故で亡くなり、  
この家は母の再婚相手の家なのだ。  
母と再婚相手の義父、それに義父の連れ子の圭一という高校生の男の子が3人で住んでいる。  
母が再婚したのは、雪子が結婚する半年あまり前なので、雪子がこの家に住んでいたのも  
わずか半年ほどである。合鍵も返してしまって雪子の手元にはない。  
義父は雪子をとても可愛がってくれているが、  
やはり自分の実家のように振舞うわけにはいかない。  
夜中に押しかけるのは気がひけたが、他に行くあてもなかった。  
 
(留守なのかなぁ…圭一くんもいないってことは旅行とか…?困ったな)  
もう幾度目かのチャイムにも、家の中はひっそりと静まりかえっている。  
雨が激しさを増してきた。気温もどんどん下がってきて、びしょ濡れの雪子の身体は  
がたがたと震えだした。  
雪子を乗せてきたタクシーはとっくに走り去ってしまったし、  
電話でタクシーを呼ぼうにも、携帯はリビングの机に置いてきてしまった。  
この辺りは住宅街で夜は人気もなく、バスも最終便の時刻を過ぎている。うかつだった。  
ひどく心細くて、子供のように大声で泣き出したい気分だった。  
(とにかく…コンビニで傘とタオル買おう)  
コンビニまでは歩いて10分ほど。公衆電話があればタクシーが呼べるのだが、  
生憎そこには無かったはずだ。傘を買って、その後はどうするべきか…  
家には戻りたくない。夫のことをあんなに怖いと思ったのは初めてだった。  
自分は貴巳を信用できなくなっている、そのことが何よりも悲しい。  
土砂降りの中をうなだれて歩きながら、雪子は寒さと、寂しさに震えていた。  
 
 
(煙草と…あと明日の朝のパンでも買ってくか…しかし寒みーな…あれ?)  
沢木勇治は、自分の眼を疑った。  
夜中にコンビニの前で、傘もささずびしょ濡れの女性が、スカートの水滴をしぼっている。  
そのひとの顔を認めて、思わず大声を上げた。  
「雪子さんじゃないっすか!こんなところで何してるんですか?」  
びっくりして顔を上げたのは、まさしく中嶋雪子であった。  
「うわぁびしょ濡れ!風邪ひきますよそんなんじゃ」  
「沢木さん、なんでこんなとこに?!」  
「俺のアパートこのすぐ先なんですって。雪子さんこそどうしたんですか?」  
「あ………いや、ちょっと…母の家に来たんですけど、留守みたいで…」  
夜中に一人で傘もささずにいることの説明にはなっていない。  
しかもよく見ると、雪子の瞳は真っ赤に充血している。  
「もしかして…課長と喧嘩したんすか?」  
「………」  
「あーいや、変なこと聞いてすんません!とりあえずそれじゃ絶対風邪引くんで、  
タオル貸しますから俺の部屋に来てください!」  
「え…でも…」  
「いや、絶対、神に誓って、変なことしないっすから!身体あったまったら、  
車で送っていくんで」  
「でも、そんな迷惑かけられないですし」  
夜中に男性の家に上がりこむなんて経験はなかったし、ましてや相手は  
喧嘩の原因の沢木その人である。  
しかし、ここで意地を張って断っても、他にどうすることができるだろうか?  
有難い申し出なのは確かである。  
雪子が迷っていると、  
「雪子さんこのままにしとくほうがよっぽど気になります!とりあえず来てください」  
沢木はやや強引に雪子の腕をとり、自宅へと引っ張っていった。  
(しょうがない…お言葉に甘えさせてもらおう。沢木さん何もしないって言ってるし…)  
 
男の「何もしないから」という言葉を鵜呑みにする24歳の女性。天然記念物並みである。  
 
洗面所からバスタオルをありったけ持って部屋に戻ってくると、雪子がソファの前で  
暖かい缶コーヒーを手に立っていた。  
座っていてくれと言ったのだが、ソファが濡れるので遠慮しているようだ。  
「これ使ってください。エアコンもっと強めましょうか?」  
「ありがとうございます…沢木さん、ほんとに迷惑かけてごめんなさい」  
バスタオルを敷いてその上に腰を下ろした雪子が、深々と頭を下げる。  
「いや、全然気にしないで下さい…っていうか、もしかして、  
喧嘩の原因って俺の昼間のアレっすか…?」  
恐る恐る聞くと、雪子は困ったような表情になる。図星のようだ。  
「だったら謝るのは俺のほうですよ…ホントすいません」  
「いや、そんな、沢木さんは悪くないです!なんていうか、私達の問題で…」  
うつむいた雪子の前髪から雫がつたって落ちる。  
蒼ざめた雪子の横顔に、沢木は思わず見とれた。  
決して華やかな美人というわけではない。服装も雰囲気も地味だし、  
むしろ目立たない部類に入るほうだと思う。  
だが沢木は、いつからか自分でもわからないうちに、雪子に恋をしていた。  
雪子のやわらかそうな唇や真っ白な頬、落ち着いた優しい声やおっとりした物腰…  
そんなことばかり考えている自分に気づいたのは、雪子が結婚退職する3ヶ月ほど前の  
ことだった。  
恋愛に関しては積極派だと自負していたが、雪子に対しては何故か勝手が違い、  
想いを伝えようかどうしようか、まるで中学生のように迷っているうちに、  
相手の結婚というこれ以上ない失恋をしたわけである。  
まして相手は、恋愛などという浮ついたことから軽く50光年は隔たっているイメージの  
”鉄仮面”中嶋貴巳氏だという。  
あまりのショックに、沢木はその後1週間というもの、毎晩飲み歩き自棄酒を喰らった。  
 
その恋焦がれた雪子が今、自分の部屋で、手を伸ばせば触れられるほどの距離にいる。  
濡れた服がぴったりと身体に張り付いて、日ごろ隠されている柔らかな曲線があらわになり、  
うっすらと下着のラインも透けている。  
そして…  
まさかとは思ったが、エアコンの温風にあたっている雪子の身体から、  
かすかにいやらしい匂いがするような気がする。  
嗅ぎ覚えのある、男の精液と、女性の…  
そこまで考えたところで、自分の鼻息が荒くなっていることを自覚し、  
沢木は慌てて雪子から眼をそらした。  
(いやいやいやいや!何考えてるんだ俺は!)  
ここで雪子に手を出したりしたら、後はどんなことになるのか想像するのも恐ろしい。  
幸いなことに公務員なので、クビにされたりはしないだろうが、  
しかし毎日職場で中嶋貴巳氏と顔をつきあわせるのだから、  
ばれるにせよばれないにせよ、寿命が縮みまくるのは間違いない。  
(そんなことになったら、絶対早死にするぞ、俺…)  
就職氷河期を勝ち抜いてやっと手に入れた安定職である。つつがなく定年まで勤めたい。  
落ち着け自分、鎮まれ息子…と自らに言い聞かせていると、雪子が口を開いた。  
 
「貴巳さん…どうしてあんなことで怒ったりするんでしょう…沢木さんも、とばっちりで、  
嫌な思いさせて本当にごめんなさい」  
心の底から自分に申し訳ないと思っているのだろう。雪子には何も責任は無いのに…  
自分を見上げる雪子のうるんだ眼差しに、沢木の心臓は高鳴った。  
さっきから雪子は謝ってばかりだ。涙を必死でこらえている姿が何とも可憐で、  
つい先ほどの硬い決意もよそに、上司に対する怒りがこみ上げてくる。  
こんなに健気で可愛らしい妻を泣かせるなんて、男として失格ではないだろうか。  
大体、あの鉄仮面のどこが良いのだ?  
家でもあんなふうで、ろくに甘い言葉もかけてやらないんじゃないのか。  
「俺だったらもっと雪子さん幸せにしますよ」  
思っていることがぽろっと口から出てしまい、沢木は慌てた。  
「…え?」  
雪子は、きょとんとした顔で自分を見つめている。  
本当に自分の気持ちに気づいていなかったとは…奥手にも程がある。  
こうなったらヤケクソだ、と腹を決めた。  
「俺だったら、そんなふうに泣かせたりしません。俺じゃダメっすか」  
「そんな、沢木さん冗談やめて」  
「冗談だと思いますか?本当に?」  
そう言って、沢木は雪子を、力強く抱き寄せた。  
「沢木さん!?止めてください、お願い!」  
雪子は最初のうち抵抗していたが、男の力にかなう筈も無い。  
 
(離れなきゃ、貴巳さんに悪い…)そう思う一方、  
ずっと雨のなか心細い思いをしていたせいか、人肌のぬくもりがひどく心地いい。  
貴巳に対する怒りも未だ収まってはいないが、かといって沢木の想いを受け入れられる  
はずもなく、雪子はただ混乱し、呆然としていた。  
(確かに、もし沢木さんが旦那さんだったら、明るくて楽しい家庭だろうな…)  
ふとそんなことを考えてしまう。  
貴巳との生活にはない賑やかさ。憧れないといったら嘘になる。  
そんな雪子の逡巡を見透かしたかのように、沢木の唇が雪子の首筋に寄せられた。  
暖かい息のかかる感触に、肌がぞくりと粟立つ。不快なのか、快感なのか、  
それすらも今の雪子には判断できない。  
しかし、  
そこはさっき、貴巳さんが唇でなぞったのと同じ場所だ───  
そう思った瞬間、雪子は自分でも信じられないほどの力で  
沢木の身体を突き飛ばし、離れていた。  
「あ………」  
「……ダメですか」  
「………ごめんなさい…」  
拒絶され、沢木は唇を噛み締める。  
「…課長のどこがいいんだよ?本当に雪子さん課長が好きなんですか!」  
そう問われて、改めて雪子は先ほどの貴巳の変貌ぶりを思い出していた。  
 
───雪子が、他の男と楽しそうにしているのが不快なんだ───  
 
今までに見たことの無い夫の姿は、裏を返せば、夫が必死で隠してきた姿ではなかったか。  
嫉妬や、戸惑いや、甘えを…  
誰もが当たり前に持っている感情を、貴巳は表に出すことが恥ずかしいのだ。  
だからこそあんなにも頑なに、無表情と無愛想を通してきたんだろう。  
なんて頑固で、そして不器用な人なのだろうか。  
貴巳だって、嫉妬もすれば理性を失うこともある、普通の人間だったのだ──  
 
「…好きです。貴巳さんが…好きです」  
ぽろぽろと涙をこぼしながら、それでもはっきりとした口調で言う。  
そうして沢木は、自分が完全に、完膚なきまでに失恋したことを悟った。  
 
 
一方、中嶋貴巳氏はようやく自分を取り戻し、必死で雪子を探しているところだった。  
携帯は家に置きっぱなしだったし、心当たりといえば何箇所かの友人の家と  
雪子の母親の家、それに可能性は少ないが自分の実家くらいだ。  
考えられる限りの場所に連絡をし、どこにも雪子が行っていないと知ると、  
家を飛び出し車で探しに出た。  
まず初めに目指したのは雪子の母親の家だ。  
電話が留守電になっており、不在であるらしいが、雪子がそれを知らずに  
向かった可能性もあると思ったのだ。  
しかし空振りだったようだ。  
駅前まで戻り、飲食店なども探したが、  
開いている店を全て廻っても雪子の姿はなかった。  
終電も終バスも既に無かった筈だ。傘も持っていった様子はないし、  
どこへ行ってしまったのか…今更ながらに自分の愚かな行為が悔やまれて、  
ハンドルに拳を力いっぱい叩き付けた。  
と、自分の携帯の着信音が鳴る。  
慌てて表示を見ると、沢木からである。  
なぜこんな夜中に…と嫌な予感がした。  
「…はい中嶋です」  
「課長?沢木です。」  
「…どうした?」  
「どうしたじゃないっすよ…今どこですか?雪子さんうちにいますから、  
心配だったらさっさと迎えに来てください!  
あ、変な想像しないで下さいよね?びしょ濡れで泣いてたからタオル貸しただけなんで!  
中央1条通りのセブンの前で待ってますから。何分で来れます?」  
「…あ、そうだな…10分だ」  
「10分ですね?早く来てくださいよ」  
ブツッ。ツーツーツー…  
いつもちゃらんぽらんな沢木とも思えない態度である。何をそんなに怒っているのか?  
そして何故雪子は沢木の家にいるのか?まさか本当に浮気しているわけでもないだろうが…  
しかし取り合えず雪子の所在が知れたことで、貴巳は安堵の溜息をつき、車を発進させた。  
 
指定されたコンビニの前に車を停めて降りると、  
あれだけ大降りだった雨がいつの間にか上がっていた。  
店の入り口の横に、雪子と沢木が並んで立っている。  
雪子は、沢木から借りたらしいぶかぶかの男物のロングコートにくるまっている。  
二人は貴巳が近づいても無言のままで、雪子は地面をじっと見つめているし、沢木は何故か  
ふてくされた表情をしている。  
雪子に話しかけるのが怖いと思うのは初めてだ。  
「………雪子、本当に、悪かった。許してくれないか」  
パーン!という大きな音と共に、自分の頬に熱い衝撃が走った。  
雪子に平手打ちされたのだ、と理解するまでにたっぷり2秒ほどかかった。  
呆然として目の前の可憐な妻を見る。  
雪子が腰に手を当て、自分の顔を見つめて、高らかに言い放った。  
「許します!」  
「………え?」  
自分は今、これまでの人生で一番、間の抜けた顔をしているに違いない。  
 
「さ、帰ろ。沢木さん本当にごめんなさい。コート、クリーニングして返します」  
「いや安物だしそのままでいっすよ。風邪引くといけないんで家まで着てって下さい」  
「そうですか…ほんとに色々ありがとうございました」  
雪子は沢木に深々と頭を下げる。沢木も雪子に対しては穏やかな表情で応えている。  
「沢木、本当に迷惑かけて悪かった」  
貴巳がそう言うと、沢木は苦虫を噛み潰したような顔で、  
「ホントですよ。結局ラブラブじゃないすか…」と投げやりに言うと、  
小声でこう付け足した。  
「あ、俺が雪子さんけしかけたんで。許すにしても一発殴ってやれって。  
だから雪子さん怒らないであげて下さい」  
「…ありがとう。あ、それから沢木」  
「何すか」  
「この間の会議の議事録、明日10時の提出期限、厳守だからな」  
「えええええ〜〜〜!それ今の話の流れで言うことっすか!」  
「仕事に私情は挟まないことにしている」  
「へいへい…んじゃ気をつけて愛の巣へお帰りくださいね〜」  
精一杯の嫌味をこめて二人を送り出し、沢木は溜息をついた。  
(喰えない上司だよ…さすが鉄仮面)  
 
 
帰り道の車の中で、雪子は安堵からか、いつの間にかうとうとしていた。  
そっと揺り動かされ、名前を呼ばれて、目が覚めた。  
「着いたよ」  
夫の顔が目の前にある。心なしか、いつもよりも優しい表情をしている気がする。  
さっき自分が殴った左頬が赤くなっている。いくら怒っていたとはいえ、  
随分思い切ったことをしてしまった。  
そっとそこを指でなぞって、謝ろうとした。  
「貴巳さん、さっきはごふぇくしゅんっっ!!!」  
ものすごく派手なくしゃみであった。しかも、貴巳の顔のまん前で。  
「ご、ごめん…ううん、くしゃみのことじゃなくて、いや、くしゃみもなんだけど…」  
ハンカチで顔を拭いながら、「とにかく風呂だな」と貴巳が言った。  
 
雪子は貴巳に抱えられるようにして風呂場へ連れていかれた。  
まだ湿っている服を脱ぐのに四苦八苦しているうちに、  
貴巳は浴槽に湯をはり、風呂の準備をしてくれた。  
「ねえ貴巳さん」  
入浴剤を、容器のふたで計っている夫に話しかける。  
「何だ?」  
「私が出て行って、心配だった?」  
「………準備できたぞ。よく温まっておいで」  
質問には答えずにそそくさと風呂場を出て行こうとする夫の腕をつかんで引き止める。  
自分は既に全裸になっていて、ちょっと恥ずかしいが、このままごまかされるのは悔しい。  
「答えきいてないよ?」  
「……知ってるはずだ」  
この人は本当に、ずるい。  
首筋に腕を回して抱きつきながら眼を覗き込んでみた。目を逸らすところをみると、  
やっぱり照れてるみたいだ。  
「ね、貴巳さんも脱いで?」  
貴巳の服を脱がせにかかった。夫は特に抵抗せず、されるがままになっている。  
(貴巳さんって、細身に見えるけど意外と筋肉質だよなぁ…)  
いたずら心を起こして、引き締まった脇腹にそっと指を滑らせると、ぴくんと貴巳の身体が  
揺れた。そのまま背中に手を回し、ぎゅっと抱きつく。  
「…ちゃんと風呂に入りなさい」  
「いいよ…このままで十分暖かいから…」  
夫の肌の温もりと匂いに包まれて、うっとりとして雪子は言う。  
「駄目だ、身体が冷え切ってる」  
「じゃあ、貴巳さんも一緒に入ろ?」  
 
雪子は貴巳の上に仰向けになるようにして浴槽につかった。  
湯の温かさと、肌と肌が触れ合う感触が心地いい。  
貴巳の肩に頭をもたせかけて、うっとりと夫の顔を見つめる。  
自然に二人の唇が重なりあい、やがて深く濃厚なキスになる…  
(貴巳さんの…硬くなってる)  
尻に当たる貴巳自身の感触に、雪子の身体の内側に火が灯る。  
「あ…んっ」  
向かい合わせに抱き合うように身体の位置を変えると、敏感な乳首と秘部がこすれて、  
思わず声が漏れてしまった。  
雪子は耐え切れず、お互いの熱を帯びる性器を擦り合わせるように動かす。  
ぞくぞくする快感が背筋を這い登り、ますます激しく腰が動いてしまう。  
「ああああああんっっっ!やぁ…きもち、いっ…」  
(なんか…私、今日、すごいえっちかも…)  
今までにないほど大胆になっている自分を自覚して、雪子は耳まで真っ赤になった。  
自分の秘裂から、お湯とは違うぬるぬるしたものが分泌されているのがわかる。  
貴巳のモノもますます硬さを増し、入り口が擦られるたびに今にも膣内に這入ってきそうだ。  
(もう…欲しい…貴巳さんのが…)  
耐え切れずに自分の胎内に、貴巳の肉棒を導き入れようとする。  
しかし挿入の直前に、貴巳に腰を掴まれて阻止されてしまった。  
「やだぁ…貴巳さん、なんで?このまま…」  
「駄目だ。風邪ひくだろう?」  
「さっきからそればっかり…じゃあ、ベッド行こうよ…」  
貴巳は、先程無理やりのように犯してしまったこともあり、今日は雪子の身体を気遣って  
ゆっくり休ませなければと思っていたが、  
普段からは考えられないほど積極的な雪子の痴態に、その決心も風前の灯だった。  
 
 
エアコンを効かせた寝室のベッドに、雪子をそっと横たわらせる。  
上気した肌は風呂で温まったせいばかりではない。  
絹のようにすべすべとした、柔らかい雪子の肌の感触を楽しむように、体中を優しく  
愛撫すると、雪子の身体がいちいち敏感に跳ね上がる。  
首筋から胸元、へそ、腰骨のあたり…  
肝心な部分をわざと避けて舌を這わせると、  
「ふうぅんっ…くふうっ」と鼻にかかった声をあげて抱きついてくる。  
柔らかな唇をついばみ、覗いた舌先をちろちろと焦らすように愛撫すると、  
必死で吸い付こうとしてくるようすが何ともいえず可愛らしい。  
まるで、毛並みのよい真っ白な子猫のようだ。  
唇を離すと、じっと雪子が貴巳の目を見つめている。  
「さっき…痛かっただろう?大丈夫か?」  
「痛かったし…怖かったんだから…」  
拗ねたように雪子が言う。  
「悪かったよ、本当に…」  
「ほんとに、悪かったと思ってる?」  
「ああ………?!」  
突然雪子ががばっと身体を起こし、逆に自分がベッドに仰向けに押し付けられた。  
「じゃあ、ちょっと仕返しされちゃっても、怒らないよね?」  
「………仕返し?」  
雪子は貴巳の上にまたがり、昂ぶるモノに秘部を密着させて前後に動かしはじめた。  
「はああんっっっ…あっ、ああっ」  
溢れんばかりの蜜を分泌している雪子のマ○コが、くちゅくちゅといやらしい音を立てる。  
「仕返しって…」  
「そう…今度は、あんっ、私が貴巳さんを…っっ、犯しちゃうんだからっ…」  
そう言って雪子は、クリトリスを陰茎にこすり付ける。  
本当に、いつもの雪子からは想像もつかないほど積極的でいやらしい姿だ。  
先程自分を殴ったのがきっかけになったのか、何かのリミッターが外れてしまったようだ。  
自分の腹の上で快感に眉根を寄せ、口を半開きにして喘いでいる表情が何とも扇情的で、  
貴巳自身も痛いほどに張り詰めている。  
耐え切れず雪子の腰を掴んで、挿入しようとすると、           
「だぁめ!今は、私が貴巳さんのこと苛める番なのっ」  
と言って手を外されてしまった。  
雪子の細い指が自分のそそり立つ肉棒に添えられ、滴りおちそうなほど濡れた陰部に  
導かれる。  
先っぽの部分で入り口をくちょくちょと弄びながら、荒い息で雪子が言う。  
「貴巳さん…私のここに…入れたい?」  
形の良い白い胸が揺れる。今まで見たことの無い、雪子の挑発的な表情。  
貴巳の我慢の限界だった。  
「ああ、入れたい…雪子のマ○コに、思いっきり突っ込みたいよ」  
「…嬉しい」  
雪子が、ゆっくりと腰を落とす。  
カリの部分だけを出し入れするようにして焦らされる。入り口を出たり這入ったりするたび、  
カリの段差がこすれて、何ともいえない快感だ。  
「ふぅっ…あ、あんっあ、これ、きもち、いい…」  
雪子は小刻みに腰を上下させながら、とんでもなく色っぽい声を上げる。  
 
(私…きょうはなんか、おかしくなっちゃってる…)  
入り口を擦られる感触に、自分の膣奥から愛液がどんどんと溢れてくるのがわかる。  
上になるのなんて初めてなのに、すごく恥ずかしいのに…  
あまりの快感に、自分を止めることができない。  
入り口だけでは我慢できなくなって、もう少し奥まで導こうと腰を落とす。  
が、快感のあまり震える足には力が入らず、一気に貴巳の上に腰を下ろすような形に  
なってしまった。  
「ああああああああっっっっ!!!あん、奥っ、おくぅぅぅ」  
いきなり膣の最奥まで貫かれ、亀頭がぐりっと押し付けられる。  
激しすぎる快感に身体を揺らすと、その動きが更に、敏感な子宮口を刺激する。  
「ひゃっやぁぁぁぁんいくぅぅ!も、おっ…いっちゃうよおぉぉぉ」  
びくびくと雪子の膣肉が痙攣し、張り詰めた貴巳自身をリズミカルに締め付ける。  
貴巳も耐え切れずに、雪子のマ○コを下から激しく突き上げた。  
「やぁぁぁぁだめぇぇぇ!また、いくのぉ…っあああああああああああああ」  
のけぞった雪子のマ○コから、大量の水のような液体が分泌され噴き出して、  
貴巳の腹から胸を濡らす。自分の身体を支えていられず後ろに倒れこもうとする雪子を  
慌てて抱きとめ、繋がったまま正常位の体勢にすると、貴巳は最後の仕上げにかかった。  
雪子の両足を肩に担ぎ上げ、子宮の中までねじ込もうとするかのように突き上げ、  
また入り口ぎりぎりまで引き出すのを繰り返し、激しくストロークする。  
「きゃ、あああああうぅぅんっあんっ!!すごいぃぃもぉっ助けてぇぇぇあんんっ」  
ほとんど意識を手放している様子の雪子だが、すがる様に貴巳に腕を伸ばしてくる。  
その身体を思い切り抱きしめた。もう、泣かせたりしない───  
「中に出すよ…下の口で全部飲め」そう囁いて、雪子の身体の一番奥へと精を放った。  
ドクンドクンッ………!!!  
「あああああっ!!!」精液が膣内に流れ込む感触に、  
たまらず雪子も最後の絶頂に上り詰めた…  
 
 
「なんか…途中から、やっぱり私が犯されてたような…」  
二人でベッドに横たわり、荒い息を整えている雪子が悔しそうに言う。  
気を抜くとすぐにでも眠ってしまいそうだ。  
一方貴巳は疲れも見せず、平然としている。  
「……俺を犯すのは十年早い、ということかな」  
そう言ってからかうと、雪子はふくれた。  
「十年経ったら、私34歳だよ?」  
「そうだな。俺は46だ」  
「…………」  
返事が無いので雪子の顔を見ると、既にうとうととしている。  
そっと頭を撫でて、布団をかけてやった。  
もう東の空が明るくなってきている。  
自分も少しでも寝ようと布団にもぐると、  
「たかみさん…」と雪子の声。眠っていなかったのだろうか。  
「…長生きしてね」  
まじまじと雪子の顔を見つめたが、やはり眠っているようだ。  
「最大限、努力するよ」そう囁くと、  
無邪気な寝顔に引き込まれるように、貴巳も穏やかな眠りに落ちた。  
 
 
翌朝。  
いつもなら必ず雪子の手作りの弁当があるのだが、  
前日の経緯もあるので、起きて弁当を作れとはさすがに貴巳も言えない。  
一日くらい昼飯を抜いてもかまわないという心積もりだった。  
職員食堂の冷えた揚げ物ばかりの定食や、コンビニの脂っこく塩辛い弁当を食べるくらいなら  
何も食べないほうがまだマシだと思っているのだ。  
が、雪子は健気にも起き出して、弁当を作って持たせてくれた。  
しみじみとわが身の幸せをかみ締めながら、昼休みにデスクで弁当を開いた貴巳は、  
絶句した。  
平べったい四角形の弁当箱一面に、みっちりとおはぎが詰まっているのだ。  
恐る恐る箸でおはぎを一つ摘み上げると、その下にもまたおはぎが見える。  
(………二段だ………)  
身体の力が抜けるのを感じて頭を抱えていると、後ろから沢木の声がした。  
「それ、いらないなら俺が食いますけど?」  
「…誰もいらないとは言っていない」  
「そっすか。い〜な〜愛妻弁当は」  
「…沢木、昨日はうちの雪子に随分優しくしてくれたようだね?」  
「へ?あ、いや〜その」  
「必要以上に」  
「あはは、いや、結局仲直りしたんすよね?だったら俺はダシにされたようなもんで」  
「さっき提出された議事録、形式が違うからもう一度作り直し。指示書をよく読め」  
「えええ?!…仕事に私情は挟まないんじゃなかったんすか?」  
「当たり前だ。どこが私情を挟んでるっていうんだ?」  
「議事録の形式なんて違ってても誰も困らないんじゃ…」  
ぶつくさ言う沢木を自分のデスクに追いやると、  
あまりにも甘い弁当に挑みかかることにした。  
(これも”仕返し”の一環なんだろうか…だとしたら中々効果的だな)  
その日は一日中、胸焼けに苦しんだ中嶋貴巳氏であった。  
 

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