「……遅い」  
中嶋雪子は夫の帰りを待ちわびて、30秒おきに携帯で時間をチェックする。  
別に、普段より特別帰宅時間が遅いわけではない。しかし夫は1時間ほど前に  
「本日は19時25分に帰宅予定」  
とメールを送ってきたのだ。現在時刻は19時29分。4分、遅れている。  
 
雪子の夫である中嶋貴巳(たかみ)氏36歳は、少々特殊なタイプの  
人間だ。  
謹厳実直・正確無比・超がつく無表情・無愛想。  
非常に仕事熱心で有能な地方公務員である彼は、何事も兎に角きっちりとしていないと  
気がすまないらしい。  
帰宅時間はまちまちで、残業して23時近くになることもあるが、  
必ず雪子にメールで帰宅予定時間を知らせてくれる。  
結婚して丸2年、一度も予定時間を過ぎたこともなく、また、  
それよりも早く帰ってきたこともない。1分たりとも、である。  
雪子はたまに、夫が機械じかけで動いているのではないかと、やや本気で疑うのだ。  
 
とにかくそんな夫が、予定時間を4分も過ぎて帰宅しないというのは只事ではない。  
雪子はどうも想像力が豊か過ぎる性質で、だんだんと不安が胸を締め付ける。  
 
帰り道で車が故障した、とか…でもそれなら携帯で連絡くれるよね?  
帰宅間際に上司に仕事振られた?そんな要領悪い人じゃないし…  
事故……いやぁぁダメっ!そんなこと想像するのもダメだやめろ私!  
 
ソファの上で、クッションに顔をうずめて足をばたばたさせていると、  
雪子の携帯が鳴り響いた。貴巳専用のメール着信音「必殺仕事人のテーマ」であるが、  
どんなイントロクイズの達人でも正解は無理であろう早業でメールを開封する。  
 
「申し訳ありませんが、急に同僚と飲みに行くことになりました。  
帰りは0時過ぎを予定しているため、先に寝ていて下さい。」  
 
いつも通りの、味も素っ気も無いメール。  
雪子は、とりあえずほっと安堵の溜息をつき…  
それから急速に、かつ甚だしく不機嫌になった。  
ダイニングの食卓の上には、二人分の夕食がまだほのかに湯気をたてている。  
雪子が、ある思惑をもって、日ごろの数倍の気合を入れて作ったメニューである。  
豚キムチ、ニンニクの素揚げ、レバニラ、山芋とオクラのサラダ。  
すっぽんの生き血だのオットセイエキスだのも入れて見たかったが、  
雪子の住む田舎町では手に入らなかったのである。  
しかしそれでも、出来上がったのは  
あからさま過ぎるほどの精力増進メニューであった。  
 
誤解のないように言っておくが、貴巳は決して精力が弱いほうではない。  
仕事が忙しいときでも、少なくとも週二回は夫婦の営みがあるというのは、  
36歳という彼の年齢からして、少なくはないだろう。  
まして雪子は24歳の、まだ可愛らしい雰囲気のある若妻である。  
二人の夜の生活は、決して寂しいものではなかった…二週間前までは。  
 
雪子が異変に気づいたのは、先週の金曜日のことだ。  
いつもなら、大体週の前半に一回、週末にねっとり濃厚に一回または二回、というのが  
二人の夫婦生活のパターンであった。  
機械仕掛けの夫でも、さすがにその日まできっちり決める気は無いらしい。  
しかし週2〜3回のペースだけは、二人が結婚してから今まで  
きっちりと守られてきたのだ。  
それなのにその週は週末に差し掛かっても、まだ一度もしていない。  
(疲れてるのかな…仕事忙しいみたいだし。)  
少々の物足りなさを感じつつも、1週間がなんとなく過ぎた。  
 
そして今週。日曜、月曜、火曜…と過ぎるごとに、雪子は自分の身体の中を  
ざわつくような熱が満たして、震えだすのを感じていた。  
相変わらず貴巳は雪子に触れようとせず、夜はさっさと眠ってしまう。  
10日以上も放っておかれた身体は、キスだけでもとろとろに溶けてしまいそうなのに。  
すやすやと寝息をたてる夫の横で、思わず胸元や股間に指を伸ばしそうになるのを  
雪子は必死で耐えた。  
自分で慰めて、身体に灯った炎を中途半端に消してしまいたくはなかった。  
透き通るような白い頬をほんのりと赤らめ、そっと溜め息をつく。  
(明日はきっと…してくれる。  
貴巳さんが、私を求めてめちゃくちゃにしてくれる。)  
 
結婚して丸2年が経つが、雪子は自分からセックスを求めたことがなかった。  
男性は貴巳一人しか知らないし、元々奥手なほうなのだ。  
女性のほうから誘うのは、何だかとても恥ずかしいことのような気がしていた。  
ただ、雪子がひたすら受身なのにはもう一つ理由がある。  
彼女の夫、貴巳は、とにかく無表情で無口。  
同僚からは陰で「鉄仮面」とあだ名をつけられている程だ。  
2人が職場の上司と部下として出会ってから6年、  
恋人同士として付き合いだしてからでも3年以上になるが、  
雪子は未だに、貴巳の本心がわからないことの方が多い。というかほとんどだ。  
本当はとても優しくて、責任感のある人なのはよくわかっている。  
ただ、あまりにもその美点が表に―表情や態度に現れないので、  
時々とても不安になるのだ。  
自分は本当に愛されているのか…  
貴巳から必要とされているのだろうか?  
 
二人にはまだ子供がいないので、雪子のすべきことは限られてくる。  
家や衣服を清潔に保ち、美味しい食事を作って、笑顔で夫を出迎えること。  
結婚してから雪子なりに努力して、専業主婦として及第点だと自負してはいる。  
昼食も、毎日弁当を手作りしている。貴巳は出来合いのそうざいが大嫌いなのだ。  
しかしそれが、自分が必要とされている証拠だとするには、何だか頼りない。  
食事は雪子でなくても作れる。掃除も洗濯も…  
そして夫は、甘い言葉なんて天地がひっくり返っても言わない性質だ。  
ときどき、そしてとても深刻に、不安が襲ってくる。  
 
でも、そんな雪子の不安が嘘のように消えてしまう時がある。  
それが、貴巳が雪子を求めてくることだ。  
日常の何気ない動作でさえ分刻みで動いているような夫が、  
唯一自分の欲求をさらけ出し、激しく自分を求め、精を放つ…  
雪子は快感に震えながら、求められ愛される喜びで満たされる。  
夫が自分を求めてくれるということは、雪子にとってこの上ない喜びであり、  
自分の存在価値を認められる安堵そのものだ。  
しかし、そんな貴巳が自分に触れなくなって、もうすぐ2週間。  
雪子はじりじりと疼く身体と、とらえどころのない不安を持て余していた。  
 
(もしかして…もう私の身体に飽きちゃった、とか。  
そりゃ私は胸だって顔だって人並みだし。  
背もちっちゃくて色気ないし。  
取り柄は色白なことくらいだし、  
経験少ないから、ふ、ふぇらちおとか、たぶん下手だし…  
ダメだどんどん落ち込んでくっ。  
…  
きっと、貴巳さん、疲れてるだけだよね。  
仕事のピーク期もやっと終わったって昨日言ってたし。  
よし、今日の晩ご飯は、おもいっきりスタミナつくようなメニューに決定!  
それでゆっくり二人でお風呂に入って、凝った肩をマッサージしてあげよう。  
私は全然呑めないけど、ちょっとだけ晩酌にも付き合おう。  
お疲れ様って、笑顔で。  
そしたらきっと、今夜こそ、してくれるよね…?)  
それなのに。  
 
 
「貴巳さんの馬鹿ぁぁぁぁぁっ!」  
携帯を二つに折らんばかりに握り締め、思わず叫ぶ。  
せっかく頑張って作った夕食なのに。そわそわしながら、ずっと待ってたのに。  
いつもは飲み会の誘いなんてバッサリ断って帰ってくるのに!  
テーブルの上の精力増進メニューが、いつの間にかすっかり冷めている。  
なんだか、一人で空回りしている。バカは自分のほうだ。  
冷えてしまった夕食を見るのも辛い。とても一人で食べる気になれなくて、  
ラップをかけて冷蔵庫に仕舞い込んだ。  
(本当は怒りにまかせてゴミ箱にぶち込みたかったが、どうしても勿体無くて  
できない。いつのまにか根っから主婦体質になったみたいだ…)  
怒りと悲しみと不安がない交ぜになった頭で、  
お茶漬けだけの簡素な食事をして、シャワーを浴び、パジャマを着た。  
こうなったらフテ寝するしかないと、早々にダブルベッドに潜り込む。  
明りを消して横になると、涙がひとりでにぽろぽろと溢れてきた。  
 
(…もう、わたしのこと、欲しくないの…?)  
 
涙を、枕カバーにごしごし擦りつけて拭いた。  
しばらくは眠れないだろうと思っていたが、ここ数日悩みに悩んだ疲れからか、  
雪子はいつの間にか深い眠りについていた。  
 
 
 
髪の毛を優しく撫でられているような感触で、雪子の意識は半分だけ目覚めた。  
 
(なんか気持ちいいなぁ…自分が子猫にでもなったみたい。)  
 
頭を撫でていた指は、ゆっくりと白い頬を滑り、桜色をしたくちびるを優しくなぞる。  
心地よさに、雪子は くふん、と鼻を鳴らす。  
いつまでもこうして、うとうとしていたい…  
薄く開いた瞳に、何かがきらりと光るのが見えた。  
銀縁の眼鏡。さっぱりとした短髪。  
静かだけれど意思の強さを秘めた眼。大きくて節くれだった手。  
紺のスーツに、私が誕生日にプレゼントした、ペンギン柄のネクタイ…  
 
「た、かみ、さん」  
「ただいま雪子。遅くなって悪かった」  
 
そこでようやく、はっきりと眼が覚めた。  
仕事帰りのままの姿の夫が、ベッドのふちに腰掛けて、雪子の寝顔を覗き込んでいた。  
「お帰りなさい、ご飯は?」  
慌てて飛び起き、反射的にそう聞いてから、先ほどの冷えた夕食のことを思い出した。  
なにか暗く重いものが、雪子の心にのしかかる。  
「居酒屋で済ませてきた…どうした?」  
妻の顔が急に暗くくもるのを見て、貴巳はわずかに眉をひそめ、心配そうな顔をする。  
雪子を見つめる瞳が、いつもよりも少し温かい色を帯びているような気がした。  
夫のそんな表情が、雪子の胸を締め付ける。  
「なんでもないよ。お風呂にお湯入れようか」  
無理に明るい声と顔を作って、そそくさとベッドから降りようとするが、  
夫が強い力で腕を握って止めた。  
「そんな顔して、何でもないわけがないだろう」  
そう言って、雪子の目尻に残る涙のあとを指でなぞる。  
この人はどうして、肝心なときにだけ優しいんだろう。  
 
「ごはん…待ってたの。今日はいつもより、頑張って作ったの」  
声がふるえるのを押さえられない。  
掛け布団のカバーをぎゅっと握り締めた。  
「一緒に、ごはん食べて、お風呂も一緒に、はいって、でも…」  
とうとう涙がこぼれてきて、言葉にならない。  
寂しかったの。早く帰ってきて欲しかったの。…素直に、そう言いたいのに。  
 
「…本当に悪かった」  
ふいに、貴巳の胸に力強く抱きしめられた。  
あぁ、貴巳さんの匂いだ…そう思ったとき、雪子は不思議なほどに、  
さっきまでの怒りや不安が消えていくのを感じた。  
苦しいほどに強く抱きしめる夫の腕から、ぐりぐりと頭を出して見つめあう。  
夫は相変わらず鉄のような無表情で、でもその眼には雪子にだけ向けられる、  
暖かい、優しい色が映っている。  
どうして自分がこの人と結婚しようと決めたのか、その瞬間の気持ちを雪子は  
思い出したような気がした。  
頭だけでなく腕も、夫の腕の間からぐりぐりと出して、愛する人を抱きしめる。  
はじめての時のようにぎこちない、でも激しいキス。  
まだ少し震えている自分の唇で、貴巳の唇についばむようにする。  
お互いの舌を少しずつからめて、唾液を混ぜあい、そして激しく舌を吸う…  
濡れた音と、徐々に激しくなる息遣いだけが寝室に響く。  
ついに息が苦しくなって顔を離し、雪子は潤んだ眼で夫をじっと見つめる。  
「…貴巳さん、えっち、して欲しい…したいの」  
 
貴巳は、無言で雪子をベッドに押し倒した。妻のパジャマのボタンを外しながら、  
もう片方の手で器用にも上着を脱ぎ、ネクタイをゆるめ、シャツを脱ぐ。  
どんな時にも冷静沈着をモットーとする彼だが、はだけたパジャマから覗く  
雪子の真っ白な胸元を見て、理性が吹っ飛びそうになるのを辛うじて抑えた。  
妻の肌は、その名前の通り、雪のように白くてきめが細かい。  
触ればどこもかしこも信じられないほど柔らかくて、指が埋もれていくようだ。  
常夜灯のひかえめな灯りのもとで見るその肌は、うっすら上気してピンク色になっている。  
掌に吸い付いてくるような、それでいてすべすべした感触。  
まるで、真っ白な子猫みたいだな…  
そんなことを思いながら、そっと左の乳首を指の腹で撫で上げる。  
「ひゃぅん、っあああ」  
たったそれだけで、まるで挿入されたかのような激しい反応だ。  
さらに指先で乳首をこねくり回しながら、もう片方を口に含んで、舌で吸い上げる。  
「や、ぁぁぁっ、だめぇ!」  
「だめ?じゃあやめようか?」我ながら意地の悪い聞き方だ。  
「ち、違うのっ!…その、あの、久しぶりだから…その…」  
「久しぶりだから?この程度じゃ刺激が足りないのかな?」そう言って、  
激しく乳首を吸ってはすぐ放し、また吸っては放し、をしばらく繰り返すと、  
綺麗なピンク色の乳首がこりこりと勃ちあがってきた。  
「ちっちがうよぉぉ、ひさしぶり、だから、すぐ…い、いっちゃうぅ」  
恥ずかしそうに手で顔を隠しながら喘ぐ雪子の姿に、  
貴巳も理性を抑える自信が無くなってきた。  
舌のざらざらした部分で乳首をめちゃめちゃに舐めまわすと雪子は、  
「あ、あひ、いいいいいっっ」  
まだ秘部に触ってもいないのに、絶頂が近いことを知らせる鼻にかかった声を上げた。  
そこで意地悪く、乳首の刺激をぴたりと止める。  
「あっ…?やだぁ…なんで?」  
「ダメだよ、いかせてやらない…これが雪子の中に入るまでは」  
雪子の手を掴んで、まだズボンを履いたままの自分の股間に導く。  
小さな手が、恐る恐る俺自身を撫で上げた。  
すでに痛いほど張り詰めている肉棒がびくんと反応する。  
「これが欲しかったら、脱がせてくれよ」  
「えっ………う、うん」  
雪子は少しためらったが、頬を染めておずおずとベルトに手を伸ばしてきた。  
困ったような照れたような表情が最高に可愛らしい。  
そんな顔をされたら、苛めてやりたくなってしまうじゃないか。  
俺は伸ばしてきた雪子の両腕を掴み、背中の後ろへ持っていって、  
脱ぎ捨ててあったワイシャツの袖の部分で手際よく縛った。  
何が起こったのかとっさに解らず、きょとんとする雪子に言う。  
「早く脱がせてくれよ…ただし手は使わないでな」  
「…え?………えぇぇぇ?!」  
 
かちり、かちゃ…  
ベルトの金具が歯に当たって音を立てる。  
必死でベルトに歯を立てて、引っ張って金具を外す。  
口でズボンを脱がすのは、想像以上に難しくて、  
何よりも雪子自身が恥ずかしくて死にそうだ。  
ようやくベルトを外し、スーツのズボンのボタンを外す。  
よだれがだらだらと零れ、生地にしみを作っている。  
クリーニングのことを心配する余裕など、今の雪子にはなかった。  
頬に当たる貴巳自身の昂ぶり。布越しにもその熱が伝わってくるようで、  
愛撫されてもいないのに、雪子はどんどんと高まってくる。  
何とかファスナーを下ろしたが、どうやってズボンを腰から下げたらいいのか…  
途方にくれていたら、夫が手を添えて助けてくれた。  
「さて…あと一枚だよ」  
貴巳のものはトランクス越しに激しく自己主張している。  
早くそれに触れたくて、夢中で下着にかぶりついて引っ張った。  
張り詰めた肉棒が引っかかって、なかなかうまくいかずにもどかしい。  
はやく、はやく触れたい。  
下着をよだれでぐちょぐちょにしながら、必死でずり下げた。  
待ちわびたものが、ぶるん、と勢い良く顔を出し、雪子の頬を打つ。  
「あ、はぁ…っ」  
ようやく直に触れる夫の感触に、たったそれだけで軽く達しそうになってしまう。  
恥ずかしいのも忘れて、愛しい夫のものにうっとりと頬ずりをする。  
「良くできました」  
そう言って貴巳が腕のワイシャツをほどいてくれた。  
ようやく自由になった両手で、夫の熱い塊をそっと包む。  
2,3回上下にそっと扱くと、夫の顔が快感に歪む。  
何度もその表情を見慣れた雪子だからこそわかる、わずかな変化。  
(貴巳さんも気持ちいいんだ…)  
夫の反応に勇気付けられて、雪子は初めて自分から、  
夫の高ぶりにそっと舌を這わせた。  
先端をやわらかく唇で挟み、舌先で先端をちろちろと刺激する。  
唾液を塗りつけながら、幹の部分を舐めあげる。  
(どうやったら、気持ちよくなってくれるの…?)  
雪子は恥ずかしさも少しの間忘れ、愛しくてたまらない夫の分身を、  
吸い上げながら口いっぱいにほおばり、さらに喉の奥の奥まで迎え入れた。  
嘔吐中枢が、雪子の意思に背いて反応し、大量の粘っこい唾液が溢れてくる。  
「はぁ…っ、うえ…っっ」  
唾液が、まるで愛液のようにぽたぽたと滴る。  
夫の肉棒が喉の奥でびくびくと動き、息苦しくてたまらない。  
でも、離したくない!  
もっともっと、奥まで入れて、気持ちよくなって欲しい…!  
じゅぷ、じゅぷじゅぷじゅぷっっ…  
 
「…っふ…」  
貴巳はうめき声を上げ、思わず雪子の頭を両手で掴んで、  
唇から陰茎を引き抜いた。  
「けほ、げほっ…ごほっ」  
涙目になりながらむせ返る雪子の背中をさする。  
「雪子…大丈夫か?」  
「うん、平気……あの、痛かった?私ヘタクソで…ごめんね…」  
「いや、すごく良かったよ。我慢できなくなりそうだったから、乱暴にして  
悪かった」  
「ううん」  
雪子は、ヨダレにまみれた上気した顔で、極上の笑みを浮かべている。  
「どうした?」  
「ふふふ…嬉しいの。貴巳さんが、私で気持ちよくなってくれて…」  
可愛い妻に、とんでもなく色っぽい顔でそんなことを言われて、  
冷静でいられる男がいるだろうか?  
常に冷静沈着を旨としている自分も、こればかりは例外だ。反則だ。  
前触れもなく、雪子の両足をがばっと開かせ、  
下着の上から秘部に唇をつけ、激しく吸い上げた。  
「ひゃ、やぅぅぅんんっぅ!!!!あ、ああああああっっ!」  
全く予想していなかったのだろう、突然の局部への激しい責めに、  
雪子は全身を痙攣させるようにして反応する。  
下着は既に、尻のほうにまで大きな染みをつくっている。  
いやらしい雌の匂いが鼻をつく。自分自身も痛いほどに反応している。  
布の上からクリトリスに軽く歯を立てるようにして刺激すると、  
雪子の腰がびくんびくんと大きく震える。  
「あぁぁぁぁ!!いっちゃう!もお、い、くぅぅぅ!!!」  
限界を告げる雪子の声に、またも意地悪く、ぴたりと刺激を止めた。  
「…や、あぁ…なんで?なんでぇぇ?」  
今にも快感の頂点に昇りつめようというところで、突然突き放され、  
雪子が泣き声をあげる。  
「これを入れるまで、いかせてあげないって言っただろう?これが欲しい?」  
自分の猛る肉棒を見せ付けるように扱きながら聞くと、  
雪子は恥も外聞もなく、こくこくと勢い良く頷いた。  
ここからが、最後の仕上げ。  
「欲しかったら、おねだりしてごらん。  
自分で下着を脱いで、オマ○コ自分で広げて、チ○コちょうだいってね」  
ただでさえ上気した雪子の顔が、これ以上ないほど真っ赤に染まる。  
唇が震えてなかなか言葉が出ない様子だが、  
俺が本気なのは良くわかっているようだ。  
あまりの恥ずかしさに眼を伏せながら、ゆっくりと自分の下着に指をかけ…  
もじもじと膝をすり合わせながら、足首まで下ろした。  
そして自分の太ももに両手をかけたが、さすがに足を開くのはためらっている。  
今の今まで、自分からセックスを求めたこともなかった妻だ。当たり前といえば  
当たり前だ。あまりの刺激の強さに戸惑っているのが、手に取るようにわかる。  
しかし今日だけは、手加減するつもりはない。  
「ほら…早くしてくれないと、今日も俺が先に寝てしまうよ?」  
心にもない台詞を吐く。自分自身も我慢の限界を迎えているというのに…  
しかし根っから素直な妻は、  
「待って…ちゃんとするから…おねがい」  
と懇願するように囁いて、泣きそうな表情で、  
自分の太股をゆっくりと開いた。  
俺のモノを待ちわびているそこは、既に愛液を溢れさせながらひくついている。  
色白の雪子の秘部は、唇と同じきれいな桜色をしている。  
今はいやらしく光り、貴巳のものを求めて口をぱくぱくとさせているそこ―  
必死に顔をそむけながら、消え入りそうな声で、雪子がねだる。  
「貴巳さんの―お、おちんちん…入れてください…」  
 
自分のあまりにもはしたない行為が信じられなくて、  
雪子は消えてしまいたいほど恥ずかしかった。  
「良く出来たね…雪子」  
場違いなほど穏やかな声で夫がささやく。  
その瞬間、夫の肉棒が、いきなり膣の一番奥まで入り込んできた。  
ズプッ、ズプププウウウッッッ!  
2週間の間、ずっと待ちわびていた感覚。  
膣口が限界まで拡げられ、亀頭が子宮口をコツコツと叩く感覚に、  
雪子は声もあげずに絶頂を迎えた。  
「…っ、はぁ……っっっっっっ!!!!」  
頭が真っ白になる。オマ○コがびくんびくんと痙攣し、夫の昂ぶる陰茎をぎゅっと  
締め付けた。全身ががくがくと震えている。  
しかし貴巳は容赦せずに、膣口ぎりぎりまで引き抜いては、上の壁を亀頭で小刻みに  
擦りあげ、同時に乳首を舌でめちゃくちゃに嘗め回す。  
「ひゃ、だめ、あっぅぅぅ、だめだめぇぇぇぇ!イッてるのに、動いてるぅぅ!!」  
「すごいな…雪子のオマ○コが絡み付いて、離してくれないよ」  
貴巳の額にも汗が浮かび、眉を寄せて耐えるような表情をしている。が、  
それに気づくような余裕は雪子にはない。  
「あ、んやぁぁっ、もっ、ダメ、びくびくしてやぁぁぁぁぁあああああああ」  
自分が何を口走っているのかすらも解らずに、激流のような快感に身を任せる。  
2度、3度と立て続けにオーガズムに達し、ついには激しすぎる頂点の快感が  
休む暇なく雪子の身体の芯を責め立てた。  
精を搾り取ろうと激しく収縮する膣内の感触に、貴巳も我慢の限界だった。  
「雪子…いくよ」  
「あっぁっあああああああああ!!!っふあぁあんんっっっいくぅぅぅぅ!!」  
亀頭からびゅくびゅくと精液が噴出し、子宮口に勢い良く当たる。  
むしろ子宮が、精液を飲みたがってごくんごくんと喉を鳴らしているような感覚。  
(…下の口で、飲んでるっていう感じ…気持ちいい…)  
頭の片隅でぼんやりとそんな事を考えながら、  
雪子はゆっくりと意識を手放した。  
 
 
 
気が付くと、雪子は整えられた寝具に寝かされ、きちんと肌布団を掛けられていた。  
未だぼんやりとした頭でゆっくりと横を向くと、  
貴巳が穏やかな顔で雪子を見つめていた。  
そんなに長い時間気を失っていたのではなさそうだ。  
「なんか…すごかった、ね」  
「そうだな…俺も2週間も我慢していたしね」  
しれっという夫の言葉に雪子は耳を疑った。  
「へ…?我慢してたの?したくなかったり、できなかったんじゃなく?」  
「そうだよ。予想より期間が長かったし、思いのほか辛かったな…」  
(えーっと、この人、何言ってるんだろう???)  
頭が混乱して、何から訊けばいいのかわからない。  
「…なんで?」  
結局、一番簡素かつ要領を得ない質問をしてしまったのだが、  
夫は、当たり前のことにようにきっぱりと応える。  
「君が自分から欲しがるところを見たかったんだ」と。  
 
「…………………はぁ?」  
「どのくらいの間焦らしたら、君が我慢できなくなって、俺を求めてくるのか  
それが知りたかったというのもあるね」  
信じられないことを当たり前のように話す夫。  
雪子の頭に、久しく忘れていた怒りがふつふつと湧き上がる。  
「貴巳さんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!!」  
べしべしと夫の胸を平手で叩くと、その手はいとも簡単に捕らえられ、  
またベッドに押し倒された。  
「馬鹿で結構。辛い2週間と引き換えに、いつもと違う雪子をたっぷり  
見せてもらえたからね」  
一瞬、貴巳の顔にうっすらと笑みが浮かんだことに、雪子は気づく。  
一年に数えるほどしかない貴巳の笑顔である。  
(あ〜、なんか、すごいレアなものを見たような気が…)  
びっくりしている雪子の耳に、更に驚くべき夫の言葉が入ってくる。  
「さて…じゃあ、溜まってる2週間分、残りをしようか」  
 
「え?ええええええ???無理!絶対無理!!!」  
「さすがに僕も、2週間分で残り5回、とかは無理だけどね。不本意ながら、  
せいぜいあと2回ってところかな…」  
「無理だってば!私、もう腰立たないよぉぉ!」  
「大丈夫だよ、腰が立たなくても体位を工夫すれば、十分セックスは可能だ」  
理解の遅い子供に噛んでふくめるように言う夫に、  
雪子の恨みがましい目線は届いていないようだった。  
 
 
それから約1時間半後。  
雪子は貴巳に、繰り返し、最後のほうは半ば強制的に絶頂に導かれ、  
本当に精も根も尽き果てて、指一本動かせないほど疲労困憊していた。  
一方貴巳は疲れも見せずに平然としている。  
(明日の朝…もう今日か…は絶対起きられないな…まあいいか、土曜日だから  
貴巳さんのお弁当作らなくっていいし。  
しかしこの人、本当に機械仕掛けか…じゃなきゃ超人かぁ?)  
怒りを通り越して呆れてしまう。  
横に寝そべる夫の顔をそっと観察していると、見透かされたように目が合った。  
「そうだ、一つ言い忘れていたんだが」  
「え?」  
「明日は休日出勤することになった」  
「えええ?」  
驚いて声を上げるのは、これで何度目だろう。  
「えっと、で、お昼は…?」  
恐る恐る夫に聞くと、いつもの無表情で、じっと眼を見つめられる。  
(うう…無言の圧力)  
「あのね、たまには、コンビニとかは…?」  
「雪子、僕はね、コンビニ弁当を食べるくらいなら、  
一日何も食べないほうがまだマシだと思っているんだ」  
「えーとじゃあ、出前を取っ」  
「弁当をよろしく頼む」  
ぴしゃりと断言する夫。  
「貴巳さんのオニぃぃぃぃぃ!!!」  
時計の針は、午前三時を指していた―  
 
 
 
翌日。  
貴巳は、昨夜の疲れなど露ほども見せず、  
いつも通りにてきぱきと業務をこなし、昼休みを迎えた。  
ふらふらしながら雪子が持たせてくれた弁当を机の上に出す。  
(さすがに可哀相だったかな…しかし律儀に弁当を作ってくれるところが  
可愛い。実にけなげだ。料理も上手いし、結婚して良かった…)  
と、鉄仮面の奥で幸せをかみ締めながら弁当のふたを開け、  
中嶋貴巳氏は、ほぼ1年半ぶりに心底驚いたのであった。  
 
弁当箱には、豚キムチ、ニンニクの素揚げ、レバニラ、オクラと山芋などが  
渾然一体となってぎゅうぎゅう詰めになっており、  
すさまじい臭気をあたりに振りまき始めていた…。  
(これは…何だ?ニンニクにキムチにニラにレバーって…  
もしかして、今夜もまたして欲しい、とかいう意思表示か?  
何だかんだ言っても、雪子もすっかり好きモノだな。仕方ないやつだ…)  
幸福な誤解を胸に、貴巳は、恐ろしいほどの匂いで同僚に迷惑をかけないように、、  
弁当箱を持って外のベンチへ向かった。  
 
廊下を歩く貴巳とすれ違った、彼の後輩の高田・沢木両氏は自分の目を疑った。  
泣く子も黙る鉄仮面、無表情・無愛想・無口と完璧に三拍子揃った中嶋貴巳氏が、  
ニヤリと不気味な笑みを浮かべながら歩いている。  
(…い、今、笑ってたぞ…?初めて見た…夢じゃないよな?!)  
(な…なんか、ものすごくレアで、恐ろしいものを見てしまった…)  
後輩二人の背筋を凍らせたことなど露知らず、足取りも軽く食事に向かう貴巳だった。  
 
 

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