ある日の朝、出勤すると僕宛に移動令状が届いていた。  
 
「・・・右の者、第四研究班への配属を命ずる。」  
ついに研究班への配属が決まった。  
 
丸田に聞けば、この施設に来て一ヶ月にも満たないで  
研究班への配属はかなり早い昇進らしい。  
おそらくは青木の口利きがあったのだろう。  
 
「いいですね、羨ましいです・・・」  
「僕も早く研究班に加わりたいのに・・・」  
丸田は本当に羨ましそうに言った。  
ふと気が付けば僕に対して敬語を使っている。  
今までは同じ雑務職員だったが、今日から僕は正式な研究員だ。  
歳は僕のほうが若いが彼の上司ということになる。  
 
「じゃ、僕はいつも通りの業務があるので・・」  
そう言って丸田は検体用の流動食を用意しに保管室から出て行く。  
 
僕は身辺の私物を整理すると、芽衣のケージの前に来た。  
「芽衣・・」   
僕はガラス越しに話しかける。  
 
「あ・・おはよう」  
芽衣は僕の顔を見て眠たそうに眼をこすりながらも笑顔で答えた。  
 
「芽衣、よく聞くんだ」  
「僕は今日でこの部屋からいなくなる・・」  
そう聞いた芽衣の顔色が一瞬で曇る。  
「けど、必ず僕がここからキミを助け出してあげる」  
 
「ほんと・・?」  
芽衣は消えそうな声で聞き返す。  
 
「ああ、本当だ。約束する」  
「だから安心して待ってるんだよ」  
そんな確証はない、しかし僕は精一杯の笑顔を作って言った。  
 
「うん・・・待ってる」  
芽衣も不安そうな表情を浮かべながらも笑って見せた。  
 
丸田が流動食の容器が積んであるワゴンを押しながら戻ってきた。  
「あ、まだいらっしゃったんですか・・」  
 
「ええ、もう行くところです」  
僕は芽衣のケージから離れた。  
芽衣の泣き出しそうな視線が僕の横目に映る。  
しかし、ここで妙な態度を取るわけにはいかない。  
 
「急な人事移動なもんで、まだここには新しい職員は配属されないそうですよ」  
「当分は僕が1人でこなさなきゃいけないみたいで・・・」  
丸田は流動食の用意をしながら溜息をついて言った。  
 
「そうですか・・それは大変ですね」  
 
「ま、いいんですけどね・・」  
そう言いながら丸田は流動食の入った容器を持って芽衣のケージに近づく。  
 
「丸田君!」  
僕は強い口調で丸田を呼び止めた。  
「は・・?」  
丸田はビクッとして振り向く。  
 
「その子・・いや、その検体は幼く、口から食道にかけてまだ未熟だ」  
「容器のノズルを口径の小さいものに換えて与えなさい」  
「大事な検体を傷つけたら大変だろう」  
僕はわざと上司らしい態度を取って丸田に命じた。  
「あ、はい・・すみません、気が付きませんでした」  
丸田はかしこまって答えた。  
 
芽衣にはいつも僕が流動食を与えていた。  
初めてここに来た日、小間によって酷い目にあわされてから  
芽衣は流動食が苦手だったからだ。  
しかし今日からは僕がやってあげることはできない。  
だからこれが僕にできる最後の優しさだった。  
 
そして僕は手荷物を持って保管室をあとにした。  
 
 
<第四研究班>と書かれた扉を開ける。  
「失礼します、今日から配属されました平です」  
そう言って僕は中へ入った。  
 
「やあ、よく来たね。待ってたよ」  
青木が笑顔で迎えた。  
周りにいた数人の研究員もこちらを見る。  
 
「よろしくお願いします」  
僕は頭を下げる。  
 
「まあ、そう硬くなることはないよ」  
そう言って青木はそれぞれの研究員に僕を紹介してくれた。  
 
この班は研究員である医師が全部で10人、そのうち1人がリーダーである主任、2人が副主任。  
青木はまだ若いが副主任の1人だ。  
主任は会議のため不在だった。  
 
僕は胸につける新しいプレートとIDカードを受け取った。  
これがあればこのブロックの中はある程度自由に行き来できるらしい。  
 
その後、青木に連れられて研究室の中を案内された。  
四班の中だけでもかなり広くて部屋はいくつもに分かれている。  
最新のパソコン機器が並んだ部屋を抜けると実験室があった。  
その光景を見た僕は覚悟はしていたものの手に汗を握った。  
 
3つ並んだステンレス製のテーブルの上に寝かせられた異なる人種の少女達。  
その体から伸びる幾つものホースやケーブル。  
それらは周りにある様々な計測器具などに繋がっている。  
常時データの計測を行なっているようだ。  
ホースの先は少女の口、鼻、そして股間にも刺さっている。  
性器からはホースが3本とケーブルが4本出ていた。  
見ているだけでも痛々しい。  
幸いどの少女も意識はないのが救いだ。  
 
その隣の部屋に入ると同時に「んんー・・」とくぐもった悲鳴が聞こえてきた。  
見ると、手術台の上にうつ伏せでヒザを立てた状態に少女が拘束されている。  
胸を下に押さえつけられてお尻を後ろに突き出したような体勢だ。  
口には太い棒状の拘束器具がねじ込まれているため声はほとんど出せない。  
しかし、相当苦しいのだろう瞳からは涙が流れている。  
 
少女の後ろにはお尻と同じ高さに目線がくるように椅子に座った医師が  
眼に顕微鏡のような器具をつけて、少女の性器の中を覗きこみながら  
細いケーブルの繋がった棒状の器具を刺し込んでいる。  
 
医師の手の動きに合わせて少女の体はビクン、ビクンと動く。  
少女にとってはかなり痛みを伴うらしい。  
 
医師は作業に集中しているらしく僕達には気がつかない様子だ。  
僕はいたたまれない気持ちになったが、そんな感情は表には出さない。  
 
その他の部屋も一通り案内されたが、いずれも気分のよいものではなかった。  
案内が終わった頃、主任が来たらしいので挨拶に行くことになった。  
 
主任室の扉をノックすると中から聞き覚えのある声がする。  
中に入ると黒田女医がパソコンに囲まれた大きなデスクに座っていた。  
 
「ようこそ、四班へ・・・平君」  
驚いてる僕に黒田女医は微笑を浮かべて言った。  
 
そう、ここは黒田女医の研究班だったのだ。  
 
 
その日から僕は黒田主任の助手としての業務が始まった。  
 
黒田主任は研究室の各ブースを回り、それぞれの研究状況を管理する。  
僕の仕事内容はとにかく黒田主任について歩いて様々なデータを整理して記録する係だ。  
単に記録係とはいっても膨大なデータを組み合わせていくのは容易ではなかった。  
 
どのブースでも人体実験が主に行なわれているため  
目の前では少女達が酷い目に合う光景が延々と繰り返される。  
しかし僕は自分の感情は押し殺して淡々と記録係に徹した。  
 
夜は夜で職員宿舎に帰ると睡眠時間を削って遅くまで他の医師に追いつけるよう必死で勉強した。  
それもこれも一日も早く芽衣を助け出すためだ。  
 
実は僕はここに配属される前に保管室である裏工作をしてきた。  
芽衣の電子カルテに入力ミスと見せかけて「治験経過観察中」と記入してきたのだ。  
そのためしばらくの間はどこかの班に運ばれることは防げる。  
しかし、所詮は小細工に過ぎない・・・いつ修正されてしまうか分からなかった。  
 
まるで何かに取りつかれたように頑張った甲斐あって、  
僕のデータ記録は適切で黒田主任からの評価も高く、着々と実績を積み重ねた。  
 
そして通常業務と同時に僕独自の研究プランも作り始めていた。  
このプランが通れば、個人研究用に最低1対は検体を所有できる。  
そうすれば芽衣を誰の手からも確実に守ってやることができるのだ。  
 
僕はそのためになら、心を鬼にも悪魔にもする・・・そう誓っていた。  
鬼気迫る僕の様子に周りの医師たちもいつしか一目置くようになった。  
 
 
研究室に来てから一ヶ月が過ぎた頃、ついに研究プランが完成した。  
その朝、僕は真っ先に黒田主任にプランを見せた。  
 
「いいじゃない・・・よく出来てるわ」  
黒田主任は僕のプランを見て褒めてくれた。  
 
「それじゃあ・・」  
 
「いいわ、検体を1体使うことを許可しましょう」  
 
やった・・・これで芽衣を助け出せる。  
「では、この検体出庫請求書にサイン願えますか?」  
僕は高揚した気持ちを押し隠して黒田主任に書類を差し出した。  
 
手に取った黒田主任はさっと目を通した。  
「・・・あら、駄目ね」  
信じられないような言葉が返ってくる。  
 
「え・・なぜですか?」  
僕はあわてて聞き返す。  
 
「Sー2217、この検体よ」  
「忘れたの?これは私が使う予定だって言ったじゃない」  
 
記憶がよみがえる。  
Bブロックから芽衣を連れ戻すとき、たしかに黒田主任はそう言った・・・。  
しかし、あれはその場限りの口実だと思ってた。  
 
「という訳だから、他の検体にして頂戴ね」  
黒田主任は平然と書類を突き返して言ってのけた。  
 
「しかし・・・」  
うろたえる僕を見て黒田主任が追い討ちをかけるように言い放つ  
「おかげであの検体、忘れるところだったのを思い出したわ」  
「ちょうどいいから今から引き取ってきてくれる?」  
 
全身の力が抜けていく。  
あろうことかこんな形を招いてしまうとは想像すらしてなかった。  
 
そして重い足取りで僕は一ヶ月ぶりに保管室に足を踏み入れた。  
 
「あ、お久しぶりです」  
丸田が僕を見て挨拶してくる。  
「噂はお聞きしてますよ、すごい成長株らしいじゃないですか」  
能天気に喋っている。  
 
「ああ・・」  
僕は気が抜けたように返事をすると、芽衣の出庫請求書を丸田に渡した。  
 
「はい、かしこまりました」  
「じゃ、すぐに出しますので」  
丸田が首輪用のチェーンを用意する。  
 
「いいよ丸田君、僕がやるからキミは休憩でもしてきなさい」  
「見たところ、まだ一人でやってるみたいだからなかなか休憩もできないだろう」  
僕はそう言って丸田からチェーンを受け取った。  
 
「そうですか・・すみません、それではお言葉に甘えて」  
丸田は恐縮して保管室を出て行った。  
 
僕は芽衣のケージの前に歩み寄る。  
胸が高鳴った。  
 
ケージの隅で足を抱えて小さくなっている芽衣。  
僕に気付いて一瞬驚いたような表情を浮かべ、次の瞬間満面の笑顔になった。  
その笑顔が僕の胸を締め付ける。  
 
「やあ・・元気だったかい?」  
 
「うん・・」  
「迎えにきてくれたの・・?」  
 
「・・・ああ、そうだよ」  
僕は答えた。  
迎えに来たのは嘘じゃない・・しかし、これではまるで地獄からの迎えじゃないか。  
 
芽衣をケージから出して、首輪にチェーンを繋げる。  
ここに来た時と同じ状態だが芽衣の表情は明るい。  
僕が助けに来たと思っているのだ。  
 
僕と芽衣は保管室を出て四班の研究室に向かう。  
芽衣は以前と同じように僕の袖を握り締めていた。  
 
2人で研究室の扉をくぐる。  
始めて入った、その雰囲気に芽衣は不安を覚えたのか、  
僕の裾を強く握って体をくっつけてくる。  
 
周りにいた医師達は芽衣のほうをジロジロと品定めするように眺めてきた。  
「ほう・・新しい検体かい、平君」  
「体は小さめだがなかなか品質は良さそうだねぇ」  
近くにいた医師が芽衣のお尻を覗き込みながら声をかけてくる。  
 
「ええ・・まあ・・」  
僕はぼそっと答えて、足早にそこを通り抜けた。  
 
そしてついに主任室の扉をノックして中へ入る。  
「黒田主任・・ただいま戻りました」  
 
黒田主任はデスクに座ってノートパソコンを弾いている。  
ブラウスシャツの腕を捲り上げたラフな格好だ。  
「あら、待ってたわ」  
 
黒田主任の顔を見て芽衣が体をこわばらせる。  
 
「相変わらず可愛い顔ね・・・フフ」  
黒田主任は僕の背に隠れるように立っている芽衣の前まで近寄ってきて  
顎を手でクイッと上向かせて顔を近づける。  
 
「じゃ、早速こっちに連れてきて頂戴・・・」  
主任室の部屋の奥にある自分専用の研究ブースの扉を開けて入っていった。  
仕方なく僕も芽衣のチェーンを引いて入っていく。  
芽衣は怯えた顔で僕の顔を見つめている。  
無理もない・・僕が助けに来たと思っていた芽衣にとっては何がなんだか分からないだろう。  
胸が痛い、僕は芽衣の顔を見ることができなかった。  
 
僕もその研究ブースは初めて足を踏み入れた。  
 
部屋の中央にはテーブル型の実験用拘束台。  
周りにはモニターや計器を備え付けた様々な機械が並んでいる。  
その殆どが僕は初めて見るものばかりだったため使い方は全く分からない。  
 
 
「私は着替えてくるから、その上に検体を乗せといて」  
黒田主任はそう言って別室に入っていった。  
 
芽衣は自分が何をされるのか不安で怯えきっている。  
「芽衣・・・」  
僕が肩に手を置くとビクッとなる。  
「怖がらなくていいよ・・・」  
「僕がなんとかして途中で助けてあげる・・」  
・・とは言うものの手立てがあるわけではない。  
しかし、どうにかして芽衣を救い出そうと必死で考えていた。  
 
「ほ・・ほんとに・・?」  
芽衣は震える唇で聞き返す。  
 
「ああ、本当だとも・・・だからちょっと間だけ頑張るんだ」  
僕は芽衣の眼を見つめて言った。  
 
「うん・・わかった・・」  
芽衣はコクンとうなずく。  
この期におよんでも、まだ僕のことを信頼しきっている。  
 
芽衣の首輪に鍵を刺し込んで、カチン!と外す。  
芽衣の白く細い首に薄っすらと赤い首輪の痕がついている。  
 
芽衣の手を支えて拘束台の上にあがらせる。  
金属の冷たい感触が芽衣のお尻に伝わって体をぶるっと震わせた。  
 
テーブルはかなり小さめで芽衣の小柄な体でさえ足がはみ出ている。  
 
黒田主任が白衣に着替えて戻ってきた。  
 
「さてと・・それじゃあ平君、手伝って」  
そう言って黒田主任はまずテーブルについた腕用の皮ベルトで芽衣の細い腕を縛り付ける。  
手首と二の腕の肩に近い部分の二箇所を縛り、L字形にしっかりと固定する。  
僕も同じように作業した。  
 
続いて太い皮製のベルトを取り出した。  
 
芽衣の膝をピタッと折りたたんだ状態にして、  
膝に近い部分と足首に近い部分で2本のベルトで締め付ける。  
これで芽衣は絶対に足を伸ばすことは出来ない。  
僕も黒田主任を見て同じように芽衣の反対側の足を縛る。  
 
膝に近いほうのベルトの横についた金属性のリングに  
テーブル側面から伸びたワイヤーを引っ掛ける。  
黒田主任がテーブルの操作盤を押すと、ワイヤーがウィーンと巻き取られていく。  
次第に芽衣の足は両側から開かれる。  
M字開脚でテーブルに貼り付けられていった。  
「い、痛い・・・」芽衣は思わず叫び、股間の筋が浮かび上がって限界を知らせる。  
 
黒田主任はワイヤーの巻き取りを止めると、  
テーブルのやや下側から、もう一本ワイヤーを取り出して  
今度は足首側の皮ベルトに付いたリングに引っ掛ける。  
こちらも操作盤を押して巻き取り始める。  
芽衣の股間はさらに開かれていく、まるでギギッときしむ音が聞こえてきそうだ。  
 
「い・・痛い、痛い」  
芽衣はついに泣き出してしまう。  
そんな芽衣の様子はまったく気にかけないように黒田主任は冷静にワイヤーを止める。  
そして芽衣の股間の浮かび上がった筋を撫でながら「こんなもんね・・」と言った。  
 
芽衣は性器から肛門まで丸見えとなった。  
限界まで股を開かれているため普段はピタッと閉じている性器も  
薄っすらとほんの少しだけ開いている。  
 
これで芽衣はテーブルにピッタリと貼り付けられたようになり  
微かに腰を浮かすことさえできない。  
それでいて白く美しい体は胸からお尻にかけて隠すところなく見えている。  
 
実際にこの体勢で芽衣を貼り付けると小さめに見えたテーブルも調度良い大きさになった。  
 
「さて、ここからが本番よ」  
そう言って黒田主任は芽衣の頭側に歩いて回る。  
「平君、それを検体の頭にに被せて」  
横に置いてあったパイロットのヘルメットのようなものを指差す。  
「は、はい・・」  
僕が持ち上げるとかなりかなり重量がある。  
ヘルメットからはいくつものケーブルが伸びで周りの機材に繋がっている。  
 
芽衣の髪の毛を後ろにとかして、ゆっくりとヘルメットを被せる。  
不安そうな眼差しが視界に入る。  
僕は小さく「大丈夫だよ」と言うようにうなずいた。  
 
ヘルメットをすっぽりと芽衣の頭に被せた。  
耳までしっかりと覆われている。  
眼の部分は四角い箱のようなものが大きく張り出して、まるで双眼鏡のようだ。  
これで芽衣の顔は鼻から下しか見えなくなった。  
台に付属しているクランプでヘルメットを挟んで固定する。  
 
続いて黒田主任は開口器を芽衣の小さな口に刺し込んだ。  
ダイヤルを捻ってゆっくりと芽衣の口を開いていく。  
「う・・うう・・」  
芽衣が喉の奥で苦しそうに呻く。  
開かれた口に機械に繋がれた気管チューブを送り込む。  
気管を塞がれた芽衣は声もまったく出せなくなった。  
 
これでもう芽衣の表情はほとんど分からない。  
 
そして体のあちこちの黒田主任が指示した箇所に  
3センチ程度の丸い吸盤の真ん中に1.5センチほどの短い針が付いたものを取り付けていく。  
針は細く激痛ではないものの刺すときにはチクッとするのだろう、  
芽衣の体はビクッと震える。  
吸盤からはコードが伸びて、これも周りの機材に繋がっている。  
 
黒田主任は細長い針にコードが繋がったものを取り出して  
芽衣の小さな乳首を摘んだ。  
乳首の真上からまっすぐに針を当てる。  
芽衣の体が微かに強張る。  
 
ぷつっと音が聞こえたように針は乳首の中へ吸い込まれた。  
ツーとそのまま約3センチ刺し込んだところで  
針に付いたサーベルのツバのような部分に当たって止まる。  
芽衣の体はブルブルと小刻みに震えている。  
同じように反対の乳首にも施す。  
二つに乳首から上に向かって針が生えたようになる。  
 
これで芽衣の体は微動だに出来ないように拘束された上、  
頭部には華奢な体に似つかない金属製のヘルメットを被り、  
体中から何本ものケーブルが伸びて機械に繋がった状態になった。  
見るからに痛々しい・・。  
 
「とりあえず、準備は完了ね」  
黒田主任が言った。  
 
僕は意外に思った・・これだけ露になった性器には何も施してないからだ。  
しかしこれ以上、芽衣の体に苦痛を強いては欲しくなかった。  
 
黒田主任が機材の電源を入れる。  
ブーン、という音を立ててモニター類に一斉に光が灯る。  
脳波計や心電図などの他、僕でも見たことのないグラフや計器がいくつもある。  
 
「な、何を始めるんですか・・・?」  
僕は呟くように尋ねた。  
 
「うーん・・大雑把に言えば洗脳みたいなものね」  
黒田主任は微笑を浮かべながら答えた。  
 
「あら、可哀想にね・・・この子ものすごい怯えてるわ」  
黒田主任は機材のモニターを見て言った。  
「ちょっとリラックスさせてあげなきゃね」  
拘束台の横にある椅子に座って小さなデスクの上にあるノートパソコンを開く。  
「今ね、この子の脳は私の手の内にあるのよ」  
 
「脳が・・?」  
 
「そう、このパソコンで脳内物質の分泌をある程度制御することができるの」  
「だから、こうやって・・・」  
黒田主任はパソコンのキーを弾く。  
芽衣の体が僅かに震えたように見えた。  
すると、さっきまで激しく動悸をうって動いていた胸が次第に穏やかになる。  
 
「恐怖や不安を感じていたのを緩和してあげることも可能なの」  
黒田主任は得意げに言った。  
 
「でもね、本番はここからよ」  
またパソコンを操作すると  
芽衣の周りの機材がキューン・・カチカチと細かい音を出して作動しだす。  
 
「な、何をしたんですか・・?」  
 
「このヘッドケースはね、視覚と聴覚を完全に外部と遮断してるの」  
「視覚にはフラッシュと特殊映像によって断続的に刺激を与える」  
「中で眼を閉じても無駄なのよ、瞳の皮一枚くらいじゃ防げない光量だからね」  
「おまけに聴覚には密閉型のヘッドホンから高周波の信号音が送られているのよ」  
 
僕も以前、洗脳の手段としてそういう方法があることは聞いていた。  
しかし目の前で見たのはもちろん初めてである。  
 
芽衣の体は硬直したように強張り、体には汗が滲んできていた。  
 
「そろそろね・・」  
黒田主任はマウスを操作してパソコンの液晶画面に映し出された  
人間の形をした図の上をクリックしていく。  
すると芽衣の体のあちこちが不規則にピクピクと痙攣しだした。  
どうやら、体中に取りつけた針から電気刺激を送っているみたいだ。  
 
「見てごらんなさい」  
黒田主任は嬉しそうに芽衣の股間を顎で指した。  
 
僕は芽衣の性器を見て驚いた。  
芽衣の綺麗なそこはウニウニと小さくうごめいている。  
そして、われめの間からたしかに分泌液が滲み出てきて光っているのだ。  
 
「どう?オナニーのオの字も知らないはずのこの子が性的興奮を感じているのよ」  
 
僕は動揺して芽衣の性器から眼が離せなかった。  
 
「でも、まだまだ凄いのはこれからよ」  
黒田主任がマウスを操作する。  
今度は乳首に刺さった針に電気刺激を送ったのだろう。  
乳首がビンと硬直して小さな胸がこまかく痙攣する。  
芽衣の体中はもう汗でびっしょりになり、  
その体が痙攣に合わせてぬらぬらと光を反射している。  
 
僕が見ている芽衣の性器は前にも増してわなわなとうごめき  
中からはもう見て取れるほどに分泌液を垂れ流しだした。  
そこだけ見ていると、とてもこんな無垢な少女の一部とは思えない。  
 
「平君・・・検体の陰核を触りなさい」  
黒田主任は僕に命令した。  
 
「へ・・?」  
僕は自分でも呆れるくらい間抜けな声を出した。  
 
「早くしなさい」  
黒田主任の声には逆らえない何かがある。  
 
僕は恐る恐る指を芽衣の股間に近づける。  
芽衣の皮を除去され丸見えになったクリトリスは  
米粒のように小さいながらもピンピンに硬直しきっている。  
 
僕の指がクリトリスの先端にピタッと触れた次の瞬間、  
芽衣の体がビクンと大きく震えた。  
拘束された手足はギシッと音を立ててきしんだ。  
開口器と気管チューブで声が出せないはずの芽衣の喉のあたりから  
「んご・・」と聞こえた。  
 
芽衣はオーガズムに達したのだ。  
それは僕にもあきらかに分かった。  
 
「ふふ・・すごいでしょ?」  
黒田主任は嬉しそうだ。  
いつも冷静なその顔は微かに高揚してるように見える。  
 
「もう一度触りなさい」  
うろたえている僕に容赦ない命令が下る。  
 
仕方なく僕は震える指先で芽衣のクリトリスに触れる。  
また芽衣の体はビクンと大きく痙攣して  
性器からは分泌液がピュッと飛んで僕の手にかかった。  
 
芽衣はつい今しがた、生まれて初めてのオーガズムに達したばかりなのに  
早くも二度目を強要されたのだ。  
 
「もう一度」  
黒田主任は容赦なく言い放つ。  
 
「ひとつ・・訊かせて下さい・・」  
「な・・なぜ、こんなことをするんですか・・?」  
僕は必死の思いで聞き返した。  
 
黒田主任は僕のほうを見て平然と答えた。  
 
「趣味よ」  
 
「趣味・・?」  
「そんなことのために検体をこんな目にあわせるんですか・・?」  
僕は言いようのない思いを感じて声を荒げてしまった。  
 
「あのねえ・・」  
黒田主任の眼が冷たく光る。  
「いつの時代も私たち研究者のすることなんて個人の趣味みたいなもんなのよ」  
「その研究成果をどう使うかは周りの人間の考えることでしょう?」  
「私の趣味が気に入らなければ出て行きなさい!」  
 
怒鳴りつけられて僕はハッとした・・・。  
しまった、黒田主任を怒らせてしまってはここに居れなくなる。  
それでは芽衣を守ることなんてできないじゃないか・・・。  
 
「す、すみませんでした・・・」  
「出過ぎた事を言いました・・」  
僕は頭を下げて詫びた。  
 
「・・・フン、わかればいいのよ」  
「あなたのせいで気分をそがれたわ」  
「この責任はお嬢ちゃんに取ってもらおうかしらね・・・」  
黒田主任は立ち上がると芽衣の股間の前に立つ僕のところに来て  
「どきなさい!」と僕を押しのけた。  
 
「ふふ・・・もうこんなになっちゃって可愛いわね」  
黒田主任は芽衣の性器を見て嬉しそうに言った。  
芽衣の小さなクリトリスは赤くはちきれんばかりに硬直し、  
ワレメからは分泌液が止めどなく流れている。  
 
黒田主任は芽衣の股間の前にある椅子に座り、手術用の手袋をはめた。  
そして横に置いてあるトレイからピンセット持つと芽衣のクリトリスをくいっと摘んだ。  
 
とたんに芽衣の体がビクンビクンと激しく痙攣する。  
またしてもオーガズムに達したのだ。  
いまや芽衣はクリトリスに少しでも刺激を受けると、  
まるでスイッチが入ったように絶頂に行き着いてしまう。  
 
黒田主任はそのままクリトリスを引っ張る。  
芽衣の体は痙攣が止まらない。  
クリトリスを摘んだままピンセットを左手に持ち換えると  
右手でトレイから注射器を取った。  
 
「そ、それは・・?」 僕が尋ねた。  
 
「新薬よ、Eブロックの知り合いからもらったの」  
Eブロック・・・薬剤研究施設だ。  
 
「性的興奮のブースター効果があるのよ」  
「でも・・実は私も使ってみるのは初めてだけどね」  
黒田主任は僕のほうを見て微笑を浮かべる。  
その眼は淫猥な光に満ちていた。  
 
注射針がクリトリスの薄皮にぷつっと刺さる。  
芽衣の体が硬直する。  
 
ゆっくりとピストンを押して薬液が注入されていく。  
薬液はごく微量だが場所が場所なだけに少量ずつしか入らない。  
薬を注入されクリトリスはさらに腫れ上がったように膨らむ。  
芽衣の足首は筋が切れんばかりにピンと伸びきり痙攣している。  
 
やっと全部の薬液を注入し終え、注射針をゆっくりと引き抜く。  
クリトリスは腫れ上がり、そこが心臓にでもなったかのように脈打ってるように見える。  
 
「さあ、くるわよ・・」   
黒田主任が何かを期待するように言った。  
 
「え・・?」  
僕が聞き返そうとした次の瞬間、  
バン!・・・芽衣の体が雷にでも打たれたかのように大きく波打った。  
 
喉の奥から「ごふ・・」とうめき声が聞こえる。  
性器からは霧吹きのように分泌液が飛び散った。  
 
「おっと・・」  
黒田主任はさっと立って分泌液をかわした。  
 
芽衣の胸は激しく上下運動を繰り返し、大きな痙攣が止まらない。  
そのあまりの凄まじさに目の前の裸体が芽衣とは思えないほどだった。  
 
「見て御覧なさい」  
黒田主任が計器のモニターを指差した。  
モニターにはグラフが映し出され、右上がりに伸びてきた線が  
今は上限に突き当たり真横に走っている。  
 
「いま、この検体はオーガズムの真っ只中よ」  
 
通常、オーガズムに達している時間はごく僅かだ。  
しかし芽衣は今、薬と特殊装置の影響でそこから逃れられなくなっているのだ。  
 
以前、聞きかじったことがある。  
快感も連続して与え続ければ、どんな拷問にも勝る苦痛だと・・・。  
まさにいまの芽衣がその状態だった。  
 
「あら、でもちょっと危ないわね・・」  
黒田主任がパソコンを見ながら言った。  
 
「平君、検体に強心剤を投与して!」  
呆然としていた僕に向かって指示が飛んできた。  
僕は我にかえり、慌てて用意する。  
黒田主任はパソコンのキーボードをカタカタと弾き出す。  
心なしか焦りすら見える。  
 
僕が芽衣の腕に強心剤を注射しようとするが  
完全に腕の筋肉が強張っているためなかなか針が打てない。  
 
「何やってるの、早くしなさい!」  
黒田主任の叱咤が飛ぶ。  
僕はやっとの思いで強心剤を投与した。  
 
しばらく黙ったままパソコンを睨んでいた黒田主任が「ふう・・」と息を吐いた。  
 
「思ったよりも薬が強力だったわね・・・」  
「危うく検体が壊れちゃうとこだったわ」  
「ふふ・・私もつい調子に乗り過ぎたかしら」  
 
その言葉を聞いて僕はゾッとした。  
 
「でも、もう大丈夫よ・・・うまく安定させたわ」  
芽衣の体はまだ赤みを帯びているものの、  
先ほどまでのように激しい痙攣はしていない。  
 
「いまプログラムをセットしたから、これであとは綺麗に曲線を描くように  
10分に一回ずつオーガズムに達するわ」  
「このまま、しばらく経過観察しましょう」  
そう言って黒田主任は手袋を外した。  
 
「え・・放置すると、この検体はどうなるのですか?」  
 
「いい質問ね」  
「この検体にはプログラムによって自動的に刺激が送り続けられるの」  
「するとね・・・ゆっくりとゆっくりと溶かしていくのよ」  
黒田主任が微笑む。  
 
「は・・何をですか?」 僕は聞き返した。  
 
「脳よ」  
 
「え・・!?」 僕はギョッとした。  
 
「ふふ、正確には検体の意識とか人格なんだけどね・・」  
「どんなにウブな子でも、この洗脳プログラムにかかれば、  
セックスのことしか頭にないような淫乱ダッチワイフのようになっちゃうのよ」  
 
ダッチワイフ・・・?、芽衣が・・・?  
 
「ほら、いまも少しずつ少しずつ溶かしていってるのよ」  
「この子が生きてきた思い出とか理性とかね・・」  
芽衣の顔を覗き込みながら黒田主任は不気味な笑顔で言った。  
もちろんヘッドケースに隠れて芽衣の表情は分からない。  
 
「じゃあ、あとはあなたが経過観察してなさい」  
「私はこの後、会議があって出掛けなきゃいけないから」  
「1時間おきにそこの浣腸器で腸から水分と栄養補修をさせるのを忘れないでね」  
そう言って、黒田主任は出口に向かって歩いていく。  
出口の前まで来て、ふと足を止めて振り返る。  
 
「あ、そうそう・・様態に急激な変化があったときには、  
そこの緊急停止スイッチを押してね」  
パソコンデスクの上に備え付けられてる赤いボタンを指差す。  
 
「とりあえず、それで全てのプログラムは停止するから、  
検体が壊れちゃうのは防げるわ」  
そう言い残して部屋を出て行った。  
 
部屋の中には僕と芽衣だけになる。  
 
あいかわらず芽衣に取り付けられた機材はキューン・・カチカチと小さな音を立てている。  
芽衣の気管チューブからは、しゅっしゅっと呼吸する音が聞こえる。  
興奮状態を維持されてるため若干息は激しい。  
芽衣の体は全身に汗をかき、まるでエナメルコーティングされてるかのように  
美しいく光っている。  
 
僕が見とれているとビクンと痙攣する。  
10分に1回のオーガズムに達したようだ。  
今日だけで芽衣は一体何回これを経験させられたのだろう・・・。  
 
僕は部屋の隅の椅子に腰掛けて溜息をついた。  
 
激しい自己嫌悪が圧し掛かってくる。  
僕は何をやってるんだ・・・芽衣を守るんじゃなかったのか・・。  
何もなすすべなく黒田主任の言い成りになって芽衣を苦しめているだけだ。  
いまこうしている間にも芽衣の意識は溶かされ続けている。  
 
いや・・いっそ芽衣は自我を失ったほうが幸せかもしれない。  
こんな場所にいたんじゃ辛いことばかりだ。  
何も考えない人形のようになったほうが救われるんじゃないか・・・。  
そんな思いまで頭をかすめる。  
 
そんなことを考えてる間に1時間が経過した。  
芽衣はその間にも規則正しく10分に1回ずつ痙攣してオーガズムに達したことを示していた。  
 
僕はふらっと立ち上がり水分と栄養補給のために浣腸を用意する。  
イルリガートル式の浣腸を準備して、  
矢印のように尖ったホースの先端部分を芽衣の肛門に差し込もうとした。  
その時、ふと芽衣の喉が何か動いているのに気が付いた。  
 
最初はただの痙攣かと思ったが、よく見ると何かを喋りたがってるように見える。  
僕はいてもたってもいられなくなり、芽衣の口から気管チューブを抜いて開口器を取り外した。  
口の中に溜まっていた涎がごぽっと溢れて、ごほごほと芽衣は咳をした。  
 
そしてまた何かを喋ろうとしている。  
僕は芽衣の口に耳を近づけた。  
 
「たすけて・・・」  
 
芽衣の消えそうな声が聞こえた。  
 
僕はとてつもないショックを受けた。  
この子は・・・まだ助けを求めている。  
こんな装置によって洗脳されかかっているにも関わらずまだ自由を求めているんだ。  
 
僕は涙がこぼれた。  
 
カチッ・・・気が付けば緊急停止のスイッチを押していた。  
芽衣の体から忌まわしい器具を次々取り外した。  
拘束を解き、ヘッドケースを外すと芽衣の顔が見えた。  
汗をびっしょりかいて、眼は虚ろだ。  
意識はあるのかないのか分からない。  
今日会ったばかりのはずなのにずいぶん久しぶりに顔を見た気がする。  
 
僕はストレッチャーを持ってきて、芽衣を拘束台から抱きかかえ移し替えて優しく寝かせた。  
上から白いカバーをかけると以前Bブロックで見た使用済みの検体のようになった。  
 
ストレッチャーを押してブースから出た。  
僕の胸は張り裂けんばかりに高鳴っている。  
それでも自分が何をしているのかはハッキリと分かっていた。  
 
黒田主任のデスクの前まで来て、僕はデスクをあさりだした。  
引き出しを片っ端から開ける。  
あった・・!目当ての物は見つかった。  
黒田主任の予備IDカードだ。  
主任クラスのIDなら、この施設のゲートはほとんどすべて通り抜けられる。  
 
僕は再びストレッチャーを押して主任室から出た。  
研究室の通り抜けようとすると、他の医師が話しかけてきた。  
 
「おいおい、もう壊しちゃったのかよ・・・」  
 
「ええ・・」 僕の背中に緊張が走る。  
 
「あいかわらず黒田主任は扱いが荒いなあ」  
「もったいないよな可愛い子だったのに・・・」  
「俺もあとで遊ばせてもらおうと思ってたんだよな」  
そう言ってカバーを捲ろうとした。  
 
「あ・・見ないほうがいいですよ・・」  
「かなり酷い状態ですから・・・」  
僕は冷静さを取り繕って言った。  
 
「そうか・・なら止めとくか、このあとメシ食いに行くしな、ハハ」  
そう言って去っていった。  
 
僕は急ぎたい気持ちを抑えて、ゆっくりと歩いて研究室を出た。  
施設の廊下を歩いていく、途中で何人もの職員とすれ違うが  
幸い誰もこちらに気を止めはしない。  
芽衣も体力を消耗しきっているのでまったく動かないのが良かった。  
 
いくつものゲートを通り抜け施設の裏までやってきたとき後ろから声を掛けられた。  
 
「平・・!」  
 
振り向くと小間が立っている。  
服装は白衣ではなく薄汚れた作業服だ。  
無精髭をはやしたその顔は怒りが滲み出ている。  
 
「ひさしぶりだな・・・」  
「お前のおかげで見ろよ、これ!」  
「いまじゃ廃棄物の処分係だぜ」  
小間は苦々しく言った。  
 
あんたにはお似合いじゃないか・・・そう言い返してやりたいが、  
いまはそんな場合じゃない。  
 
「申し訳ないですが、急いでますので・・」  
そう言って通り抜けようとすると、小間が前に立ちふさがる。  
 
「へ・・知ってるぜ、出世したんだってな?」  
「そんな優秀なやつにこんな雑用させちゃっていいのかよ!」  
小間はバッとカバーを捲った。  
 
眠っている芽衣が姿を現す。  
まずい・・・僕の全身に鳥肌たった。  
 
「ん・・?こいつは・・」  
小間が芽衣を見て驚く。  
 
「てめえ・・さては!」  
再びこっちを見た小間の首筋に僕はグサッと束ねた注射器を5本突き刺した。  
小間は僕の手を握り返すが、かまわずグウッとピストンを押して薬液を注入する。  
 
ドン!・・・小間は僕を突き飛ばした。  
首には注射器が刺さったままだ。  
 
「な・・なにしやが・・」  
そう言いかけた小間はガクガクと震えだす。  
そしてバタンと倒れてエビのように反り返って跳ねる。  
ズボンの股間は勃起して膨らんでいる。  
 
そう、黒田主任が芽衣に注射したあの薬だ。  
僕は何かのためにトレイの上から鷲づかみにして白衣のポケットに忍ばせていたのだ。  
 
小間は泡を吐きながらのたうち回っている。  
薬の量は間違いなく規定量をはるかに超えている。  
股間は痙攣して射精している様子だ。  
「かっ・・・」  
そう叫んで小間は白目をむいて動かなくなった。  
開いた口から下がだらっと垂れ下がっている。  
絶命しているのは誰の眼にもあきらかだった。  
 
僕はカバーを芽衣にかけ直した。  
小間を建物の影に運んで服を脱がす。  
僕は脱がした作業服に着替えて、  
小間をそのまま下水のマンホールの中へ落とした。  
小間は汚水の中をゆっくりと流れていった。  
 
マンホールの蓋を閉め、再びストレッチャーを押して歩き出した。  
処分係が使用済みの検体を運んでいるのだ。  
これならどこから見ても不思議じゃない。  
 
処分場の前まで来て、あたりを見回す。  
隅のほうに小型のバンが置いてあった。  
後ろの荷台は窓が塗り潰してあって中は見えなくなっている。  
僕はにストレッチャーから芽衣を乗せ換えて  
運転席に乗り込んで走り出した。  
 
施設の敷地外に出るゲートまで来ると警備員に止められたが  
車の中にあった通行証を見せると難なく通された。  
敷地の外から入るには厳重だが中から出るのにはさほどチェックは厳しくないようだった。  
 
民家も何もない山道を下っていく。  
 
途中で芽衣を助手席に移した。  
まだ寝息をたてているが顔色は悪くない。  
 
どこに行くかアテがあるわけはなかった。  
これで僕は全てを失うだろう・・・。  
父にも迷惑がかかるかもしれない。  
けど、それでも構わなかった。  
僕はこれからずっとこの子だけを守っていく、それが全てだ。  
 
山間を抜け、街の建物が見えてきた頃  
隣の助手席に座る芽衣が薄っすらと眼をあけた・・・。  
 
(終わり)  
 
 
 
 
(エピローグ)  
 
「残念ね・・・見所はあったのに」  
 
「そうですね・・」  
 
黒田主任は研究ブースで青木副主任と話していた。  
 
「どうしましょう・・?上に報告して捜索させましょうか」  
「警察にでもかけ込まれたら少し面倒ですし・・」  
青木副主任が言う。  
 
「ほっときなさい・・・平君もそこまで馬鹿じゃないわよ」  
「この組織がどれだけ各方面に影響力を持っているかは想像できるはずよ」  
「おそらく二度と人目につく場所には出てこないでしょうね・・・」  
「それに・・・父親の平先生に貸しを作っておくのも悪くないわ」  
黒田主任はそう言って微笑を浮かべるとデスクの上のノートパソコンをパチンと閉じた。  
 
「せいぜい、二人で小さな幸せを味わいなさい・・」  
 
そう呟いた黒田主任の顔は  
何故だか、こうなることが分かっていたようにも見えた。  
 

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