序章『かずみとゆうき』  
 
 
 
 その子は女の子みたいだった。  
 私は彼を妹のように捉えていた。私はその妹を守る兄のような存在だった。窓ごしに会話出来るほどに  
家が近かった、という地理的な要因も存在していた。  
 その子は体の線が驚くほど細くて、ちょっと走るだけですぐ疲れるような子で、気が弱くて、あたしがいつも  
傍に居て守ってやらないといけないような、そんな感じだった。  
 名前も  
『和美』  
なんていう女の子みたいな名前が一層拍車をかけている。和美が名前と外見のことについていじめられていた  
記憶が今も印象に残っている。で、それを助けていたのはいつもあたし。当時は空手を習っていたのもあって、  
あたしは喧嘩が強い男気のあるガキ大将的存在だったのだ。  
 で、助けてやると、  
『ひっ、うぐ…うっ、勇希ちゃん、ごめんね…』  
 とゆうようになきべそかきながらあたしに謝るのだ。  
 
『あのねぇ、あんたも男ならシャッキリしなさいよ』  
 いつもこんなやりとりをしていた。  
 そんなある日のこと、学校で将来の夢を作文に書いて発表する課題があった。あたしはスポーツ選手に  
なりたいとかそんな感じのことを書いた記憶がある。そして、和美の番になって、和美は少し皺のよった  
作文用紙を開いて読み始めた。  
『しょうらいのゆめ いちねんにくみ しまもとかずみ  
 ぼくのしょうらいのゆめは、つよいひとになることです』  
『ぼくはちからもなくて、よわむしで、よくおんなみたいっていわれるけど、おおきくなったらヒーローみたいに  
カッコよくなりたいです…』  
 その作文が印象に残ったあたしは、その日の帰り道、和美に尋ねた。  
『ねぇ、今日のあの作文…ほんとにつよいひとになりたいって思ってるの?』  
『うん! ぼくね、つよいひとになって勇希ちゃんを守れるようになりたいんだ!』  
『なんで?』  
『昨日見たテレビで「男の子は女の子を守ってやらなくちゃいけない」っていってたよ』  
『和美はバカねぇ、それは古いかんがえよ、だんじょさべつよ』  
『え、えぇ? そ、そうなの?』  
『そうよ』  
 
『じゃあ、僕どうしたら…』  
 あたしはまた泣きべそをかきそうになっている和美に溜息をつきながら言った。  
『なら、あたしを支えてよ』  
『え?』  
『昨日見たドラマでね、言ってたの。人っていう字は支えあってできてるんだって。だから、和美はあたしを  
支えて。あたしは和美を守るから』  
 今思えば、あたしって完全な思いつきであの頃生きてたんだな…ドラマで言ってたからってそう言うなんて。  
よく考えたら前後の話の関連性が無いような気もするし…  
 でも、その時の和美は笑顔で、  
『うん、わかった!』  
と言って大きく頷いた。  
『ぼく、おおきくなったらつよいひとになって、勇希ちゃんをささえるよ!』  
『なら、ゆびきり。これをしたらもう約束をやぶっちゃいけないんだからね』  
『うん、約束』  
『ん』  
 …ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます…ゆびきった  
『約束』  
『うん』  
 その後、あたし達は手を繋いで家に帰った。  
 そんな遠い日の、はじまりの、記憶…  
 

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