「……祥子ぉ、アンタいいかげん、その腐れ処〇膜、特別急行にでも破いてもらったらぁ〜?  
あ〜、なんだったら、アタシの彼氏、貸すよぉ? 超鈍行だけど編成数多めで、結構デカイからぁ  
アンタとぉ〜、アタシとぉ〜、アンタの想い人ぐらい、縦に重ねても、余裕で串刺しぃ……」  
 
 この前の飲み会の時、隅っこで超薄っすいチューハイをちびちび舐めてた私の耳元に  
酒臭い息を吹きかけながら、ちーちゃんはこっそりそう囁いてくれた。  
そしていきなり咳き込んだ私を、その凶暴までに大きな胸へぎゅーーーーっと押し込めつつ  
イイコイイコしてから、『んじゃ、私にもご褒美ぃ〜』とか言って、私の太ももにぽすんと  
顔を伏せ、そのままぐりぐりめり込ませてくる。  
 
「ちっ、智津子ちゃん、ちょっと飲み過ぎ……。気分悪くなってない? 別室で、ちょっと休む?  
 それとも、酔い覚ましのお薬買って……」  
「そっかそか、祥子はそんなに『御休み所』に逝きたいのかぁ〜。良ぉし良し、愛い奴じゃぁ〜」  
 
 親友がそんな事を大声で喚いても、殆どの同僚がそれ以上の乱痴気騒ぎを繰り広げていたので  
幸い誰にも聞きとがめられなかったと思い込み、その時は迂闊にもホッとしてた。  
しかも、ちーちゃんは『う〜ん、遥か昔の懐かしき、処女の匂い〜』とか言いながら、絶えず  
変な刺激を与えてこようとするので、本当に始末が悪い。  
 
 ほとんど泣きそうになりながら思わず、鉄ちゃんの姿を探すと、運良くちーちゃんの恋人の  
若狭君の近くでウーロン茶を啜っていたので『お願い、こっちに気が付いて下さい』視線を  
投げようとした途端、鉄ちゃんが顔を上げて、真正面から私を見た。  
    
 それだけで、心臓が跳ね上がり、お腹の一番奥深い所から、熱い何かがじわっと流れ出る。  
だから一瞬、鉄ちゃんの顔が、微妙に歪んだのは、自分の目の錯覚だと思った。  
 
 
 べろんべろんに酔っ払っちゃったちーちゃんを、若狭君ごとタクシーに無理矢理押し込む直前  
親友が私の耳元でもう一度、はっきり囁いてくれた。  
 
「祥子〜ぉ、アタシが貸してあげた『資料』で、毎日ちゃんとお勉強してま〜すか〜ぁ?」  
「……ぅん……」  
「勉強熱心で、本当にアンタは良い子だ〜ぁね〜」  
 
 タクシーが街頭から少し離れた所に止っていたのが幸いして、私の顔がその瞬間、火を噴いたのは  
多分ちーちゃんにしか解らなかっただろうが、声が少し震えたのは若狭君にもばれたかもしれない。  
ちなみに、ちーちゃんの彼氏の若狭君は『お口とオッパイでの御奉仕』が大好きな人だそうで……。  
しかも、ちーちゃんが一週間ごとに私に押し付けてくる『資料』とは、二人の隠し撮り無修正××テープ。  
更に、400字詰め原稿用紙一枚以上の感想文提出まで、平気で要求してくる始末。  
コレは、若狭君は絶対知らないちーちゃん個人の秘密な趣味だから、私は永遠に孤立無援だ。  
 
   
 タクシーのテールランプが完全に見えなくなるまで、私はそこでしばらく深呼吸を繰り返していたら  
誰かから、いきなり肩を叩かれて、本当に腰が抜けるかと思うぐらい驚いた。  
 
「ひぃやぁぁぁ……、もがっ」  
……人聞きの悪い反応はやめて貰えないかね、祥子君」  
 
 薄い眼鏡の奥から、爬虫類みたいに何処を見ているのかよく解らない視線を光らせて『清竜鉄道一の  
教育者』を自称する、菅さんが私の背後にこっそり忍び寄って来てた。  
 
(うわ、私、この人、凄く苦手……)  
 
 でも、鉄道会社はサービス業。  
どんなに、見た目や第一印象が嫌いなタイプでも、まずはにっこり笑って、愛想良く応対しなきゃ  
いけない基本精神だけは、しっかり叩き込まれてる。  
特に私みたいな、ちんちくりんが持つ事の出来た武器は、満面の笑顔しかありませんでしたから。  
 
「……えっと、何か御用でしょうか?」  
 
 (何でこの人、私を名前で呼んだだけじゃなく、にたにた笑いながら、私の手を撫で回しているのかなぁ?)  
なんて、ぼんやり思ってるあたりで、自分もかなり酔っている事に気が付かなきゃいけなかったみたいで  
次の瞬間、菅さんが、私の手を強引に握り締めて、一直線に向かう先はピンク色のネオンがかなり安っぽい  
ブティックホテル。  
 
「……え? え? え?」  
   
 強引に振り払おうにも、完全に力負けしてる。  
しかも、菅さんは卑怯にも『鉄也くんがアソコの前で待ってるって言ってたよ』なんて口走ったので  
一瞬、抵抗する力が抜けて……。  
   
『げずっ!!!』  
 
 とか、かなり痛そうな音がして、菅さんの体がぐらりと傾いた。  
そのまま、誰かが自分の体を、小荷物みたいに脇に抱えて、より暗い方に即効で運搬される。  
後ろで、なにか獣が大声で喚いていたけれど、目の前がぐるんぐるんして……。  
 
 
  次に気が付いた時、私は鉄ちゃんの大きな背中に、ぐったりおぶさっていた。  
 
 
 当然、翌日全然二日酔いなんかしてない超爽やか顔のちーちゃんが、やっと勤務が終わって  
瀕死状態の私に新しいテープを押し付けるのと同時に『鉄也さんから、頼まれたんだけど〜』  
とか言いながら、二日酔いに苦しむ私の耳元で、延々3時間以上にわたって、惚気とお説教を  
シームレスで呟き続けると言う、言葉攻めをしてくれた。  
 

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