「これ、なんだろう?」  
 手に持ったタバコの箱くらいの大きさの箱を食い入るように見つめる。  
 今日は近所に電気屋がオープンしたのでちょっと覗きに行ってみた。  
 私は開店からちょうど100人目のお客さんだったらしく、記念に粗品をもらった。  
 べつに欲しい物もなかったし、混んできたのでこれだけもらって帰ることにした。  
 箱は真っ黒で外からでは何かわからない。  
 「電気屋だし、電池の詰め合わせとかかな…?」  
 でもせいぜい感じるのは箱自体の重さくらい。  
 「店名入りのハンカチとかライターとかかな?」  
 振ってみるとカラカラと音がするけど、これだけじゃ推理できない。  
 そうこうしているうちに家に着いた。  
   
 早速自分の部屋に駆け込んで、箱を開けてみた。  
 「な、なんだこりゃ…?」  
 出てきたのはペンのキャップくらいの小さな"なにか"とその説明書。  
 とりあえず説明書を手に取り眺める。  
 「クリトリス専用バイブ……?」  
 バイブって言われても携帯のバイブ機能くらいしか思いつかない。  
 「きっと揺れる物なのね!  
  でも、くりとりすってなにかしら……?」  
 とりあえず国語辞典を引いてみたけど、私のには載っていなかった。  
   
 「おかーさーん!! くりとりすってなーにー?」  
 現物を持って台所へ向かったが、母は買い物にでも出ているのか見当たらない。  
 「もー、くりとりすって何か訊こうと思ったのにぃ!  
  肝心な時にいないのね!」  
   
 リビングに来ると弟がテレビを見ていた。  
 おもちゃ関係ならこいつの方が詳しそうだし訊いてみよう。  
 「ねえ、あんたくりとりすってなにか知ってる?」  
 「さー、知らねー」  
 無愛想に返事をされる。  
 ま、無理もないか。  
 高校生の私でも知らない物だし、小学生の弟が知っていたらちょっとショック。  
   
 収穫なく部屋に戻って説明書を裏返してみる。  
 そこに下手クソな絵で裸の女の人がM字開脚している図が載っていた。  
 さらに脇に拡大図がありクリトリスなるものと、使用方法が書いてあった。  
 「なーんだ、クリトリス載ってるじゃん!」  
 え――――?  
 「いやぁぁぁぁー!!  
  私はなんてはしたないことを連呼していたの!?  
  お母さんいなくてよかった!  
  弟がガキんちょでよかったぁ!」  
 
 
 ―――夜  
   
 お風呂からあがると私は懲りもせず、あの説明書を見ていた。  
 もちろん親と弟には勉強するから入ってこないでと念を押して。  
 隣には昼間、恥ずかしさのあまりズタボロにしてしまったクマのぬいぐるみが転がっている。  
 「ク、クリトリスって女の人にしかないものなのね…」  
 私以外無人の部屋なのについ辺りを確認してから、そっとパンツを下ろす。  
 手鏡を使って恐る恐る股の間を覗いてみる。  
 「あ…、これかしら……?  
  ちゃ、ちゃんとみんなにもあるのかなぁ……?」  
 いつの間にか携帯の電話帳を開いている自分に気がついた。  
 「なにをしているのよ私ッ!!  
  こ、こんなこと訊いたら、へ、へ、ヘンタイだと思われちゃう……」  
 そして恥ずかしさのあまり、無意識のうちにクマのぬいぐるみをバラバラにしていた。  
   
 「あ…、ご、ごめんね、クマさん……」  
 散らばった綿をかき集めゴミ箱に入れて、とりあえず手を合わせておいた。  
 そして再び説明書を手に取る。  
 「こ、この着けるだけでとても気持ちよくなれますってキャッチフレーズが気になるわね……」  
 説明書の使用方法の欄を穴が開くほど目を通した。  
 「き、気持ちよくなかったらとればいいだけだし、  
  ち、ちょっとくらいなら……」  
 それを手に取り目の前でまじまじと見つめる。  
 「タダとはいえせっかくもらった物だし……、  
  そ、そうよ、犯罪をしているわけではないんだし……」  
 なのに後ろめたい気持ちがするのはなぜ!?  
   
 だけど私は思春期、好奇心が勝ってしまった。  
 ゆっくり自分のクリトリスにこのキャップみたいなものを近づける。  
 密着した瞬間、それだけで背筋を突き抜けるような快感が走る。  
 どこにスイッチがあるのかわからないけど、着けたとたんそれは小刻みに動き始めた。  
 「あっ!」  
 口から変な声が漏れてしまい、とっさに両手で口を覆う。  
 「んんっ! な、なにこれ!?  
  は、外れない!?」  
 急いで説明書をたぐり寄せ、外し方を探す。  
 「い、いやっ! 早く外さないとやばいッ!!」  
 しかし、外し方のようなものはどこにも書かれていない。  
 「う、嘘でしょ!?」  
 そして目に入ったのは、端っこの方に申し訳程度に載っている注意書き。  
 「で、電池が切れるまで外れません!?  
  内臓電池の寿命はおよそ100時間ッ!?」  
 説明書をぐしゃぐしゃに丸めて壁に投げつけた。  
 「おかあさ……。  
  ダ、ダメ!! こんな姿誰かに見られたらお嫁にいけない!」  
 とはいえ感じたことのない不思議な感覚で、肩は震え、勝手に腰が動いてしまう。  
 「こ、これがあと100時間も続くのッ!?  
  私こんなちっこいのに殺されちゃうよぉ……」  
   
 

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