ゆらゆらとバスに揺られながら、あたし――木下智巳(きしたともみ)はあまり見慣れて
いない町並みを、半ば上の空にぼんやりと眺めていた。
現在時刻は午後一時半。
平日ということもあり、バスの中にはあたしを含めて2,3人程しか乗っていない。
別に、学校をサボってどこかへ遊びに行こうというわけではない。
現在、あたしの通う高校は試験期間の真最中であり、その間は午前中で学校が終わっ
てしまうのだ。
加えて、あたしが今向かっている場所は病院である。
別に、体の方に異常は無い。
今に限ってのみ、あえて言うなら精神の方が多少、不安定と言えなくもないかもしれないが。
では何故かと聞かれれば、単純に知り合いが入院しているからである。要はお見舞いだ。
ただし。
そのお見舞いの相手は、男だった。
さらに言えば、その男はあたしと同じクラスの生徒で、
『――次は、藤沢市総合病院前。お降りの方は・・・』
アナウンスの声にハッとして、あたしは慌てて「降ります」のボタンを押した。
お見舞いの相手――桑原君とは、今年、二年に上がる時のクラス替えで一緒になった。
彼はクラスの人気者だった。
物静かで受け身型な印象で、実際その通りなのだが、しかし内気という風は全然無く、ど
ころかクラスの男女40人全員と(ということは当然あたしとも)友達レベルという、むしろか
なりの社交上手だった。
内気でも活発でもなかったが、あたしも、どちらかと言えば受け身型で人間関係は狭かっ
たので、本来同類項であるはずの彼がすごく羨ましかった。
・・・三ヶ月くらい経ったころ、彼への羨望は恋心へと変わっていった。
そんな桑原君が、2週間程前に盲腸で入院した。
普段、彼とは友達と一緒に話していたので、一度二人っきりで話したいと思
っていたあたしは、本当なら、すぐにでもお見舞いに来たかった、友達の多
すぎる彼のところには見舞い客が中々絶えなかった。
しかし、今日ならば、皆明日の英語の試験(結構難しく担当が鬼教師で有名、
低い点を取ったら怒鳴られて説教)の勉強を嫌でもしなければならない。
加えて、あたしは英語はそこそこ得意だったので、まあ、大丈夫だろうという
考えがあったわけで。だから、仕方なく今日までお見舞いを先延ばししていた
のだ。
「――すみません。桑原眞也(くわはらしんや)君の病室ってどこでしょうか」
「桑原様ですね。少々お待ち下さい」
病院に着いたあたしは、受付で目的の病室の場所を訊いていた。
智巳の住んでいる町、の一つ隣町の総合病院。
外観は流石に大きく、受付もそれなりの広さがあったが、しかし平日の昼下が
りだけあって人影はまばらだった。
「・・・お待たせしました。桑原様は722号室になります」
「ありがとうございます」
722・・・、7階か。
エレベーターに向かって歩き出す。
やはりこの時間帯だけに利用者があまり居ないのか、1階で停まっていたらしく
ボタンを押してすぐに扉が開いた。当然ながら、誰も乗っていない。
乗り込んで、多少外を確認し、「7」と「閉」を押す。
扉が閉まり、重力が増す。
1階、・・・2階、・・・3階。
階数が上がるにつれて、だんだんと緊張してきた。
トク、トク、という心臓の鼓動も、心なしか早くなっているように思う。
それもそのはず、受け身型なあたしは今まで男の子のお見舞いに来たことなど
一度も無かったのだ。
さらに、その初回が好きな男の子ので、しかも一人で、となれば尚更だった。
・・・4階、・・・5階、・・・6階。
トクトクトクと、鼓動は早くなる。
・・・落ち着け落ち着け落ち着け。
心の中で繰り返し、目を閉じて深く呼吸するも効果は無い。
7階に着いた。
「えっと・・・」
エレベーターを降り、壁に掛けられた案内図でお目当ての病室を探す。
「こっちが『756〜』だから・・・、えっと・・・、あ」
あった。
どうやら桑原君の病室は廊下の端っこらしい。
しかも、ここから結構離れている。
「・・・はぁ」
あたしは歩き出した。
しばらく歩くと、突き当たりの壁に右矢印に「〜722」というゴシック体を確認し、
示された方向へとまた歩いてゆく。
時折、忙しそうに動き回る看護師さん(今はそう呼ばなければならないらしい)と
すれ違ったり、各部屋から話し声が聞こえたりするが、それでも廊下はびっくり
するくらい静かで、ともすれば、先ほどから緊張でドキドキしっぱなしの心臓の
音が聞こえてきそうだった。
「う〜・・・、落ち着けってば」
なだめるように言ったところで、やはり効果は無かった。
受験の面接のとき以来だ、こんなに緊張するの。
というかそれ以上だ。
「・・・ここだ」
ようやく722号室の前に辿り着いた。
一応、表札を確認すると722という数字の下の四つの欄の一つに「桑原眞也」と
書かれていた。
というか、桑原君以外の名前が無かった。
どうやら、この病室には彼しか入っていないようだ。
「・・・・・・」
病室の前は、静かだった。
どうやら、予想は当たったらしい。
さあ、あとは入るだけだ。
一人部屋と変わらないなら、ノックは必要だろう。
あたしは、手の甲でドアをコンコン、と叩いた。
・・・・・・
「?」
反応が無い。
もう一度、今度は少し強めに叩いた。
・・・・・・
「・・・・・・」
やはり反応が無い。
トイレにでも行ってるのだろうか。
入ろうか入るまいか迷ったが、しかし、もしトイレとかなら帰ってきたときに、ちょっとビッ
クリさせてあげようと思い、あたしは部屋に入った。
鼓動がまた、早くなった気がした。
四つのベッドの内、右奥だけがカーテンで仕切られていたので、今度は迷わずそこに入
った。
「・・・あ」
桑原君は、ベッドで眠っていた。
掛け布団の頭側が太もも辺りまでずれている。
体が多少傾いており、患者衣は乱れて腹が出ていた。
そこへ、ちょうど臍を隠すように右手が置かれていた。
・・・・・・
なんていうか・・・、桑原君、意外と寝相悪いんだ・・・。
すごく無防備な姿。
当然ながら、見るのは初めてだった。
んー・・・。
(・・・ちょっとかわいいかも)
なんとなく、和んだ気がした。
少し面食らったが、いい感じに緊張がほぐれたようだ。
どこかに椅子はないかなと、一旦その場を離れようとして、
「――ぷしっ」
くしゃみが出た。
現在十二月上旬。
雪こそ降っていないが、外は結構寒い。
病院の中は空調が効いているので、来るときに着ていたカーディガンは脱いでおい
たのだが、この部屋に限っては、今は暖房を切っているようだ。
少し涼しい気がする。
「・・・・・・」
ふと、桑原君を見る。
ずれた布団、剥き出しの腹、起きる気配はまだ全く無い。
・・・・・・
・・・・・・はぁ。
「しょーがないなぁ」
言いながらも、自然、頬が緩む。
なんとなく、役に立ってるような気がした。
まずは布団を掛けてあげようと、太腿のところに手を伸ばし、
「・・・うぅん」
桑原君が唸った。
起きたのだろうかと反射的に見ると、どうやら寝返りを打とうとしているだけのよ
うだった。
と、
――むにっ
「?」
右の手のひらに、なにか柔らかい感触が当たった。
なんだろうと思ってふと視線を正面に戻す。
「――!?」
あたしの右手は、うつ伏せになった桑原君の下腹部の下敷きになっていた。
つまり、今あたしの手の中にあるのは・・・
「や、やだ――!」
理解した瞬間、顔が赤くなったのが分かった。
が、どうしていいのか分からず、――手を引き抜けばいいだけの話だったけれど、
そのときのあたしはいきなりの事態に軽いパニック状態に陥っていたため、その姿
勢のまま固まってしまった。
「・・・・・・」
ドク、ドクと、一時落ち着いていたあたしの心臓は、来るときよりも強く大きな鼓
動を始め、それに従って流れる血の音が、耳元ではっきりと聞こえる。
少し頭がボーッとしてきているようだ。
・・・・・・
手のひらには、柔らかいが芯のようなものが感じられる膨らみが。
指、人差し指と中指の所には、二つのしこりのようなものが、それぞれ感じられ
る。
(これ、が・・・)
高校生ともなれば性的な知識もそれなりにもっているし、自慰経験も何度かあっ
たが、しかし、実際に男の人の、それも同年代の男のモノを触るなどという経験
は全く無かったため、全てが未知の領域だった。
なんとなく、指を動かしてみる。
(これが・・・、桑原君の・・・)
自分の好きな人のを、不可抗力とはいえ勝手に触っているという事実に背徳感
を覚えながらも、しかし、それはだんだんと、確実に興奮へと変わりつつあった。
(わ・・・、すご、かたくなってきた・・・)
しばらく指を動かし続けていると、柔らかかったものが次第に固さを帯びていくの
が分かった。
寝ていても反応するというのは、恐らく知っている人は少ないだろうと思う。
それは最終的に手のひらに収まりきらないほどに大きくなった。
日本人の平均サイズは13cm程だという話だからそれは当然だが、しかし彼の
は心なしかそれよりも大きい気がした。
(こんなのが・・・入っちゃうんだ・・・)
自分のソコにそれが挿れられるところを想像すると、両足の付け根の間にじゅん、
と切ないような感覚が走った。
半ば無意識に、左手をスカートの中に差し入れ、下着越しにその部分に触れよう
とした。
(! だ、駄目駄目ッ!)
ブンブンと首を振る。
何を考えているんだ、そうだ、ここは病院じゃないか、もし誰か来たりしたら、それ
以前に桑原君が起きたらどうするんだ。
とりあえず別のことを考えて落ち着こう。
(えっとあたしは何しに来たんだっけそうだ桑原君のお見舞いだでも桑原君は寝て
いて寝相が悪くておなかが出ていて布団が捲れてて部屋がちょっと涼しくて風邪ひ
くといけないから暖かくしないといけなくてそれで布団を直そうとしたら桑原君のが手
に当たってきてだんだんぼーっとしてきてなんとなく指動かしてみたらだんだんと、
ってそうじゃなくて! 違う違う違うっ!!)
駄目だ、全然頭が働かない。
それにやめるんだったら、まずは手を除けなければならないではないのか。
分かっている。
分かってはいるのに、何故かふんぎりがつけられない。
手。
未だ彼の股間部を触っている手には、彼の体温が感じられ、時折、ピクリピクリと脈
打つように動くのが分かる。
ちらりと、桑原君を見る。
起きる気配は、まだ無い、ようだった。
・・・・・・
「・・・す、少しくらいなら・・・」
大丈夫だよね、と小さく呟くように言い、もう一度、左手をスカートの中に差し入れ、下
着越しにゆっくりとそこに触れる。
「んっ・・・」
軽く触った程度でも、その部分から痺れのような甘い感覚が背中を這い上がった。
下着はすでにしっとりと濡れていた。
(もう、こんなになってる・・・)
家で触っていた時だって、最終的にはこのぐらいの状態になってはいたが、けれども
触りもしないでここまで濡れるというのは正直びっくりだった。
そのままそこを揉みほぐすように、指を前後に滑らせる。
「んっ、・・・は、ぁ・・・」
(・・・すごい・・・。 きもち、いい・・・)
普段と同じやり方のはずなのに、その緩やかな刺激さえひどく敏感に感じる。
ただでさえ濡れていた下着が、さらに溢れてくる水分を受け止め、吸いきれなかっ
た分が雫となり太腿に徐々に軌跡を描く。
指の動きが、段々と速さを増していく。
と、勢いが余って先端の突起を軽く弾いてしまった。
「――ひゃん!」
思わず大きな声が出てしまい、ハッとなって桑原君を見る。
・・・大丈夫、起きてない。
ホッと胸をなでおろし、再び指で、今度は突起――クリトリスの方を、注意しながら
そっと撫でる。
「くっ、んん、っ! んぅっ」
くりくりと転がす度に、びりびりとした感覚が走る。
必死に押し殺そうとしても自然と声が漏れてしまう。
「はぁ、はぁ、っ! ん、ぅあ!」
撫で、転がし、軽く引っ掻いたりしていると、次第に声を我慢することができなくなっ
た。
膝が震え始め、ぺたんと床に座り込んでしまいそうだ。
最早、途中で止めることなどできそうにない。
この異常な状況の中で、あたしはどんどん上り詰めていった。
「ああっ! ん、うぅ、――うああ!」
と、
――ぐいっ
「ふわ!?」
突然、左腕が引っ張られ、いきなりだったためろくに受身も取れず、あたしはベッドに
倒れこんだ。
桑原君と、目が合った。
「く、くわはら、くん・・・」
あたしの目の前、拳二つ分位のところに彼の顔があった。
無表情で、無感情な目。
垂れ目がちで幾分ぼんやりしている印象があるが、しかし、その目はしっかりとあ
たしの目を、瞳のさらにその奥まで覗いているようだった。
「・・・・・・」
彼は何も言わない。
じっ、とこちらを、睨む風でもなく侮蔑する風でもなく、ただ見て、沈黙している。
いつも笑っている顔しか見たことのないあたしは、その何も無い表情と無言のプレ
ッシャーに耐えれなかった。
何か言わなきゃ、何か言わなきゃ・・・
「えと・・・、その、・・・お、おはよ・・・」
「おはよう」
思いのほかすぐに、けれど表情は全く変えずに返される。
機械を相手にしている感じだった。
「え、えっと・・・、あの」
「・・・とりあえず、放してほしいかな」
「え? ・・・あっ!」
言われてあたしは、未だに彼のモノを掴んでいたことに気付き、慌てて手を放して真
っ赤になった。
桑原君は肘をついて少し体を起こした。
「あ、あの! こ、これはその・・・」
「入院している奴の、しかも寝込みを襲って悪戯とはね・・・」
「!! ・・・や、そ、そんなんじゃなくて――」
「さらに、それをオカズにオナニー始めちゃうとはね・・・」
「っ!」
言葉に詰まり、目を逸らす。
顔から火が出そうとはこういうことだ。
クスクスという声が聞こえた。
視線を戻すと、桑原君がにやにやと、僅かに唇を歪めて意地の悪そうな笑みを浮か
べていた。
「あーあ、木下さんがそんなに淫乱だったとは知らなかったなー」
「!! ち、ちが――」
「ん? 違わないだろ?」
「・・・ぅぅ・・・・・・」
泣きそうになりながらも反論しようとして、けれども言葉が出なかった。
「あーあ・・・、俺、木下さんのこと結構いいなーとかって思ってるのになー」
(え・・・?)
そうだったの?
全然知らなかった。
でも・・・
「でもなー・・・、・・・あーあ」
桑原君は、至極残念そうだった。
あからさまにがっかりしているようだった。
「これじゃあ、縁切りだり絶交だり考えた方がいいかなー・・・」
「!!?」
サーッ、と血の気が引いた気がした。
縁切り? 絶交?
友達を、やめる・・・?
もう、関わらない・・・?
・・・・・・
嫌・・・
「嫌ぁっ!」
がばっ、と、
あたしは桑原君に抱きついた。
胸に額を押しつけて泣き喚いた。
「嫌、やめて! そんなこと言わないで! 謝るからえ、縁切りとか絶交とか言わ
ないで。か、勝手だけど、っ、か、勝手だって言うんなら、言うこと聞くから! 何
でもっ、何でも桑原君の言う通りにするから! だから、嫌いにならないで・・・」
ごめんなさい、ごめんなさいと嗚咽交じりに続ける。
ぽろぽろと大粒の涙が零れる。
終わると思った。
二年生の四月から今日まで続いてきた関係が終わってしまうと、そう思うと、とて
も悲しかった。
お見舞いになんか、来なければ良かった・・・
「――――・・・」
桑原君が、何か呟いた。
「・・・ふぇ・・・?」
「あ、いや・・・」
見ると、何故か困ったような顔をしていたが、しかし、すぐに無表情に戻って、そし
て、
「・・・何でも言うことを聞くって言うなら、まずは泣くのをやめな。あと、一旦離れて」
「・・・・・・」
ぐす、と鼻をすすりながら、少し躊躇いつつも腕を離した。
彼はゆっくりと起き上がる。
「ベッドの上に乗って、仰向けに寝て」
「・・・・・・?」
言われた通り、靴を脱いでベッドに寝転んだ。
「あ、あの・・・、桑原君・・・?」
「喋らないで」
ぴしゃりと制される。
「なるべく声を出さないで。あと、勝手に動かないで」
それだけ言うと、桑原君はあたしの太腿に手をのばした。
「え? あ、あの! ちょっと・・・」
「喋らない、動かない」
少し強い口調で言われた。
(けど、これって・・・)
なおも抵抗しようとするあたしに、桑原君はす、と顔を近づけ、
「・・・絶交してもいいんだ?」
「っ!!」
ビクリと肩が震え、再び蒼ざめる。
そんなあたしに彼はふっと笑い掛け、
「大丈夫。別に、レイプ紛いのことをしようってんじゃない」
ただ、と、そこでまたさっきの意地の悪い笑みを浮かべ、
「今からやるのは、人の寝込みを襲う悪い子に対する罰、だよ」
そう言うと、桑原君はあたしの太腿を撫でまわし始めた。
「ん・・・」
厭うように優しく、触れるか触れないかという微妙な触り方に、ぞくぞくと鳥肌が
立つような感覚が走る。
次第に太腿を愛撫する手に力が入ると、その手でスカートを捲り上げられる。
「やっ・・・」
先ほどの自慰行為でぐっしょりと濡れた下着が露になる。
彼はあたしの両膝の間に手を入れて、ぐっと開かせた。
「やっ、あの」
「往生際が悪いぞ。・・・何でも言うことを聞く、んだろ?」
「ぅ・・・」
「大人しくしてな」
開かれた足の間に座ると、彼はそのまま下着越しにあたしの濡れそぼったそこ
に指を這わせてきた。
「んっ、・・・ふぅん、んんっ」
ゆっくりと、マッサージでもするかのように、優しく指を動かす。
「すごい濡れてる、びっしょびしょだ。・・・さっきもだいぶ感じてたしな」
「やぁ・・・」
目を閉じ、顔を真っ赤にしながら、ふるふると首を振る。
さっきから赤くなったり蒼くなったりの繰り返しだ。
「・・・そろそろ始めるかな」
「え? ――ひゃん!!」
不意に、クリトリスを触られた。
突然の刺激に、ビクリと体を仰け反らせる。
「大丈夫? 罰なんだから、ちゃんと耐えなきゃ」
「そ、そんな、の・・・ん! んんっ!」
「そうそう。声も抑えないと、隣の部屋とかに聞こえちゃうよ?」
言いながら、敏感な突起を弄くる。
円を描くように、強弱をつけて転がされる。
「んんっ! んんぅっ! っはあ、はぁ、あ、ぅんっ!」
(あうっ・・・、そこ、駄目ぇ・・・!)
強くされれば電流が走り、弱くされればじれったさに身悶えする。
動くなと言われても休み無い刺激に身体が揺れ、声を出すなと言われてもそれは無
理な話だった。
転がされる突起の下にある穴からは、次から次へと液体が溢れてくる。
それはすでに下着の吸水量を超え、シーツに染みを広げているようだ。
「・・・お、固くなってきた」
くりくりと弄くりながら、桑原君は言った。
「女の子のここも、こんな風になるんだね」
(そんなこと、言わないでよぉ・・・)
「や、あう! ん、ん、ぅあ!」
非難よりも先に淫らな喘ぎ声が出る。
段々と抑えられなくなり、両手で口を塞ぐ。
それを見た桑原君は、一旦弄くっていた指を離し、軽くピンとクリトリスを弾いた。
「――んんんっ!!」
ビクリと再び仰け反る。
さらにそれで終わらず、二回、三回と続けざまに弾かれる。
「んんっ! んんんっ!!」
(やあっ! うああっ! ・・・駄目、これ以上は・・・!)
弾かれる度に段々と大きな波が押し寄せてくるが、しかし、止めてと言おうにも手を
離したらそれこそ抑えられない。
あたしにできたのは、口を押さえながらふるふると首を振ることぐらいだった。
「んんっ! んんっ!」
(だめ・・・、イっちゃう!!)
あたしは刺激に備えてぎゅっと目を瞑った。
・・・が、いつまでたっても最後の刺激が訪れない。
「・・・・・・ふぇ・・・?」
不思議に思って目を開けると、桑原君がにやにやと笑いながらこちらを見ていた。
「何?」
その表情のまま、ちょっと首を傾ける。
その仕草に、言葉に詰まった。
「え、あ、その・・・」
「・・・『何でやめちゃったのか』?」
ボッという音が聞こえた気がした。
あたしは目を逸らした。
「くくく、ほら、罰だって言ったろ?」
笑いを堪えながら、すっと顔を寄せる。
「簡単には、イかせてあげない」
そう言って桑原君は元の位置に戻る。
「やっ、ちょっと、待・・・」
慌てて足を閉じようとするも、彼の方が速かった。
「ほらほら、勝手に足閉じない。動くなっての。・・・それとも、やっぱり絶交?」
またも「絶交」という言葉を出され、あたしは目を閉じて力を抜いた。
「そうそう、それでいい」
桑原君はあたしの広げた足の間に再び座り、下着をぐいっと引っ張りあげた。
「ぅあうっ!」
全体が擦られる感覚に体を丸める。
「ほら、動くなって」
「っ、だ、だって・・・」
「喋るなって、また押さえときなよ」
「ぅぅ・・・」
言われて渋々口を押さえる。
それを見届けた桑原君は、引っ張りあげたT字の付け根とそこより幾分下がった部
分とを持つと、紐状になった布をプックリと存在を主張してしまっているクリトリスに
あてがい、ノコギリのように動かし始めた。
「ッ!! んっ! ッ、んく!! んんッ!!」
規則正しい、強い刺激。
上へ下へと擦られる度に腰が跳ね、身体を捻る。
「すごいね・・・。そんなにいいんだ、これ?」
「んんん! っは、そ、そんな、ひゃあう!! んぅッ!」
「ほら、ちゃんと押さえとかないと・・・。 ほんとに誰か来ちゃうよ?」
何か言おうとしても、口を開けば出るのは予想以上に大きな淫声。
塞がなければ、本当に誰か来てしまいかねなかった。
休み無く延々と続く刺激。
一体何時からこんなことをしているのか、始めてからどのくらい経ったのか、そんな
ことはすでに意識の外だった。
次第に、閉じたはずの目の前がチカチカとちらつき始める。
再び絶頂が近づいたあたしは、ぎゅっと身体を強張らせた。
が、あと一歩というところでまたもや刺激が止んでしまった。
「ん・・・、っは、はあ、はあ、はあ・・・」
荒く熱っぽい呼吸をしながら、桑原君を見た。
「・・・・・・」
彼はにやにや笑って、こちらを見るだけだった。
「はぁ、はぁ・・・、く、くわはら、くん・・・」
「何?」
笑いながら首を傾げる。
「はぁ・・・、はぁ・・・、・・・もう、・・・これいじょうは・・・、・・・はぁ、・・・あたし、・・・おかしく、な
っちゃうよ・・・」
絶え絶えになった息で、どうにか主張した。
また「絶交ネタ」を持ち出されるかもと思ったが、あたしはこれですでに三回もイき損
ねており、これ以上焦らされたら本当にどうにかなってしまいそうなのだ。
「ふむ・・・」
桑原君は笑みを消し、口元に手を当てて何か考えるように俯く。
あたしは額の玉のような汗を拭った。
「・・・ん、そだな。まぁ確かに、ほんとに誰か来てもアレだしな。・・・ん、じゃあさ」
そこで桑原君は、ずいっとまたあたしに顔を寄せ、
「――『イかせて下さい』って頼んだら、いいよ?」
かぁっと頬が熱くなる。
けれど、もう本当に、あたしは限界だった。
「・・・、・・・イかせて、・・・ください・・・」
目を逸らし、消え入りそうな声で言った。
うんと頷いて、桑原君はあたしの足を閉じさせると、するすると下着を脱がせた。
「あ・・・」
びしょびしょに濡れた柔肉と突起が外気に触れる。
熱く敏感になったそこにはひやりと冷たく、あたしはぶるっと身震いした。
「ん、寒い?」
「え・・・」
「ほら」
ばさりと、上半身に布団が掛けられる。
「あ、・・・ありがと・・・」
「いやいや、まだ早いって」
「え?」
どう意味、と聞こうとしたが、桑原君は下着を抜き取って足を開かせ、また定位置
に座るといきなりクリトリスの皮を剥き上げた。
「ぅんっ!」
芯まで外気に触れ、剥かれた刺激と相まって再び震える。
が、何故か桑原君はそれ以上触ってこなかった。
「・・・?」
「ん〜・・・」
桑原君はまた、少し考えるようにしてから、
「・・・少し、汚れてるね」
「? ・・・。 !!」
何のことか理解し、顔どころか首まで真っ赤になった。
「掃除してあげるよ」
「えぇっ!?」
言って桑原君は、ベッド脇の棚からティッシュを二、三枚取った。
「ちょ、ちょっとそれは待っ――! きゃうっ!」
起き上がろうとしたあたしを突起を弾くことで制する。
「動かない喋らない。分かってるだろ?」
軽く畳んだティッシュに淫液を絡め、剥いたクリトリスを拭き始めた。
「うくっ、んっ、んうぅぅ・・・」
根元や皮の部分など細部まで触られる。
火が出るというより、燃えてるといった方がいいくらい顔が熱かった。
いくら好きな人にでも、ここまでされるのは恥ずかしすぎる。
少し頭がクラクラした。
「・・・ん、こんなもんかな」
しばらくして、桑原君は拭くのを止め、ティッシュをごみ箱に捨てた。
「さて、それじゃあお待ちかねだ。・・・約束通り、イかせてあげる」
いよいよだった。
散々弄くられながら一度もイってないあたしの身体は、すでにもどかしさでいっぱ
いだった。
ぴちゃぴちゃと淫液で濡らした指で、剥き出しにされた突起を摘まれ、「んっ」と思
わず首を竦める。
そのまま指は、滑らかに上下に動き始めた。
「んんっ、あっ! や、はっ!」
「・・・だから、口押さえとけって言うにな・・・」
言われてはっとし、慌てて口に両手をやった。
そんなあたしを見て、桑原君はクスクスと笑いながら「よしよし」と頷き、指を動かす
速度を速める。
「んぅ、んっ! んん! く、んんぅ!!」
しばらくして一旦手を止めたと思うと、今度はくりくりとこねくりまわしてきた。
「んん! んん! くぅぅぅん!」
クリトリスを中心にびりびりと、快感の波が広がる。
下の穴からは、とろとろと止め処なく液体が流れ出てくる。
再び指の動きが止まり、しかし息つく暇も無く、今度はピンと弾かれる。
「んううっ! んんっ! んうくっ!!」
何度も、何度も。
弾かれるたびに、ビクリ、ビクリと腰が跳ね、目の前がチカチカと光る。
(あぁ・・・、来る・・・、来る・・・!)
通算で四度目となる波が、これまでと比べ物にならない大きな波が押し寄せる。
「んふあっ! く、くわっ、はらくんっ! あ、あ、たし、んうっ!! あたし、ッ、もうッ!
うあッ!」
うん、と桑原君は頷き、
「大丈夫。今度は止めたりしないよ。だから――」
「思いっきり、イっちゃえ」
瞬間、
膣の中に指が一気に根元まで入れられ、
剥き出しのクリトリスが、ぬめる指に強く転がされた。
「――――――――――――――――!!!!!」
声にならなかった。
溜まりに溜まった快感が爆発した。
身体が反り返り、ビクリ、ビクリと大きく痙攣した。
膣内がきゅうっと収縮し、彼の指を締め付けた。
頭の中が真っ白になった。
そして、
あたしはそのまま、意識を失った。
・・・
・・・・・・
「・・・ん、んん・・・」
目を覚ますと、まず最初に見慣れない天井が映った。
ゆっくりと周りを見る。
仕切られたカーテン、棚、小さなテレビ、大きな窓もあるが、寝た状態では空しか
見えなかった。
(ここ・・・、病院?)
えーっと・・・、何でこんなとこにいるんだっけ?
思い出そうとすると、カラカラとドアが開く音がした。
(? 誰か来た・・・?)
誰だろう、と起き上がると、布団がぱさりと落ちた。
「・・・え? っわわ!?」
服を着ていないことに気付いた。
上半身はブラだけで、下半身にいたっては何も着けていなかった。
慌てて布団をかき上げる。
「・・・お、起きたー?」
(えっ?)
見ると、そこには見知った顔があった。
「桑原君・・・?」
青を基調とした病人服に、衣類の溜まった洗濯籠を抱え、片手にビニール袋を提
げていた。
なんで桑原君がここに・・・
って、あれ、病人服?
「あぁ、そうだ。・・・はい」
ぽいっと何かが投げ渡された。
(? 布? ・・・え、これ――!?)
渡されたのは、今日あたしが穿いていたはずの下着・・・って、
思い出した!
今日、あたしは・・・、――うわうわうわ!
「とりあえず、服着なよ。そこ、畳んであるから」
「あ、う、うん」
一人で赤くなっていたあたしにそう言って、桑原君はカーテンから外に出た。
ベッドから出、とりあえず下着を穿く。
あれだけ濡らしたはずなのに、すっかり乾いていた。
洗濯物を持っていたみたいだったし、洗ってくれたんだろうか。
(そういえば・・・)
服を着ながら、ふとベッドを見る。
シーツは新品同様で、濡らした形跡など何処にも無かった。
「き、着たよー」
「おーう」
戻ってきた桑原君は、そのままベッドに腰掛けた。
あたしもそれに倣う。
時計を見るともう四時前だった。
「はい」
ビニール袋からスポーツドリンクを取り出し、差し出された。
「あんだけ、汗とか出したんだ。水分補給」
・・・そういえば、喉がカラカラだ。
「・・・ありがとう」
「いやいや」
言いながら、桑原君はコーラを取り出した。自分の分らしい。
あたしは渡されたスポーツドリンクを飲んだ。
すーっと身体に浸透していくようで心地よかった。
と、唐突に桑原君が切り出した。
「・・・あー、ほんとはさ・・・」
「?」
桑原君は、決まりが悪そうに言いよどむ。
「別に、冗談のつもりだったんだよ・・・、絶交とかって。けど、木下さん、すごい勢
いで泣きついてきたじゃん・・・。なんていうか、・・・ごめん」
謝られた。
あー・・・、なんというか。
そもそも原因作ったのってあたしなんだよね・・・
「えと・・・、ううん、いいよ、もう・・・。それよりもさ・・・」
あたしは話を変えようと、ベッドを見る。
「その・・・、下着とか、シーツとかは・・・?」
「ん? ・・・ああ、あの後木下さん、気失っちゃってさ。そのままってわけにもいか
ないから・・・、悪いけど、身体とか拭かしてもらって、んで、シーツとかは他のベッ
ドのと交換して、下着とTシャツは洗濯に出させてもらった」
「・・・そうなんだ・・・」
失敗した。
なんか、すごい罪悪感が・・・
「・・・お腹、もう、いいの?」
「うん。抜糸もとっくに終わってるし、来週には退院できるんだ」
「そっか、おめでとう」
「うん。・・・にしても、アレだね」
「?」
桑原君は、窓越しに空を見上げる。
「初めてだな、こういうの」
「・・・うん、そうだね」
あたしも空を見上げる。
風は冷たかったけれど、今日は快晴だった。
「他の皆はだいたい来てくれたんだけど、木下さん、全然こなかったからさ。だか
ら正直、一人で来ててびっくりした」
「うん・・・」
それで、あんなことになっちゃったわけだけど・・・
でも・・・
「・・・桑原君はさ」
「うん?」
ここまで来たら。
ここまで来たんなら、聞いてみよう。
「・・・桑原君は・・・、あたしのこと、その・・・、どう、思ってるのかな・・・、て・・・」
最後の方は、自分でも聞き取れなかった。
桑原君は、「んー・・・」と唸り、
「――別に」
「えっ・・・」
ふっと、いつもの笑いを浮かべ、
「別に、可愛いと思ってるよ。・・・さっき冗談って言ったけど、あんときのあれ、
『結構いいと思ってる』ってのだけはほんとだよ。嘘じゃない」
はっきりと、そう言った。
「そういうこと訊くってことはさ、そっちもそうなの?」
「えっ? えと・・・、・・・うん」
「ふうん。・・・じゃあさ」
桑原君は、身体ごとこちらを向いて、訊いてきた。
「俺ら、・・・付き合ってみない?」
真っ直ぐにこちらを見つめ、笑顔は変えずに。
「・・・いいの? あたしで・・・」
「勿論。寝込みを襲ってこなけりゃ、ね」
「・・・いじわる・・・」
「あははは」
――冬晴れの空の下、病院の一室で。
初めてあたしは、今日、来て良かったと思えた。