「え、えっと、花屋のメアリーです。  
その、父様からここに来るようにって言われたのですが…」  
爵位ある者の中でも一際 大きなプラシェ公爵の屋敷。  
その玄関に、聞き間違えではなかったかと思える程 小さな声が吸い込まれていく。  
声の主は栗色の髪をまっすぐ背中まで垂らした少女。  
愛らしい顔つきをしてはいるが、その服装はお世辞にも上等とは言えず  
周囲の作りとは不釣合いな程 簡素な物であった。  
何故、このメアリーと名乗った平民の少女が公爵家の扉を叩いたのか?  
その経緯は半日程前までに遡る。  
 
街の広場で行われた ある催しもの にメアリーが参加したのが正午前。  
その後、メアリーは主催者である公爵に父親を謁見させるように言われ  
続いて 謁見から帰ってきた父親にこの場所へ向かうように指示されたのだ。  
少女は、父親が嬉しさと悲しみの入り混じった不思議な表情をしている事を  
不思議に思いつつも言いつけ通りに  
普段なら近づく事すら許されない建物へと向かったのだった。  
 
 
「あの…」  
「―お待たせしました。メアリー様ですね?」  
少女の表情に不安の色が混ざる寸前、柔らかい声と共に廊下の奥からメイドが姿を現す。  
「は、はい!こ、公爵様が私をお呼びだとお聞きして!」  
「お待ちしておりました。どうぞ此方へおいで下さい」  
予想だにしない丁寧な応対に驚いたのだろう。  
硬い動作で返事をし、少女は屋敷の奥へ消えようとするメイドの姿を追いかける。  
時間にすると数分位だろうか。  
案内されたのは ――平民が留まるには分不相応なほど―― 豪奢な応接間であった。  
 
「それではプラシェ様を呼んで参りますので暫くお待ち下さい」  
おっかなびっくりソファーに身を沈めたメアリーに対して、  
メイドは蜂蜜入りのハーブティとそんな言葉を置いて退室していく。  
残された少女は、自分以外に誰もいない事を確認して  
おずおずとティーカップに口をつけながら大きく息を吐き出した。  
「大丈夫…なのかな。私なんかが公爵様のお家に居ても…ふ、くぁ……」  
一人になる事で一息つけたのか、それともハーブの香りに誘われたのか。  
メアリーは柔らかいクッションに体重を預けたまま、小さく欠伸を零すのだった。  
 
 
場所は変わってプラシェ公爵の書斎。  
部屋の主がイスに座ったまま、執事と思しき人物の言葉に耳を傾けている。  
「…、種には水を与えました。そろそろ効果も現れているでしょう。  
それと、持ち主に対しても使いの者を出しておきました。  
指示通り金貨を持たせましたが…あれで良かったので?」  
「普段ハンター達に渡す金額の半分にも満たない。後の処理を考えれば高くは無いだろう」  
「分かりました。眠った種はいつもの通りに地下室に…」  
「構わん。それと、ケルソーにも使いの者を。  
今回はすぐに始められるようにしておくように」  
「畏まりました」  
 
人身売買――。  
品評会に『使用』する少女を集めるのに使われるポピュラーな経路の一つである。  
その道の人間が貴族達の所へ売りに来るのだが主な形であるが  
時として貴族自らが素質有りと見た少女を扶養者から購入する事もある。  
このような行為が世間には名家への奉公  
…とあたかも善行のように謳われているのだが、それはまた別の話。  
 
 
豪奢な館の地下に設けられた石造りの牢。  
館の中でも知る者の限られた、そう広くない空間の一角にメアリーは拘束されていた。  
両手首には無骨な鉄枷が嵌められ  
天井から伸びる鎖によって真上へと引き上げられている。  
石床に座り込めるほど 鎖の長さに余裕がある事が僅かながらの救いだろうか。  
館に来るまで着ていた衣服は殆ど身に着けておらず、少女の薄い肢体を  
ガス灯の揺らめきから隠しているのは擦り切れたタンクトップのみであった。  
 
「ん…ぅん……」  
肌寒さと湿った臭いによって  
メアリーはそれまで落ちていた眠りの底から意識を浮上させる。  
薄く開いた瞼の先に広がるのは高い石の壁。  
自身のおかれた状況が飲み込めず、幾度となく瞬きを繰り返す。  
――どこだろ…ここ? 確か、父様に呼ばれて……  
ぼんやりとした思考で記憶を辿って、少女は応接間で伯爵様を待つうちに眠くなり  
そのまま意識を手放してしまった所まで思い出す。  
それでもまだ、自分の置かれている状態には繋がらない。  
メアリー何かを求めるように、手を動かそうとするも それが叶わない事に気付く。  
キシリ、と。  
金属が擦れる硬質の音が木霊した。  
「…え、これ…鎖?何で……」  
 
 
地下牢と館を繋ぐ管理室。  
質の良い蝋燭が燃える下で複数の男性が言葉を交わしていた。  
「…ペルシュ様。どうやら種が目を覚ましたようです」  
「そうか。ならケルソー博士、後は頼んだぞ」  
「おや…。ジュリー王女の時のように自ら仕込まないのですか?」  
「面白くない冗談だな、ケルソー博士。私も宝石は好きだが…  
だからといって自分で原石を掘る趣味は無い」  
「畏まりました。――3番ケージの中身を中へ」  
館へ向かう足音と、地下牢に落ちる粘質の音。  
管理室に残ったのは、愉しそうな、研究者の笑み…。  
 
 
「ん!ここから出して下さい!誰かいないのですか!」  
少し前から続く鎖の音と助けを求める少女の声。  
他には何もなかった牢屋内に新たな『音』が加わる。  
――ベチャリ。  
「え…な、何?今の……っ!?」  
人の出す音にしてはあまりに異質な重い粘着音。  
思わず息を呑んだメアリーは恐る恐る音のした方へ視線を移す。  
 
そこにいたのは緑色の、不気味な形をした肉塊であった。  
多数の触手から成る軟体のイソギンチャク、と形容するのが一番近いか。  
陸育ちの少女には言い表す事のできない形のその生物は  
少女の正面へと這い寄り、ゆっくり触手を持ち上げていく。  
「な、なんなの、あなた……ヒ!」  
少女の目の前で静止した触手は先端から裂けて大きく広がっていく。  
動物の咀嚼器官にも似たソレの内部には歯がなく  
代わりに弾力に富んだ突起や繊毛がひしめき合っている。  
肉塊は自らの触手器官在を誇示するかのように、その先端を開閉させた。  
 
――私、食べられちゃうの…?  
蠢く筒に恐怖を感じたメアリーは、それまで床につけていた両膝を立て  
無意識のうちに自身の身体を守るように身構えてしまう。  
「…お、お願い。食べな……ひゃぅん!」  
少女の勘はけっして的外れなものではなかったが  
触手の意図を予想できるほど彼女は経験を積んでいなかった。  
少女が身体…取り分け胴体を守ろうとしたのに対して  
触手は口を開けたまま石床にそって素早く伸びた。  
肉蛇はそのまま合わせられた両膝の隙間を抜け、内腿を擦り  
最後には足の付け根に隠れたクリトリスへと吸い付いたのだ。  
 
「…ゃ…あ…何、コレ……?」  
突然メアリーを襲った形容しがたい感覚。  
痒いような、痛いような。不快なのにどこか―――。  
――クニュクニュクニュクニュクニュクニュ…。  
「うゃぁぁぁ!!」  
送られてきた刺激が何であるかを理解する前に  
それ以上の激感が下半身から湧き起こる。  
メアリーは堪らず両膝を閉じるが  
それはクリトリスに吸い付いた触手の動きを何ら妨げる事はできなかった。  
「くすぐったいの!それ、だめなのぉぉぉ!」  
触手を下腹部から引き剥がそうとメアリーは拘束された手にも力を込めるが、花屋の  
少女の腕力で鉄枷が外れる筈もなく、鎖の擦れる冷たい音が牢内に響くだけであった。  
「あひゃぁぁ!ぅ、くぁぁぁ―――!!」  
少女は刺激から逃れようと身じろぐが、触手は離れる事なく口部での咀嚼を続けている。  
快感への応え方を知らず、傍若無人な触手の動きにただ振り回されることしかでない蕾。  
未だ強張る気配のない芽は、それを守る鞘と共にこね回されて  
耐え難い痛痒感を少女へと送っていた。  
 
――クニ…クニュ…クニュ……ズチュッ!  
「くにゃっ…てぇ…ぇあ!だめ…なのぉ……。ほんと…に、だひっ――!」  
それまで触手から逃げるように動いていたメアリーの身体が  
雷に打たれたかのように跳ねる。  
単純な ――と言っても、少女が受けるには十分過ぎるのだが――  
上下左右の噛み責めから、肉壁の伸縮による断続的な吸引責めへ。  
触手の動きが変わり、全身を硬直させたメアリーは  
眠っている何かを無理矢理 引き起こされるような感覚に、幾度となく意識を蹂躙される。  
「あひゅ! かひゅ! ぁあ! ぅあぁぁぁ!!」  
――変、なのぉ。くすぐったい…のに…お腹、熱いのぉ……。  
まだ快感を理解していない少女の身体であっても  
与えられた刺激が少しずつ蓄積してしまう事に変わりはない。  
メアリーは自分の下腹部で膨らむ熱さをどうすることもできず  
触手の吸引に合わせて肢体を幾度となく痙攣させる。  
「あぁぅ! くひゃぅ! ぅやぁぅ!」  
目に涙を浮かべ、日に焼けたあごをガス灯の光に晒けだす少女。  
快感に対する他の術を知らないのだろう。  
鉄枷に囚われた両腕に支えられ、メアリーは粘質の音に合わせて  
ただ言葉にならない声を上げ続けた。  
 
変わらず、終わらない…。  
規則的な吸引のリズムによって、少女は急速に性の頂へと追い詰められていく。  
「やぇ! ぁのぉぉ! っんひ! だぇ……っぇあぁぁぁ―――!!」  
少女の思考に霞がかかり、心が抵抗を諦めた瞬間  
触手は石壁に反響する程の音を伴って、少女のクリトリスを強く吸い上げた。  
 
―生まれて初めての絶頂。  
その嵐のような解放感を少しでも和らげようと  
メアリーは上半身を大きく反らして声を張り上げる。  
その表情は、極まった余韻に浸る悦びと  
身体に渦巻く熱さと切なさに対する戸惑いの綯い交ぜになったものであった。  
 
 
少女は与えられた快感に区切りをつけて身を震わせていたが  
肉塊の目的は少女を絶頂に導く事ではない。  
吸引動作のために収縮していた触手を一度弛緩させると  
快楽に震えるクリトリスを咥え直し、躊躇うことなく吸い上げ始めた。  
「〜〜〜〜〜〜っ!!」  
絶頂により鋭敏になっていた肉鞘に対して為される  
それまでと何ら変わることのない行い。  
本能的に終わったと判断していた器官に激しい刺激を受け  
メアリーは瞳を開いたまま、まともに声を漏らす事もできなかった。  
再発する下半身での熱さを伴った峻烈な痛痒感。  
少女は両膝を広げて地面に着き、後ろ髪が床に触れる位に仰け反って、身体を震わせる。  
「だめぇ! そぇ! くすぐっ…んひゃぁぁぁ!」  
瞳孔を窄め、涙すら流して鳴き声を上げる少女だが  
触手の責めはそれだけでは終わらなかった。  
吸引により少しだけ頭をもたげたクリトリスを  
一番初めにしたように激しく咀嚼し始めたのだ。  
――クニ…チュプ…クニュクニ、キュポッ……。  
「ああぁ?ぅくぁぁぁぁ――――!!」  
強張る事を覚えていない突起は素直に筒部で引き伸ばされ、口部で揉み潰される。  
与えられる刺激はそのまま快楽というなの激感に変換され  
少女の神経を焼き焦がしていく。  
「食べちゃぁぁ…吸っちゃぁぁ…ぁあ゛ぁぁぁぁ!!」  
パチパチと、メアリーの視界がスパークする。  
いくら鉄枷を引き、栗色の髪を振り乱しても、その感覚から逃れる事はできない。  
視界が歪む程の峻烈な快楽を叩きつけられ  
少女は先ほど以上の早さで絶頂へと追いやられていく。  
――…クニャ、クニ…クニュクニュ…クニャ……グニュン!!  
――キュプ…キュポ――キュプ…キュポ――……キュゥゥ!!  
「あ゛ぁ! えぁ゛ぁ! うきゅぁ! ぇはぁ゛ぁ! ……――っあ゛〜〜〜〜!!」  
 
2回目の絶頂によってメアリーの身体が大きく跳ね  
その動きに着いていけなかった触手がクリトリスから外れる。  
ようやく快感から逃れることができたメアリーは俯いたまま絶頂の残滓に身を震わせた。  
「はぁ…はぁ……んく…はぁ…ぁぁ……」  
 
 
臀部を石床につけてへたり込み、自身の事に精一杯の少女は気付いていなかった。  
この地下牢と外を繋ぐ扉が開いた事に。  
そして肉塊の、その身体から伸びる触手の 動きがまだ、止まっていないことに――。  
 

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