あたしは今朝からどうにも落ち着かない。理由はただ一つ。
ついに、念願のクリサロを体験するから――。
家族は一昨日から旅行、あたしは学校があるからとお留守番。
三つ上のお姉ちゃんは試験休みということで連れて行ってもらってるのに、
なんであたしだけと拗ねていたのも昨日まで。
学校から帰ってきて、暇つぶしにパラパラと捲っていた雑誌の広告があたしの目を奪った。
『春の無料体験キャンペーン』
『寒い冬も終わりに近づき、いよいよ露出の多くなるこれからの季節。
お手入れするなら今がチャンス!各店舗、先着15名様に限り無料体験を実施しています。
御予約は今すぐ!』
前々から興味のあったクリサロを無料で体験できる。
家には今、あたししかいない。
年齢制限に引っかかるけどお姉ちゃんと瓜二つってよく言われるし、身分証を拝借しちゃえばいい。
服とか化粧品も借りてそれなりにおしゃれすれば絶対14には見えないはず。
何よりも、ママとお姉ちゃんの行き着けのクリサロとは違う会社。
誰にもバレる心配はない。
そこまで考えたら、電話に伸びる腕を止めるものなんてなかった。
電話の対応をしてくれたのは意外にも男の人で、女の人しかいないと思い込んでいたあたしはかなり驚いたけど、
それでも簡単な問診をクリアして予約を取りつけた。
電話を切った後、あたしはお姉ちゃんの部屋でファッションショーばりにあれこれ着替えて悩みまくりながら服を決め、
雑誌を片手に鏡とにらめっこしながらメイクとヘアの研究に没頭した。
昨夜の五時間に及ぶ格闘の末、どうにか17、8には見える外見を手に入れて
今、あたしはお店の前に立っている。
目の前の扉を押せば未知なる世界が待っているのだ。
はやる気持ちを抑えて大きく深呼吸をすると、あたしは扉に手を伸ばした。