父と母が、交通事故で死んだ。  
家には病弱な姉がいる。  
姫野はるかは高校を中退して、働く決意をした。  
 
「…くそっ」  
姫野はるかは喧嘩帰りだった。  
「一発、いいのをもらっちまった」  
この辺りでは五指に入る一匹狼の不良である。  
もちろん禁句は、「女みたいな名前」である。  
「ただいま」  
「おかえり…ってアンタまた喧嘩して!」  
母、敦子(あつこ)は二日続きのカレーを温めていた。  
「正当防衛だ、いきなりブン殴られたんだよ」  
「…まったく」  
父は仕事に追われる毎日である、彼の心に両親はいなかった。  
これが彼の日常だった。  
 
だから彼は、悲しむことはなかった。  
ただ、姉を養うため、彼は決意したのだ。  
「おかえりなさい」  
甘く微笑みかける、少女のような容姿の女性。はるかの姉、姫野弥月。  
はるかは、まったく汚れを知らない実姉、弥月がひたすら愛しかった。とても、とても大切な存在だったのだ。  
男も女も玩具にしてきた自分にはおこがましい、そう思いながらも。  
 

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