最初はくだらない言い争いだった。
△△が○○だったら、今日一日、俺が姉貴の言うことをひとつ聞く。
△△が××だったら、今日一日、姉貴が俺の言うことをひとつ聞く。
結局の所、△△は○○で俺は姉貴の暴力行為を禁じた。
その日は俺にとって、とても素晴らしい一日だった。
−−−夜
「なおみ、いる?」
こんこん、とドアがノックされる。
俺は念のため、部屋の壁に掛かっている時計を見た。
姉貴ならば時間が過ぎた瞬間、俺をぼこりかねない。
23:30分、まだまだ平気だ。
「なに?」
俺は余裕を持ってドアを開けた。
姉貴の顔は伏せられていて見えなかった。
その肩は小さく震えていた。
「今日ね、ずっと考えたの。」
「私、今まで、なおみに一杯ひどいことしてきたよね。」
「それでね・・・。」
姉貴が、優しく俺の手をぎゅっと掴む。
力が入りすぎでちょっと痛い。
しかし、それが姉貴らしいといえば、姉貴らしい。
「それ以上にひどいことって何かなあ・・・って。」
その一言だけ声のテンションが変わった。
伏せられていた顔がゆっくりと持ちあがる。
それは獲物を捕らえた捕食者の笑顔だった。
とても、いやな予感がした。
「や、約束の時間はまだだろ!?」
苦し紛れに俺が叫ぶと姉貴は俺に左の腕の甲をかざした。
その細い腕に巻かれた時計の時間は12:02分。
つまりは24:02分、約束の時間をちょっと過ぎている。
「なおみの部屋の時計ね、30分遅いの。」
俺は部屋の時計を見た。
23:32分。
これに30分を足すと24:02分。
つまり、俺を守ってくれるはずの約束はもうない。
「そ、そんなっ!」
昨日までは確かに俺の部屋の時計は間違っていなかった。
これは全て姉貴の罠だ。
俺をこの部屋から確実におびき出すための!
24:03分、俺の絶叫が室内に木霊した。