「あっ。」  
 
それは俺が階段を半ばまで上がったときだった。  
ちょうど、姉貴が目をこすりながら階段を降りてくるところだった。  
つまづいた姉貴の身体が冗談みたいにスローモーションで落ちてくる。  
 
「わあああああ! なおみ、どいてどいて!」  
 
無理、絶対、無理。  
いくらゆっくりに見えても身体は動かない。  
仮にかわせたとしても、かわせるはずがない。  
そして、俺に自由落下中の姉貴を止めるだけの力があるはずもない。  
どどどど、どしーん!  
姉貴の下敷きになって俺は一階まで転げ落ちていた。  
 
「なおみ、大丈夫!?」  
 
姉貴は慌てて俺の上から飛びのいた。  
俺の身体がクッションになったため姉貴の方は無事だったようだ。  
俺は、派手に落ちたものの、身体は大して痛くない。  
 
「ああ、だいじょうぶっ・・・て、あれ?」  
 
俺は平気さをアピールするために立ち上がろうとしたが右足に力が入らない。  
靴下を脱ぐと足首がすごく腫れていた。  
おまけに最初は痛くなかったのに段々と痛くなってくる。  
 
「あ〜、捻挫だね〜、これは。」  
 
痛い痛い、とか言いながら、姉貴は俺の腫れた部分を撫でまわす。  
ひんやりとした姉貴の手がちょっと気持ちいい。  
 
「ちょっと、待ってて。」  
 
姉貴は居間から救急箱を持ってくると、  
患部に湿布を貼り、手際よく包帯をくるくると巻いた。  
驚くほどの鮮やかさだ。  
伊達に看護師志望というわけではないようだ。  
 
「ほんっとに、ごめん!」  
 
姉貴は両手を合わせて俺に謝った。  
普段の暴力や何やらは理不尽なものだが、こういうことには律儀だ。  
偶然と故意は別物ということだろうか。  
 
「捻挫が治るまで、私が面倒みるから許してっ!」  
 
「え・・・?」  
 
予想外の展開だった。  
姉貴の献身的すぎる看護の、お陰で俺の捻挫は一週間ほどで完治した。  
(ほぼベッドに貼りつけだった。)  
まあ、元々の怪我の程度が軽かったのだろう。  
 
俺は姉貴の性格的に看護師は無理じゃないかと思っていた。  
だけど、この考えは改めざるをえない。  
姉貴はきっといい看護師になれる。  
 
多分、だけど・・・。  
 

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