喉がじりじりと痛む。
体中が熱くてだるくて、鉛になったみたいだった。
(いまどきクーラーが付いてない学校なんてウチくらいじゃないの…)
ぼーっとする頭でどうでもいいことを考えながら暑苦しい毛布を蹴り上げたら、横から聞き慣れた声がした。
ゆっくりと重い瞼を上げる。
「おー、起きた」
「…お兄ちゃん?」
「迎えに来いって、先生から電話あった。親父たちは仕事で来れねーってさ」
大学の夏休みはなげーの。
そう言って、お兄ちゃんは私の額に手を添えた。
「あちー」
昔は良くこうやって熱計ってもらったなあ。
いつの間にかその手のひらも大きく、ごつごつと男の子らしくなってしまって、
昔の面影なんて無いのだけれど。
うっすらと湿っているそれの心地良さに、再び目を閉じた。
「保健の先生が戻ったら、病院連れてってやっから。帰ったらお粥も――――」
「…お兄ちゃん、」
油断している浅黒い腕を、ぐいっと掴んだ。
引き寄せられたお兄ちゃんはびっくりした顔してる。その顔になんだか罪悪感を感じるけれど、今しかない。
今日、今なら、この熱のせいに出来ると思った。
ごめんね、お兄ちゃん。すき、すき、大好き。
頭の中で何度も呟きながら、お兄ちゃんの首にするりと腕を回した。
お兄ちゃんの薄い唇に、夢中で自分のそれを押し付けた。
安っぽい保健室のベッドが、きゅっと音を出して軋む。
肩を押し返す強い力に気付かないフリをしながら、角度を変えて何度も何度も口付けた。
キスって、こんなに気持ちいいものだったっけ?今までにケンちゃんや遠山先輩としたどのキスも、比べものにならない。
「ばっ…!お前なに、して…」
無理やり私の顔を引き剥がして、お兄ちゃんは唇を手の甲で懸命に拭う。泣きそうな顔をしたお兄ちゃんを見るなんて、何年ぶりだろう。
そして私も泣きたくなった。
「…春香、」
「お兄ちゃんが…すき」
「は、」
「ずっと、すきだったの…!」
その瞬間、これまで堪えていたものが、ぶわっと溢れ出した。
「泣きてぇのは俺だよ、ばか…」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を、お兄ちゃんはそっと抱きしめてくれた。
ちょっと汗くさいけど、そこも好き。
結局その後は先生が来てしまって私達は慌てて離れたけど、私は絶対諦めない。
お兄ちゃんが振り向いてくれるその日まで。