深山の景色を撮影に来た帰りに、すっかり道に迷ってしまった。  
散々歩き回った末、どうにか麓へと降りられそうな道は見つけたが、  
既に日は暮れかけていて、これ以上迂闊に動き回るのは危険そうだった。  
「今夜はこのまま、夜明かしするしかないか」  
幸いにも季節は夏。それに山を歩くカメラマンの心得として、  
最低限の装備はしてきてある。俺は野宿の出来そうな場所を探して、  
付近を探索し始めた。と、その時、宵闇の向こうに俺は意外な影を見つける。  
どうやら人工の、建物のようだった。  
「まさか、こんな山奥に?」  
明かりが灯っているようには見えない。まさか人がいるとは思えなかったが、  
屋根だけでもあればしめたものだ。俺はそこに向かってみることにした。  
 
「廃寺か……驚きだな、こんな所に」  
そこは、一軒の荒れ寺だった。本堂らしき建物の入り口は破れ、建物は朽ち、  
ボロボロに荒れ果てている。恐らく、人が住まなくなってからかなりの年月が  
流れているのだろう。中を覗き込んでみると、天井板にも大きな破れ目ができている。  
だが、屋根そのものはどうやらかろうじて無事のようだった。  
山の天気は、何しろ変わりやすい。雨漏りくらいはするかもしれないが、  
それでも野宿よりはずっとましというものだ。  
「ごめんください、一晩お世話になります……っと」  
まさか誰もいるはずはないのだが、一応、挨拶だけはしておく。  
と、その時、俺はかすかな、人の声のようなものを聞いた気がした。  
 
(どぅぞ)  
 
「いや……まさかな、ハハハ」  
担いでいた撮影機材を下ろし、俺は寝床を整えた。といっても、  
さすがに寝袋までは用意していないから、ビニールシート代わりに新品のゴミ袋を何枚か敷き、その上に着替えの服とタオルを重ねただけだ。こんなものでも、  
あるとないではぜんぜん違う。携帯非常食の乾パンと水だけの味気ない食事を取り、  
バスタオルにくるまって、俺はさっさと寝てしまうことにした。  
「これが怪談話なら、ここらで必ず狐や狸や妖怪なんかが現れるんだよな」  
口ではのん気にそう言ってみたが、月明かりにぼんやりと映る  
天井の大きな破れ目を眺めながら、俺は漠然とした違和感を覚えていた。  
どうも、何かに見られているような気がしてならない。  
「そういえば、このあたりに昔、油を下げた妖怪がいたってね」  
妖怪油すましを呼び出す、有名なまじないの文句を唱えてみる。  
話の通りなら、ここで油すましが『今もいるぞ』と言って姿を現すはずだ。  
「おーい、油すましさーん?」  
呼べども待てども、油すましは出てこなかった。まあ、当たり前なんだが、  
しかしどうせ出てくるなら、油すましあたりの無害な妖怪であってくれたほうがいいではないか。  
なにしろ油すましというのは、ただ油を下げてただずんでいるだけで、  
何も悪さはしない妖怪なんだから。そんな馬鹿なことを考えているうちに、  
俺はいつしか眠りに落ちていた。  
 
(にんげん……)  
 
何か、なまあたたかい吐息のようなものを顔に感じて、俺はふと目を覚ました。  
破れた戸口から外を見ると月はまだ明るい。慣れない寝床でうまく寝付けず、  
目が覚めてしまったのだろうか。それとも、まさか……  
「妖怪、枕返しか!?」  
そもそも枕がないから枕返しなどされるはずはないのだが、  
俺はとりあえず思いついた妖怪の名前を適当にあげてみた。  
「はんにゃーはらみー、はんにゃーはらみー」  
枕返しなら、般若心経を唱えていれば命は取られないはずだ。  
どこかの民話にそんな話がある。もちろん気休め以外の何者でもないが、  
そもそも、深夜に人里離れた廃墟に一人でいて、心細くならないはずがないんである。  
「枕返しさーん、この通り信心深いですからー、北枕にしないでねー」  
枕返し対策が済んだところで、俺は再び目を閉じて寝なおすことにした。  
 
(まくらがえし……?)  
 
次に目を覚ましたとき、俺の顔はなぜかべっとりと濡れていた。  
天井から雨漏りでもしたのかと思ったが、外は相変わらずの月明かりで、  
雨など降っていない。第一、これは水じゃない。触ってみると、かすかにベタついた感じがする。  
そして気づいてみると顔だけではない、いつの間にか俺の着ていたTシャツが  
胸元までまくり上げられており、胸や腹にも濡れたあとがあった。  
おかしい。おかしすぎる。やっぱり、ここには何かいる。  
「おーい、誰かいるのかー?油すましさーん?」  
油すましがこんな悪戯をするとは思えなかったが、濡れ女とかを呼んでみて、  
本当に出てきたら困るではないか。俺はポケットライトを片手に、  
改めて建物の中を一通り調べてみることにした。ちなみに濡れ女というのは、  
濡れたウロコの肌と蛇の胴体を持った、水辺から人間を引きずり込む妖怪のことだ。  
「誰かーいませんかー」  
が、結局のところ探索は徒労に終わった。  
人間も油すましも枕返しも濡れ女もいないのはもちろん、  
ついさっきまで何かがいたような痕跡は何も見出せなかった。  
ただ荒れ果てた、がらんどうの建物があるだけだ。しかし、さっきのが気のせいであるはずはない。  
「やっぱ気のせいだな、寝るかあ」  
俺はわざとそう口に出して目を閉じ、寝たふりを始めた。  
もし、相手がこちらの眠っているときにだけ姿を現す類の物の怪であれば、  
この手に引っかかるかもしれない。  
「ぐー、すかー、んごー」  
しばらく身を固くしてじっと待っていると、  
果たして、何者かの気配がしゅるしゅると近づいてきた。  
気配は、上からだった。足音はしない。朽ちかけた木造の床がきしむ音も。  
明らかに、それは普通の人間の気配ではなかった。  
「にんげん……にんげん……またねてるね……ふふ」  
喋った!日本語喋った!しかも人間って呼ばれた!  
たいそう驚きはしたものの、俺は息を殺して飛び起きたくなるのをこらえる。  
ここはひとまず、相手の出方を見よう。  
どのみち、いきなり人を食い殺すような化け物ならもう食われているだろうし。  
「にんげん……あったかい……うふふっ」  
鈴の鳴るような、少女の声。やわらかくなめらかな感触が、  
俺にほおずりをしていた。肌に感じる体温は、人間のそれと変わらない。  
そしてこの感触は……うわ、キスされてる。  
 
「んー、んー」  
あたたかな唇が、寝たふりをしたままの俺の顔にキスの雨を降らせる。  
こそばゆい。あ、口にもチューされた。  
「こんどはー、こっちー」  
気配が俺の下半身のほうに向かって移動し、カチャカチャとズボンを脱がせ始める。  
が、はずし方がよく分からないのか、苦戦している。  
「んー……なんだこれー」  
別に俺は難しい構造のズボンを履いているわけではない。ただのジーンズだ。  
この相手はどうやら、ホックというものを開けたこともなければ、  
ジッパーというものを下げたこともないらしい。  
「よいしょ、よいしょ……やっととれたー」  
悪戦苦闘の末、どうにか俺のズボンを脱がし終えたその何者かは、  
首尾よくトランクスも脱がし終えると、  
「えへへっ……んー」  
何だか嬉しそうな声を出して、俺のペニスに舌を這わせ始めた。  
「んー、んーっ」  
眠っている(と思っている)、  
見知らぬ(多分そうだろう、俺には山中に突然現れて不意打ちでこんな真似を  
してくれるような女友達はいない)男に対していきなりフェラチオを始めるという  
大胆さの割には、彼女(もう彼女でいいよな、これで顔を見たら男の妖怪だった  
なんてオチはごめんこうむる)のその仕草は意外と不器用で、こなれないものだった。  
亀頭のまわりにただくるくると舌を這わせてみたり、いまひとつ見当違いの  
サオの部分をペロペロと舌先だけで舐めてみたり。  
どうも、見よう見まねでやっているような感じだ。  
が、もちろんそれでもそれなりに気持ちいいことに変わりはない。  
「んしょ……んっ」  
彼女は今度は俺のペニスをすっぽりと口に咥え、  
口内で舌を絡ませ始めた。中は狭くあたたかくぬめって、  
牙の感触があるわけでもなく、人間の女の子のそれとまったく変わりはなかった。  
「ん……んー、ちゅ、ちゅ……」  
彼女は音を立てて俺のペニスを吸い上げ、キャンディーのようにしゃぶる。  
俺は思わず声を出しそうになって、こらえる。  
いや、こちらが目を覚ましていることに気付かれても、害があるわけではないのだ。  
俺はとっくに、この相手の正体には気が付いていた。  
こいつは、『天井下がり』だ。  
天井の破れ目からぶら下がって眠っている人間に悪戯を仕掛け、  
相手が目を覚ますと天井裏に隠れてしまうという、さほど害のない妖怪。  
この突飛な行動からすると、夢魔や淫魔の一種でもあるのかもしれない。  
眠っている人間に淫らな夢を見せてその精を奪う、ってやつ。  
この廃寺の天井板にあった大きな破れ目、あそこにこいつは潜んでいたのだろう。  
天井からぶら下がって行動するのだから、いくら調べても足跡など見つかるはずはなかった。  
「んーっ、んっ……」  
懸命に口での愛撫を続ける彼女。絡みつく舌の動きはやっぱりいまひとつ不器用で、  
試行錯誤を繰り返している感じだったが、こういう初々しいのもそれなりに悪くはないものだ。  
で、正体が分かったのになぜまだ寝たふりをしているかというと、  
もちろん、こちらが気付いているということを相手に気付かれると、天井下がりは現在遂行中の作業を止めて隠れてしまうからである。  
せっかくいいところだというのに、そんな、もったいない。  
 
「んっ、ぷは……ふぅ……」  
彼女はいったん口を離し、それからやっと思いついたかのように、  
唇をすぼめて口内でペニスを前後に揺すり始めた。  
既にかなりのところまで高まりを感じていた俺としては、さすがにこれが限界だった。  
「きゃ……うわっ……」  
俺が欲望に任せて勢いよく精を放つと、彼女は驚いて口を離してしまう。  
ちょっと残念だが、そんなことより俺はその瞬間、  
あらかじめ手元に忍ばせてあったカメラのシャッターを切り、フラッシュを光らせていた。  
この闇の中では、瞼を閉じたままでもはっきりと分かる、強烈な光。  
まして、夜目に慣れた目で、至近距離でこれを浴びれば。  
「うひゃっ!?きゃーーーーーーっ!!」  
どしーんと盛大な音を立てて、天井下がりが天井から落下してきた。  
俺もようやく目を開けて、そいつの姿をはっきりと目にする。  
まっさかさまに落ちたのか頭頂部を押さえて涙目になっているそいつは、  
人間でいえば13か14歳くらいの、美しく長い黒髪をした少女だった。  
よかった、けっこうかわいい。そしてちゃんと女の子だ。  
身にまとっているのは一重の白い着物だけで、丈は腰の下くらいまでしかなく、  
そこから先はすらりと白い足がちゃんと見えている。  
こうしてみると人間にしか見えない。  
この体で、いったいどうやってあの高い天井からぶら下がっていたんだろう。  
「正体見たり。お前、天井下がりだな?」  
「ぃ、ぃゃ……ころさないで……ころさないで……」  
少女は、見るも哀れなほど怯えていた。何だかこちらが悪者になったようだ。  
本来はずっと天井裏に隠れている存在だから、  
人間と正面から向かい合うことには慣れていないんだろうか。  
「怖がらなくていいよ。ただの人間だ、とって食ったりしない。  
というか、ここは君の住処だったんだよな?」  
天井下がりが、膝を抱えて震えながら小さく頷く。  
「そっか、考えてみると、勝手に入り込んだのはこちらのほうだな。  
驚かせてすまない。山の中で迷って、一晩宿を借りたかっただけなんだ」  
「にんげん……まいご……」  
「そう、迷子。だから泊めてください。この夜中だし、追い出されると、困る」  
ようやく少し警戒が解けたらしい天井下がりが、上目づかいにこちらを見ながら、もう一度頷いて、言った。  
「にんげん、あうの、はじめてなの」  
「初めて?コンクリートの建物が増えたから天井の破れた家が少なくなって、  
それで田舎に越してきたとかじゃないの?」  
「ずっと、ここにいるの」  
天井下がりは、破れた天井にだけ住み着く妖怪だ。ということはつまり、  
壊れて捨てられた傘の化身であるカラカサお化けなんかと同じように、  
おそらくこいつは、古天井から生まれる付喪神の眷属なのだろう。  
ただ、なんとも間の悪いことに、こいつはたまたま建物ごと山中に打ち捨てられた  
廃寺の天井で生まれてしまった。近くには他に人家もないから、  
どこかへ移り住むこともできない。それで、ここでこうして、  
悪戯を仕掛ける相手の人間がやってくるのをずーっと待っていたというわけだろう。  
「お前、一人なのか?他の妖怪とかは?油すましの友達とかいないの?」  
「あぶらすまし?しらない……いつも、わたしだけ」  
「ずっと?生まれたときから?」  
コクリと頷く。俺は、なんだかこの妖怪娘が気の毒に思えてきた。  
 
いくら人間とは異なる存在とはいえ、こんな寂しいところで、  
生まれてこの方何十年も、ひとりぼっち、か。  
もちろん他者と交わることを嫌う妖怪も珍しくはないが、  
人間に悪戯を仕掛けるというその習性から考えても、  
天井下がりはそういう類の妖怪ではない。本来彼らは、  
『天井が破れたままになってますよ』という警告をその家の住人に与えるために、  
すなわち人間と接触を持つことを目的として、生まれてくる妖怪なのだ。  
「ふびんなやつめ」  
俺はその人の形をした小さな妖怪娘の頭を、ポクポクとなでてやった。  
「ふびん?」  
よく分からないという顔で、きょとんとしている天井下がり。  
「それはそうと」  
なんとなく空気が和んでしまったが、もちろん忘れてはいない。  
いくら舌ったらずな喋り方をしてみせても、  
こいつは挨拶代わりにいきなりフェラチオをかましてきた淫乱妖怪なのだ。  
「何で、あんなことしたの?」  
「あんなこと?」  
「つまり、こんなところを咥えたりとか」  
天井下がりの細い手を取って俺のペニスに導いてやると、  
驚いたことにと言うべきか、彼女は慌てて手を離し、ぽっと赤くなってうつむいてしまう。  
「やー、にんげん、すけべー」  
おい、ちょっと待て。お前、そんなことを言うその同じ口で、さっき何をした。  
「だって……にんげん……おきてる」  
どうやら、相手が眠っているときにしか、天井下がりの淫乱さというか積極性というか、  
そういう特性は発揮されないらしい。相手が眠ってるときにだけ悪戯を仕掛け、  
気付かれたら物凄い勢いで天井裏に隠れるというのは、  
実は恥ずかしがり屋だったからなのか。なんたる驚愕の事実。  
「じゃー、続きしないの?起きてる相手とは」  
「つづき?」  
「こういうことの続き」  
小柄な天井下がりをひょいと抱き寄せて、今度はこちらからのキス。  
小さな唇に自分の舌を割り込ませ、彼女の舌と唇の甘い感触を味わう。  
はじめは身を固くしていた彼女も、やがてそれに応え、舌を絡め返してきた。  
たっぷり堪能してから彼女を離すと、舌と舌の間で唾液が糸を引く。  
「うひゃあ……なんか、すごい」  
「もっと凄いこと、教えてやるよ」  
「ほんと?」  
「ああ」  
ちょっと気取りすぎたかなという気はしないでもなかったが、  
なにせ他の人間にも妖怪にも会ったことすらなかったというのだから、  
正真正銘の処女には違いあるまい。俺は彼女の薄い布切れ一枚の着物に手をかけ、  
肩からすべり落とす。和装の正しきたしなみ通り、  
彼女はその下に何も身につけてはいなかった。ほのかな月明かりの下に、  
白く美しい妖魅の少女の裸身が浮かび上がる。  
見かけ上の年齢にふさわしいなだらかなふくらみの上を飾る、小さな赤い突起。  
すらりとした太ももの付け根を隠す、艶やかな濡羽色の茂み。  
「にんげん、はずかしいよ」  
このなんとも絶妙な育ち加減の肢体をこの目で拝むのも、当然俺が始めてなわけだ。  
相手は妖怪だがそんなことは関係ない、男の独占欲を充足させてくれる、実にいい気分。  
 
しかし、俺はこの期に及んでもまだ『にんげん』なのか。  
「俺は、計一だよ」  
「ケーイチ?」  
「そうだ。お前は……」  
といっても、名前なんか、あるわけないよな。  
アイデンティティとしての固有名称ってのは、  
自己と他者との対比がそこにあって初めて意味を持つのだ。  
でも、俺がにんげんではなく計一個人である以上、  
こいつもちゃんと名前で呼んでやらないといけない。  
「さがり」  
ひねりのかけらも無いが、他にどうとも思いつかなかった。  
それに、なんとなく、かわいい。ような気もする。  
「わたし、さがり?」  
「そう。お前の名前だ」  
「さがり……さがり……えへへっ」  
ほら、本人もそれなりに満足そうだし。と言っている間に俺は自分の残りの服を脱ぎ捨て、  
さがりを再び抱き寄せていた。裸同士で密着する、その感触と体温の心地よさ。  
本当に、こうしている限りでは、人間の女の子と何も変わらない。  
肩。背中。腰。ふともも。ふくらはぎ。俺は彼女の肌の質感を楽しむように、  
両手で全身を撫でさすっていく。  
「ふゃ……くすぐったい……へん」  
俺は彼女を後ろ向きに自分の膝の上に座らせ、後ろから胸に手を回した。  
「ひゃ、やぁん」  
手のひらに収まる小ぶりな胸の柔らかさを楽しみながら、  
乳首の周りに指をすべらせ、転がすようにそこを刺激してやる。  
「あ、あん……あっ……」  
じっくりと愛撫を続けていくうち、さがりの声に、少しずつ甘いものが混じり始める。  
片手で胸をもみしだきながら、俺は既にしっとりと潤い始めていた下腹部にも手を這わせる。  
「きゃうんっ!」  
指先だけで包皮を探り、クリトリスに触れると、  
さがりはビクッと震え、甲高い声をあげた。これだけの性感を持ちながら、  
彼女の肉体そのものは幼形と成熟が同居する絶妙なライン上に位置しているのだ。  
なんと危うく、芸術的なバランスだろうか。神様ブラボー。  
「あぅ、あぅ、あぅ、ひゃぁっ」  
断続的にクリトリスを刺激し続けると、さがりは頬を上気させ、息もたえだえになってくる。  
上に座らせている俺の足がビショ濡れだ。もうペニスを挿入してやってもよさそうだったが、  
俺は初めて味わうこの少女の肉体を、十二分にも堪能するつもりでいた。  
「あ……なに……するの……?」  
床の上にさがりを仰向けに寝かせ、足を大きく開かせると、俺は彼女の下腹部に顔を近づける。  
闇の中にうっすらと浮かび上がる彼女の穢れを知らぬ秘所は、  
神々しいまでの居住まいをもって俺の眼前にたたずんでいた。  
「おお、なんと神々しい」  
馬鹿なことを考えていたら、うっかり口に出してしまった。  
「こうごうしい?よくわかんないけど……そんなにみたら、はずかしいよ」  
 
たっぷり潤った彼女の秘所に唇を当て、俺は丹念に舌を這わせていく。  
クリトリスを舐め上げてやると、彼女はまたひときわ大きな声を上げた。  
「きゃぅぅん……やっ……そんなことっ……」  
「そんなことってどんなことー?ていうか、君もさっきしたよねー」  
「……っ!」  
ほんの軽い言葉責めで羞恥心を煽ってやると、面白いように赤くなるさがり。  
いやぁ、楽しい。なんて可愛い子なんだろう。  
「うー……にんげん、みんな、こんなふうにするの?」  
ああするさ。するとも。いっぱいする。なので、俺はじっくりと、入念に、  
彼女のそこを舌の動きで堪能し続ける。ときどき指での責めも交えつつ、  
少しずつ刺激の与え方を変え、彼女を高みへと上らせていく。  
「ケーイチっ……わたし、もぅっ……」  
「何ー?何がもうなのー?」  
「その、あの……ぅー……わかんない……」  
何でも、人間の場合、性欲そのものは本能として持っているんだが、  
性行為を行うためには学習が必要なんだそうだ。  
フェラチオは本能でこなしたくせに……などと一瞬思わないではなかったが、  
まるで知識を持たないさがりをこれ以上からかうのも可哀想だし、  
それに俺ももうそろそろ限界だった。俺は身体を起こし、  
彼女の上に覆いかぶさるような姿勢を取る。  
「いくぞ、さがり」  
「どこにいくの?」  
そうじゃなくて……。  
でも、潤んだ視線が俺の猛ったペニスに注がれているところを見ると、  
全然分かっていないわけでもないらしい。  
俺は熱く潤った彼女の陰裂にペニスの先を当て、少しずつ腰を進めていった。  
「痛いか?」  
「いたくない……でも、なに、これ、なんか、なんか、くるよっ……!」  
最奥までようやく達したというところで、  
さがりのそこはきゅうきゅうと収縮し、俺のペニスを締め付ける。  
どうやら、初めてだというのに、入れられただけでイッてしまったらしい。  
「さがり、いったのか?」  
「ぇ?あたし、どこにもいかないよ、ずっとここにいたよ……」  
ぼんやりとした顔で、いろんな意味で不憫なことを言うさがり。  
「気持ちよかったか?」  
「うんー、ほわーってなって、ふわーってなった……」  
「それを行くっていうんだ」  
「そっかー、じゃあ、かえってこなきゃ……」  
遠くの世界を気持ちよさそうにたゆたいながら、  
しばらく帰ってこれそうもない顔でそんなことを言うさがり。  
だけど、こっちは入れたばっかりなんだよな。  
イッた後だと敏感になりすぎる子もいるけど……まあいいか。  
さすがに、そこまで気づかう余裕はない。  
「さがり、動くぞ」  
「えっ……あっ……ちょっ、だめ、やぁ、だめぇ!」  
いったん止めていたペニスを前後に抽送し始めると、  
案の定彼女は悲鳴にも近い嬌声を上げた。やっぱり刺激が強すぎたか。  
だけど、熱く濡れたさがりの中は複雑なうねりをもって俺のペニスを迎え入れ、  
きゅうきゅうと包み込む。最高に気持ちいい。  
人間の女としていて、こんなに良かったことがあっただろうか。病み付きになりそうだ。  
 
「あん、あふぅ、あぅん、やぁ、あ、あぁん……!」  
俺は夢中でさがりの小さな身体をゆすり、彼女の中でペニスを往復させる。  
すぐには終わらないように、自分で自分の刺激を調節して、緩急をつけながら。  
しかしすぐにそれも追いつかなくなった俺は、  
そのまま達してしまいそうになる直前で、ふいに抽送をやめペニスを抜き取ってしまう。  
「あっ、やぁ、ケーイチ、やめちゃだめ……!」  
熱く潤んだ瞳でそう哀願され、俺は再び彼女を犯し始める。  
もう、緩急なんてつけてられない。欲望の赴くまま、力のまま、俺は腰を振りまくった。  
「やぁ、ケーイチ、あたし、あたし、またいっちゃうよっ……!」  
再びきつく締め付けてくるさがりの秘洞の中で、俺は激しく精を放っていた。  
かつて一度も感じたことのない、頭の芯が痺れるほど強烈な射精感が俺を襲う。  
「あぅん……はぁ……ケーイチ……ケーイチぃ……」  
 
「ねー、こういうことって、みんなするのー?」  
天井板の破れ目から顔だけを出して、さがりはまたそんなことを俺に聞く。  
俺としては満たされたセックスの余韻をもうちょっと楽しみたい気持ちもかなーりあったのだが、  
やはり彼女としては、このポジションが一番落ち着けるらしい。  
「するさー。みんなするー」  
「そういうものなのー?」  
「そういうものなのー」  
「ようかいも、にんげんも、いっしょー?」  
……それはどうだろう。妖怪には、雌雄の区別どころか、  
生き物なのかどうかもよく分からんようなのがいっぱいいるし。  
「さがりとケーイチは、一緒だよ」  
「そうなんだー。いっしょ……えへへ」  
 
それから俺は、さがりに外の世界の話を聞かせてやった。  
俺の暮らしのこと、仕事のこと、人間たちのこと、それから他の妖怪たちの話。  
瞳を輝かせて聞き入る彼女の顔のあどけなさと、  
寂れ果てた廃寺のたたずまいの侘しさとのコントラストが、  
ひどく俺の胸を打つ。明日の朝俺が去って行ったら、  
彼女はまた再びこの寂しい荒れ寺の中で、  
いつやってくるとも知れない次の人間を待ち続けるのだろうか。  
 
翌朝、俺は一夜を明かしたその場所に別れを告げ、  
宿を取っていた麓の村まで無事に辿りつくことができた。  
なにせ遭難者ということになっていた俺は、そのあとちょっとした騒動に巻き込まれる羽目になったが、  
まあすったもんだの果てにようやく全ての荷物を積み込んで車を出すことに成功し、  
ついに懐かしの我が家へと帰り着いたのだった。  
 
で、懐かしの我が家で俺が真っ先に何をやったかというと。  
寝室の天井に、穴、開けました。ハンマーとかノコギリとか色々使って、  
いやぁ、一仕事。  
「ケーイチ、ほんとに、わたし、ここ、すんでいいの?」  
「ああ、今日から、お前んちだよ。その天井裏が」  
 
何しろ相手は妖怪だ。  
だけど、お前なら、置き去りにしてこれるか?  
人と同じ形をして、人と同じ心を持つ、36.5度の生き物を。  
 
 
『天井裏から、愛を込めて。』了  
 

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