夏だ、暑い、暑すぎる!ちっとは自重しろ太陽!
獣人はその種族によって体温調節機能にかなり差があるが、
犬…いや、狼系統の俺にとって、この猛暑は地獄以外の何物でもない。
普段なら凛々しく立ち上がっているはずの自慢の耳も、いまはへにょりと垂れ下がっている。
見栄えのいいものではないから控えていたが、5分ほど前から舌は口の外へ出しっぱなしだ。
そんな哀れな俺をあざ笑うかのように、パシャパシャと涼しげな水音があちらこちらで鳴り響く。
一般に無料開放された市営プールは今日も大繁盛だった。女子のグループから親子連れ、そして当然……カップルも結構いる。
僻んでいるわけではない。俺にも彼女はいる。と言うか、問題はその彼女だ。
待ち合わせ時間からすでに10分が経過して、今もなお記録は更新中。
女を待たせるのは最低の行為なので、待つこと自体に問題は無いのだが、なにぶん状況が状況だ。
先にプールに入っていても特に問題は無いはずだし、それぐらいで怒るような彼女ではないが、男にはプライドと言うものがある。
彼女をほったらかしにして水遊び、なんてかっこ悪いことできるはずも無い。
俺は我慢強さには定評があるのだ。具体的に言うと、母から「待て」をされて、大好物のステーキを前に1時間ほど待機できるぐらい。
――冷えてて、不味かったなぁ、あのステーキ……。
意識が朦朧とし、熱中症になりかけたそのときだった。
「ゴメンゴメン、待ったー?」
のん気すぎるにもほどがあるその声は、間違いなくおれの彼女であるヒナタのものだ。自然、顔がそちらへと向く。
走ってはいけないはずのプールサイドを、手を振りながら全力疾走してこちらに向かってくるのはまぎれもなくヒナタだった。
駆け出す体の揺れに引っ張られ、人一倍大きな豊か過ぎる双球がブルンブルンと揺れる。
それを目にするたびにいつも俺は思う。――あぁ、揺れるそれが胸であったらどんなに良かったであろうと。
自分の彼女の悪口を言うのははばかられるが、残念ながら彼女の胸は人並み以下のつるぺったんだ。
その胸とは比べ物にならないほど、過剰な存在感を主張する彼女の双球は股間にあった。
彼女が属する狸系統の文字通り最大の特徴、巨大な睾丸である。
念のため断っておくが、彼女はオスではない。ふたなりか、と聞かれればそれもNOだ。
彼女に限らず、狸系統のメスは皆、巨大な睾丸を持っているが生殖器―所謂、ペニスは存在していない。
これは狸系統が有する変身能力に関係があるらしい。詳しくは知らないが。
余談だが、同じく変身能力を有する狐系統のメスは、そのような身体的特徴を持っていない。
それが仲が悪いことで有名な両系統間の深い溝の一つとなっているのだが。
閑話休題。
「うわ、すごい顔。だいぶ待った?」
「待ってはいないが、ひたすら水が恋しい……」
「ゴメンゴメン。水着選びに苦労しちゃって」
ジャーン、とその場で見せ付けるようにセクシーポーズを取るヒナタ。
デートのために水着を新着するとは彼氏冥利に尽きるのだが、あいにくと水着の選択が悪すぎた。
一言で表せば、グラマーなお姉さんが着れば水辺中を虜に出来るような水着である。
そんなものをつるぺたなヒナタが着ればどうなるか、もはや語るまでも無いわけで。
さらに、そんな大胆な水着では巨大な睾丸を隠せるはずもなく、丸出しになったそれは、食い込みによって左右に二分され、その存在感を増していた。
ちなみに性器の露出に関しては公の場で無い限り、気にしない奴が多い。と言うか、このプールに入っている約半数は素っ裸だ。
「あぁ、どこ見てるの?エッチぃんだから〜♪」
言葉とは裏腹に、彼女の声は楽しげである。
もしや、この水着の真の目的は……やめておこう。何がきっかけで道を踏み外すかわからないのだ。
いろいろと疲れきった俺は、倒れこむようにプールの中へとその身を放り出した。
「ねぇねぇ、エロ本貸してくれない?」
「週明けに出会った彼氏に対する第一声がそれか」
休み明けという事で、ただでさえテンション低いのに、まさか大事な彼女に追い討ちをかけられるとは思っていなかった。
今なら新聞部主催の校内不幸ランキングにランクインできるかもしれない。全然嬉しくないが。
「すっごいハードコアなやつがいいなぁ。狐娘がアナルを攻められて泣き叫んでいるの希望」
そんな俺の心情を理解しているのか、する気がないのか。
ニコニコと満面の笑みを浮かべて、不穏当な発言をするヒナタ。
彼女もまた、狸系統に属する大多数に漏れず、狐系統を毛嫌いしていた。
他人に対して割と無関心な俺でさえ、猿系統の奴らと一緒にいるのは面白くないのだから、こういう好き嫌いは遺伝的なものなんだろう。
と言うわけで狐娘陵辱物を好むのは、まぁ、納得がいくのだが、なぜにアナル攻め?
「趣味だから」
さいですか。
言い切られては反論の余地も無い。とりあえず、これから一緒に出歩くときはこいつの半歩後ろを歩こうと心に誓う。
「いやー、例年だともうちょっと後の筈なんだけどねぇ」
「発情期か」
「うん、おかげで朝からここがパンパンに張っちゃって」
苦笑しながら前触れもなしに制服のスカートを捲りあげるヒナタ。
ショーツから大幅にはみ出した陰嚢は、いつものそれよりも確かに一回り大きかった。
「……恥じらいを持てとは言わないから、せめて心の準備をさせてくれ」
「えー、せっかくサービスしてるんだからもっと喜びなさいよー」
痛くなった頭を抱え込む俺と、ぶーたれるヒナタ。
付き合いだしてからわかったことだが、ヒナタのような狸系統に属する娘にとって、陰嚢は乳房やお尻同様セックスアピールポイントであるらしい。
そのため、ことあるごとに恋人である俺にそれを見せ付けてくるのだが、俺にとってそれは男の器官という認識しかないわけで。
こういった意識の違いというのは結構厄介なもので、異種族間カップルが別れる大抵の原因はこれに類するものだ。
俺たちも同じ末路を辿らぬよう、ただただ切に願うしかない。
「だいたい、生殖器としての役割は無かったんじゃないのか、それ?」
「あ、言ってなかったっけ?ほんのちょっとだけど機能はあるんだよ。
普段はオスの何千分の一程度だから問題ないんだけど、発情期になると活発化しちゃってねー」
「初耳だぞ、それ」
呟く俺は少々ショックを受けていた。雌雄同体の種族もあるから、そういうことがあるのも不思議ではないが、純粋なメスだと思っていた彼女にそういった要素があるとは思ってもみなかったからだ。
「幻滅した?」
「いや……」
彼女の問いに首を振って答える。現金なものだが、微笑む彼女を見つめていると、悩んでいるのが馬鹿らしくなってくるのだ。これも惚れた弱みというやつだろうか。
「――いいや、違うな」
「え? …んっ、ちゅぷっ、ふぁっ!?」
腕を伸ばして彼女を乱暴に抱き寄せると、その唇を奪い、貪るように舌を差し入れて口内を嘗め回す。
どうやら、休みボケしていた鼻がようやく正常に働きだしたらしい。
目の前のメスが発する濃厚で淫乱な蜜の匂い。それが俺を誘っていた。
教室内の視線が集まるが、知ったことか。
誇り高き種族である狼系統に属する俺が、狸一匹貪り食うのを誰が止められるであろう。
「今日はサボるぞ、いいな?」
「……うん!」
返事を半ば待たずしてヒナタを抱き上げると、そのまま俺たちは教室を後にした。
しんと静まり返った教室内。やがて、誰からとも無く口が開く。
『あのバカップルどもが』
「あー……」
言葉を捜しながら、頬をポリポリとかく。
我に返った俺の目の前に広がっていた光景は、実に凄惨たるものだった。
地べたに仰向けで横たわっているヒナタ。着ていた服は見るも無残に破られ、剥き出しになった体中のいたるところに、べったりと白濁液が付着している。
目は開いているものの意識は無いようで、時折ピクピクと痙攣する様子が妙に生々しい。
絵にかいたような強姦被害者の姿である。いや、精液の量を考えると輪姦でも通用するだろう。
誰かがこの光景を目撃したら、迷うことなく俺を通報するだろう。いや、実際に俺がやったのだから、ある意味で間違いないんだが。
ともあれ、人気の少ない昼間の公園。その外れの茂みの中とは言え、人生何が起こるかわからない。
若くして警察の厄介になるのはゴメンなので、とりあえずヒナタを起こすことにする。
「おーい、起きろ、ヒナタ」
名前を呼びながら、ぺしぺしと頬を叩く。
指に付着する精液が非常に不愉快だが、背に腹は変えられない。
「ん、んんぅ……」
「…起きたか?」
「ん、だめぇ、ですぅ……。もう、ゆるしてください、ごしゅじんさまぁ……」
「…………」
どんなプレイをさせやがったんだ、俺。
自己嫌悪で痛くなる頭を抱えながら、八つ当たり気味にヒナタの額を小突く。
「あいたっ!? ……って、あれ?」
呆けた表情で、目をパチクリさせるヒナタ。
「ようやく、気が付いたか」
「へ? ……あ、そっか、戻っちゃったんだ、キミ」
そう呟く表情は、悲惨な格好とは裏腹にひどくあっけらかんとしたものだった。
俺には、メスのフェロモンを多量に吸飲すると理性が吹っ飛ぶという悪癖がある。しかもその時の記憶がすっぽり抜けるというオマケ付き。
自分で言うのもなんだが、たちの悪い酔っ払いのようなものだ。
この悪癖のおかげで、俺は小学校低学年で童貞を卒業してしまった。体調を崩して保健室へ行った時、たまたま保険の先生が発情期だったため、
そのフェロモンにやられて暴走してしまったというのが事の顛末である。発情期前後には公人の休暇が義務付けられていることと、
なにより、その、なんと言うか、被害者である保険の先生が『満足』してしまったため大事にはならず、こうして笑い話として披露できるというわけだ。
今ではそれなりに自制も効くようになったのだが、恋仲の相手のものとなると、どうにも勝手が違うようで。
閑話休題。
「うわぁ、良く見たら体中ドロドロじゃん。毎度毎度、良くこんなに出せるよねぇ」
嬉しそうに声を弾ませながら、自分の身体を確認していくヒナタ。
「ほらほら、とろとろ〜って中から流れ出してきてる」
こちらに見せ付けるように足を開いて、秘裂を指で割開くと、言葉通りに中から精液が流れ出してきた。
「……?」
と、ここであることに気づく。
普段なら垂れ下がってそこを隠している、彼女ご自慢のもの(無論、皮肉である)が影も形も見当たらない。
薄い茂みに覆われた股間は、他種族のメスと同じようなものになっていた。
「あ、気づいた? あんまりにも肉感的だから、たまらなくなっちゃったんだろうね……。
君がガブリって根本から噛み千切っちゃ……あいてっ!?」
悲観的な表情を作って語りだす彼女の頭に、問答無用で平手を打ち込む。
「ったいなー!女の子の頭はたくなんてオスとして最低だよ?」
「うるさい。文字通り、吐き気がするような冗談を言う方が悪い」
頭痛の原因が自己嫌悪から別のものへとシフトしていくのを感じながら、おもむろに彼女の腋に手を伸ばす。
「ちょっ、たんま!あたしが悪かったから、そこだけは止め……ひゃっ、あははははははは、まっ、まって、ふひっ、ひっ、ひゃひゃひゃひゃひゃ!」
身体をねじらせて悶え苦しむヒナタ。自業自得だと内心で冷笑しながら、容赦なくくすぐっていく。
くすぐり始めてから、十秒ほど経っただろうか。
突然、ポン、という間抜けな音とともに、白煙が彼女の身体をすっぽりと包み込んだ。
煙がはれてくると、再びヒナタの姿が現れるが、その股間には先ほどまで無かった巨大な睾丸が、自身の存在感を主張するように居座っていた。
「あぁ〜、解けちゃった」
残念そうに呟くヒナタ。説明するまでも無いが、これが彼女が属する狸系統の特殊技能である変身能力である。
極めれば老若男女、果ては他の生物や物体にまで変身できるとのことだが、今のように集中力がいちじるしく途切れると変身が解除されてしまう。
まるで魔法のような能力だが、使用者が使用者であるので畏怖の念など抱きようが無い。こいつの場合、悪戯目的で使うのがほとんどだし。
「一応確認しておくが、変身した理由は…」
「うん、暴走したキミに脅されてね。『その目障りなものをさっさと消せ』だって。
本気で潰されるんじゃないかとドキドキしたよ」
そう言うヒナタは相変わらずの笑顔なので、悲壮感など欠片も伝わってこないが、
「スマン」
「……へ?」
腰を折って深々と詫びる俺の耳に、数瞬遅れてヒナタの間の抜けた声が届く。
まぁ、驚くのも無理は無い。俺自身、誰かに頭を下げるのは数年ぶりなのだから。
元の姿勢に戻ると、ぽかんと口を開けて呆けたままのヒナタを抱き寄せる。
「怖い思い、させただろ?」
「う、うん。いや、確かに怖かったけど、一番大事なのは今こうしてあたしが無事なことであって、その……」
なかなか要領を得ないヒナタの言葉。こうして触れ合っていると、心底困惑しているのが良くわかった。やっぱり、こいつは可愛いなと思う。
「あ、あのさ。こんな時になんなんだけど……」
「ん?」
「キミって、まだ体力持つ?」
その問いかけの意味を一瞬で理解し、思わず苦笑を浮かべてしまう。
「狼が狸に遅れを取ったら、それこそ一族の面汚しだろ。
そう言うおまえの方は大丈夫なのか?」
「うん……。犯されるのも悪くないけど、キミとはやっぱり愛し合いたいから」
事前に示し合わせたように二人同時に向かい合い、口付けを交わす。
フェラを強制させなかった俺自身にこっそり感謝しながら、舌をそっと差し入れた。