つい5秒前、車に跳ね飛ばされて死にかけました。  
そしてつい3秒前、私は生きのびて、超能力を手に入れました。  
 
 どうしてこんなことになったのか、ですって? ・・・まぁ、よくあることです。  
帰宅途中、道のど真ん中で、迫り来る車を見つめて固まってしまった仔猫を、  
身体を張って助けようとしたわけです。  
本当は猫はあまり好きじゃないんです。偉そうなんで。  
でも、轢かれそうな猫を見た時、自然に動いちゃったんですよね、私の身体。  
走り抜け様、仔猫は掬い上げるように放り投げて、道路脇の茂みに着地させました。  
しかし、私はと言うと、後一歩というところで、見事に車に跳ね飛ばされたのであります。  
まぁ、轢かれるよりは良かったような気もします。  
無様に地面に這い蹲ってるよりは、一瞬でも宙を飛べたんですから。  
 
 あぁ死ぬんだ、私、と思ったその瞬間。  
助けたはずの仔猫が、なんと超能力で私を助けてくれたのです。  
それでも仔猫は、時間を止めて、私を道路の端まで運んでくれて、車にぶつかった私の傷を治した後、  
『オマエに助けてもらわなくても、オレは自分で何とか出来たんだけどな』とか言いくさりましたが。  
普通の仔猫にこんなことができるはずないし、普通の人間はまずこういう体験をしません。  
パニックに陥る私に、仔猫は、  
『この言葉は、オマエの頭に直接話しかけてるもんだ。テレパシーってヤツだ』と言いやがりました。  
 
 
 その後暫く、私と仔猫は道路っ端に座り込んで延々と話をしていました。  
仔猫の持つ超能力は、なんと他人(他猫?)に譲渡したり、受け取ったりすることが出来るらしいのです。  
しかもその仔猫は、色んな猫から超能力を受け取っており、ほぼ全ての力を使うことが出来るとか。  
普通ならこんな話、信じられませんが、さっき助けられた私としては、信じるしかありません。  
 
 驚きの連続で開いた口のふさがらない私に、仔猫はある取引を持ちかけてきました。  
『オマエにオレの超能力を貸してやるから、オレを養ってくれないか』と。  
 
 超能力者・・・素晴らしい響きです。  
それが本当なら、私が今まで抱いてきた野望も簡単に実現するという物です。  
アパートが動物可物件で本当によかった、とこの時思いました。  
 
 で、取引成立。  
抱っこした仔猫に停止した時間を戻してもらい、今に至るわけです。  
 
「あ・・・そう言えば」  
『何だよ』  
「アナタの名前は?」  
 
 見上げてくる仔猫に聞いてみると、仔猫はいっちょまえに気まずそうな顔して、  
私から目を逸らしてきました。仔猫のくせに生意気な。  
 
『名前? ・・・そんなものは、ない』  
 
「そうですか、それじゃ、私が付けて上げますね?」  
『・・・え?』  
「遠慮しなくて良いですよ、名前がないと不便でしょう?」  
 
 驚いたように瞳を丸くする仔猫に、私は言ってのけました。  
多分、今の私を友人が見たら、「大丈夫か」と熱を測られたことでしょう。  
 
「そうですねぇ・・・」  
 
 辺りを見回す私の目に、椎の木が目に入りました。  
 
「それじゃ、『しぃ』で」  
『安直すぎだ!』  
 
 突っ込むしぃに、あはは、と笑いかけながら私は、  
心の中の唇の端が、にやりと上がるのを感じていました。  
この能力があれば・・・今夜、あの人は私のものになる、そう思ったからです。  
 

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