家に帰る途中、自分の部屋に明かりがついてるのを見て
「はぁ、また来てるのか…」
深めのため息をついた。
「お兄、おかえり〜♪」
妹の美香が明るく出迎える。
俺が大学生になってから一人暮らししてるワンルームのマンションには美香が入り浸っている。
「また来たのか…お前も暇だな」
「部屋を掃除して洗濯してご飯まで作ってあげてる妹に対して酷い言い方だね!お兄が彼女作ったら来ないし、鍵も返すよ?」
疲れてベットに倒れこんだ俺を覗きこみながら聞く美香。
「今のところそんな予定はないよ」
「そっか、ご飯の用意するね♪」
嬉しそうに答えて料理を温めなおし始めた。
家事に関しては文句のつけようのない妹だった。
美香が来ないときにはコンビニ弁当ですませてる俺には特に料理してくれるのがありがたかった。
白いご飯にわかめの味噌汁、卵焼きに煮物がテーブルに並ぶ。
「冷蔵庫にあんまり入ってないからこれしかできなかったよ。ちゃんと買い物しなって言ったのに…」
「こんだけあれば十分だよ」
そう言いながら目の前の料理をたいらげていく。
「そんなに美味しそうに食べてくれたら作りがいがあるよ♪このままずっと彼女ができなかったら私がいつもご飯作りにきてあげよっか?」
「お前に彼氏できたらそんなことも言わなくなるよ」
「私がずっと彼氏作んなかったらどうする?」
「俺が嫁にもらってやるよ」
「えっ…」
冗談で言った俺の答えを聞いて美香は固まってしまった。
それから美香は俺を意識しまくっていた。
「と、とりあえず片付けるね!」
そう言って皿を持った瞬間にガシャーンと皿を落としたり、ずっと同じ茶碗を洗っていたりした。
なんとか一通り片付け終わったら
「帰るね!」
泊まることもちょくちょくある美香が強く言った。
「別に泊まってってもいいぞ?」
「今日は帰るよ!」
「そか、なら途中まで送ってくよ」
「うん」
二人で夜道を歩く。
夜道といってもまだ8時なので人通りも結構多い。
「あのね、お兄が言ったこと冗談ってわかってるよ」
不意に美香が話しかけてきた。
「ん?あぁ、お前は気にしすぎだよ」
軽く答える。
「でも、ちょっと嬉しかったよ」
「兄貴にそんなこと言ってると彼氏なんかできないぞ」
また軽く答える。
「そうかもね。でも、お兄の側にずっと居れるなら悪くないかも」
「え?」
美香の顔が近付いてきて
「ん」
唇と唇が触れ合った。
俺の思考が止まる。
キスは一瞬だった。
「ここまででいいよ。また来るから、じゃあね!」
そう言って美香は走って帰っていった。
俺はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、わけもわからぬまま自分の部屋に帰った。
とりあえずテレビをつけたが内容が頭に入ってこない。
携帯の着信音が鳴った。
メールが一件送られてきていた。
美香から件名のないメールが送られていた。
開くとたった一言
『大好き』
と書かれていた。
次の日も美香は俺の部屋にきていた。
いつもは勝手に好きなときに来てるくせに今日はわざわざメールで
『今からいくね♪』
とか送ってきた。
昨日のキスから美香のことを意識しまくっている。
たしかに美香は可愛い。
兄の贔屓目なしでも十分に可愛い。
彼氏なんてすぐ作れるだろう。
その証拠に、何人かから告白されたらしい。
しかも他の女子からも人気のある男ばかりから。
なのに全部断った。
「はぁ、美香なら俺なんかよりずっといい男を簡単に落とせるだろうに…」
自虐的なことを呟きながら家路につく。
「お兄おかえり〜♪」
笑顔で出迎える美香にドキッとした。
そんな俺の様子に気づいたらしく
「お兄、私のこと意識してるでしょ?可愛い〜!」
勢いよく抱きついてきた。
「キスしよっか」
上目使いで俺を見つめながら首に手を回して顔を近付けてくる。
もう少しで唇が重なる寸前のところで美香の軌道はそれて俺の耳元で呟いた。
「お兄が私の想いに答えてくれたらいっぱいキスしてあげる」
抱きついていた体を離して部屋に戻っていく美香のうしろ姿は実に楽しそうだった。
台所で料理を始める美香。
俺はそれをずっと見ていた。
「今日は私が買い物してきたからちゃんとご飯作れるよ♪生のトマトを使ったパスタとシーザーサラダ。ドレッシングも特製で作るね!」
こっちを見てにっこり微笑む。
ついみとれてしまった。
「野菜とかちゃんと取らないと体に悪いからね。お兄にいっぱい野菜食べさせてあげるからね♪」
トントントンとリズムよく食材をきざんでいる。
美香を抱き締めたい衝動にかられたが、妹だからと必死に自分に言い聞かせて思い止まる。
「ん〜♪」
鼻唄をくちずさみながらも料理はどんどんできあがっていく。
そんな姿を見てるだけで惚れそうになる。
「できたよ〜」
「ん?あっ、あぁ!」
みとれすぎてて返事をするのにちょっと焦った。
「サラダ食べてみて?」
そう言われてサラダに手を伸ばす。
サラダはあまり好きではなかった。
それは美香も知ってるはずなのになんでサラダなんか作ったんだろう?
とりあえず一口食べる。
「あ、美味い」
自然と言葉が出た。
「良かった!お兄って野菜が嫌いっていうより、ドレッシングとかのお酢が好きじゃないんでしょ?だからちょっと工夫したの♪」
「工夫?」
「うん。ドレッシングにお酢を使わないでレモン汁を使って作った特製ドレッシングだよ♪」
えっへん!と言いたげに少し胸をはった。
まったく、俺より俺の好みを把握してやがる。
そんなとこも可愛いと思ってしまった。
トマトのパスタもかなり美味しく、かなり満足度の高い夕食になった。
そのあとはたあいのない話をして自分の感情を誤魔化した。
「そろそろ帰るね」
美香にそう言われ、送っていこうと立ち上がったが
「今日はいいよ」
と美香が断った。
「お兄、焦って答え出さなくていいからね」
俺の目を見て、まるで心を見透かすように言った。
すっと近付いてきて唇を重ねてきた。
「ん♪」
昨日と同じ触れるだけのキス。
昨日より少し長いキス。
「お兄の答えがちゃんと出るまで待ってるから。お婆ちゃんになるまで待たされちゃうとちょっと困るけど、待ってるから」
そう言って俺の部屋を出ていった。
その日は朝から美香からメールがきた。
『お兄、今日午後から暇だよね?駅で待ってるから』
メールは一方的だった。
「あ、お兄〜♪」
こっちに向かって手を振っている。
「遅いよ〜。1時間も待ってたんだからね!」
「詳しい時間も決めないで来いってメール出したお前が悪い」
「だって、お兄の予定からしたら決めなくてもピッタリくらいになるはずだったんだもん…」
俺が遅れたのが悪いみたいに軽く睨んでくる。
「それでこれからどこいくんだ?」
軽く睨んでるのを無視して聞く。
「もちろんお兄とデートだよ♪」
腕を組んで俺に笑みをみせる。
「じゃ、行くよ!」
組んだ腕を引かれて歩きだした。
「映画か…」
「うん。今日で終わりの恋愛映画があるんだけど、カップルでくると割引してくれた上にドリンクもつくんだよ♪」
「あのアクション映画とかよくないか?」
「カップルシートもあるんだよ」
俺の意見は見事に無視されて恋愛映画の方に連れていかれた。
カップル用の大きめのカップでストローが2つささったドリンクにポップコーンを持ちカップルシートに座る。
2人用のシートだから間に肘掛けがなく、いちゃつきやすくなっている。
「お兄♪」
美香が俺に寄りかかってくる。
「よしよし」
肩に乗ってる美香の頭を撫でてやる。
「お兄に頭撫でてもらうと落ち着くね〜」
「お前は昔から頭撫でられるの好きだからな」
「♪」
美香は幸せそうに撫でられ続ける。
「お兄、ジュース飲も」
「ほれ」
ドリンクを渡してやる。
「わざとでしょ…」
じっとこっちを見てくる。
「はぁ、わかったよ」
2人で一緒にストローを咥えたと同時に暗くなり、映画の予告編が始まった。
「これ、思ってたより恥ずかしいね」
「だな」
そんなことを言いながらもジュースを飲み続けた。
2人で照れながらジュースを飲み、ポップコーンをつまんでいたら本編が始まった。
美香は姿勢を正してちゃんと観る体勢をつくる。
俺もあまり興味はなかったが一応観る姿勢になった。
なんとなく美香の手の上に自分の手を重ねた。
「!」
ビックリしたような顔で美香がこっちを見た。
俺はあえてスクリーンに目を向けていたが美香の反応を気にしていた。
少しして、美香の手が俺の手をきゅっと握ってきた。
「なんか恥ずかしいな…」
自分からしたことなのに照れ臭くて言葉にせずにはいられなかった。
映画は王道の恋愛モノだった。
すれちがいながらも愛を深めていき、最後に待つのはハッピーエンド。
心理描写がしっかりしているからわりとおもしろかった。
キスシーンではつい美香を見てしまったが、美香が映画に集中してたためバレてない…はず。
「案外いい映画だったな」
「うん」
美香を意識してたのをごまかすように声をかけ、席を立ち、映画館を出た。
ずっと手は繋いでいた。
しばらく無言で歩く。
少しして
「お兄、キスシーンの時こっち見てたでしょ?」
不意に聞かれた。
「あ、いや、その…」
頭が真っ白になった。
「ずっとお兄のこと意識してたからわかるよ?おかげで映画のことほとんど覚えてないけど」
繋いでいる手に美香が力をこめた。
「お兄の方から手を繋いでくれたのも嬉しかったから。ずっとお兄のこと見てた」
ドキッとした。
告白されて以来、ずっと美香のことを意識している。
美香を見てドキッとすることはどんどん多くなっていた。
「だからキスシーンのときにお兄がこっち見てたのもすぐにわかったよ?」
俺を見つめる美香の目が少しうるむ。
「どうしようお兄…この前告白したときよりもっと好きになってる。毎日お兄のこと考えるだけで好きって気持ちが溢れちゃいそうだよ!」
気がついたら俺の方からキスしていた。
美香はすぐに身をまかせてきた。
今までで一番長く熱いキスだった。
続く…