沙希の母親が他界して、そろそろ二年が経つ。  
亡くなった当時は随分ふさぎこんだものだが、遺品を整理している時間は母と一体になっている感じがした。  
整理している、といっても当時9歳だった沙希が実際にできたのは散らかしては片付ける作業の繰り返しだった。11歳になった今も、あまり変わらない。  
衣類、本、装飾品、化粧品……鏡の前で使ってみてはため息をつく毎日だった。本は、意味があまり分からないまま何となくどきどきして読んだ。栞を挟んで閉じる瞬間が好きだった。  
 
ある日の日曜日、父は朝から出かけていて沙希は独りで家にいた。いつものように母の部屋で鏡を見るのに飽きて、普段見ないようなところを探索していると、奥の方に埋もれていた道具をいくつか見つけた。  
「??」  
何だか、知っているような知らないような形状の……プラスチック製で、握力を測る機械を小さくしたような柄の先にらせん状に絡み合った棒が伸びている。  
ああ、本で読んだ? そう、母ががっちりとカバーしていた本の中で使われていたような気がする。男の人のお尻の中に、そのらせん状のプラスチックを差し込んでいた。  
同じく、本で読んだことのある大きなネックレスのような道具も出てきた。母は、お父さんのお尻が好きだったんだろうか。  
長い紐も出てきた。母も縄跳びをしていたのだろうか。いや、それにしては長すぎるし、太すぎる。麻でできているのに表面がすべすべしていて、肌触りが良い。  
包丁程度の長さの柄の先に、幅二センチ長さ六十センチ程度の平たいゴムがたくさんくっついた道具も出てきた。  
「……えいっ」  
沙希は、その道具をちょっと振ってみた。びゅんっ、と風を切る音がして、自分の膝に当たった。  
「痛いー。赤くなってるー」  
涙目で膝をさする沙希。痛みと共に理解した。これは鞭だ。母は「じょおうさま」だったのだ。  
 
沙希の中で、今はなき母親のイメージがガラガラと崩れていった。  
学校から帰るとエプロン姿で、おやつを食べさせてくれていた母。小さい頃は添い寝して子供用の本を読み聞かせてくれていた母。お出かけするときはきりっとお化粧して、真珠のイヤリングをつやつやな黒い髪の毛の中からのぞかせていた母。  
そんな母が、夜ごと  
「おーっほっほ! 女王様とお呼びーっ!」  
と鞭を振り回していただなんて。  
……振り回して、どうするんだろう。まさかその台詞を延々と繰り返すわけでもないだろうに。  
鞭だから、やっぱり叩くんだろうか。叩くのはいいけど叩かれるのは嫌だな。やっぱり、男の人を無理やりばしばし叩くんだろうか。  
たとえば、私から見たら隣の席の眼鏡君とかを裸にしちゃったりして、痛い痛いって嫌がってるのを叩き続けるんだろうか……?  
 
「痛いじゃないか! いくら何でもそんな武器で裸の僕を叩き続けるなんて人間味が感じられな」  
ばしぃーっ!  
「沙希様とお呼びーっ!」  
「さきさまさきさまやめてください何でもします痛い!」  
びしーっ!  
 
なんか、それ、やってみたいかも……でも、眼鏡君は嫌がるだろうな。  
沙希は、秘密にされていた大人の遊びの扉を開きつつあった。  
 
「さ、沙希……」  
「あ、おとうさんお帰り」  
帰ってきた父が見たのは、母が遺した性具を床にばら撒いてぼんやり鞭を握っている我が娘だった。  
「……どっちだ、沙希」  
「え?」  
沙希には意味が分からない質問だったが、父は血走った目で迫ってくる。  
「その鞭でっ、叩きたいのかっ、叩かれたいのかっ、沙希はっ!」  
「えー……」  
鞭を握る手に力がこもる。何だか気恥ずかしくなって、スカートの中で太ももをこすり合わせる。何となく落ち着き、沙希は口を開いた。  
「お父さんにっ、言ってみなさいっ!」  
「……叩きたい。男の子を裸にして、ばしばししてみたいの」  
「…………沙希ぃーっ!」  
抱きしめられる沙希。  
「お前はっ、お前は佳代の娘だあーっ!」  
「えっ、うん」  
父は大喜びでしがみついて揺さぶってくる。  
「娘がっ、娘が生まれてきて本当に良かったよぉーっ、佳代―! お前の娘がここにいるうーっ! 聞こえるかっ、沙希―っ!」  
「え? あ、うん。近いし」  
「沙希―っ、佳代―? 佳代は……? ああっ、死んだんだったーっ! なんでだーっ! 沙希―っ!」  
びしぃーっ!  
「うわぁーっ、沙希、もっとだ、もっと父さんを叩いてくれーっ!」  
うるさいのでとりあえず肩越しに背中を打ってみたら、父は涙を撒き散らしながら手を離して上着を脱ぎだした。  
大人の男の人の肉体が、目の前であらわになる。沙希の父は痩せ型だが毛深い方で、硬質的な胸板がもじゃもじゃと覆われている。肩や腕の筋肉が締まっていて、興奮してきたのか、少し汗のにおいがする。  
沙希は唾を飲み込み、細い腕を動く限りに大きく振り回した。平たいゴムが空を切り裂く。  
「ああっ、沙希、沙希―っ! もっと激しく打ってくれーっ!」  
 ひゅんっ、ゅっ、びゅん  
自分の耳元をかすめていく鞭がいい音を出す。手元に肉体の感触が伝わるたびに、いつの間にか四つんばいになっていた父が「ああっ、あはぁ」と嬉しそうにあえぐ。  
 
「沙希ぃ、沙希い」  
「…………沙希さま、って、言いなさいよっ!」  
少し背伸びして頭の上からまっすぐに振り下ろした。  
ぱーんっ!  
今までで最高の破裂音。みみずばれが裂けて鞭に血がつく。綺麗。  
「沙希さまぁーっ! お願いしますーっ!」  
ぱーんっ! しゅっ、ばーんっ!  
沙希も徐々に感覚をつかんでいく。と、共に体が火照ってくるのを感じた。打たれる父を見て感じているのか、打っている自分で感じているのか。  
手首を動かした次の瞬間の音がたまらない。二人の間の熱気が愛おしい。求める父と与える自分。彼の背中に私が刻まれていく。どれだけ打っても全部受け止めてくれる。気持ちいい。熱い。ふらふらしてしまいそう。  
「うあぁっ、沙希さまぁ」  
打ち続けていると、父がふらふらと仰向けに倒れ、自分に向かって脚を広げた。  
スラックスの中に何か隠しているかのように、一点が大きく持ち上げられている。涎を拭うこともせず、どろりとした目で見つめてくる。  
「ふ、踏んでください沙希さま! 私の、はしたないモノを踏みにじってください!」  
「……どうしようもない男ね」  
幼い声音が、よく冷やした包丁のように固く刺す。彼にとっては聞きなれたはずなのに、初めて聞く声音だ。  
男の腰がゆらゆらと上下している。沙希の足が待ちきれないのだ。鞭だけで止めを刺してやるつもりだった沙希だが、わざわざ具体的なリクエストをしてくるならこだわる必要もない。  
ばしーっ!  
「ああっ、そこーっ! 沙希さまーっ!」  
沙希は手になじみ始めた武器で一度だけ局部を打ち付けると、その武器を後ろに放り捨てた。  
沙希は腕を組んで、そこに右足を乗せた。固い、抵抗感がある。血液があふれ出してきそうだ。足の裏に体重を乗せると棒が下腹にくっつく。踵に、異様にやわらかい部分が触れる。  
見下ろす。昨日までの尊父が息も荒く腰を振っている。  
「勝手に動いてんじゃないわよ、うっとうしい。こうやってぐりぐりされたいんでしょうが!」  
「あ、ふぁっ」  
踵を支点に、親指の付け根辺りで先端を捉えて緩急をつけて圧迫する。股間に乗る勢いで踏みにじるが、この男は腰を動かすのをやめない。  
「分かってるの? あなたのここで作った娘が、今足で踏んでるの。どう思うの?」  
「は、恥ずかしいです……沙希さま」  
「嬉しい、でしょ! バカっ、面倒だからもう本気出すわ! あたしだって、おちんちんのいじめ方くらい知ってるんだから!」  
沙希はその場に体育座りのように腰を落とし、所在なさげな両足首をつかんだ。その間も、右足はズボンの膨らみにくっついている。  
脚が、振動を始めた。  
 
「あっ、あはぁーっ!」  
「ふふっ、男の子でよかったね。皆、これやるとすぐうっとりするわ」  
どどどどどど  
つま先が先端をいじり、土踏まずが竿を震わせ、踵が睾丸を押し込む。  
「今まで踏んだ、どの男の子より熱いわ。どうして?」  
「沙希さまを、愛してるからっ!」  
「……キショい」  
ごりごり、ぎゅうっ、どどどどどっ  
袋の方を重点的に踵で踏んだり、先端を下腹部に押し当てたままつま先でひねりをくわえたり、全体を足の裏で捉えて震わせたり、と変化を与える沙希。そのたびに腰を浮かせて目を固く閉じる変態のリアクションを楽しむ。  
一方、鞭で打たれながらパンパンになっていた男はすぐに身体を硬直させ、すぐに来る最後の時を待ち受ける。  
「あーあ、期待しちゃって。色んな男の子に電気あんましてきたけど、こんなに早く終わっちゃうのは初めてだな」  
「ううっ、沙希さまぁ」  
「大人なんでしょ? ちょっとは威厳ってのを見せたらどうなの? 女の子の足に興奮して、いじめられて気持ちよくなっちゃうってどうなの?」  
「は、恥ずかしい……」  
「それがっ、嬉しいバカだからこんなになっちゃってるんでしょうがっ!」  
ががががががががが  
沙希は今までよりも小刻みに膝を、足首を震わせる。父の下半身を圧倒的な振動が覆いつくす。  
「ああっ、あっ、沙希さま、イッちゃう!」  
「えー、やだ」  
やる気なく拒否しながらも、右足はたくましく男を踏みにじる。  
「あ、ダメ、っ、さ、沙希さま―っ!」  
「あたし、あんたの娘なのに。二十歳近く離れてるのに、こんな子供に踏まれるのがいいんだ?」  
「いいっ、いいっ、出ちゃうー!」  
「出せば? どうせ止まんないんだし」  
「あ、……っ う…………あぁーっ!」  
「っ…………!」  
 沙希の足の裏を、熱い体液と脈動する肉棒の感触が襲う。父を射精させてしまったのだ。  
同時に、沙希自身も自分では気付かずに達していた。火照ってぐちゃぐちゃになった体が震える。息が出来ない。脳の裏側が熱い。  
沙希はその場に尻餅をつき、しばらく開かれたことのないカーテンをうつろな目で眺めていた。  
 
二人とも放心していたが、父の方が先に気を取り戻した。  
「あ、ああ……沙希さま」  
「え…………もう、沙希でいいよ、お父さん」  
「うん……あの、言いにくいんだが」  
父の目が泳ぐ。沙希の下半身をちらちらと見ている。  
「もっとしてほしいの?」  
「あ、や、今は、もういいんだ。また今度」  
ぱーんっ!  
いつの間にか、近くにあった鞭を拾い上げて振っていた。  
「ごちゃごちゃうるさい! あんたに選択権なんかないんだよ!」  
「沙希さまーっ!」  
ぱっぱーん!  
沙希は元気になり、毎晩のように父をなぶるどSな小学生となった。  
 
数年後、初めて出来た彼氏は女性不審になるのだがそれはまた別の話。  
 
 

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