「なっおっみー、起きてる〜?」
コンコンと姉貴が俺の部屋のドアをノックする。
ガチャっとドアを開けて姉貴が入ってくる。
その手に持っているのは間違いなくお盆だった。
「それ、姉ちゃんが・・・?」
姉貴の料理を見たのは久しぶりだ。
結構前に姉貴の料理をまずいって言って以来な気がする。
「紛うことなく、お姉ちゃんの手作りだよ〜ん。」
そう言って見せた、姉貴のお盆に乗っていたのは、おかゆだった。
まあ、普通の料理を作られても今の俺には食える気がしない。
風邪を引いているからだ。
俺の風邪は症状からして、間違いなく姉貴から移ったものだ。
姉貴は一日で全快したというのに、俺は未だに、この風邪から立ち直れないでいる。
俺は姉貴のおかゆを一口食べた。
「おいしい?」
「う、うん。」
とてもお世辞にもおいしいと言える出来ではない。
水っぽいし、塩気も足りてない。
だけど、姉貴の期待に満ちた眼差しを見ると、正直には答えられなかった。
「お姉ちゃんにも一口頂戴。」
姉貴は俺の手から蓮華をひったくると、おかゆもどきを一口食べた。
かちゃんと、力なく滑り落ちた蓮華がお茶碗の中で音を立てた。
「ごめん! ほんっとうにごめんね。」
たしかに、謝らなきゃすまないレベルの料理ではある。
だけど、姉貴にそこまで謝られるのは心苦しい気がした。
「いいよ、食べれないことはないし。」
まずいけれど、食べれないことはない。
それに、一応は、おかゆなんだから栄養的には問題ないだろう。
「ごちそうさまでした。」
おかゆもどきをなんとか食べ終えた俺は、姉貴に手を合わせてそう言った。
俺のために料理を作ってくれた姉貴に感謝を込めて。
「ごめんね、なおみ。 お姉ちゃんもっと料理うまくなるから。」
「明日は、もっとおいしいおかゆを作るからっ。」
姉貴はぽろぽろと涙をこぼしながら言った。
できたら、作らないでほしいとか、俺には言えなかった。
こうなると、天に祈るほかない。
明日までに風邪が治りますように。
それが駄目なら、姉ちゃんの料理が今日よりはましでありますように、と。