「姉ちゃん、入るよ?」
ノックをして姉貴の返事を待つ。
姉貴ルールを守らないと俺は後で死ぬほどボコられてしまう。
「な、なおみ!? ちょ、ちょっと待って!」
なぜか、部屋の中でどたばたと姉貴の暴れる音が聞こえる。
「もう、いいよー。」
姉貴はベッドに身体を起こして座っていた。
その服は普段着だ。
「もしかして、今、着替えてた?」
「だって、恥ずかしいし。」
パジャマの何が恥ずかしいのか俺にはよくわからない。
乙女心というやつだろうか。
姉貴の顔は茹蛸の如く真っ赤になっている。
「おかゆ作ってきたんだけど、食べる?」
姉貴はうんうんと頷いていた。
俺は椅子を引っ張って、膝にお盆を乗せて姉貴の横に座る。
そのついでに、姉貴のおでこに手を当てた。
じゅっと音が出そうなぐらい熱い。
「ちょ、なおみっ!」
俺の突然の行動に姉貴はわたわたとしている。
「病人は大人しくしとけって。」
俺はおかゆを蓮華によそって姉貴の前に突き出す。
ぱくっと反射的に姉貴は蓮華を口に咥える。
姉貴は一瞬、罰の悪そうな顔を見せると、口から蓮華を引き抜いた。
俺から視線を逸らすようにして、口をむぐむぐと動かしている。
「どう?」
「おいしい。 けど、あとは自分で食べる。」
姉貴は俺から蓮華とお茶碗をひったくる。
その顔はなぜか、むすっと不機嫌そうな顔になっている。
俺には姉貴が不機嫌になる理由がわからない。
「じゃあ、食べ終わったら椅子に置いといて。」
「後で取りに来るから。」
俺は立ち上がって椅子をベッドに寄せると、そこにお盆を置いた。
それから、ベッドを離れ、ドアノブに手をかける。
「なおみ、ありがとね。」
俺が部屋を出ようとしたとき、姉貴は呟くように言った。
その顔を見て俺はようやく理解した。
姉貴は怒っていたわけじゃなく、照れていたんだと。