顎振り三年、禍も三年、石の上にも三年と。凡そ三年もの月日となれば、それはきっと昔から、  
大変長い時間なのだ。  
「二年九ヶ月だっておんなじよ」  
「あはは、まあそう言うなって」  
 腕の中で今さらムクれて見せる少女に、男は苦笑いで応じてやった。三年は確かに長かった。  
特にそれが、キスを待たせた時間となれば、永遠に等しいと言っていい。  
 
「もう、出来ないで終わるんじゃないかと思ってた」  
「でも、今はこうして、あと三秒の距離にいる」  
 言って、男は少女の身体を抱き直す。互いの息がかかる所まで引き上げられて、少女の頬は  
さらに赤みの程度を増した。  
 
 男は笑った。「もっと凄いことしてきたのに?」  
「だって……」 伏目がちに、しかし顔は逸らさず、娘は言う。「息かけられるの、わ、わたしは  
初めてだもん」  
 そういえばそうだった。口でされていた時、男は常に娘の吐息を感じていたが、その逆の方は  
然りでは無い。  
 
 思わず言葉に詰まった男に、少女は早速逆襲する。  
「ヘンなものは、もういっぱいかけられちゃったけどね」  
「慣れない下ネタ言ったところで、顔が真っ赤じゃ効果はないぞ」  
「ふーんだ。いいよ、そんな余裕も、どうせキスするまでだもん」  
「ほほう、その心は?」  
「だって、わたしは、三年も練習してきたんだよ?」  
 そう言いながら娘は静かに目を閉じる。  
 
 お陰で男は、赤面するところを見られずにすんだ。と同時に、逃げ場も一切無くなった。  
 
 上向いた顎に、男はゆっくりと頭をす。自分の分身が散々暴れてきたそこが、今までに  
なく大きく映り、それから急にぼやけて見えなくなった。役立たなくなった瞳は閉じて、  
男はさらに、顔を寄せる。  
 
 彼女、即ち三スレ目のファーストキスまで、あと三センチ──  
 

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