「…ぅ……ん」  
 
気がつくと、アリッサは床の上に投げ出されていた。  
既に夜は明けたらしい。窓からは外からの光が差し込んでいたものの、その灯りは薄暗く、周囲が良く見えなかった。  
 
「ここは……? …痛っ」  
 
立ち上がろうとして、体勢を崩した。手足を縛られているらしい。  
一体どこから持ってきたのか、何かの電源コードのようだ。乱暴に引き千切られたそれは適当に束ねられ、  
アリッサの両手両足の自由を奪っていた。  
 
「―― 急ごしらえの手錠ってわけ? それにしたってもっといい物あったでしょうに……ねっ!」  
 
仮に逃げ出したとしても大した問題ではないと考えられているのか。  
あるいは、捕らえた女の始末より他に優先しなければならない事態が起こったのか。  
どちらにしても、敵の注意が逸れていることは彼女にとって僥倖だった。  
慣れた手付きで巻きつけられたコードを解き、体の具合を確かめる。  
……先程の事は、まだ鮮明に覚えていた。  
あの自在に姿を消す怪人に捕らえられた後も、本能だけで這い回る化け物達に代わる代わる、何度も犯されたのだ。  
腹部に残った鈍い痛みが、それが夢ではない事を示している。  
 
「ホント、情けないな……」  
 
破かれて散乱していた服を拾いながら、下唇を噛む。  
どうにか胸と腰に巻きつけて結んでみたものの、水着の方がまだマシ……といったところか。  
とは言え、歩き回る分には問題ない。いや、歩かなくてはならないのだ。  
散々化け物の玩具にされた後であっても、彼女が引き下がることは無かった。  
   
   
アリッサが放り込まれていた部屋は、どうやら先に潜入した研究所とは別の建物のようだった。  
部屋の中もそうだったが、外に出てみても研究所に比べると、壁や床の造りが粗い。  
ついでに、何かの駆動音がどこまで歩いても続いていた。  
 
「この音は……発電機? なら、研究所の横にあるっていう発電施設……かもしれない」  
 
しばらく歩き回ってみたが、窓や施設の外へ通じる扉が見当たらない。  
しかし事前に受けたブリーフィングでは、島の中にある大きな建築物は研究所と発電施設。その二つだけだ。  
外へ出ることが出来れば、現在位置程度は分かるのだが……。細いダクトや抜け道からでは、それもままならない。  
もし、今あの化け物達と遭遇すれば対抗する手段が無い。その事がアリッサの行動を慎重にさせていた。  
あの化け物達がうろついている可能性のある主要な通路は使えないし、そうでない通路を使ったとしても、  
またあのカメレオン男に見つかれば、彼女にはどうしようもない。  
幸いにも、天性の身の軽さと勘の良さでこの稼業を生き延びてきたアリッサにとって、身を隠して動き回る事は難しくなかった。  
 
「でも、いつまでもコソコソしてられない……何とかしないと」  
 
いくら脅威では無いと言っても、いつまでも野放しにはしておいてくれないだろう。  
体力も時間も有限なのだ。何か行動を起こさなければならない……。  
 
アリッサが選んだのは、地上から脱出を試みるのではなく地下へと進む事だった。  
発電施設と研究所はそれなりに離れた地点にあったはずだ。にもかかわらず、地上には送電線らしいものは無かった。  
そこで、地下で二つの施設が繋がっている可能性に思い至ったのだ。  
 
「こっちが港への送電ケーブルで……これは通信用かな。こう入り組んでるとどれがどれだか……」  
 
予想通り、発電施設の地下には島中へ電力を供給するための地下道が用意されていた。  
記号と番号で区分された無数のケーブルが、西へ東へと伸びている。  
だがその内で分かるのは大まかな方角だけで、後は記号の意味するところをアリッサ自身が読み解くしか無い。  
 
「せめて一覧表くらいあったらいいんだけど……」  
 
と言いつつ彼女が周囲を見渡してみると、少し離れた所にこちらが見通せる窓のついた部屋があった。  
どうやら、操作パネルの類が収められた制御室らしい。あそこならば、地図くらいはあるだろう……。  
早くしなければ、という焦りもあったのかもしれない。アリッサは不用意にその中へ足を踏み入れてしまった。  
 
「―― 暗いわね。どこかに電灯のスイッチが……」  
 
暗闇の中からお目当てのスイッチを探り当てるのは、そう苦労しなかった。  
パチン、と小気味いい音と共に古びた電灯の明かりがおぼろげに部屋を照らす。  
アリッサが予想した通り、窓の脇には地下の様子が一目で分かる地図が掛かっていた。  
さすがに簡単に取り外せるようなものではなかったが、地下道の大まかな構造を把握する事が出来た。  
 
「で、これが電力供給のための操作パネルか。……あれ?」  
 
パネルの表示には、研究所への供給が行われているとされていた。  
アリッサが乗り込んだ時は電力は死んだままだったはずだ。つまり……。  
 
「私が気を失っている間に、ここを操作して研究所に行った奴がいる……?」  
 
だとするなら、はぐれてしまった仲間の可能性ある。  
合流する事が出来れば、体勢を立て直すことができるかもしれない。  
 
「よし、もう一度あの研究所に―――!」  
 
ところがアリッサは、ドアを開けようとした時の硬い手ごたえに困惑した。  
建てつけが悪いのか、古くなったためなのかは分からないが扉が開かないのだ。  
 
「この忙しい時に……ッ」  
 
彼女は元来、気の長い性質では無い。特に、今のような切迫した状況においては。  
それにこんな古い扉である。いっそのこと蹴り破ってしまっても構わないだろう、とさえ思っていた。  
しかしながら、今回はあと一歩のところで踏み留まった。外の異変に気づいたのだ。  
咄嗟に壁に張り付いて、窓から外を窺う。その間に扉の鍵もかけてしまっていた。  
おぼつかない足取りの足音に、生気を感じさせない呻き声。例の化け物だ。  
 
「まさか、私を追いかけてきたっていうの……?」  
 
思わず口に出してしまっていたが、そういうわけではなさそうだ。  
化け物達は群れを成して地下道へ雪崩れ込んだものの、その後は散り散りになって歩を進めていく。  
とりあえず当面の危機が去ったことに胸を撫で下ろし、アリッサはその動向を見つめた。  
このまま奴らをやり過ごして、それから地上へ出て研究所を目指す。難しいが……やるしかないだろう。  
と、その時。耳をつんざくような音が響いた。アリッサが立てた音ではない。  
彼女が音のした方を見遣ると、天井近くに設置された通気口の鉄格子が床に落ちていた。  
壁材が腐敗でもしていたのだろうか。格子を拾い上げて調べてみたが、そんな様子はなかった。  
 
「一体何だってのよ……? ――っ!」  
 
瞬間、背筋が凍った。  
既に体は後ろへ飛び退いており、通気口からの初撃を間一髪で避ける。  
無様にも尻餅を付いてしまったが……命に較べれば安いものだ。  
続けざまに繰り出された激しい殴打も、転がるように床を蹴って事なきを得る。  
通気口から姿を覗かせるソレは……鞭のようにしなる、おびただしい数の触手だった。  
 
「く……またこんな化け物とっ!」  
 
視線を窓に向け、外を見た。奴らはまだうろついている……。  
通気口から伸びた触手は侵入を続け、無数のそれを身に纏った本体が這い出してくるのも確認できた。  
だがアリッサは外へ逃げる事もままならず、執拗に手足へと伸ばされる触手をあしらう事しか出来ない。  
 
「……っあ!」  
 
膝をついた隙に、右足を絡めとられた。軽い体がいとも簡単に引き倒される。  
続いて数本の触手が身体の自由を奪い、アリッサは吊るし上げられる格好になった。  
 
「離せ……! こ、このぉ!」  
 
ジタバタともがいてみるものの、海洋生物のそれを思わせる触手は彼女の体をきつく締め上げるばかりだ。  
触手群の中核をなす部分には大きさの異なる瞳が二つ爛々と煌き、アリッサの恐怖を煽る。  
そして器用に蠢く触手達は、薄布で覆い隠しただけの胸と秘所をあっけなく露わにさせた。  
 
「――ぃ、いやぁぁぁぁっ!?」  
 
マングリ返しにされ、更なる陵辱の予感を感じ取ったアリッサはついに堪えきれず、悲鳴をあげてしまった。  
だが、触手達はお構いなしに瑞々しい体を蹂躙していく。  
まずイソギンチャクを思い起こさせる形の触手が、胸を撫で回した。  
それに合わせて、数本の触手が秘所から尻にかけて舌でそうする様にゆっくりと動いた。  
 
「んっ……く…ぅ………ぁ…、あぁっ!」  
 
経験が豊富とは言えないアリッサではあったが、自然と舐められた部分が濡れ始めているのを感じていた。  
頭では必死に否定するものの、身体の芯が鉄を焼いたように熱い。  
振り払おうと足をばたつかせても、しっかりと固定されていては思うように動かせなかった。  
アリッサのそこが濡れてきたのを感じ取ったのか、触手は次なる行動に出た。  
胸を揉みしだく力が一層強まり、秘所を責めていた舌状の触手が溢れ出る愛液を吸い始めたのだ。  
 
「ひぁぁっ! ぃ…いやあああっ! あぁんっ!」  
 
泣き喚くアリッサを尻目に、触手達の責めはさらにエスカレートしていく。  
より執拗に太ももから腰にかけて絡みつき、粘液を彼女の全身に塗り込んでいった。  
 
(なに……これ……?)  
 
アリッサは、自分の体に染み込む粘液から感じる違和感に気づいていた。  
手足に重りをつけられたかのような感覚。それが、次第に感覚そのものの喪失に変わっていく。  
 
「は……ぁ…。ぃ…い…やぁ……」  
 
毒。それも神経に作用するものだろう。捕らえた獲物の自由を奪う……まるで本物のイソギンチャクのようだった。  
反抗する力も奪われたアリッサは、不意にその場に解き放たれた。  
どさりと崩れ落ち、這うように後ずさった。その跡に残る粘液と愛液の残滓が、彼女を惨めにさせた。  
この触手の塊は楽しんでいるのだ……。そうアリッサは確信した。  
そんな道楽に付き合ってやる理由は無い、と言ってやりたいところだが……。  
今の彼女には、部屋の隅へと追いやられながら震えることしかできないのが現実だった。  
 
「いやああああああああっ!」  
 
触手の群れに覆い被さられるようにして、アリッサは再び陵辱の嵐の中に飲み込まれた。  
今度は両手を押さえ込まれ、下から全身を絡めとられる。  
その形はまるで、女王の座る玉座のようであった。  
 
「うぅっ! …う、ぁ……ひあっ…!」  
 
抵抗する余力はもう残されていない。ただ触手のされるがまま、アリッサは体を上下に振るばかりだ。  
触手達はたっぷり時間をかけて彼女の体を堪能した後、膣内への侵攻を始めた。  
一度に4〜5本の触手が、我先にと彼女の膣へ殺到する。その間にも、彼女の体を舐め回す触手の動きは止まらなかった。  
 
「い、いやぁ……! ひあああああんッ! あっ あああああっ!?」  
 
惚けかかっていたアリッサは、文字通りその身を裂くような痛みで一気に覚醒した。  
膣内の最奥を代わる代わる突くペニス型の触手が、さらに彼女の体力と精神力を削っていく。  
 
「だめぇ……! そんなに、動いちゃっ! 壊れ……るっ! はぁんっ!」  
 
次々と繰り出される触手達の責めに、アリッサは限界を迎えそうになっていた。  
もっと激しく突いて欲しい。気持ちよくして欲しい……。  
いつしか、そんな暗い欲望がぞわぞわと彼女を蝕んでいた。  
 
「く…ぁっ! ……ぁ…ぇ?」  
 
突然、触手達の動きが止まった。  
膣内を掻き回すのでもなくただ揺らめき、肌にも軽く触れる程度の動き。  
ただそれだけのはずなのに、恐ろしいほどにアリッサの体は疼いた。  
 
「ぁ……ぁ、あ……」  
 
まただ。またコイツは……私を玩んでいる。やけにはっきりした意識の中で、アリッサは悟った。  
もう知っているのだ。あの触手で、この体を貫いて欲しい事を。  
とっくに悟られているのだ。触手から放たれるモノを求めている事なんて。  
コイツは私を堕とそうと躍起になっている。私を、自分のお人形にしたくてしょうがないのだと理解した。  
それも……悪くは無いだろう。  
 
(……でも、そう簡単に…くれてやる、もんか)  
 
哀願の言葉を待っていたのだろうか。  
自分から触手にしゃぶりついてくるのを待っていたのかも。  
でも、それでも、ノーだ。してやらない。  
ぎょろりと覗き込む目玉に向けて、ちろり、と舌を出す。  
 
堰を切ったように、触手が女の体に雪崩れ込んだ。  
 
 
 
その後に繰り広げられたのは、あまりに一方的な陵辱だった。  
 
「ぁ…はあぁぁぁんっ! …ぃ、いやあぁぁぁっ! ぁぁ…あ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」  
 
怒涛の責めは、既に限界を迎えていたアリッサをあっさりと絶頂へと誘う。  
触手はそれでも彼女を離さず、そのまま犯し抜く。どこまでも、力でもって。  
張り詰めていた糸は断ち切られ、アリッサは何度も絶頂に達した。  
 
「いやあああぁぁぁぁぁっ! あっ……ぁ、あぁぁん…ぃ…や…ぁ、はぁぁぁぁぁぁぁんっ!」  
 
膣から溢れ出た白濁液が床を伝う。  
彼女が自ら閉ざした扉は開かれる事無く、狂宴はまだまだ続きそうだった……。  
 

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