この季節は布団から出るというだけで一仕事になってしまうから大変だ。
手探りでエアコンのリモコンを見つけ暖房を付ける。
「・・・ぅ・・・・・ん」
ゆっくりと部屋を見渡し時計を視界に納める、現在7時23分。
朝食に呼ばれるのはいつも8時キッカリなので時間は十分にある、が朝というのはなぜか
時間の経つのが早く感じる、不思議なものだ。
テレビを付け芸能ニュースを見ながらやっと頭が覚醒し始めたころだろうか。
「おはようございます」
現在7時42分、つまり朝食の呼び出しではない。
「おはよう、雪乃」
俺専属メイドである雪乃、一緒の布団で寝ていたのにもう既にメイド服に着替えている。
「シャワーをお浴び下さい、目も覚めますよ」
「あぁ」
ゆっくりと伸びをして徘徊するような遅さで浴室へと向かう。
「お背中「いい」
雪乃は毎回朝の風呂にまで付き合おうとする、嬉しいには嬉しいが疲れるので断っている。
蛇口を捻ると良い感じの温度のぬるま湯がシャワーとなって降り注ぐ。
浴室から出て着替える頃にちょうど朝食が出来たと呼びに来た。
「優介様、朝食の準備が出来ました」
「あぁ」
呼びに来たメイドもまた俺専属である。
「あ、春菜」
「はい?」
春菜、優しい眼差しとふわっとした雰囲気が可愛らしい娘だ。
「おはよう」
「お、おはようございます!」
春菜は顔を真っ赤にしてしまう、挨拶を忘れたことがそんなに恥ずかしかったのだろうか?
「ご主人様、春菜さん、朝食が冷めてしまいますよ」
「おぉ、そうだった、よし行こう」
「は、はい」
俺がこの屋敷に来てから大体一年が経っただろうか、未だに中が把握しきれない。
そもそも高校を卒業して大学への期待を膨らませていたところに両親に連れてこられた
この屋敷、話を聞けば祖父だか祖母だかの財産だというし、跡継ぎになるために
この屋敷で勉強しろだとか言われて茫然自失になったのは記憶に新しい。
そんな俺を更に驚かせたのが七人のメイドさんだった。
『雪乃といいます、よろしくお願いしますご主人様』
『春菜です、よろしくお願いします、優介様』
『夏希だよ、よろしくね御主人様』
『秋深よ、頼むわよ優介』
『天姫です、・・優様』
『紅葉ですっ、よろしくね!ご主人さまっ!』
『冬美です、これからよろしくね、優介君』
『えええええっっっ!!??』
当時の俺は突然七人の美少女に囲まれる生活に困惑し、今まで
に見たことないリッチな暮らしに困惑し
覚える課題の難しさに困惑し、もう頭がパンクどころかメルトダウンするところだった。
そして何より困惑したのは一週間連続で処女喪失に立ち会ったことだ。
最初は主人とメイドという立場を考え罪悪感に見舞われたが彼女達は皆笑顔で感謝してきた。
皆俺をことを「思っていたよりずっと格好良くて優しい人」だと言ってくれた、しかし一体
どんな人物像を想像していたのかと思うと複雑な気分ではあるが。
彼女達は幼少のころから俺のメイドとなるべく育てられたらしい、だったら俺も
子供の時からこの屋敷で暮らしてるのが自然だと思ったが、どうやら
父と祖父が勘当状態だったということだ、しかもどうせ仲直りするだろうと
祖母は彼女達を俺専属のメイドとして育て続けた、そして祖母の思惑通り
俺が高校生の時二人は和解、俺が卒業したら屋敷行くという話になったという。
『勝手すぎるぅぅぅうううう!!!!』
そしてこれが真相を知った時の俺の叫びだ、なぜか春菜と天姫は拍手してきた。
如何せん普通の人間として生活してきたおかげでだだっ広い部屋は落ち着かない。
今ある自分の部屋だって三分割に改築してやっと落ち着ける広さになったぐらいだ。
このリビングとでも言うべき部屋も飯食うだけなのにやたら広い。
「おはよう」
「あっ、おはよー御主人様」
出迎えてくれたのは夏希だ、夏希の料理の腕は七人中一番かもしれない。
「えへへ、今日の朝ごはんは御主人様の好きな和食だよ、ボクの愛情たっぷり!」
あ、一応言うと夏希は自分をボクというが別に男じゃない、悪しからず。
「おー、うまそうだな」
「すごーい、夏希ちゃんはお料理上手ね」
「むぅ、私も精進しないと」
今いるのは雪乃、春菜、夏希、専属といってもいつも一緒ではない、かりにもメイドなのだから
仕事は山ほどある、基本的に俺に対する奉仕というだけで毎日あくせく働いている
のだ頭が上がらない。
「雪乃、今日の予定は?」
「はい、9時から第四資料室で経理の授業、昼食を挟みまして午後1時から第二書斎にて
書類等の知識についての勉強会、4時からは第三競技場で体力トレーニング、となっております」
時間よ止まれ、そう思った。
真・専属メイド〜序章〜 続く