『最後の一個』中編  
 
 まさか、というより気付かないかった俺の失態とでも言うべきか。  
「・・あ、秋深」  
「なによ」  
 何やら機嫌が悪い様子、それはそうだろう、掃除していた部屋で突然  
主人が他のメイドと情事を始めたのだ、それに秋深は紅葉となにか揉めているようだったし  
火に油を注いでしまったという現状以外に説明つかない。  
「なにやってるのって聞いたわよね?」  
 目の笑っていない笑顔で迫られ思わず目を逸らす。  
「いや、あのこれは天姫がな・・・」  
「ふーん」  
 その天姫本人は満足さたのはスヤスヤと寝息を立てていた、誰か助けて。  
「そ、そうだ秋深、お前紅葉とまた喧嘩したんだって?」  
「なっ!?」  
 とりあえず話を誤魔化そうと秋深の話題に流れを持っていこうする、しかしあまりに  
直接的な質問だったことを俺は後悔した。  
「喧嘩ぁ〜?あれはあのチビが勝手に騒いでるだけよ!私は少しも悪くないんだから!!」  
 凄い剣幕で怒鳴られた。  
「そ、そうか・・・あのだな」  
「大体ねぇ〜、みんなあのチビに甘いのよ!」  
 チビとは秋深が紅葉を呼ぶときに使う言葉、実際紅葉は一番年下で背も低い。  
 
「ま、まぁ紅葉は一番年下だしさ・・・」  
「なに、優介までチビの味方するわけ?」  
「ま、まぁ何があったかはよく分からないけどほら、あんまりギクシャクしてる  
とさ、他のみんなも心配するし・・ね?」  
「・・・・・・まぁ優介がそこまでいうなら」  
 なんだかあっさり落ち着いてくれた、秋深は急に怒ったり急に大人しくなったり  
よく分からないときがあるが今回はうまく転んだようだ。  
 なにはともあれ紅葉からも話を聞かないと仲直りもへったくれもない。  
「じゃあとりあえず紅葉に会おう」  
「えっ・・・・・」  
「ほら行くぞ」  
 半ば強引に手を引いて部屋を出た、天姫は熟睡してるから大丈夫だろう。  
 
 どうやら紅葉は自室にいるようなので俺は秋深の手を引いて紅葉の部屋に向かった。  
「そういえばさ」  
「なに?」  
「なんで二人は喧嘩なんかしたんだ?」  
 そういえば二人が揉めている理由を聞いていなかった、本当に今更だ。  
「別に〜・・・、あっちが言い掛かりをつけてきたのよ」  
「言い掛かりねぇ」  
 そうこうしている内に紅葉の部屋の前に着く。  
「まぁいいや、とりあえず三人で話をしよう」  
「ん〜・・・」  
 
 深呼吸をしてから静かにドアをノックする。  
「は〜い」  
「俺だけどー」  
「ご主人さま!?今開けま〜す」  
 いつも通りの紅葉だ、本当に喧嘩なんかしてるのか?。  
「どうしたんで・・あっ!?」  
「・・・なによ」  
 一瞬だった、一瞬にして場の空気が変わった、背筋は凍り、冷や汗がでて膝が笑い出す。  
「どうしたんですか〜、ご主人さま」  
 ご主人さま、という部分を強調した言葉に秋深が一瞬体を震わす。  
「いやぁ、ちょっと話があってさ」  
「私にですか!?いいですよ!どうぞ入ってください、ご主人さまは」  
「アンタねぇ・・・!」  
 二人を会わせたのは間違いだったのだろうか、そんな後悔が頭をよぎる。  
「いや、あの秋深と三人で話があってさ」  
「・・・・・・分かりました」  
 どうやら俺が二人を仲直りさせるために来たんだと察したのか紅葉は渋々  
秋深も部屋に入れてくれた。  
「意外と整理されてるんだな」  
「意外って酷いです〜」  
「あはは、ごめんごめん」  
 メイド達の部屋は俺専属だからだろうか、なかなか広い、下手なホテルより豪華だ。  
「それで・・・、二人のことについてなんだけど」  
 
「その・・喧嘩してるって聞いてさ」  
 俺の話を聞いてか聞かずか紅葉はティーセットを持ってくると紅茶を出してくれた。  
「良い紅茶が入ったんですよ、飲んでみてください!」  
「あ、あぁ・・・」  
 確かにおいしい、まぁ喉がカラカラだったせいもあるだろう。  
「それでね、・・・紅葉」  
「・・・秋深が悪いんです」  
 さっきまでの明るい表情はどこえやら、冷静な表情で静かに紅葉は言った。  
「ちょっと!なに呼び捨てにしてるのよ!それに私は悪くない!!」  
「秋深は秋深でしょ?」  
 せっかくの紅茶の味がしない、女の喧嘩はいつも怖い、メイド同士のいざこざは  
無いわけでは無いがたまにだ、しかしその処理はなぜか毎回が俺がしている、メイド長の  
雪乃がやればいいのにと言うが「ご主人様に言われればみんなイチコロですから」とか  
言って手伝ってくれない。  
「と、とにかく理由をだな!」  
「・・・・、この前ご主人さまがお土産にくれたおまんじゅう、あったでしょ?」  
「あぁ」  
 あれは、確かこの前野暮用で群馬だかに行った時買った温泉饅頭、今の俺なら  
店ごと買えるであろう状況なのだがこの生活を初めてからも金銭感覚が鈍るようなことはなく  
 
 俺は昔の要領で一箱だけ買ってしまった、帰りの車の中で一人一箱ぐらいは  
買えばよかったと嘆いたがそのことを話したらメイド達は暖かく笑ってくれた。  
「あの饅頭がどうかしたのか?」  
「15個入りだったんです、ご主人さまは買う時食べたから要らないって言って  
私たち7人で分けることになって、1個余ったんです」  
 確かに7人で15個の饅頭を分けたら一人2個分けられ1個余る。  
「最後の一個は取り合いになりました、だってご主人さまからのお土産だった  
から、雪乃さん達は譲ってくれて私と夏希と秋深だけが残りました」  
 なんとなくその場面が思い浮かぶ、しかし饅頭・・・何か嫌な予感がする。  
「それで三人でジャンケンしました」  
「で、紅葉が勝ったと」  
「はい、だけど私がトイレに行ってる間にその最後の一個がなくなってたんです!」  
 紅葉のテーブルを叩く音に驚きながら、話が見えた、だが・・・・マズイことになった。  
「秋深が盗ったんです!」  
「違うって言ってるでしょ!」  
「だってあの時部屋に最後まで残ってたのは秋深じゃない」  
「アンタがトイレ行った後すぐ出てったわよ!」  
「おまんじゅうくわえて?」  
「なっ・・・!!」  
 
 どうしよう・・・、二人は言い争いを始めてしまった。  
「大体ねぇ、饅頭くらいでうるさいのよ!」  
「秋深だってジャンケンで負けたとき凄い悔しがってたくせに」  
「あの・・・」  
「このチビ!」  
「うるさい貧乳!」  
「アンタも同じでしょーが!」  
「私はまだ成長中なの!」  
「あの!」  
 互いの頬っぺたを掴みながら二人が凄い顔で俺の方を向いた。  
「それ・・・俺だ」  
「「ふぇっ?」」  
 そう、思い出した、俺が土産を買って帰った日、夜も更けだした頃、メイドが誰かいないかと  
メイド達の共同スペースに顔を覗かせたが誰もいなくあったのは余ってた饅頭が一個。  
「余ってたと思ったんだ、7人で分けたら現に一個余るし」  
「そ、それじゃあ・・・」  
「うん・・・ゴメン」  
 二人の喧嘩の原因が俺だったとは、なんともみっともない話だ。  
「本当ゴメン!」  
「・・・ご主人さま」  
「・・・優介」  
「ゴメン!・・・何でもするから!」  
 食べ物の恨みを怖いと言うし、とりあえず謝ろう、そんな気持ちが裏目にでてしまった。  
「「何でも!?」」  
 顔を上げるとそこにはいつも以上に笑顔の秋深と紅葉がいた。  
 
―つづく  
 
 

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