「早依<さより>…、もう、大丈夫よね?」  
 早依の体をやさしく抱き起こしながら、真響<まゆら>が言う。人でもなく神でもない幼なじみの瞳には、  
純粋ないたわりが溢れていた。  
「…うん」  
 頬の涙はすでに乾いていた。  
「そう……、よかった……」  
 真響はもう一度早依を抱きしめたのち、すらりと立ち上がった。長い黒髪がさらさらと流れ落ちる。  
 差し出された手を取り、つづいて立ち上がった早依は、みずからの脱ぎ捨てた衣<きぬ>を見遣った。  
 真っ白に晒した上衣<うわぎぬ>に、同じく真っ白な裳。あこがれていた鮮やかな染衣<しめごろも>では  
なかったけれど、貴人<あてびと>のような長い裳をはくのは初めてだった。邑娘の早依が身につけるのは  
単衣の ちはや のみで、色付きの帯を締めるくらいしか身を飾る方法はなかったから。  
(けれどもう、必要ないわね…)  
 早依は、神との共寝に臨むのだから。  
 
 ***  
 
 洞穴<ほらあな>を奥深く進む。火の消えた松明は置いてきたのに、ふしぎと辺りが見渡せた。  
闇に目が慣れたのだろうか。  
 しばらく音の無い世界を進んでいた二人だったが、やがて、かすかに風の音のようなうなりを耳にした。  
「あの音はなに?」  
 早依が問うと、真響は答えた。  
「神とまぐわう乙女たちの聲よ。悦びに咽ぶ声が、反響しているの」  
 真響の息がわずかに荒くなっていた。共寝の悦びを思い返しているのだ。神の嬬<ツマ>となった  
三年前からずっと、昼も夜もなくまぐわい続け、快楽だけを糧に生きてきた。快楽を求める心はすでに  
身に沁みつき、ただひとつの本能となっていた。  
 早依は怖じ気づいたが、引き返すわけにはいかなかった。真響に手を引かれるまま、更に奥へと歩を進める。  
 やがて音は、早依の耳にも聞き取れる声となった。陶酔する甘い喘ぎ、悲鳴のようにかん高い悦びの声、  
獣のように叫び、快楽を貪る声。  
 覚悟を決めていたつもりだったけれど、おぞましいと思う心を捨てることはできなかった。対して真響は  
瞳をらんらんと輝かせ、足早に早依の手を引いてゆく。  
 乙女の嬌声が四方八方から響き渡るように聞こえてきたとき、ふたりは洞穴の最深部に辿り着いた。  
そこは邑の広場よりもうんと広く、とても洞穴の中だとは思えなかった。天井も、見えないほど高いところに  
あるようだ。  
 その広場を占拠するのは、淡い水色の光を発する、軟体の巨大ないきものだった。むすうの手足が蠢き、  
幾百もの乙女をその身に縛り付けていた。乙女たちは体じゅうを触手にまさぐられ、神とまぐわう歓喜に  
涙を流し、獣じみた嬌声を上げている。  
 
「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」  
 我知らず早依は叫んでいた。これが神の共寝なのか。気がつくと、座り込んでいた。つかのま気を  
失ったのかもしれない。  
「早依、どうしたの? はやくわたしたちも神とまぐわいましょう」  
 真響が妖艶な笑みを浮かべ、早依をうながす。すでに発情しきっていて、初めて神と対面した幼なじみを  
気遣うことなど思いも付かない。  
《――真響、道引きの役、ご苦労であった》  
 頭に直接響いてくる声があった。それと同時に、青白く光る神の腕が二本、ふたりの元へ伸びてくる。  
期待に頬を上気させる真響の肢体に触手が絡みつき、真響は神の躯に引き寄せられた。  
「姉さんっ、姉さんっ、姉さんっっ――――ッ!!」  
 人ならざるものに成り果てていても、早依にとってここで頼れるのは真響ただひとりだった。  
その真響を奪われ、早依は狂ったように哭き叫ぶ。  
《お主が新しい贄か。名はなんと申す》  
「姉さんっ、姉さんっ、姉さんっ、姉さんっ、姉さんっっ――――ッ!!!!」  
 半狂乱の早依には神の問いも届かない。  
《…まあよい。お主の快楽を引き擦り出し、味わわせてもらおう。お主も吾<われ>とともに、快楽を喰らって  
生きるモノになるのだ》  
 神は触手をうねらせ、早依の体に巻き付ける。粘液に覆われたその感触に、早依の全身が総毛立った。  
「ひいいぃぃぃぃぃいいいっっ!!!」  
 更に何本もの触手が伸びてきて、早依の体を這いずり回る。半透明のぬめった触手はさまざまな形をしており、  
瘤のあるもの、繊毛の生えているもの、それらが細やかに動き回る。  
「…いやっ、いやあ……っ、姉さん――……っっ!」  
 気を失わないのがふしぎだった。歯の根も合わぬほど震えながら、早依は真響の姿を探した。  
 
 ――真響は、笑っていた。全身をおぞましい触手に嬲られ、歓喜に咽び泣きながら笑っていた。  
「イイっ、イイ――っ!! もっと、もっとヨくしてぇっっっ!!!!」  
 胸乳<むなぢ>の尖りを弄<いら>われ、豆非<ツビ>を扱かれ、女陰<ホト>にも深々と触手が突き刺さっている。出し挿れされる度にじゅぷりと音を立て、泡立った淫液が漏れ出した。  
「ねぇ…さん……」  
 早依の心が絶望に黒く塗りつぶされてゆく。  
《お主もじきに、あれと同じになる》  
「んぅ!!」  
 こどもの拳ほどもある触手の先が、早依の口を犯した。触手はどくどくと波打ち、甘い匂いのする液体が  
じかに咽に流し込まれる。  
(この匂い……真響姉さんにくちづけられたときと同じ…ううん、もっとずっと濃い…)  
 口を大きく開けているため気道が狭められ、息が苦しくなってきた。胸がばくばくと早鐘を打っている。  
「……ぷはっ」  
 漸く口腔の陵辱から解放され、荒い息をつく。ずっと不完全な呼吸しかできなかったからか、頭がかすんで  
いるようだった。  
「はぁっ、はぁっ……っっ」  
 体が熱い。下腹部に甘い痺れがある。  
(やだ――ホトが――――熱い)  
 触手が脚を割っても、早依は抵抗できなかった。  
《――ほう。すでに滴らせておるではないか》  
 何本もの細い触手が、太腿を這いずり回る。撫で上げられるたびに、そことは違う箇所が熱を増してゆく。  
(やだ――やだ――、こんなの――――)  
 こんなのはいやだ、こんなのじゃ――…  
(――こんなのじゃ、足りない)  
「あああああっ」  
 欲しい部分に何も貰えず、焦れったさに声を上げた。脚を開きみずから差し出すように、触手に向かって  
腰を突き出す。  
(ホトが、ホトに――、欲しい、欲しい、欲しい――――っ!!)  
 
《ほほぅ…これはなかなか、期待の持てる娘だな。  
 見よ。お主、豆非が膨らんでおるぞ》  
 神の腕が両脚に絡み付き、持ち上げる。ホトを天に向けられ、早依にもその様子を見ることができた。  
真っ赤な先端が姿を現し、天を仰いでいた。  
「…っ!」  
 早依は身を震わせた。脚を持ち上げられたせいで溢れる淫水がホトを伝い、豆非を濡らしたのだ。腫れ上がった  
肉の芽は、びくびくと震えて次の刺激を待ち望んでいる。  
《ふふ…。そう急くこともあるまい》  
 奇妙に盛り上がった先端を持つ触手が、ホトをなぞり上げる。  
「はひぃぃいんっ!」  
 豆非にわずかに触れられ、早依は歓喜の声を上げた。触手は何度かホトの入り口を撫でたのち、狙いをさだめ  
早依の中へみずからを突き立てた。  
「!!!!!」  
 肉を圧し拡げ入り込んでくる感触に、早依は息を呑んだ。そこは十分すぎるほどに潤っていたが、男を  
受け容れたことのない早依には、まるで躯が引き裂かれるように感じられた。  
《むぅ…少々、巨きすぎたか》  
 早依の体にはさまざまな形や太さの触手が這い回っていたが、そのうち一本の先端が割れ、何本もの先端を  
形作った。  
《ほれ、お主…、これでそなたの豆非を弄ってやろう。楽しみであろう?》  
「…ぁ…、ぁ……ぁ………」  
 何本もの先端が、さらにうねうねと蠢く。その様を見て早依は、身を引き裂かれる痛みに耐えているにも  
かかわらず、豆非が熱く疼くのを感じた。あんなのに弄られたらと思うだけで、豆非は根元から熱く燃え上がり、  
塞がれたホトからどっと淫液が溢れ出した。  
《お主は正直よの。どれ、褒美をやろう》  
 ついにうねる触手が豆非に押し付けられた。  
 
「うあああああああっっ……!!!」  
 まなうらで火花が弾ける。何本もの細い触手が早依の豆非を這い回っていた。根元をつつき、皮の隙間にまで  
入り込みなぞり上げる。  
「うぁあんっっ! いひんっっ、いひぃぃいん〜〜〜〜っっ!!!!」  
 早依は髪を振り乱し、涎を垂らして快楽に悶え狂った。いつの間にか触手の周りが笠のように盛り上がり、豆非を包み込んでいた。豆非は先端にぴったりと吸い付かれ、その中で無数の触手が蠢き回っている。  
「…いやぁっ、いやあぁぁぁああっっ〜!!」  
《厭ではないであろう。この上もなく甘美であろう?》  
 触手は時おり豆非を覆う笠を窄め、根元を扱いた。その間も無数の触手は絶え間なく動き続け、早依の豆非に  
さらなる快楽を与えた。  
 いつの間かホトを裂かれる痛みを感じなくなっていたが、神の与える快楽に翻弄され、早依はその事に  
気付かない。  
(きもちいい……きもちいい……きもちいい………)  
 真響は正しかったと思った。神の嬬としてとこしえの時を、この至上の快楽とともに生きる。  
人として生きるよりもずっと幸せなことだと、そう思った。  
《この程度で終わりではないぞ。さらなる快楽の極みを、極みを超えた極みをお主に味わわせてやろう…》  
 ホトに突き立てられた触手がずるりと引き抜かれ、やおら出し挿れを開始する。先端の盛り上がりが  
早依の内側を擦り上げた。  
(……な、なに…これ……?)  
 徐々に速度を増した触手に衝き上げられ、腹の奥からじんわりと沸き上がってくる感覚がある。それに加えて、  
豆非がさらに敏感になっていた。すでに果てそうなほどに高められていたにもかかわらず、今はもっと高みへの道が  
開けたような感じがするのだ。  
《お主の知る涯<はたて>なぞ、始まりに過ぎぬ…。涯にはまた涯がある。その涯にもまた涯があるのだ》  
 
「あっあっあっはんんんん〜〜っ!! お¨っお¨っ、おうっ、おぅうっっ、お¨うぅう〜〜〜〜っっ…!!!!」  
 衝き上げられる度、全身を灼き尽くすような快楽が押しよせる。まるで決壊した河のように、ホトから  
止め処なく淫液が溢れ出した。  
 豆非を責める触手はいっときも休む事なく、笠で根元を捏ね、扱き、吸い上げ、さらに内側の無数の触手が  
容赦なく這いずり回り、舐め回した。ホトに出し挿れされる度に豆非の感覚が高まり、これ以上はないと思っていた  
快楽がさらに膨れ上がってゆく。  
「あ¨っあ¨うっ、あ¨う¨ぅ…っっ、お¨っお¨っお¨っお¨っ」  
 全身を蹂躙する淫楽に身を委ね、早依は言葉にならぬ声を上げつづけた。すでに少女はヒトであることを  
やめていた。淫楽だけを求め、貪り喰らう肉塊に成り果てたのだった。  
《お主の快楽は極上の味がする。どれ、もっと喰わせてくれ…》  
 ホトを犯す触手が太さを増す。ついに早依を快楽の極みへ押し上げんと、容赦なく責め立てる。  
 限界まで膨れ上がった豆非を激しく捏ね上げるように、ときにはやさしく撫で回すように触手が愛撫する。  
ホトから溢れる泡立つ淫液が、湯気を立てていた。  
(…来るっ、来る……っっ)  
 豆非を責める触手が先の笠でぎゅうっと締め上げたとき、早依はついに、この世ならざらぬ快楽の、  
その涯<はたて>を超えた。  
「――――――――――――――――――――――――ッッッッ!!!!!!!!!!」  
 同時に、ホトに突き立てられた触手が脈動し、熱い液体がどくどくと流し込まれた。胎内を満たしてゆく温かさは  
例えようもなく甘美で、これまで感じた事のない極上の満足感を早依に与える。  
 
 ***  
 
(……これが……神との…………まぐわい……)  
 早依は死んでも構わないと思うほど、全身が満ち足りていた。涙と涎と淫液にまみれたまま、意識は  
眠りに落ちてゆこうとする。  
《これ、勝手に眠るでないぞ。お主には、もっともっと快楽を生み出してもらわねばならぬ》  
 神がホトから触手を引き抜くと、熱い液体がどぶどぶと流れ出た。淫液と混じり合い、甘い匂いを漂わせる  
この液体は―――  
(さっき、咽から流し込まれたのと同じ……)  
 ―――再び躯の奥で疼く熱がある。胸が早鐘を打つ。  
《ふむ…次はこの程度では物足りぬかの……》  
 神は、淫液にてらてらと光る触手の先端をさらに巨きく変化させた。それでも飽き足りず、表面にいくつか  
瘤を盛り上がらせる。  
《ほれ、挿れて欲しいであろ?》  
「…ぁ、…ぁ…、あぁ…………」  
 歪なかたちをしたおぞましい触手は、すでに早依にとって淫欲をかきたてるものになっていた。  
あれで、衝いて欲しい。擦って、掻き混ぜて、奥の奥まで撃ち付けて欲しい―――…  
《お主の幼なじみも、ほれ、この通りだ》  
 神の引き寄せた腕に絡まれ、全身に触手を這わせ息も絶え絶えに淫楽の喘ぎを上げるのは―――  
 
「……姉さん」  
 わずかに責めを緩められ、真響がまなざしをさまよわせる。  
「―――…早依?」  
 茫洋としたまなざしではあったが、確かに早依を捉えていた。  
「…早依……、これであなたも…わたしと…同じ………。いっしょに…生きましょう……、とこしえの…時を……、  
この快楽…だけを……糧として…………」  
「…ええ…ええ……、姉さん……」  
 早依の頬を、止めどなく涙がすべり落ちる。それがどんな感情からの涙なのか、早依にはもはやわからなかった。  
身を灼く淫欲の炎は、ヒトがもつ全ての感情を、欲情へと変えてゆく。  
 つかのま、誰かの姿がまなうらをよぎった気がした。「次の歌垣の夜に、妹背になろう」そう誓いあった  
若者の姿が―――  
 けれども陽炎<かぎろひ>のようにあやふやな姿はすぐに掻き消え、やがて欲情だけが早依を支配する。  
「…下さいっ! ホトに突き刺して、掻き回して下さいっ!! 豆非を吸って、抓って、擦り上げて下さい  
………っっっ!!!!」  
 早依は叫んだ。きっと、嬉しいのだと思った。神の嬬として、美しい幼なじみとともにとこしえを生きる。  
ヒトであれば知ることなどなかった、究極の快楽を味わい続けながら。  
 それがとても美しい光景のように思え、早依は知らず笑みを浮かべていた。全身に触手を絡み付かせ  
快楽に悶えつづける真響も、いまだ瞳だけは早依に合わせ、やさしく微笑んでいる。  
《では、もう一度訊こう。…お主、名をなんと申す》  
 
「……早依……」  
 
 
 そこには在るのは快楽と、ヒトならざらぬ者たちのみ―――。  
 
―後編・終―  
 
 
 
※ちはや…貫頭衣。  
 

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